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【種シリーズ2】農民の自家増殖禁止は本末転倒 -優良品種の海外流出防止は、海外での品種登録以外になし- 20.11.20

 11月19日、問題だらけで我が国の農業を根底から揺さ振り、将来に大きな禍根を残す種苗法改正案が衆議院を通過した。遅ればせながら、本法案がいかに危ういかを明らかにすべく、4回にわたり報告する。
(本件はかなり専門的なので、関心のある方のみお目通し下さい)

 アベノミクス農政は、農業の現場を無視したものばかりであった。農協法や農業委員会法をいじり、理事に経営のわかる者を選べとか農業委員に認定農業者をとかに介入した。規制改革といいながら、自主運営している農業協同組合の理事の選任にまで口を挟んだのだ。自己矛盾以外の何物でもない。酷い法律だが組織法であり、農民に直接害を及ぼすものではなかった。

<「許諾が必要」は「禁止でない」という詭弁」>
 ところがその暴走が進み、とうとう農民や漁民の農業や漁業の活動にまで直接介入し出した。2018年秋の臨時国会の漁業法改正で、漁業権を有効かつ適切に行使していないという不鮮明な基準で漁業者に漁業権を許可しないという悪法を成立させた。漁民から海を奪ってしま悪の法律である。そして、今回は種苗の海外への流出を抑えるということを口実にして、農家の基本的権利である、種の採種・自家増殖を禁止するというのだ。農水省は「許諾を必要とする」が「禁止ではない」と見苦しい詭弁を弄している。許諾の「許」は許可の許と同じであり、育成権者の許可がなければ、自家増殖ができないのだ。つまり、今まで原則自由に自家増殖ができたのが、全く逆に原則禁止となったのだ。後述するように、農林水産省は、登録品種の自家増殖に育成権者の効力が及ぶ植物の種類を順次拡大してきている。
その一方で、農地の企業所有という経済界の要求も続いている。農民から種と農地を奪う算段なのだ。だから私は種苗法に断固反対している。

<登録品種の海外流出は、農家の自家増殖が原因というあらぬ決めつけ>
 山形の紅秀峰がオーストラリアへ流出したことがいつも悪例として出される。他に農研機構果樹研究所の13人の研究者が育種に18年もかかった「シャインマスカット」やさつま芋の「べにはるか」等が中国・韓国で無断で作られているということもよく例に出される。問題であるが、それが農家の自家増殖から流出したとでもいうのだろうか。少なくとも韓国はUPOV(植物新品種の保護に関する国際条約)加盟国であり、韓国で品種登録していれば、差し止めの裁判も出来たはずである。徴用工問題の前にきちんと対処すべきことなのだ。それを怠っていたのは政府であり育成者である。責任逃れもいいところである。
 私は海外への流出を防ぐために育成権者が登録品種が国内利用に限定できるようにする法改正に反対などしていない。1978年アメリカ留学から帰国して配属された農蚕園芸局総務課で、松延洋平種苗課長が本法の制定に剛腕を振るわれているのを多少手伝っており、私にとっても思い入れのある法律である。国内・外を問わずただ乗り(free ride)を許してはならないことは十二分に承知している。だから育成者が輸出先や栽培地域を指定できるようにしたり、違反者への罰則強化には大賛成である。しかし、突然農家の自家増殖を全面禁止することに結びつけるのは飛躍しすぎである。一罰百戒よろしく原因ともなっていないことを禁止して、種苗の海外流出を防げるというのだろうか。
 和牛遺伝資源保護法が先にあるが、これは冷凍保存しないかぎり輸出できないので空港等でも判別しやすい。これに対し、種も枝もちょっとポケットに入れられる。また正規に輸出されたものから種を取り出すことも可能である。更に、日本から流出したといわれる品種から、新品種を開発されても、仕方のないことなのだ。つまり、日本から出ていくのはほぼ防ぎようがない。

<今頃2年後に100品種登録という怠慢>
 唯一最大の防御策は海外での品種登録であり、それをもとに育成権者が無断栽培に目を光らせて訴えたりして権利を行使することであり、それ以外に有効な手段はない。ところが、日本は野菜や果物で優良品種を抱えていると誇りながら、海外での登録をしてきておらず、今頃になってやっと出願経費を半額補助を始め、2022年までに100品種の登録を目指すといった体たらくなのだ。ようやく2017年に開始された海外出願支援予算により登録された品種は18年9件、19年56件にすぎない。つまり育成権者も政府も種に関してきちんとした戦略もなく、いままでほとんど何も手を打ってこなかったのだ。

<すべてを育成権者と農家の許諾契約に丸投げするのは無責任>
そしてそのツケを、なんと農家に回して自家増殖全面禁止というとんでもないことを言い出した。農林水産省は、あとは育成権者との許諾契約で自家増殖をするかどうか決めると現場に丸投げする無責任な対応である。公述する369品種は自家増殖が全面禁止されるが、他の品種は今のところ原則禁止で許諾されるかどうかは育成権者に任され、農家は宙ぶらりんの状態におかれているのだ。
 更に、育成権者は国や都道府県の公的機関であることが多く、自家増殖を認めないことは少ない、許諾料も農家経営を圧迫するほど高くはならない、と言いくるめているが、規制改革推進会議等官邸が大好きな民間がどんどん増えていく。民間企業は許諾しなかったり、許諾しても高い許諾料をとることが目に見えている。それに農家がいちいち許諾料を払うというが、事務量は膨大になるし、一体誰が自家増殖しているか否かをチェックするのだろうか。そして許諾制による網掛けがどうして海外流出に結びついていくのだろうか。特許制度は難しく、その履行はもっと手間がかかり、なかなかうまくいかないことがわかっていない。本法改正は、練られた形跡がみられない雑なものとなっている。

<外国由来登録件数が急増する理由>
 この怠慢振りは、我が国の登録件数に占める外国人の登録件数の増大振りと比較するとよくわかる。
 2001年は登録件数が初めて1,000件を超えたが、その頃から外国由来が急増し始め、2017年には全登録数のうち外国育成が348件(48%)、外国の居所での登録が287件(36%)と4~5割を外国育成権者が占めている。2018年まで2万7,396件の登録のうち、8,677件(32%)が外国育成で、6,042件(22%)が外国人の登録がされている。その前年諸外国が日本を種の有力市場して虎視眈々と狙っているからである。海外からの登録は、現在8,135件のうち2,231と27%を占めるが、その大半2,111件が花・観賞類である。食用作物は185件(2%)にすぎない。つまり、外国人登録はてっとり早い金儲けが中心であり、基幹的作物はまだ国内が大半という状況にある。(別表「登録件数の推移」参照)
 品種登録の作物分野別の内訳をみると、花き・観賞樹が20,923件と78%も占め、特に種苗会社がそのうち12,936件と6割を占めている。一方種苗会社は、儲けの少ない食用作物は都道府県720件、国416件に対して52件と、1割以下でしかない。
つまり種苗会社はてっとり早く稼げるぜいたくな花・観賞樹に特化しているのだ。だから、食料安全保障を考えたら、外国も民間の種苗会社もあてにならず公的機関に頼る以外にないということである。(別表「登録品種作物分野別・業種別の内訳」参照)

<国際条約は農家の自家増殖を認めている>
 育成者権の保護のためにできたUPOV(植物新品種保護条約)さえも、一応許諾を原則としているが同時に農民の権利として自家増殖を認めている。だから、上記のように各国とも実質的には大半の基幹作物(食料安全保障にかかる穀物や油類作物等)を許諾の例外として自家増殖を認めているのだ。
 また、ITPGR(食料・農業植物遺伝資源条約)では、農業者の権利を保護促進すべきとし、更に「種子、繁殖性素材を国内法に従って適切な場合、保存、利用、交換、販売する権利を制限しない」と規定している。つまり、有機農家の種苗交換も農家の自家増殖も認めるべきというのだ。そして、この2つの国際条約には、日本は当然加盟している。
しかし、2018年国連の「小農の権利宣言」に日本は棄権している。そこには「小農と農村で働く人々は種子への権利を有する」「種子政策、植物品種保護、知的財産法に小農と農村で働く人々の権利、ニーズ、現実を尊重し、それらをふまえたものとする」とされている。
今回の種苗法改正はこれらの国際的な流れとは明らかに離反している。それに対しEUは登録品種しか種子販売ができない中、こうした流れに沿って92t以下の穀物農家には許諾料を求めないとしている。また、有機農家は自由に種子販売が出来るように例外にしている。(以下は別紙「国際条約、国内法等における農業者の権利(自家増殖)と育成権者の権利の規定比較」参照)

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