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2020年5月28日

【新型コロナウイルス感染症シリーズ15】日本は医療外交で世界に貢献 -日本人WHO事務局長を実現し、日本人医師を発展途上国に派遣すべし- 20.05.28

 WHOは今回の年次総会では予想通り、中国の我がままが通り、台湾はオブザーバー参加が認められなかった。日本の加藤厚労相は、地理的空白を生じさせてはいけないとして、台湾の参加への支持を鮮明にした。しかし、残念ながらこれだけWHOの重要性が増しているというのに、米中対立がWHOの世界にも完全に持ち込まれてしまい、一致団結とはならなかった。

<国際機関の日本人のトップ>
 マスコミにもよく登場する尾身茂専門家会議副座長は元WHO西太平洋地域事務局事務局長である。そのもっと昔、珍しく日本人の中嶋宏(医師)が1988年にWHOのトップに座ったことがある。他に蟻田功 世界天然痘根絶対策本部長は1980年の根絶宣言に多大な貢献をしている。
 他で探すと緒方貞子高等弁務官(1991~2001年)が皆の印象に残っている。その後小渕首相が松浦晃一郎元外務省審議官(学習院中・高で同級生)をユネスコの事務局長(1999~2009年)にと、首脳外交の折に各国に根回しした。

<政治家が就く国際機関の長>
 ところが、いつの頃からか主要な国際機関のトップは、政治家が就くようになった。WTOでいえば、ウルグアイ・ラウンドのさ中の1993年委、元閣僚のサザーランド(アイルランド、EC競争担当大臣)に代わり、OECDの事務総長も1996年にジョンストン(カナダの元法相)、そして2006年現在のグリア(メキシコの元外・蔵相)につながっている。職業的知識よりも政治的交渉なり取引が重要になってきたからであり、その後国際機関共通の主流となった。国連事務総長のグテレスもポルトガル元首相である。
 こうした路線に沿った形で、エチオピアの元外相・テドロスがアフリカ連合(AU)の圧倒的支持でアフリカ初の事務局長に選出されている。

<空回りする河野前外相の意気込み>
 さて、最近の日本は国際機関への送り込みはどうなっているのか。河野太郎防衛相が外相時、外交演説の半分を外交体制の充実にあて、中でも国際機関への日本人の送り込みの重要性を強調した。私はそれに賛同した(「私が聞きほれた河野外交演説-政治家を国際機関のトップに等満載-」19.1.30)。ところが、河野前外相の意気込みとは裏腹に、日本はあまり国策として本腰を入れていない。
 その前に、政治家で閣僚経験した国際機関のトップにふさわしい人材が日本にいるかどうかである。もちろん英語は流暢に話せなければならない。英語に堪能な政治家は言い出しっぺの河野外相をはじめとして増えている。しかし、60才代前半の適齢期となるとなかなか見当たらない。
 
<かつての栄光が泣くWTOの凋落>
数年前に世界の国際機関の中で、日本に一番影響を与えているのはどこかと尋ねたら、大半の人はWTO(世界貿易機構)と答えただろう。世界の貿易のルールを司り、紛争処理もできる強力な国際機関だからである。  
ところが、WTOは硬直的な自由貿易一辺倒が嫌われ、世界はTPP等の地域間協定に走った。更にトランプ大統領が多国間協定よりも二国間協定を重視し、最高裁に当たる上級委員会のメンバーの補充を拒否したため活動中止状態だった。そして、5月14日にはアゼベト事務局長(ブラジル)がまだ任期を1年残し辞任を表明、混乱に追い打ちをかけた。
そして、今上記の問いかけには誰しもWHOと答えるだろう。明けても暮れてもWHOだからだ。近年のSARS、MERS、エボラ出血熱、エイズ党の問題からして、今後もWHOはますます重きを占めて来るに違いない。

<WHO事務局長を日本から送り込む>
 人口14億の大国中国は、英語の堪能な者も急激に増えており、今や15の国連の国際機関のうちFAO等4つの長を占めている。つい最近もWIPOの事務局長も中国人が有力候補だったが、日本をはじめとする各国が結束して、シンガポールの知的財産権庁長を選んでいる。中国が知的財産権の分野でルール違反を重ねており、世界がことの重要性に気付いたからである。
 日本もここらで将来のWHO事務局長候補を作るべく、望むらくは厚労相や外相にして箔付けして用意していかないとならない。(テドロスは2つを歴任している)日本はアメリカにあまりにもベッタリであり、安全保障理事会の常任理事国はとても無理だろうが、幸い中進国であり大国ではない。一方で日本はそれなりの大きな拠出国(米英独についで第4位)でもあり、公平性・中立性を保てるポジションにある。松浦ユネスコ事務局長並に総力を挙げれば、そんなに難しいことではない。
 もう次の感染症に備えて、戦略的にも手を打ち始めなければならない。日本も中国のマスク外交に負けることなくWHOを舞台にして国際貢献していくことも外交の一つの目標に掲げるべきである。それが必ずや国益にもつながることになる。
(実は私は5月15日のブログと同時に、この部分を書き上げていたが、字数がオーバーしたので次に回していた。そこに産経新聞が5月18日の社説「WHOの正常化・日本から事務局長誕生を」で全く同じ提案をしている。全く同感である)

<医療先進国キューバの賢い医療外交>
 私の古くからの友人にキューバに取り憑かれた男・吉田太郎(現長野県農業試験場)がいる。いくつかのキューバがらみの著書をものにしているが、その一つ『世界がキューバ医療を手本にするするわけ』がキューバの先進的医療を紹介している。
 キューバの教育はタダ。多くの医師を造り出し、中南米諸国だけでなく全世界の途上国に派遣している。ポルトガル語圏のブラジルを除き他は皆スペイン語であり、各国から歓迎されている。こうして、キューバの信用の一つを作り出しているのが、中南米諸国に根を張るキューバ人医師である。
 今回も、キューバの医療チームが中国に入り、キューバが開発した抗ウイルス薬、インターフェロン アルファ-2bが役立ち、その後、伊、西、アルゼンチンその他中南米諸国とアフリカ等45ヶ国から要請が相次いでいるという。ところが、これを面白くないアメリカは、中国からの支援物資をブロックしており、人工呼吸器も手に入れにくくしたりと意地悪をしているという(東京新聞5月15日夕刊)。ポンペオ国務長官が台湾を排除しようとする中国に対して毅然と立ち向かい、弱者台湾を擁護しているのは立派だが、その裏でアメリカも近隣国のキューバに理不尽な対応をしているのだ。これが国際政治のきたない厳しい現実である。

<キューバに倣い日本も発展途上国に医師を派遣すべし>
 今回のコロナ対応でも、医療体制のきちんとしている国は死者が少ない。いろいろ批判されているが、日本が死者の少ないのも国民皆保険制度に支えられた優れた医師、看護師がいるからである。今(5/25)ブラジルが第3位の感染国になっているが、今後発展途上国への感染拡大が懸念される。この分野で日本が支援すべきである。
 幸いにして医師になりたがる者はゴマンといる。教育施設も整っている。世界各国で役立つ医師を組織的、体系的に育成するのだ。例えば、防衛医科大学校の定員を倍増し、感染症部門の専門家を養成し、いざという時に備えたらよいのではないか。ダイヤモンド・プリンセス号でも頼りになったのは防衛医官だった。つまり、第2、第3の岩村昇(ネパール)や中村哲(ペシャワール会)を育てることだ。もともと国家のために尽くそうという気概のある人たちであり、期待に応えてくれるはずである。日本人医師の世界各国の地道な活動により日本の評価を高める方が、防衛費をやたらと増やすよりずっと安上がりの防衛になるのではないか。

2020年5月25日

【新型コロナウイルス感染症シリーズ14】名だたる日本の企業がなぜ医療機材の生産をしてくれないのか- 効率一点張りの政策が冷たい企業ばかりを生んだ - 20.05.25

 安倍首相が記者会見で何回も、PCR検査を増やすと断言したにもかかわらず、PCR検査がいつまで経っても1日当たり2万件にならないのがなぜなのだろうか。幸いにして、コロナ騒ぎは少しずつ収まってきたし、手作り布マスクで国民が自衛策を取り始めたのか、医療機関を除いたらマスクは一応行き渡ってきている。しかし、PCR検査は依然として諸外国と比べてもさっぱり増えていない。

<当然視され続けた海外投資・工場の海外移転>
 理由は、日本の産業界が高い人件費を嫌い、生産拠点を海外に移し、国内で生産しなくなっていたために即応できなかったのだ。例えばPCR検査に使う植毛綿棒は国内にはなく、伊・米からの輸入に全国的に依存している。これでは自国優先であり、日本に回ってこないのは当然である。また、マスクはスギ花粉症を防ぐのに必要ということから、まだ2割が国内生産されていたが、防護服も医療用ガウンも国内生産はゼロといった具合である。つまり、日常生活や医療活動に不可欠なものを、国内で造り続けるなどといったことは少しも眼中になく、ただひたすら競争原理ばかりが働き、労賃の安い中国や東南アジアに移して平気でいたのである。

<グローバリゼーションに歯止めのあるアメリカ>
 他の先進国も多かれ少なかれ大体同じだが、日本は度が過ぎていた。
 資本主義国の権化の国であるアメリカには、国を支えるために不可欠なものはアメリカ国内で造る、という厳然たるルールがある。例えば、「ジョーンズ法」により、アメリカ国内の拠点間の物品輸送を行う船舶は、アメリカ国内で建造され、アメリカ人が所有し、アメリカ船籍で、アメリカ人が乗っていないとならないと決められている。トランプ大統領のいうアメリカ・ファーストどころの話ではない。
 そこまでアメリカ国産にこだわる理由は、戦争状態になった時には、船舶は絶対に必要であり、その製造能力を国内に残しておくためである。軍艦や潜水艦だけでは需要が限られて、造船産業は維持できないことから、裾野を広げて造船関連産業をアメリカ国内で維持するためなのだ。

<国難に協力する世界の企業>
 今回トランプ大統領は、1950年朝鮮戦争時にできた「国防生産法」に基づき、全く異業種のフォードやGMにも医療器材の生産を命じた。5月21日、トランプ大統領はその一つのミシガン州のフォード工場を訪問、人工呼吸器の製造過程を視察した。州の指針では工場内はマスク着用が義務付けられていたが、トランプ大統領がルールに従わなかったことが日本でも報じられた。
(トランプ大統領の徹底したマスク嫌いは、失笑せざるを得ないが、私は日本で記者会見でも国会の質疑応答でもマスクをしたままのほうが異様に思える。各国の元首や国民の前でマスク姿では失礼だ、というトランプ大統領の依怙地さに一理ありと思っている。ただ、その前にさんざん失礼なツイッターや発言はしているが。)
 日産自動車を傘下に置くルノーは、フランス政府が強く係わる企業であり、フランス政府の方針には忠実である。マスクシリーズで触れたが、イギリスもダイソンやロールスロイスに人工呼吸器の生産を要請し、イタリアでも世界に名の知れたアルマーニ、グッチ、プラダ等アパレルメーカーが国難に対して、すぐにマスクや防護服を製造し始めている。
 ところが、日本にはそうした協力をしている企業は少なく、従って安倍首相の視察もない。日本のマスメディアが報ずべきはむしろ動き出さない日本企業の問題なのに、全く触れられていない。

<高度経済成長下、次々と消えていった労働集約型産業>
 日米通商摩擦は、日本の繊維製品の洪水的輸出に音を上げたアメリカが日本に輸出規制を迫ったことに始まる。佐藤栄作首相、田中角栄通産相、時あたかも沖縄返還交渉と重なっていた。日本の生産量を抑えるため、織機を1台壊せば1万円を補償するという荒業(「ガチャマン」と呼ばれた)で乗り切り、後にこの大妥協は「縄を糸」で買ったといわれた。
 当初は、構造不況業種とかいわれ、消えゆく産業にも報いの手が差し伸べられたが。いつの間にか、競争に勝てない産業は見向きもされなくなっていった。その結果あれだけ栄華を誇った繊維産業はすっかり中国にとって替わられてしまった。
その後日本の主要輸出産業は家電製品、機械、半導体等の電子機器、自動車と変遷していった

<国難に際して非協力的な日本の企業>
 そして、今政府が困り果て、外国と同様に医療器材を至急造ってほしいと要請しても、おいそれと応じられないのは、コロナ騒ぎが収まったら需要は一気に落ち込み、売れなくなり、また安い中国産になってしまうことが目に見えているからだ。世界を股にかけて輸出入に関わるビジネスをしてきた巨大商社も、マスクの輸入に応じてくれたのは伊藤忠だけのようで、他はいかがわしい(?)福島の花の輸入業者等が参画し、国会で追及されている始末である。企業自体が余裕がなくなってしまい、産業構造も硬直的になってしまったのだ。
 5月18日、アメリカの薬品メーカー モデルナ社がワクチンの臨床試験の結果、抗体を確認したと報じられた。トランプ政権は、元重役を責任者に据え官民一体でワクチンの開発に取り組んでいる。最初に大量接種が可能になる国が有利になるからである。官民一体は、かつては「日本株式会社」と皮肉られるほど日本のお家芸だったが、今では日本の官・民は冷たい関係になってしまったようだ。

<冷たい政策の連続が非情な企業を生んだ>
 なにしろ官邸に「産業競争力会議」なるものができ、競争、競争とせかしてきたのである。そして、「規制改革推進会議」がこれでもかこれでもかと、次々と規制緩和の注文を付け、余裕を全くもてないギリギリの企業にされてしまったのだ。コンビニなどは「在庫ゼロ」で効率的に切り盛りしており、そのシステムを崩したくないので、24時間営業するという、省エネルギーもSDGSもないいびつな構造になっている。お金だけ、今だけ、自分の企業だけという風潮が定着してしまった。
 信頼をなくした政府の訴えにそう簡単に乗れないのは無理のないことである。マスクでいえばせめて「余ったら備蓄に回す」といったことぐらい言ってもよいと思うが、政府の介入を悪とする安倍政権にその気配は感じられない。よく取り沙汰される企業の内部留保463兆1308億円(18年度)も、銀行も政府も優しくなくなったための自衛手段であり、このコロナ禍の乗り切りに役立つことになる。

<企業活動にも温かい心を取り戻す>
 産業の栄枯盛衰は激しい。折しも1960年代以降TVコマーシャル(多分多くの人がメロディを覚えているだろう)で一世を風靡した「レナウン」が破綻したと報じられている。弱肉強食の業界にあって数少ない繊維産業の生き残りだったが、コロナ禍の中、命運が尽きてしまった。
 中国、東南アジアで造らせ薄利多売で利益を上げるユニクロが、優良経営ともてはやされて世界に進出している。その世界に張り巡らしたネットワークを使って、繊維製品ともいえるマスクや防護服の調達に手を貸してくれたのだろうか。(緊急事態宣言の解除が明らかになった5月24日、ユニクロがマスクに参入すると伝えられたが遅すぎる)世界に名だたる製造業が、率先して人工呼吸器やフェイスシールドの生産をしてくれたのだろうか。
 こうした中、私の心が晴ればれしたのが、キヤノンが5月1日人工呼吸器等に係わる特許を、コロナ禍の期間すべて無料で開放してくれたことである。国そして世界の危機に特許料など行っていられるかという義侠心である。このような企業にこそ勝ち残ってほしいものである。
 コロナ禍を契機に、今までの新自由主義的発想を改め、政府はキヤノンのような企業をバックアップして生き残れるような政策を打ち立てる必要がある。企業が心のゆとりを取り戻し、国難に一丸となって当たれる環境を作り出していかなければならない。

2020年5月21日

「種苗法の一部を改正する法律案」について意見表明-食の安全・安心を創る議員連盟-20.05.21

 私は、野党超党派議員による「食の安全・安心を創る議員連盟」の会長を拝命しています。昨日同議連で、種苗法の一部を改正する法律案について反対の意見を表明する記者会見を行いました。
 初めてのオンライン記者会見(ZOOM)で、途中操作を間違えて回線落ちするなどもありましたが、多くの記者の皆様にご参加いただき、無事終えることができました。御礼とともにご報告申し上げます。
記者会見の様子はこちらから

 下記に、同議連の声明をお送りいたします。

種苗法の一部を改正する法律案について
令和2年5月20日
食の安全・安心を創る議員連盟
会  長 篠原 孝
副 会 長 大河原雅子
幹 事 長 徳永エリ
事務局長 川田龍平
事務局次長 田村まみ

 グローバリゼーションによりヒト・モノ・カネが国境を越えて自由に動くようになった中、中国発の新型コロナウイルスがまたたくまに世界中に広まり、世界は未曾有の大混乱の真っ只中にある。そうしたことから、今までのやり方がまずかったのではないかと反省する傾向が見られるようになった。
 
 一方、種の世界では我が国は2018年4月1日、米・麦・大豆等の主要農作物を各都道府県で責任持って供給することを定めた「主要農作物種子法」を廃止し、更に「農業競争力強化支援法」第8条4項で公的試験研究機関が有する種苗の生産に関する知見を民間に提供するという条文が設けられた。この結果,国籍を問わず種の遺伝資源が民間企業にわたり、農家は、その種子を買って農業をしなければならない危険に晒されることになった。化学肥料、農薬、農業機械と同じく、種も世界を股にかけて流通していくべきという改悪だった。つまり、種の世界では一周遅れでグローバリゼーションをまだ追い求めていたのだ。

 そこに今回の種苗法の改悪である。優良な種子の海外流出を防ぐためという大義名分を掲げている。我々もこの目的は支持する。日本の在来種や、日本の研究機関が育成した品種は、いわば日本の公共財であり、和牛の精子同様に外国に持ち出されることは阻止しなければならない。なぜならば、日本の種が外国の巨大企業の手に渡り、それを元に品種改良がなされ、品種登録され、日本の農家が多額の種代を払わなければ使えなくなるといったことが危惧されるからである。
 しかし、今回の「種苗法の一部を改正する法律案」にはそうした危険を阻止する直接的条文は見当たらない。その一方で、海外流出を抑えるため、農家の自家増殖を禁止するという改悪が行われようとしている。現行の種苗法第21条第2項では、農家の自己の経営内での自家増殖は明文をもって認められていた。それが今回削除され、原則禁止されるとなると、原則が大きく変わることになる。

 農水省は、育成権者と農家との個別の契約によっては、従来通り自家増殖が認められるというが、許諾料を毎年払ったり、高接ぎ毎に許諾料を払うと明らかにコスト増につながる。農家の負担を増やし、農業経営を著しく圧迫することになる。自家増殖は登録品種以外は禁止されず、米は84%、野菜は91%が自家増殖可能だと説明しているが、今後登録品種が増えていくことが予想される。そうした中で、食の安全を脅かすと懸念される遺伝子組換え作物も入ってくる可能性も増大することになる。

 なお、UPOV91年条約(植物の新品種の保護に関する国際条約)も第15条において、自己の経営地において増殖を目的で使用することを認めている。また、「食料及び農業のための食物遺伝資源に関する国際条約」でも農場で種子を利用する権限を制限しないと規定している。
自家増殖を抑えれば、海外流出を止めることができるというのだろうか。海外流出は農民が自家増殖をし、それを海外に手渡すことが原因であるかのような、本末転倒した前提で法案が成り立っている。海外への流出は、国境措置等により防ぐべきであり、国内の農家を規制したところで効果は少ないとみられる。

 優れた農家、意欲の高い農家はおしなべて次期作用に自ら優良種子を選んだり、枝振りのいい木の穂木を選んで高接ぎしながら経営を行ってきている。これが我が国の農業の発展にも相当寄与して来ており、自家増殖は農民が持つ当然の権利として認められてきている。今回の「種苗法の一部を改正する法律案」はこの途を閉ざすことになる。
 我々は今このコロナ禍騒ぎの中、進取の気概に富んだ農民に制約を設ける改悪には断固反対する。

2020年5月15日

【新型コロナウイルス感染症シリーズ13】尊大さが目につく中国VS小さくともキラリと光る台湾-WHOからこけにされながら大国中国に向かう台湾を応援せずにはいられない- 20.05.15

 コロナウイルスに席巻される世界は、外交でも意地の張り合いが見られる。中国の感染源になり大失敗したことに対する、挽回ともいうべき「マスク外交」については報告した。それに続くWHOを巡る米中合戦の中で健気に振る舞う台湾の姿勢には拍手を送りたい。

<いずこも国際機関の長を狙う>
 中国の覇権主義の象徴「一帯一路」は戦略的に進められているが、もう一つ着実に進めてきたのが、国際機関への人材の投入である。一帯一路は、二国間で援助等金で誘い込める。ところが、こちらは、拠出金をいくら多くしたところでうまくいかない。各国が認める人材でなければ事務局長なりのトップにはなれないからだ。だから、それこそ用意周到に事を進めなければならず、時間がかかる。しかし、一旦事務局長なりを確保すると、何かとその組織をうまく活用できる。そのため、各国あるいは各陣営とも国際機関の「長」の座を確保せんと凌ぎを削る。

 どこの国際機関もGDP比で拠出金が割り振られており、大体アメリカが1番の拠出国である。WHOも同じで2位中国と続き、3位日本である。そして、上述の超大国を除けば、職員数は大体拠出金額に応じるという暗黙のルールがあるが、日本はどこでも際立つ under representative (つまり拠出金額の割合に比べわずかの職員)国であり、慎ましやかな影響力しか行使していない。

<WHOに標準を合わせた中国の長期戦略が実ったテドロス事務局長>
 さて問題のWHOは、国連の15の国際機関のひとつであるが、今回わかったとおり、他の機関と比べてかなり権限を持つ国際機関である。同じく本部がジュネーブにあり、名前も紛らわしいWTO(世界貿易機構)は、貿易の自由化を促進する中心的役割を演じてきたが、TPPに代表されるように世界は地域協定に重点を移している。またトランプ政権は、多国間を嫌い二国間中心にシフトしている。更に、2019年紛争解決機関である上級員会が機能不全に陥り、かつての影響力はなくなっている。
 中国は、SARSやMERSの経験から、WHOの意外な(?)大切な役割に気付き、戦略的にWHOへの食い込みを図ってきている。まず、先代の事務局長に2007年1月、香港のマーガレット・チャンを送りこんだ。親中の馬英九政権(国民党)から反中の蔡英文政権(民進党)に交代を機にWHOはそれまで認めていた台湾の総会へのオブザーバー参加を認めなくなった。明らかに中国の差し金である。
 更に別の方法でWHOに影響力を行使できるようになったのは、2017年7月中国に援助され続けてきたエチオピアの元外相のテドロス現事務局長の就任である。従って台湾は今もWHOの総会に参加できないままである。

<平然と中国寄りの対応を続けるWHO>
 今回、WHOのコロナ対応で、中国寄りの事例を時系列で上げると以下のとおりである。
1/5  最初の感染流行情報を発信
1/9  「中国当局によれば、ウイルスは人間同士では容易に感染しない」と中国の声明を鵜呑みにして声明を発表
(⇔台湾は19年末 武漢でヒトからヒトへの感染が 起きている疑いがあることを伝える)
  1/20  WHO専門家が武漢入り、中国は対策もアピール。テドロス事務局長が習近平と会談
  1/23 「時期尚早」だとして緊急事態宣言を見送る(⇔初期の警告ができず)
  1/30  国際的な公衆衛生上の緊急事態宣言(⇔パンデミックではない)
  2/3  アメリカが中国からの入国を禁止したことに「旅行や貿易を不必要に制限する措置は必要ない」と否定的見解
(⇔新型コロナウイルスを過小評価)
  2月下旬「中国はウイルスの封じ込めに大変熱心に取り組んでいる。その努力と透明性に感謝する」と謝意
(⇔中国へ忖度し過ぎ)
  3/11  パンデミック宣言(⇔一週間前に否定していた。遅すぎる)
  3/30  非常事態宣言(⇔遅すぎる)

誰が見ても明らかなWHOの中国への忖度(?)振りをみると、中国の長年にわたる戦略は、テドロス事務局長を手中に収めたことでまさに大成功だったと言えよう。

<中国の露骨なWHO取り込みに反発する西側諸国>
 これだけあると、やはり公平性に欠けると言わねばなるまい。目に余るWHOの中国寄りの姿勢に対してアメリカをはじめ各国が疑念を抱き始めている。トランプ大統領は、4月16日あまりの中国寄りのWHOに対し、拠出金を停止すると表明した。
オーストラリアは中国に対して、「独立性のある検証」を要求、中国が反発して常套手段の輸入制限(ワイン、牛肉)等をちらつかせている。ドイツもフランスも中国の初期の対応を柔らかく批判している。

<WHO社会から無視される日本>
それに対し、日本はWHOの公平性への批判、武漢研究所からコロナウイルス流出問題等には全く参戦していない。いつものとおりあまり出すぎない日本の外交姿勢としていいことかもしれない。日本は何もトランプ大統領のお先棒を担ぐ必要はないが、あまりにも影が薄い。ただ唯一、200万人分備蓄していた新型インフル薬アビガンを44カ国に援助物資として送ることだけが決まっている。
日本が当面できる国際的貢献は、WHOが中心になって組織する武漢への調査団の一員として名乗りを上げて参加し、中国のコロナウイルスを入手して、今後の研究に役立てることである。日本でもPCR検査で陰性となったのに、しばらくして発症や再発したりするなど、新型コロナウイルスの特徴がつかめないでいる。まだまだ謎が多く、研究はこれからであり、ワクチン開発、治療薬の研究でも貢献していく必要がある。

<中国に虐げられる可哀想な台湾>
 中国の武漢で派生したコロナウイルスは、世界中に前代未聞の悪影響を与えている。そして今は、ここぞとばかり「マスク外交」を展開中である。その陰でWHOからこけにされているのが台湾である。「なぜ台湾・韓国がコロナ対応に成功し、日本がダメなのか」(前号コロナシリーズ12 20.05.14)で述べた通り、2017年反中国的な蔡英文政権の誕生後、WHOは台湾のオブザーバー参加を認めていない。「一つの中国」の原則をあちこちで貫き通す中国は、台湾が国際社会で一国として振る舞うことに極めて神経質なのだ。
 ところが皮肉なことに、世界の感染情報を一挙に入手し、各国の情報があるWHOより先に武漢のヒトヒト感染も察知し、素早い水際対策を行い、封じ込めに世界で最も早く成功を収めている。そして、超大国の中国と比べてささやかではあるが、世界に医療器具を援助している台湾を忘れないでほしい、という切なる願いが込められている。

<台湾のWHOオブザーバー参加を積極的に後押しすべし>
台湾は、東日本大震災の折、逸早く200億円もの義援金を送ってくれ、今回も4月21日に台湾でも足りないマスク200万枚を寄付してくれている。その義理堅い近隣の友好国台湾が熱望するWHO総会等へのオブザーバー参加の後押しをすることである。
折しも、5月6日ポンペオ国務長官は、18日から開催されるWHOの年次総会に台湾が参加することを支持するよう、各国に呼びかけている。新型コロナウイルス対策は政治的対立とは切り離し、国際協力していかなければならない典型的な分野である。
こんな所で中国に気兼ねする必要はない。習近平来日とは全く別の次元の話である。日本こそ先頭に立ち、台湾参加をWHOに働きかけていくべきである。お金もかからず、かつ感謝されることであり、何よりも国際的大義に沿うことになる。

2020年5月14日

【新型コロナウイルス感染症シリーズ12】なぜ台湾・韓国がコロナ対応に成功し、日本がダメなのか- ①有事は法制整備も形式だけで準備なく、②野党がダメで政治に緊張感がないから -20.05.14

<東アジアの隣接国は見事なコロナ対応を見せる>
 台湾も韓国も日本より中国に近い。特に台湾は地理的に近いだけでなく、交流もずっと濃厚である。それなのに二国とも見事に対応し「台湾モデル」「韓国モデル」と世界から注目され、後者は苦戦を伝えられた総選挙でも圧勝する要因となり、文在寅大統領は「K防疫」と呼び自賛している。他にももう一国、中国と国境を接するベトナムが対応が早く被害が広がっていない。
 そうした中、日本一国だけが死者が少ないものの今一つピシッとしていない。なぜなのか根源的な原因を考えてみた。

<コロナ対応を戦争に例えるが、有事対応ができたのか>
 米独仏のトップは推し並べて新型コロナウイルスの対応を戦争に喩えている。だとすれば、まさに国家の一大事であり、有事にほかならない。そして日本を除く隣接二(三)国は見事に対応している。それに対して、2015年安保法制を強引に通し、有事法制を整えたと自負している安倍政権は、実際には全く心構えができていなかったことになる。安保法制を反対する勢力に対し、平和ボケしていると批判していたが、今回の後手後手の水際対策をみると、ボケていたのはどちらかと言いたくなる。

<ウイルスへの防御体制は軍事的な防御体制に通ずる>
 世界中がもがき苦しみながらも国を挙げてまさに総力戦で対応しているというのに、日本だけがのほほんとして手をこまねいていたのである。新型コロナウイルスは目に見えない大敵である。見えないという点では放射能と似ている。違いは、後者は原発によほど近づかない限りすぐ命を落とすことはないが、前者は容態が一変してすぐに死に至る人が続出するということである。
 原発事故や得体の知れないウイルスに抗することができない政権は、軍事的なイザという時も同じように対処できないだろう。そういう意味では、安倍政権なり自公政権のこれまでの安全保障政策は形式的だけで実際には役だっていないといってよい。官邸直属の国家安全保障局や危機管理官室は未曾有の危機に対応できているのか疑問である。官邸でのさばる経産官僚が、経済政策を同じ感覚で対応せんとしているだけで、とても危機感が感じられない。

<独立独歩で対応せざるを得ない台湾>
 中国船舶が台湾海峡を往来しいつでも有事であり、韓国は
コロナにやられ重病という噂も立っているが、何をしでかすかわからない金正恩の北朝鮮と境を接している。この緊張感の差が歴然と出たのではなかろうか。つまり危機をずっと背中に背負っている国とアメリカ頼みで形だけこだわっている国との違いである。
 台湾は哀れ、2016年の蔡英文政権誕生とともにWHO総会へのオブザーバー参加もままならなくなっていた。そして22ヶ国と外交関係があったのが、中国の猛攻勢により7ヶ国減り15ヶ国なっている。だから、武漢の奇妙な肺炎の情報もWHO経由などではなく自ら収集せざるを得なかった。ただ言語も同じであり、台湾人100万人が中国に暮しており、中国情報の収集能力は抜きん出ている。だから武漢の肺炎でも、逸早くヒト・ヒト感染も疑い、12月にはWHOにもその旨警告のメールを打っていたという。

<豚熱にもコロナにも機敏に厳しく対応>
 豚熱(豚コレラ)について、生ぬるい日本と異なり完全防御体制をひき、空港で豚熱発生地域の肉製品を持ち込んだ者には初回罰金72万円、2回目360万円も課され、即時に罰金を払えない場合は本国に強制送還するという厳格な態度で望んでいる。そして今回を人間に被害を与えるウイルスにも同じことをしているだけである。準備ができていたのだ。
 1月になってすぐに休み返上で対策会議を開き、1月23日には武漢の都市封鎖に伴い、武漢からの入境手続を禁止し、2月6日に中国在住中国人の入境を禁止している。
 武漢便で帰国する航空機に乗り込み、体温測定し、PCR検査も断行、隔離したのだ。台湾は、新型コロナウイルスに対してすぐさま戦闘態勢に突入したのだ。
 更に私がもう一つ感心するのは、日本と比べても選挙への熱狂振りが段違いで1月の熾烈な総選挙の期間中も、対応の手を緩めていなかったことだ。政権は責任を持ってあたり、役人はきっちり仕事をしていたのである。安倍首相は1月上旬から中旬にかけて夜の会合ばかりで、何一つ指揮官としての対応をしていない。これでは、死者一桁の台湾と697人(5月14日現在)の日本の差が生じても仕方あるまい。

<韓国はコロナ対応で与党が有利に>
 真剣度がちがう。これは韓国とて同じである。朴槿恵前大統領は、304名の修学旅行中の高校生が死亡したセウォル号沈没事故への対応で国民的批判の対象となった。政治家、特にトプは危機への対応で力量を測られる。文在寅大統領はコロナ対応で救われることになった。
 4月の総選挙前、玉ねぎ男とあだ名がついた曹国前法相のスキャンダルもあり、支持率は下がり2月末も42%と劣勢を伝えられていた。ところが、感染者のうち軽症者を別途収容したり、アプリを使って濃厚接触者の追跡をしたりが、国民に受け入れられ終わってみれば与党の圧勝だった。日頃から有事への心構えができているからである。4月半ばには支持率は59%に上がり、更に今は71%と歴代大統領の中では最高の支持率となっている。

<欠ける政治の緊張感>
 日本がダメな二つ目の理由は、政治に全く緊張感が欠けているからである。
 安倍一強政権が続き、10年前なら即刻政権交代すべきモリカケ問題、桜を見る会といった、見苦しいスキャンダルも切り抜けんとしている。政権から引きずり降ろされるという危機感がないから政治が荒っぽくなり、このような有事の対応も杜撰になってくるのだ。

<緊張感をもたらす二大政党制が必要>
 台湾(民進党、国民党)も韓国(共に民主党、未来統合党)も典型的二大政党国家である。下手なことをしているとすぐ政権交代である。韓国の大統領の任期は5年で再選はない。両国とも有権者の支持率のアップダウンもことのほか激しい。だから政治に常に緊張感が漂い、失敗が許されないという厳しい政策対応を求められている。蔡英文総統は地方選の敗北の責任を取り民進党の党首の座を下りており、一時は支持率が25%を切っていた。ところが、今は世界から称賛される台湾モデル対応で、過去最高の74%である。
 日本では野党が提案型野党だなどと言い、思い付きの政策を並べ立て、我が党が先に提案したことだなどと自慢している始末である。これでは政治が緊張するはずがない。野党の役割は一にも二にも政権与党の追求でなければならない。だらしない野党の一員として本当に忸怩たる思いである。
 やはり羽田孜の目指した二大政党制は正しいのだ。

<だらけた政治の弊害がコロナ対応にも出てしまう>
 情報公開をきちんとしてなければ、台湾人や韓国人も納得しない。きちんと説明責任を果たさなければ国民はついていかない。それこそ国民に寄り添う政治をしないと、政権を失う危険が常につきまとっている。台・韓ともトップが真剣に国民に語りかけている。
 ところが自民一強、安倍一強の日本では情報は隠し(モリカケの改ざん)、説明は棒読みで済ませている。これでは国民は政府を信頼せず、政府内との距離が縮まらない。だから世界各国では政権の支持率が上がっている中、日・米・伯だけが下がっている。国民の目は確かなのだ。

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