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【花シリーズ②】 19歳のアメリカ人女子大生が気付いた日本の花の文化 -高山村の中庭の花畑に魅かれた鋭敏な感性- 20.10.30

<仕方なく長野で過ごしたインターン>
 ローレンのことを思い出すと、なんとなくほのぼのした感じになる。ローレンはハーバード大学で日本の近代史と日本語を学ぶ19歳の女子大生だった。縁があって私が6月から夏休みの間インターンとして東京の議員会館で引き受けることになった。しかし、国会が延長されなかったため、仕方なしに地元の長野に帰った。その時、高校の後輩のアメリカ留学帰りの日本人学生と日本語がペラペラのアメリカ人大学院生の3人を引き受けていた。

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     高山村の農道にて

<私でなく、外国人女子大学生に目も口も行く訪問>
 当時私は、日本の美しい村の1つののどかな農村・高山村の戸別訪問をしていた。言葉の問題があり結局私がずっと一緒に連れ歩くしかなかった。ところが、私の顔を覚えてもらうための支持者訪問なのに、隣に人形のような顔をした女子大生がいると、そちらの方ばかり見て私の顔をほとんど見てくれない。そればかりか、たどたどしい日本語で受け答えし出すとローレンと会話を始めるのだ。これでは何のために支持者訪問かわからない。ローレンに早速その苦情を言うと、そういうことがすぐわかる勘のいい娘で、翌日からは私が一応話終えてから玄関に顔を出すようになった。
 しかし、小首をちょっとかしげながら手を振ってこんにちはとやると、またローレンとの話が始まって、さっぱり訪問件数が増えないのだ。ただ、ローレンは日本の政治の一端を経験すべく議員会館に来たのにもかかわらず、片田舎に連れてこられて、毎日私と一緒の支持者訪問では可哀相だという罪の意識もあり、以後はすべてローレンの好きにさせることにした。

<日本のNPOに興味を持ち、今イギリスのNPOで働く>
 健気な女子大生で、将来はNPOで働きたいので、日本のNPO活動を体験したいと言い出した。ローカル紙のイベント欄でやっと見つけたのは、千曲河川敷の外来植物・アレチウリの駆除である。真夏の事なので暑いし、秘書に行かせようとしたが誰も手を上げない。そこでまた仕方なく私が作業服に着替えて付き合った。
 その後、またボランティア活動したいというので、探したがちょうどいいのがなく、再び川絡みで志賀高原を流れて来る夜間瀬川の河川敷のゴミ拾い。こちらもヘトヘトに疲れ切った。
 そして今は、母の母国イギリスのNPO(Social Finance)で貧しい人々のために汗をかいているという。まさに初志貫徹であり、そういう点では清々しい気持ちになる。

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     夜間瀬川の河川敷にて

<日本式風呂が気に入る>
 最初に気に入ったのは日本の風呂。農村の支持者訪問は昼寝の時間(午後1時から3時位まで)は、ピンポンすると起こしてしまうことになりお叱りを受けることになる。訪問して票を減らすのでは元も子もないので、その間は仕方なしに近くの山田温泉の豪華な温泉宿「風景館」に連れて行き、中学の同級生のマネージャーに頼んで、名物の露天風呂に入らせることにした。
 温泉通の日本人でもすぐ気に入るところであり、ローレンも気に入った。1時間位で上がって来いと言っておいたのに、なかなか上がってこない。女将さんを探し出して、谷底の露天風呂に督促に行ってもらい、やっと上がってきたが、白い肌が茹蛸のように真っ赤になっていた。

<興味のネタは尽きず神社巡りもし出す>
 それ以来の彼女の興味の対象はだんだん広がっていった。次に興味を示した神社巡りもすることになった。私はいつの間にかお姫様の意のままに動く家来になっていた。
 飯山市の小菅神社に例の昼寝の時間にわざわざ連れて行ったついでに、熱くて有名な野沢温泉の「大湯」にも立ち寄ることにした。今度は早く上がって来いと言っていたのに、またいくらたっても上がってこない。そのうちワイワイキャーキャーという声が外にまで聞こえ出した。後からの釈明によると、あまりに熱いのでちょうど一緒に入った日本人の女子大生とともに、水を一生懸命入れてぬるくしようとしていたのだ。熱い湯を楽しみに来た地元の人が一緒に入っていたならカンカンになって怒るところだろうが、叱られずにこれまた1時間以上入っていた。何にでも興味を持つ年頃だから仕方がない、と再び寛大な気持ちになるしかなかった。

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     飯山市小菅神社にて

<土産物屋で長居するもチャッカリ娘は何も買わず>
 温泉街に土産物屋はつきものである。当然色々なお土産物に興味を示した。その当時はまだ外国人観光客、特にうら若い外国人女子大生は珍しかったのだろう、人の好いおばさんたちが喜んで相手をしてくれた。ところが私には信じられないのが、さんざっぱらこれはなんだあれはなんだと聞きながら、どこでも一切何も買おうとしないのだ。私は、店の皆さんにすまないので何か買ってやろうとさえ思ったが、そこまで甘やかすのはいけないと口を出さずにいた。30分また30分と物色しながら結局何も買わなかった。

<高山村の中庭の花に魅かれる>
 七夕にも浴衣にもと日本で見るもの体験するものに興味を示し続けたが、最後に最も興味を示したのは、日本の花だったような気がする。
 高山村は傾斜地にあり、水回りが良く農家の豪華な庭には決まって池がある。大きな石と松という例の美しい日本式庭園である。ところがローレンが興味を示したのはそれではなく、その辺に雑然と咲いている中庭の何のことはない花だった。そして早速それを写真に撮りだした。おかげで、私の支持者訪問は途中から結構能率的にいくようになった。
 そこでサービスで隣の須坂市の豪華なオープンガーデンにも連れて行った。観光客に来てもらうようにパンフレットまで出来上がっていた。しかし、そういうところにはあまり興味を示さなかった。私は、正直に顔に、そして態度に表す素直なヤンキー娘の趣味が段々とわかるようになっていた。

<愛でる花の対象が違った感性>
 彼女の一番の興味の対象は、その辺の農家の庭先に植えてある花になった。日本的な庭園は、彼女には同じに見えるのに対して、庭先の花壇はみんな表情が違うと言うのだ。そういえば、アメリカの庭には芝生と生垣しかない。アメリカ人は長野弁の「ずく」(こまめな根気)を出して花壇を作るようなことはしない。だから彼女には、片田舎の農家の庭先の花が色とりどりであり、バラエティーに富んでいることにびっくりしたのであろう。
 最後に私に「一体何ヶ月講習を受けたらこのような花壇を作れるのか」と聞いてきた。私は思わず吹き出した。この辺の農家のおばさんやおばあちゃんたちが手入れをしているが、研修を受けたなどの話は聞いたことがない。自然に勝手にやっているだけなのだ、と正直に答えたけれども、彼女は最後までこれを信じようとしなかった。

<日本の文化は花も食も庶民生活にあり>
 大半の日本人も外国人も日本の花の美しさというとすぐ高級な花をふんだんに使った生花を思い描く。しかし、鋭敏な10代の荒っぽい感性は、庶民が適当に手入れしている庭先の花に軍配を上げたのである。
 私にはそれほど芸術心はないけれども、ローレンに教えられてからは、支持者訪問の折、花壇の違いを見て歩いている。そうするとローレンの言った通り、本当にみなさんの思い思いの花が咲いており、生物多様性をもじって言えば「花多様性」に富んでいるのだ。
 和食は世界遺産(ユネスコ無形文化遺産)になったが、私はその真髄は高級料亭の日本料理ばかりにあるのではなく、各地に伝わる庶民の伝統食にこそ息づいていると思っている。
 写真からお気付きかと思うが、ローレンは数年前のインターン生である。しかし何年前かは伏せておく。
 いつかイギリスで研修なしで、高山村と同じ花壇を作り手入れをしているローレンと昔話をしたいと思っている。