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【日米貿易協定シリーズ3】アメリカの対日要求は止むことなし-農産物を犠牲にする悪習は止めるべし-19.11.19

<アメリカ農産物のいいお客様・日本>
〔別表「日本の世界からの輸入農林水産物及び農産物の推移と上位5カ国」、「日本のアメリカからの輸入農林水産物及び農産物の推移と上位5品目」参照〕
 日本は世界有数の農産物輸入国である。とりわけアメリカにとっては一番のお客様である。日本の総輸入額82兆7,033億円のうち農産物は6兆6,220億円、そのうちの約4分の1にあたる1兆5,487億円をアメリカから輸入しており、2位中国7,552億円の倍以上の輸入額である。
それとは逆に日本の工業製品(特に自動車)にとってアメリカが1番のお客様である。そのアメリカが安全保障上の理由で25%の追加関税をかけんとしている。おかしな話である。日本で食料自給率が37%に下がってしまった。安全保障上の理由で追加関税を許すなら、日本こそ食料安全保障上の理由でアメリカの農産物にも25%の追加関税をかけてもいいことになる。

<害虫発生もトウモロコシ不足も嘘に嘘を重ねているだけ>
 もう一つ今回の交渉結果でおかしいのは、トウモロコシの輸入約束である。さすがに恥ずかしいのか安倍首相も日米貿易協定の外と言っているが、いつの間にか総輸入量の約4分の1にあたる275万tもの米国産飼料用トウモロコシを前倒し輸入するということになっている。増加分に相当する鶏や豚や牛が増えるわけではないのに、一体どう消化するというのだろうか。
 日本のトウモロコシにツマグロヤトウムシという害虫の被害が生じ、その分の穴埋めが必要だともっともらしい理由(後付け)がなされているが、デタラメな話である。まず被害はそんなに大きくない。次に日本では濃厚飼料の穀物であるトウモロコシ生産している農家はほとんどおらず、もっぱらデントコーンと称される粗飼料用のトウモロコシである。つまり、輸入トウモロコシと競合する作物は日本にはほとんどなく、もとからアメリカに頼りきりなのだ。桜を見る会の嘘は国内問題で済むが、外交交渉で嘘で塗り固められた主張をされてはたまらない。
それより何より大きな矛盾は、自民党政権になってから我々が導入した農業者戸別所得補償を廃止して10aあたり10万円もかけ飼料米を振興してきた。その飼料米にこそ完全に衝突するのである。

<金額がはずむトウモロコシに目をつけた元ビジネスマン・トランプ>
 ただ一つ感心するのはさすがにビジネスマンのトランプ大統領である。1兆5487億円の農産物輸入のうち1位はトウモロコシであり、3,421億円に達する。2位の牛肉1,650億円、3位の豚肉1,379億円の2つを足してもトウモロコシには及ばない。それを承知しているトランプ大統領はトウモロコシに目をつけたのだ。今は米中貿易戦争の真只中であり、中国は35%の関税をかけているのでトウモロコシがアメリカ国内でダブついている。余った分をエタノールの原料にするわけにもいかず、ちょうどよい売り先として日本が使われているのだ。
 大半の人は、日米貿易問題というとコメ、そして牛肉を思い浮かべるが、金額はトウモロコシと比べると少ない。ビジネスマンだったトランプは実利を重んじ金額が大きいものに目をつけたのだ。
このこと一つをとってみても、日米FTAは日本の畜産農家を困らせ、アメリカの穀物農家(特にトウモロコシ農家)を助ける結果になっている。別号で後述するが、再選を目指すトランプ大統領はコーンベルトの農民に焦点を合せているのである。つまり、安倍政権はトランプの勝利のために日本の農民を差し出したのが今回の交渉である。

<アメリカの過大要求は終らない>
 アメリカは、もともと自分勝手な国である。そこにトランプが大統領になり、公然とアメリカ・ファーストと言い放ち拍車をかけている。メキシコはNAFTAの改正に相当協力したのでもうこれ以上は要求されないと思っていたら、不法移民の流入が国家の非常事態だと難癖がつけられ、制裁関税の標的にされてしまった。一安心している日本も今後次々と難癖をつけられ、いつ標的にされるかはわからない。
 昨年9月の共同声明では、もともと今回の交渉は第一段階目(first-stage initial tariff agreement)で次があると、二段階方式を規定している。おまけに次の段階にはもっと拡げるぞと正直に明言しているのである。アメリカはそういう点では意外と正直なのだ。
 今回、1962年通商拡大法232条の安全保障を理由とした25%の制裁関税をチラつかせて甘い汁を吸ったので、今後は同じ手法で日本側に次々と無理難題を要求してくるのは必定である。

<日本も農産物関税をTPP以前に戻すと反撃の用意をすべし>
 日本はこれに対して敢然と立ち向かわなければならない。例えば、アメリカが25%の制裁関税を持ち出したら、この協定を失効させると正々堂々と言い続けることである。日本も農産物の関税をTPP以前に戻してオーストラリア、カナダ、NZといった農産物輸出ライバル国と比べて不利な状態にすると反撃するのだ。もっと言えば、追加関税とは言わないまでも、アメリカが2.5%の自動車・自動車部品の関税を撤廃しないというならば、約束が違うとして食料安全保障を理由として農産物の関税を25%に上げると言ってもおかしくない。
 アメリカはしたたかであり、前号のとおり当面25%の追加関税はないと口約束はしているが、協定には何一つ入っていない。また、2.5%の自動車関税の撤廃も不明確のままである。だから、11月8日に二国間会談の明確な内容を示せと岡田克也委員が審議を止めたのである。

<コメを輸入しても牛肉でもアメリカの対日赤字は解消せず>
 【日米貿易協定シリーズ1】で述べたとおり、ウルグアイ・ラウンドで輸入を義務付けられたミニマムアクセス米(マイ)77万tの4割近い37万tをアメリカから輸入している。金額にして297億円である。仮に数10億に及ぶ日本のコメ消費量の全てをアメリカからの輸入でまかなうとしても10倍の約3,000億円にしかならない。トウモロコシの3,421億円にも及ばないし、膨大な貿易黒字6兆4,553億円と比べたらほんの僅かなことなのだ。だから、今は大半の人が気がついているが、対米貿易黒字を農産物の輸入によって解決するなどということはあり得ないことなのである。それにも関わらず、日米貿易交渉の歴史は、農産物を差し出して工業製品の輸出を大目に見てもらうことで一貫していた。そして、今回もその流れに完璧に沿ったものとなった。
 2000億円を超える台風の被害、そして次々と繰り出される自由貿易協定、これで農業者に意欲を持って取り組んでほしいと言っても無理なことである。今から20年後には想像もつかないほど農業後継者が激減し、それこそ食料安全保障に危険信号が灯っているのではなかろうかと危惧する次第である。