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羨むべきJEFTA・TTIPに対するEUの基本戦略-日本の経済外交は自国の金儲け以外の理念はゼロ― 17.07.12

<交渉が中断したままのTTIP>
 太平洋をまたぐTPPは頓挫したのに対し、大西洋をまたぐTTIP(Transatlantic Trade and Investment Partnership)は一体どうなっているのか。これが私の今回のブリュッセル行きの関心事の一つであった。結論を言うと、TPPはアメリカの離脱で完全に死んだのに対し、TTIPは一応まだ生き残っているが、前途は多難のようだ。
 オバマ政権が対応力を失ったことと、それに続く自由貿易協定に反対するトランプ政権の誕生により2011年9月以来、交渉は中断している。ロス商務長官は二国間協定だから進めてもいいと発言しているが、ナバロ国家通商会議議長は、EU は28カ国が加盟国であり、マルチと同じだからといって乗り気でない。ライトハイザーUSTR代表は、早くとも9月のドイツの総選挙の後、今年の年末だと、どうとも取れる発言を繰り返すだけで態度は不鮮明である。閣僚クラスとしては最後になった公聴会でも、再三にわたり議会と相談するとしか答えていない。トランプはというと、パリ協定ほど完全に触れていないわけではないが、あまり触れていない。ということは、どう扱うか悩んでいるということなのだ。

<EUは確固たる理念の下に交渉>
 こうした中で、EUの態度は明確である。カナダ・EU・FTA(CETAと略称している)を締結していることからわかるとおり、何もFTA・EPAに背を向けているわけではない。ただ、どういうFTAにするかについては確固たる基本戦略を持ち、死守するもの、譲らないところが明確であり、交渉がかなり予測可能なのだ。日本のすぐ妥協する交渉姿勢と比べると見事である。
 例を挙げると、ISDSである。TTIPでもJEFTA(前述したようにJapan EU Free Trade Agreement としてこのように略称されている)でも一切認めておらず、JEFTAでは常設の仲裁裁判所の設置と二審制を求めている。かねてから、世銀の下の公平性を欠く仲裁人や一審制の問題が指摘されていたが、まさにその正論に応えたものである。
 私は長らく農業問題の国際的な仕事に携わってきた。EUの交渉官には各国のうるさい要求に応じなければならず、大変だなあと同情してきた。しかし、裏を返せばいろいろな利害がある加盟国の意見をまとめるには皆の納得する論理が必要であり、それがためにEUの主張はいつも筋が通っていることに気付くようになった。今回の様々な主張もその線に沿っている。それに対し、独裁国家の(?)ような国の主張は、その独裁者に振り回されどこか歪んでいるような気がしてならない。つまり歪められているのは、加計学園がらみの獣医学部の新設だけではなく、実は国際交渉こそ取り返しのつかない歪んだ対応がなされているのだ。

<ISDSはこぞって大反対>
 我々は、二人の欧州議会議員とのアポイントを取ろうとしたが、ストラスグルグで議会中のため、その代理と2つのNPO(ヨーロッパ共同調査機関、ヨーロッパ消費者連盟)等と意見交換したが、いずれもいの一番にISDSは受け入れられないと明確に主張した。議会側は専ら国家主権の侵害を問題とし、NPO側は食品の安全や環境規制に対してアメリカ企業が次々に訴える可能性を指摘し、絶対に受け入れないと強調した。この姿勢はJEFTAでも貫かれ、TPPに入っているから盲目的に同じ主張を繰り返すだげの日本側と対立し、全く決まっていない。それにもかかわらず「大枠合意」した称している。大切な一章が抜けたまま合意というのは、あまりにもひどい説明である。

<米英FTAが先行する可能性もある>
 こうした中、行き過ぎた自由化、国際化にブレーキをかけた米英の2国には大胆な動きも見られる。イギリスはまだ形式的にはEUの一員であり、離脱交渉を始めたばかりであり、独立して貿易交渉をやる資格はない。
一方トランプ大統領は、多国間協定を嫌い、今後は二国間協定で貿易赤字を解消していく方針を明らかにしている。そしてEUについても、貿易黒字の大きいドイツをユーロを操作して黒字を溜め込んでいると批判し2国間交渉で解消しようとしている。一国だと黒字が続くとその国の通貨が高くなるのに、ドイツは統一通貨ユーロに守られてその調整が働かず、ますます黒字を貯めこんでいると批判を強めている。だから米独の二国間交渉が必要だという理屈である。しかし、当然のことながら外交窓口はEUであり、ドイツが交渉相手になることはない。そこで関係者の間で話題になっているのが、米英の二国間交渉である。
 イギリスは食の安全についても厳しいEUの基準にはそれほどこだわっていない。BSEの苦い経験から消費者の姿勢は厳しいが、政府はアメリカと同様に“Sound Science”(科学的根拠)を重要視しており、アメリカと歩調を合わせてられる国である。こういってはなんだが、やはりアングロサクソンの血は似通っており、国家戦略でも似てくるようだ。こうしたことから、まず米英で合意を成立させ、それを引っ提げてEUに向けていく戦略である。JEFTAをもとめて、アメリカを揺さぶるというもっともらしい戦略の逆である。
この点、JEFTAもイギリスも加盟国の前提で合意しており、イギリスの離脱が実現した暁には、事務的な調整が必要であり、日英EPAも必要になってくる。

 他に私が興味を抱いたのに2点ある。
<略称はやめようという提案は日本人にはピタリ>
 1つはJEFTAの略称である。二国間協定の場合、ほぼ決まって自国を先に出して使う。例えば米韓FTA、韓国では韓米FTA、アメリカでは米韓FTAである。ところが、EUではJEFTAと日本を先に出している。理由はEJFTAでは発音しにくいので、JEFTA(ジェフタ)にし、EUカナダFTAもCETA(セッタ)と略称している。
 ところが、ドイツのショイブレ蔵相が、略称を安易に作るのはやめるべきだと主張している。理由は、国民が略称ではわからず、国民への説明もしにくく、従って国会承認も得られにくいからだ。もっともな正直な主張である。我々アルファベットに馴染みが薄い国民には尚更のことである。

<膨大になりすぎる最近の国際協定>
 また、ショイブレ蔵相は、TTIP等は膨大な内容を含み、国際協定としては複雑になりすぎているので、もっと簡略化して交渉すべきだとも主張している。
 私は16年秋のTPP特別委員会では、野党の筆頭理事として、TPPがあまりに膨大な内容なのでテーマごとに6〜7回の参考人質疑をし、その上でテーマごとにもっとじっくり審議すべきと主張したが、ただただ承認を急ぐ政府と日程闘争にこだわる民進党の間で妥協が成立せず、僅か30時間しか審議されなかった。

<もっと細分化した議論が必要>
 こうしたことを回避するためにも、貿易に的を絞り、また知的財産ならそれに絞ってそれぞれの協定としてするのがベストである。なぜならば、国内法は一本ずつ審議されるのに対し、国民の権利・義務に関係する国際協定が、一部の外交官僚の手に委ねられ、全て一緒くたに一回で国会承認されるといいうのは、あまりにも乱暴だからだ。
 トランブの主張する多国間協定よりも二国間交渉というのも、こうしたマルチの訳のわからない複雑な交渉では国益を守れないということから発していると思われる。ショイブレ蔵相の慧眼に脱帽するとともに、国際的協定のあり方について考えさせられた。