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【種シリーズ6 番外編】間違った制度改革が日本の存立基盤を壊してきた-種子法廃止、種苗法改正が種を奪い、農業・農村をガタつかせる- 20.11.26

 私がこの種苗法に徹底的に反対するのは、この法律が10年後20年後、日本の農業のあり方をがらりと変えてしまう恐れがあるからである。
 社会が大きく変革するもとは、イノベーション・技術革新である。車から始まりテレビやラジオ、最近ではスマホ、ITがいえるだろう。しかし政府の間違った政策が社会の根底を揺るがし変えてしまうことがあるのだ。

<丸太、製材関税ゼロが中山間地を消滅集落に追い込む>
 その例として一番先に挙げられるのは、1951年の丸太関税を撤廃し、1964年オリンピック景気に湧く住宅建築ブーム時の木材貿易の完全自由化である。日本に安い外材がどっと入ってきた。代わりに国内の木材価格が急落した。そのため、中山間地域の農民が山の手入れをしても何の儲けもなくなり、生きていけなくなったのである。その結果、世界の先進国に類例を見ないひどい中山間地域の過疎、そして人口減少が生じてしまった。

<米は守られたが、今は米も危うくなり、農村が中山間地域化するおそれ>
 木材価格が採算ラインを割っては、山が放置されるのは当然である。そして木が捨てられると、人間も捨てられることになり、中山間地域は限界集落となり消滅集落と続き、人が住めなくなっている。一方で残された家がTV番組「ポツンと一軒家」で「エール」と高視聴率を争っている。不思議な現象である。
 その後、小麦も大豆も菜種も次々と譲って日本の農村から消えていったが、農業総生産額の半分を占める米だけは死守した。それがために、辛うじて農村は持ちこたえた。その後米余りが続き、今や総生産額20%~30%しか占めず、今は米も危うくなり、農地の維持も危ぶまれる状況にあり、農村全体が第2の中山間地域になりつつある。

<地方創生の近道は日本の山の木が売れること>
 第二次安倍内閣(2014年)で石破地方創生担当相が誕生し、国民は大きな期待を寄せた。しかし、1億総活躍、女性の輝く時代といったスローガンと同様に、殆ど空振りに終わった。コロナ前まではずっと東京の人口集中が進んで1,400万人に達し、逆に地方の過疎化・人口減少は少しも歯止めがかからない。一方、日本は台風には悩まされるものの年間降雨量1,800mmと北緯35度前後で木の成育に向いた恵まれた国である。1億2,000万人の一年間に使う木材量は毎年まかなえるほど木は成長をしている。
 ところが、全く利用がなされず、外国からは自国の緑を残し外国の森林を禿げ山にしている(?)と誤解されている。地方の活性化すなわち地方創生は、木が売れるようになり材木工場が復活し中山間地域に人が住めるようになることで達成される。要は政府の決断力なのだ。カジノの導入の前にどうしてこんな簡単で効果があることができないのだろうか。もし、山の木を米と同様に守り、中山間地域に人が住み残っていたら、コロナ禍の中でテレワークの地として人気絶頂になっていただろう。しかし、通信環境も悪く、見捨てられたままである。

<シャッター通り化は日米構造協議を受けた大店法廃止が淵源>
 次に日本の社会を大きく変えたのは、1989年から1990年にかけて行われた日米構造協議の結果行なわれた大規模小売店舗法(大店法)の廃止である。国際関係のトップ等がワシントンD.C.と東京を頻繁に往復し、日本人の慣れない抽象的な議論を重ねていた。私(国際部対外政策調整室長)は末席でこのプロセスの一端をしかと見届けた。
 アメリカは、関税を下げたところで対日貿易赤字(大体600億ドル前後)はなくならないとみて、日本の制度(Structural Impediments 構造的障害)そのものを変えようと注文をつけてきていた。例えば、「系列」をなくせという。なぜなら自動車は、トヨタ、日産、ホンダとメーカーごとに店の系列ができており、家電製品も、パナソニック(松下)、日立、東芝と同じで、アメリカ企業は、新たに系列販売網を持たないかぎり日本市場に参入できないからだ。販売店が外国の会社を含め全社の車を扱うようにろというのだ。

<目の前の経済的利益に目がくらみ、日本社会の安定維持を無視した通産省のミス>
 日本は「産業界の米」ともいうべき車絡みは頑として受け付けず、狭い日本の道を疾走するアメリカ車が増えることはなかった。しかし、私は系列をなくすことで譲るのがベストだったような気がする。街の電気屋さんが、どこの社の製品も扱う家電量販店に押され次々に姿を消しつつあるからだ。
 日本は、車をはじめとする工業製品の輸出しやすい環境を守るためにアメリカの過大な要求である大店法の規制緩和に応じ、象徴的な存在として「トイザらス」というおもちゃのスーパーの進出を認めたのである。そして2000年には大店法が廃止された。その後続いた日本の大型スーパーの地方都市近郊への進出は、日本中の商店街をことごとくシャッター通りにしてしまった。経済合理主義、グローバリズムに則り、経済的利益ばかりに目がくらみ、大店法廃止が日本社会を変えてしまうことが予想できなかったのである。その郊外大型店も通販に押され店を畳んで去り、さりとて身近な商店街はとっくに消えてしまっており、今大量の「買い物難民」が生じている。まさに悲劇的生活崩壊である。
 まもなく町の祭りの担い手もいなくなってしまうだろう。だから私は、日本の農山漁村を支える農林水産物の関税撤廃と制度のアメリカ化を織り込んだTPPに、"STOP TPP"のネクタイとバッジをして大反対し続けた。第3、第4の木材、大店法が目白押しだったからだ。

<派遣法が日本の雇用形態を根底から覆す>
 三つ目の例として挙げると「労働者派遣法」の改正である。元々通訳等専門的な技能を有する13業務しか認めていなかったが(ポジティブリスト)、1999年には経済界の要請で対象業務が完全自由化し、禁止業務のみ指定(ネガティブリスト化)した。その後2004年には製造業に拡大された。今や非正規雇用が雇用者の4割を占めるに至ってしまっている。まさに日本の存立基盤を揺るがす大改悪だったのだ。
 そしてこの種苗法である。更に背後にもう一つ控えているのが、企業に農地の所有を許す農地法の改正である。この二つを許せば農民はもう農業株式会社の完全な都合の良い雇用者になり、自分の創意工夫も活かされなくなり、農村が櫛の歯が抜けたような過疎地と化すことは間違いない。恐ろしいことに、TPPやアベノミクス農政とやらが猛スピードで進行中である。

<大規模農業は世界の潮流にあらず>
 ただ、日本に株式会社の巨大農場が成り立つのであろうか。大規模が良い、企業経営が良いと言うが、アメリカにも大規模株式会社農業経営などほとんど存在していない。この事実を日本国民は知っているのだろうか。肥育牛等については大牧場があるが、中西部の穀物農家は家族農業である。カルフォルニアやフロリダの会社経営による柑橘農園は、メキシコ人の低賃金労働者からの搾取の上になりたっている。それより前に、ソ連の国営農場、協同農場(ソフホーズ、コルホーズ)は、大規模だったが効率が悪く、消えてなくなっている。
 日本は国連の「協同組合年」(2011年)、「森林年」(2011年)、「国際土壌年」(2015年)、「家族農業年」(2019~28年)等をことごとく無視し、アベノミクス農政に堕してきたのである。そのトドノのつまりに種と農地への政府の介入そして企業の侵食がある。
 種苗法は野党の力不足で衆議院は通過してしまったが、参議院では廃案にして欲しいと思っている。そうでなければ日本の農業・農村はガタガタになってしまうからである。