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【日米貿易協定シリーズ5】トランプ再選の加勢をしただけの日米の貿易協定- アメリカにこびへつらう情け無い国になってはならず - 19.11.21

<ユニークな総取り方式のアメリカ大統領選挙>
 日本で選挙というと4割近くいる無党派層の獲得競争になるが、アメリカ大統領選挙は全く事情が異なる。日本のように総得票数の多寡で決まり票差で勝つというやり方ではなく、州ごとに選挙人を選び、勝った候補者は州の選挙人を総取りするという変則的な形になっている。そのためにトランプ陣営は概ね8、9割が民主党支持者のカルフォルニア州を端から捨てている。その反対にテキサス州では圧倒的に共和党が強く、そこに重点を置くことになる。つまり自らの支持者固めに奔走するのだ。

<先に敵に塩を送った巧妙なトランプ>
 今回の日米貿易交渉に、トランプ大統領が2020年の大統領選を最優先して取り組んでいたことは明らかである。その前の2019年5月訪日時に、8月には大きな数字が出てくると平然と言ってのけている。やり方が巧妙である。安倍政権を助けるため、参議院選挙前には交渉をやらなくてよい、と先に敵に塩を送っている。その代わり8月には自分の再選のために大きな妥協をしてくれるんだろうな、と脅しをかけていたのだ。後述するように再選にはコーンベルトの農民の支持が不可欠だからだ。

<コーンベルトの農民を意識した農産物関税引き下げ>
 トランプ大統領は2016年にどうして勝てたかを承知している。トランプ大統領の強力な支持者は、ラストベルトと呼ばれる中西部の自動車を中心とする製造業地帯の白人労働者、そして農民である。2016年にトランプ大統領が勝った州には、ヒラリークリントン候補が勝った州よりもずっと多くの農業従事者がいる。だから、再選を考えると今度の日米貿易交渉では農産物が重要になってくる。アメリカのとうもろこしの生産の80%は、コーンベルト地帯の中西部で作られており、大豆や小麦との輪作が行われている。
 9月27日に世論調査が行われ、農家では「支持する」が1ヶ月前の8月の調査より10ポイント以上も上がっている。前述した農業団体の役員が、カウボーイハットをかぶってなだれ込んできた9月26日の記者会見の直後に調査は行われている。ショー化した外交を巧みに使ったトランプ大統領の演出は効果抜群だったことがうかがえる。すべてトランプペースで進められており、傍目でみていても見事というしかない。そして逆にそれに味方して、唯々諾々とした交渉しかできない日本国政府にはがゆい思いをするばかりである。
 こうした図式から考えられるのは、2020年11月までにもう1回このような交渉が行われ、日本の農産物を再びこじ開けられるかもしれないということだ。

<Swing States(揺れ動く州)を制する者が勝利する>
 そしてこのコーンベルトの大半は、もう一つのトランプ支持者が多いラストベルトとも重なる。ミシガン、ウィスコンシン、アイオワ、オハイオ、ペンシルバニアがそういった州である。コーンベルトにはミネソタ、ミズーリ、イリノイ、インディアナ、オハイオ等も含まれる。トランプ大統領の再選にとってこの2地帯が圧倒的に重要なので、早くからここにターゲットを絞っている。2018年の中間選挙ではこのうちミシガン(0.2%の差)、ウィスコンシン(0.8%)、ペンシルバニア(0.7%)の3州で民主党が僅差で上院の議席を奪取している。これらの州は年によって得票が揺れ動くことからSwing States(注目州、揺れる州、激戦州、パープルステート:民主党の赤と共和党の青の中間の意味)と呼ばれ、両党とも力を入れる州である。
 主な産業は自動車を中心とする製造業と農業である。だから彼らの仕事を奪い、賃金を下げる移民に対しても厳しい態度をとらざるを得ない。

<ラストベルトの白人労働者を意識して自動車関税2.5%を譲らず>
 日本は、自動車の追加関税25%がなかったことでホッとしている一方で、発効後4ヶ月して始まる交渉でTPPで約束した2.5%の自動車及び自動車関連部品の関税撤廃を認めてくれるという淡い期待を抱いている。しかし、ラストベルトの白人労働者の支持が必要なトランプ大統領に、そんなつもりは全くないだろう。少なくとも2020年11月の大統領選挙まではありそうもない。トランプは選挙のことしか考えていないからだ。だから、アメリカは日本の農産物の関税を更に引き下げる交渉はしても自動車関税を撤廃する交渉には応じるはずがない。結論として日米貿易交渉はしばらく休戦するしかなかろう。米中貿易戦争が進展しない中、日本だけが餌食にされているのである。
 かくして、アメリカ国内にも海外にも大勢いるトランプ嫌いをよそに、強固な支持者を更に強固にする、再選戦略が着々と進行中である。

<日本こそ食料安保を理由に制裁関税が必要>
 このようなアメリカに対して日本はなまくらな態度をとるべきではない。アメリカが根拠不明な制裁関税を言い出すなら日本こそ対抗して制裁・追加関税を持ち出さなければならない。打ち出せる理由が二つある。
 一つは、前号で触れてきた食料の安全保障を理由にした制裁関税である。

<エコダンピングに当たるパリ協定離脱に制裁関税を>
 次が環境を理由とした制裁関税である。大統領は、「アメリカが持つ資源が活用できず、ビジネスや雇用に悪い影響が出る」とパリ協定に反対してきた。協定からの離脱は大統領選後の17年6月から主張してきたことだが、協定加盟から1年後の19年11月4日にならないと離脱の通告ができず、更にその1年後の20年11月4日(11月3日の大統領選挙の翌日)にならないと離脱できないことになっていた。偶然期日が一致したとはいえ、これは明らかに大統領選を意識して、アメリカの雇用を守るという宣言をしたのである。ラストベルトへのアピールである。台風19号が典型だが、地球温暖化で洪水や干ばつが増えている中での勝手な離脱通告であり、世界中から非難されている。
 もちろんアメリカでは多くの州がパリ協定離脱に反対の声をあげ、カルフォルニア州をはじめとして国よりも厳しい規制によりCO2の排出を抑えようとしている。こういう声を聞き入れる形で、CO2の削減をしない国からの工業製品には制裁関税をかけてもいいはずである。トランプ政権は激怒しても、世界は拍手喝采するだろう。

<こびへつらう外交は見苦しい限り>
 どうしてここまでアメリカに媚びへつらうのか私にはわからない。その反対に韓国には、放射能汚染を理由とした水産物輸入規制、徴用工判決等を理由に高飛車な態度をとり続けている。米国・中国といった大国に対してへいこらし、小国に居丈高なのは見苦しい限りである。嫌韓もよくないが、媚米、媚中もよくない。正しい道を行くべきである。
 米中貿易戦争の最中であり、日本は両超大国に対して毅然たる態度で臨める立場にある。私は、日本が長年取り続けてきた「自由貿易の旗手」としての立場は捨て、SDGsを地で行く途を選ぶべきだと思う。つまり、各国が自ら必要なものを自ら造り、貿易によるCO2を削減し、Goods Mileageを減らすことである。

(付記)
 私は、3年ぶりに昔のスタイル、STOP TPPと標された黄緑色のバッジとえんじ色のネクタイで武装して日米貿易協定のかかった11月13(水)の外務委と11/19本会議に出席した。しかし多勢に無勢、参議院に送られてしまった。あとは不透明な点をしっかり追及していくしかない。