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【日米貿易協定シリーズ1】 日米貿易交渉史上最悪のやられっぱなし交渉 - 日本は農産物関税を譲り、アメリカは自動車を譲らずトランプの意のまま - 19.11.17

<2年振りの質問>
 11月13日水曜日、外務委員会で日米貿易交渉について2年ぶりの質問をした。一年半に及び質問のできない懲罰委員長をやっていたので本当に久方ぶりである。私は外務委員会に4年4回所属していたが、さる事情によりこのところ外務委員会に所属することはなかったため、ほとんど質問をしてこなかった。いわゆる差し替えにより質問をしてほしいということで、元々は前の週にやることになっていたが、岡田元代表が資料提出がないという理由で審議拒否をして中断、空回しをやっていたものが復帰し、私の順番が回ってきた。
 前回は30分だったが、外務委員でもないのに待たされた上に今回2回目で、せっかくなのだからもう少し時間をほしいと言ったが、聞き入れられず30分間の質問であった。委員会前のエレベーターの中で茂木外務大臣と会った際に「3時間分用意したんですけどね」とジョークを言っておいた。その質問を皆さんに紹介しておきたいと思う。日米貿易協定は非常に大事だからである。数回連続して報告する。

<交渉の名称を意図的に変える政府>
 そもそも日本は日米FTAはやらないと言ってきた。従って名前は「TAG:Trade Agreement on goods(日米物品貿易協定)」と言い誤魔化していた。内閣の経済再生担当大臣で、交渉担当をしていた茂木外相がライトハイザー通商代表との間で「Talks for Free, Fair and Reciprocal Trade Deals:FFR(自由で公正かつ相互的な貿易取引のための協議)」と言っていた時もあった。アメリカでは最初から「日米FTA」と言われていたが、そのうち日本では「日米貿易協定」と言い出し始めた。しかし、私は敢えて政府の嫌がる「日米FTA」で貫き通した。政府が名前を変えて見えすいた嘘をついているのが許し難いからだ。

<やられっぱなしの交渉>
 そもそもTPPの約束から始まるべき交渉であった(「交渉の立ち位置」参照)。つまり日本のセンシティブ品目、米や牛肉という農産物である。アメリカのセンシティブ品目である自動車部品等について18年9月に交渉をしようという約束事をしている。ところが結果はどうか。ウィンウィンの関係だと言っているが、まったくの嘘っぱちで「やられっぱなし交渉」である。これが日本農業新聞の「篠原節さく裂」という私の質問の記事のサブタイトルに使われている。TPPでは現行38.5%の関税を、発効一年目に27.5%まで削減し、その後毎年引き下げて10年目に20%、16年目以降は9%、そしてセーフガード等についても色々取り決められていて、そのまま引き継ぐ形となった。
 細かいことだが、セーフガードは遅く交渉したアメリカに有利になってしまい、日本にとっては相当不利になってきている。ここは不条理だが、多くの者が把握しているので私は触れなかった。

<突如登場した通商拡大法232条の安全保障を理由とした報復関税>
 日本がもっぱらTPPと同じ約束をさせられたのに、アメリカの自動車及び自動車部品の税率2.5%はそのままで、いつ削減されいつ撤廃されるかという明確な約束なしの協定ができあがってしまった。全く屈辱的であり、よく言われる安保協定と逆なのだ。
 昨年5月、トランプ大統領は商務省に通商拡大法232条の経済安全保障上の驚異に当たるかを検討させ始め、今年の2月に「脅かされている」という報告書が出された。そしてこの通商拡大法232条を理由とし、安全保障を損なう場合の追加関税25%というのを常にチラつかせていた。日本に対してだけではなく、EUや中国に対しても同じである。中国との間では米中貿易戦争で25%、あるいはそれ以上の関税を中国がかけたりし、報復合戦をしている。

<アメリカの農民の勝利は日本の農民の敗北>
 情けないことに、日本が報復関税を避けられたこと、つまり25%の追加関税が課せられなかったことを「ウィン(勝利)だ」と言っているのである。
それに対してトランプ大統領は「今回の交渉はアメリカ農民の勝利である」と言い切っている。その通りである。裏を返せば日本の農民の全面的な大敗北ということだ。長い間日米貿易交渉を見てきたが、これほど屈辱的な負け方はない。それを糊塗するために共同声明で「声明の精神に反する行動は取らない。(つまり25%の追加関税を課さない)」などという言葉でお茶を濁している。

<口約束だけの2.5%自動車関税の撤廃>
 さらに記者会見では追加関税は課さないと首脳間で約束していると安倍首相はのたまわっている。その会場で、アメリカ農民の団体代表がカウボーイハットをかぶりうろついていたという屈辱的な記者会見であった。ライトハイザーUSA代表は日本から懇願されたのであろう「現時点では追加関税の想定はしていない」とリップサービスしている。それから北米自由協定NAFTAではメキシコやカナダを外された数量制限や自主規制、それから原産地規則の厳しいルールというのはもうなにもしない」といった具合である。みんな嘘で塗り固められている。それだけしないとウィンなどと説明できないからだ。
 そして問題の自動車については、アメリカの上記法の付属書に「関税の撤廃に関しては更に交渉」と書かれているだけである。しかも、それがwill be subject to further negotiation、「今後の交渉次第」にすぎず、撤廃の時期も不明確である。牛肉の関税が毎年引き下げられ、明確に時期と引き下げ率を言っているのに比べ、雲泥の差である。

<発効四ヵ月後に日本の農産物が再び餌にされるおそれ>
 しかももう一つ恐ろしい不透明な部分がある。更なる交渉による関税撤廃というのは、我々は自動車と自動車部品の2.5%の関税だと思っているが、アメリカはそうではない。発効後4ヶ月以内に協議を終え、その後の関税やその他の貿易上の制約、サービス投資等の交渉の開始をする、と書かれている。つまり、日本はこれだけ譲っておきながら、更に関税の引き下げを迫られるおそれがあるということだ。

<米の除外は当然のこと>
 もう一つ日本の最もセンシティブな品目、米が除外されていることを手柄にしている。確かに米が入らなかったという点では◯だ。日豪EPAでも1,000万t近く米を輸出している日タイEPAでも米は除外されている。だから、日米FTAで除外されても別に驚くに値しない。ライトハイザーUSTR代表は民主党対策もありペロシ下院議長の出身地であるカリフォルニアの米を含めたがっていたというが、トランプ大統領は全く関心を示さなかったという。なぜかというと共和党の牙城がテキサスだとしたら、民主党の牙城はカリフォルニアであり、そこの農産物で有利なことをしてやる必要はない、という選挙のための露骨な交渉をしているのである。日本だと少しでも有利にというところだが、後述するようにトランプ大統領は自分の支持者だけをガッチリと固めるという方針であり、敵には塩を送る気がないようだ。
 TPPで約束された7万tのアメリカ枠がなかったからといってアメリカが大きく譲ったかというとそうではない(「各貿易協定の米の扱いの違いと各国の生産量、輸出量」参照)。ウルグアイランドの決着時に輸入を義務付けられたミニマム・アクセス米77万tの輸入でいえば4割近く(35.8万t 297億円)がアメリカから輸入されており、7万tばかしの輸入でアメリカからとやかく言われる筋合いはない。TPPA本体で決められたことだけれども、既に日本は5倍も6倍もアメリカから輸入しているからだ。