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漁船員の命を蔑ろにしてコスト削減する愚行は許されない【漁船海難1】-遊びの免許(小型船舶操縦士)で人を乗せるのは危険すぎる- 20.04.16

 非常事態宣言が出され、世の中はコロナ一色である。その中でも国会では地道な審議が行われている。海なし県長野には縁のない話だが、私が決算行政監視委員会第4分科会(国土交通省)で取り上げた問題を報告する。
 私はこれまで再三にわたり、官邸の暴走振り、その中でも「政僚」のことを問題にしてきたが、今回も漁船員の命を危うくする制度改悪がなされたことに義憤を感じて、政府の姿勢質した。

<官邸の意向どおり経済優先が罷り通る>
 今まで、中規模漁船(20t以上24m未満)には、6級海技士が2人(航海士、機関士)乗船しないとならないと義務付けられていたが、3月31日にそれを1人の小型船舶操縦士のみでよいと省令を変えてしまった。「日本を世界で一番ビジネスのしやすい国にする」「それを妨げる岩盤を打ち砕くドリルの刃になる」という、安倍首相のスローガンに沿ったものである。漁船員の生命よりもコストの削減を優先する、まさに無謀な改悪である。
 安部政権下で官邸に設けられた、規制改革推進会議等が、多少趣は違うが、規制緩和の細かい項目を指摘し、その実現を各省に迫る形の「上から目線」政治が行われている。今回も官邸が命令を下した後、一応関係者を集めて8回の検討会が開かれたが形だけで、結論は変わることがなかった。

<官邸の虎の威を借る○○会議委員の横暴>
 公開された議事録をみていつも驚かされる。委員なる者が、各省の担当に対してそれこそ横柄な言動で命じていることである。私は、一部の野党議員の閣僚への悪し様な言動は感心しないし、これまた一部のボス族議員の高圧的な言動にも呆然とさせられるが、官邸の虎の威を借る一部の委員はこれらの同類である。国交省の担当者の説明を遮り聞く耳を持たなかった。政僚に加えて、現代版「側用人」が権力を持って日本の政治・行政を歪めている由々しき状況になっている。

<プレジャーボートを動かす資格で中型漁船を動かせるか>
 今回の変更は、陸上に例えるなら、車の一種の中型免許を持つものが、ちょっとした研修なり講習を受けて、乗客を乗せる二種免許取得者と同じく、ビジネスとしてマイクロバスに乗客を乗せることが出来るという空恐ろしいものである。人命軽視も極まれりである。
 別表のとおり船を動かす資格を持つ海技士(機関士)は36,102人(2019年、以下同じ)、それに対して、誰でも簡単に取れる小型船舶操縦士は2,495,946人と、69倍。これは第二種中型免許取得者872,044人に対して、第一種中型免許取得者75,018,501人と86倍と大体同じ差がある。小型船舶操舵士はマリンスポーツなどを親しむプレジャーボートの利用者の資格であり、いぅて見れば交通ルールを守る資格でしかないのに対し、海技士は遠く離れた海洋を航行する船舶や漁船を動かし、乗船員の命を預けられるいわばプロ向けの資格である。

<英語力がある者3人の乗船義務が入りそうになった1996年IMO条約改定会議>
世界的な海のルールを定めた国際海事機構(IMO)は加盟国に「海上における人命の安全の見地から、自国の船舶についてすべての船舶が十分かつ有効な人員の配置を確保すること」を義務付けている。
 実は、私は1996年水産企画課長として、海洋法条約の批准とそれに伴う漁業資源管理の新法制定のために大忙しであったが、その合間を縫って急遽ロンドンに出張させられ、IMOの会議に出席した。IMOは、海難事故から船員の命を救うため、条約の改定を目論んでいた。事故が起きてから数分間に位置を連絡できるかどうかが生死の分かれ目だということで、何と英語がちゃんと話せる者(当時は確かTOEFLで500点以上)を3名乗船させ、8時間交代で勤務することを義務付けんとしていた。日本の訓令も賛成だった。なぜなら商船や旅客船に乗務している船員は、日本人といえども外国に慣れており、3人の英語力のある者を簡単に確保できたからだ。私は数百人の各国代表が集う大会議場で、「漁船員にはそんなに英語力のある者はいない」。私は自分の拙い英語力をこれでも平均以上だと自虐ジョークを交えながら、「日本のPanasonic、Sony等か英語の家電メーカーが、ボタンを押したらたちどころに漁船の位置を英語で通報し、船が転覆しそうだと伝えてくる機器を造ってくれるはずだ。だから、それまで是非待ってほしい」と訴えた。
 私のこの発言がキッカケで、条約改正が延期された。4年後の2000年に改正されたが、漁船は例外となっていた。当時は訓令違反だと白い眼で見られたが、その甲斐もあったということになる。私の苦し紛れの冗談、日本の家電メーカーが海難事故の位置を自動的に知らせてくれるという仕組みは、今やGPSで完全に満たされるようになっている。

<もともと漁船は事故がずっと多く危険>
 近海で操業を行う中規模漁船は、網を垂らして負担がかかるのでエンジンが酷使され故障しやすく、洋上での修理が必要となる。それに対してプレジャーボートは単純な構造で故障もしにくく、またごく海岸近くの航行が大半である。漁船の機関故障の事故等は、プレジャーボートの3.5倍となっている。一般船舶と漁船の海難事故による死者の差をみると、別表のように漁船のほうが2~7ポイント高い。つまり漁船の方がずっと危険なのだ。
こうしたことから、漁船には機関士の乗船が義務付けられていた。

<船(日本の外)から始まった外国人労働>
 今回の改悪の背景は、人員不足である。昔の言葉を借りれば、漁業労働はまさに3K(きつい、きたない、きけん)に当たる。多少給料が高くとも若者が敬遠するのは当然である。従って漁業界もやむにやまれず、快苦を要望までしている。現場はそれだけ切実なのだろう。しかし、この改悪は「今だけ」「自分だけ」「金だけ」しか見ておらず、必ず将来に禍根を残すだろう。人手を減らし、うまくいけば外国人に操業させようという魂胆が丸見えである。邪道としかいいようがない。
 もともと外国人労働は、海の上で一応日本から離れている遠洋漁業から始まっている。詳細は省くが、遠洋漁業業界はいち早く「マルシップ」という巧妙な仕組みを構築した。というより、人手不足とコスト削減のためにそうせざるを得なかったのだ。そして、それが今や外航船員にも波及している。数字で見ると1974年から2017年の間に漁船船員は128,831人から18,530人と14%に減り、外航船員も56,633人から2,221人と4%に激減している。それに代替しているのが外国人である。

<日本人が漁船に乗らなくなる日は近い>
 こうしたことから、今回の改悪による将来が見通せる。機関士36,102人のうち、既に外国人が5,715人(フィリピン人が3,960と大半)と16%も占めており、ここでも外国人化が始まっている。さすが小型船舶操縦士に占める外国人(といっても漁船員になる可能性の高い国籍)は、わずか0.3%に過ぎないが、今後は試験が易しいので急増することは間違いない。その結果、沖合漁業も外国人労働に頼らざるをえなくなり、日本人が危うい漁船をますます敬遠するという悪循環が見えてくる。
 つまり、今回のその場しのぎの改悪は、日本人が汗水たらし働く現場から更に遠のき、足腰の弱い日本になっていくことを助長するのだ。これにより危険な漁船員のなり手はさらに少なくなるのは必至である。そして何よりも恐ろしいのは、多くの人命が海で失われることに拍車をかけることである。人手不足を補わんとして逆の結果を生むことがわからないのだろうか。あまりにも短絡的である。私が担当していたならば、こんな改悪を阻止することに全力を挙げたであろう。
 長年かけて積み上げてきた優れた日本漁業システムが衰退する速度を速める改悪であり、断じて容認することはできない。