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【種シリーズ3】農家の自家採種は「自助」の最たるもの-規制改革の大方針に反する農家の自家増殖禁止-20.11.20

<2004年からの自家増殖禁止に着手>
 種を巡る法律改正の動きは2016年10月、規制改革推進会議農業ワーキング・グループと未来投資会議の合同会議で種子法廃止が初めて提起されて始まった。そして1年半後の18年4月に廃止されるスピード決着である。
 一方、自家増殖については、その12年前2004年に「植物新品種の保存に関する研究会」において、自家増殖に原則として育成権者権を及ぼす検討を始めている。更に11年後の2015年自家増殖に関する検討会を何回か重ね、登録品種の自家増殖に育成権者の効力を及ぼす植物の基準を定め、徐々に拡大してきている。つまり、種子法、種苗法はセットで動いていた。海外流出を防止するというのは、後からとって付けた都合のいい口実にすぎない。
 農林水産省は、種子法の廃止と違ってあくまでも農林水産省が官邸の指示ではなく、自ら検討してきたと強調しているが、相当官邸に引っ張られているのだろう。

<396品種の自家増殖禁止を一挙に全8,135品種に拡大>
 その結果を受けて2017年から種苗法の施行規則を大幅に改定して禁止品目を従来の82から4倍弱の289に拡大している。そこに種子繁殖で対象になっていなかった一般的な野菜であるトマト、ナス、大根、人参等も突然禁止されるようになった。19年には種苗法検討会を全6回開催し、禁止品目を更に拡大し2020年の種苗法改定案の国会提出した今は396を禁止品目にしている。つまり、ネガティブリスト方式をとってきたが、今回一挙に8,135全登録品種を禁止する暴挙に出たのである(別紙「種苗法巡る年表」参照)。
 農林水産省は、禁止品目を徐々に拡大しその理由を4つに分けて説明している。基本的には栄養繁殖をする植物の自家増殖を禁止することとしている(別表「登録品種の自家増殖に育成品種の効力を及ぼす植物の基準」参照)。
 その中で増えているのはCで、「新たに栄養繁殖による自家増殖が開始されているか開始される可能性がある植物」である。かつて種子繁殖が大半であった、大根、にんじん、ナス、トマトといった野菜もクローン技術の進歩等があり、栄養繁殖されるおそれが生じたため禁止品目になっている。なお、ゲノム編集による種子は農家が自家増殖できるので、すべてが対象にしないとならなくなる。これが最近大手種苗会社が自家増殖に網をかぶせんとしている理由の一つかもしれない。見苦しいのは、B「現在有効な登録品種がない植物」も禁止品目にしていることだ。つまり保護すべき育成権者がないにもかかわらず先手を打って自家増殖を禁止するとしているのだ。これは今後はすべて禁止にすると宣言していることと変わりはなく、それが今回の法改正に直結している。

<農民の自助による品種改良の道を封ずるのか>
 今回のこの法律は育成権者の保護ばかりが全面に出過ぎており、農家が今まで自由に品種改良したり優良な種を選んできた道を狭めることになっている。実は、農民自身育成権者なのであり、農家育苗者と呼ばれている。
 長野県では信州りんご3兄弟といわれる、秋映、シナノスイート、シナノゴールドを売り出し中である。シナノゴールドは長野県果樹試験場が開発し1999年に品種登録されているが、秋映は私の地元の中野市の農家・小田切健男氏が開発した品種である。農家(個人)は全登録品種のうち個人が26%の7,074件も占め、特に果樹は570件と都道府県の339件を凌ぎ第1位を占めている。これは、果樹では農家が自家増殖の延長で新しい品種を作り上げていることを物語っている。
 農家が育ててきた品種の例でいえば、野沢温泉村の健命寺の住職が1756年に大阪の天王寺蕪を持ち帰り、雪深い北信濃で年を重ねるうちに、肉質がやわらく漬物にぴったりに出来上がってきたのが野沢菜と言われている(ただ近年は遺伝子学では否定されている)。このように多くの地域特産物は気候風土に合わせて農民が品種改良してきたのである。コロナ禍の中でウイルスの変異が取り沙汰されているが、種も環境に適合するため変異し、それが新しい品種に結びついているのだ。そしてそれを探し出すのは農家に他ならない。
 生物多様性を維持することが大切になってきているが、日本は農家が多様な作物、食文化を守り育ててきたのである。それを種の世界で多様性を削ぎ、単一化せんとしている。アイルランドは、1845年~49年の間に単一のじゃがいもの不作により飢饉となり、多くがアメリカに移住せざるを得なくなっている。今後予想される気候変動に対処するためにもよりバラエティに富んだ強靭な種が必要だというのに、日本は逆の大手種苗会社の単一種という道に進もうとしているのである。優良な登録品種に特化していくのは、食料安全保障の観点からみてもあまりに危険すぎる。

<近年の登録件数減少の真の理由>
 1978年の種苗法制定以来、品種登録件数は毎年増え続け、2007年に1,432件と最高を記録したが、その後は減り続け、2018年には652件と半分以下になっている。
 そして今回の改正は、育成権者の保護により、品種改良を支援しようという狙いもあり、農家の自家増殖を禁止して育成権者にその後の品種改良の資金を与えようともしている。それはそれで正しいと思うが、農家の許諾料が育成権者に渡ったところで、それほど足しにはなるまい。
 全体が減る中で、国や都道府県の公的機関の出願がそれぞれ25%減、54%減と最も急激に減っている。その理由は我が国の止まらぬ国と地方の定員削減にあり、農業分野がその標的となり、中でも「不要不急」の試験研究部門が特に減らされているからである。つまり、品種登録数の減少は、よってたかって農業分野の定員や予算を削り続けてきたからに他ならない。
 我が国の総合的育種力を増大させるには、花・観賞樹中心の民間種苗会社よりも、公的機関へのテコ入れが必要である。さもなければ、食料安全保障がおぼつかなくなる。

<今でも登録品種の割合はかなり高い>
 農林水産省はさらに言い訳を続け、登録品種は少なく、例えば稲作ではわずか16%くらいであり農家への影響は少ないという。しかし、今は少なくても今後登録品種が急激に増えていき農家の種代が高くなり、農業経営を圧迫することになる。例えば、コシヒカリは一般品種であり、いくらでも自家増殖できるが、しかし、新潟県産コシヒカリの97%を占めているコシヒカリ新潟BLは登録品種であり、許諾が必要になってしまう。新潟県では85%が登録品種となっている。
 それからそれぞれの地域が力を入れる地域特産物は圧倒的に登録品種が多い。ろくに栽培されていない品種を母数にして、登録品種は僅かだとごまかしているが、北海道の小豆は99%、大豆は86%が登録品種である。沖縄のサトウキビも半数以上が登録品種である。登録品種数と一般種を数で比較すると前者が1割に過ぎないが、栽培面積や生産額でいえば、相当登録品種の割合が高くなっているに違いない。それを数の割合だけで少ないとごまかしているのである。この点は衆議院農水委の参考人質疑でずっと種の問題を追い続けている印鑰智哉氏が厳しく指摘している(以上の数字は「現代農業11月号」から引用)。

<菅政権の看板「自助」「規制改革」と大矛盾する農家の自家増殖禁止>
 農家にいちいち許諾契約を結ばせ、そうでなければ自家増殖できないというのは、典型的な「角を矯めて牛を殺す」類である。これに対し、法律上は育種のためには自由に自家増殖できるという反論が返ってくるが、農民が育種の為に増殖などするというのだろうか。次期作によい種や枝振りのよい枝を選択しているうちに、よい品種に突き当たることが大半である。このような反論は机上の空論も極まれりと言わねばなるまい。
 農家が自家採種なり自家増殖ができないという今回の種苗法改正は、農民の創意工夫を封ずるものである。菅首相は、「自助」を強調しているが、自ら種を採ることを禁止し一気に「民助」(民間の助け)にせんとしているのである。しかし、民は種を高く売らなければならず、なかなか農民を助けてはくれまい。また規制改革も大方針とするといいつつ、大きな規制の網を農民にかぶせているのである。ところが、菅政権は金看板に対するこの二つの大きな自己矛盾に気がついていない。

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