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2020年11月22日

【種シリーズ5】 海外大手種苗会社は種のGAFAM化を狙っている - 中山間地域は種の生産振興で活性化すべし - 20.11.22

<江戸時代から続く「隣百姓」>
 江戸時代、青木昆陽がサツマイモを全国に広めたと言われている。サツマイモは典型的な栄養繁殖で簡単に作れるもので、小学校の学童農園でもよく使われている。日本人の好奇心や技術力は大変なもので、江戸時代でもどこでも簡単に作れることから、3年で全国に広まり、飢えから救われることになった。農業の世界では、昔から隣のやり方を真似する「隣百姓」という言葉がある。今では農業の世界には隣が広がり、あちこちの優良事例を見て歩く先進地視察が頻繁に行われており、優れた技術やノウハウはすぐ広まっていく。農業はそういう手法があっても良いのではないかと思っている。つまり工業の世界の特許の考え方をそのまま当てはめる訳にはいかないのだ。

<いずれは伝統野菜や在来種もことごとく登録品種になるおそれ>
 他に問題にすべき条項として35条の2があり、登録新種が特性により明確に区別されない品種の場合は、侵害品種として推定すると、育成権者に有利な規定が置かれている。つまり権利侵害訴訟になった時、その権利を侵害しているという証明はなかなか難しいということでこういう規定が設けられている。更に、農林水産大臣もかかる規定が置かれている。しかし、これだと権利者側が有利になって悪質な権利侵害訴訟が増え、乱訴が予想される。
 つまり、今後は在来種がちょっと変わっただけなのに、自分の新しい種苗だと言ってくることになる。恐ろしいことに地域の伝統的な品種であるにもかかわらず、新しい品種に改良したとして登録品種にし、結局登録品種の網で農家の自家増殖もできなくなることになるということである。これでは農家はやっていられなくなる。農林水産省は大半が一般品種であり伝統野菜等も登録されることはないと言うが、10年もすれば次々と登録されてしまうおそれがある。

<国際条約も欧米先進国も農家の自家増殖は当然の権利として認めている>
 だから、EU種苗法で飼料作物・穀類・馬鈴薯・油料作物・繊維作物等は許諾料を支払うだけの例外作物として自家増殖を認めている。フランスはそれに加えて豆類や緑化植物まで認めるようになっている。アメリカも特許法では自家増殖を認めていないが、植物品種保護法では例外植物を認めている。
 つまり、食料安全保障にかかる主要作物は例外とされているのだ。日本と比べて規模の大きな穀物農家が自ら次年度の種を毎年購入したり、許諾料を払ったなら経営を圧迫するのは目に見えており、そんな不都合は許されない。それを日本は一気に自家増殖を禁止するというのだ。異様である。この法律はこの一点について明らかに行き過ぎているのだ。

<天然の隔離地域、中山間地域で種の生産振興は活性化の起爆剤>
 大半の皆さんがお気付きだと思うけれども、野菜の種の袋を見るすぐにわかるとおり、ほとんどが外国で作られている。
 これは工業分野で人件費がかさむことから手間のかかる部品を中国や東南アジアに任せ、それを輸入して日本で組み立てて日本製品にしているのと同じで、つまりアウトソーシングである。農業界でも労賃の安い外国に種の生産を委ねてしまったのである。
 もう一つ、近くで似たような品種が栽培されていると、その花粉が飛んできて交配が進んでしまうから、ある程度離れた土地で種を作らなければならないということである。このため日本でも種の生産は天然の隔離地域ともいえる中山間地でよく行われていた。
 ところが、今や日本の中山間地域は急激な人口減少でガタガタである。材木の価格が1964年の東京オリンピックの頃と比べて4分の1に下がり、経済的に成り立たないからだ。中山間地域の活性化は、山の木が高く売れるようにすることが一番であるが、猫の額のような狭い土地、急な段々畑での農業では平地とはまともに勝負できない。それならば、種の生産を外国などでせずに国が援助して中山間地域で生産すれば、それこそ中山間地域の活性化の種にすることができるのではないか。

<種の国内生産は食料安全保障の要>
 残念ながら、日本の種苗会社も政府もこうしたことに全く思いを馳せていない。育成権者の保護を連呼するなら、国のためそして中山間地域のために一石二鳥の援助に乗り出すべきである。行政負担がかさむと言うなら、外国からの種の輸入に課税し、それを財源にして中山間地域の種苗生産への援助に充てたらよいのではないか。
 今、コロナ禍の中で、下手をすると外国から種が入ってこなくなるかもしれない。そういったことを考えると、日本に必要な種は日本で作っておかなければならず、外国に任せるわけにはいかない。
 種苗価格は外国や民間に任せていたら高騰してしまう。また、大手の種苗会社の種ばかりだと画一的になり多様性が喪失されてしまう。それに対して各地方の中山間地域でその地方にあった種を作っていればそういったことはない。

<種の世界のGAFAM化を狙う大手種苗会社>
 世界を股にかける大手の石油化学会社は。1973年の石油ショックを受けて、枯渇する石油にばかり頼るわけにはいかなかった。そこに環境問題も追い打ちをかけ先が見通せなくなるなか、生物系産業に活路を見出そうとしたのである。そうして石油に代わる「儲けのタネ」は「種」にありと気付いたのだ。そこで、ICI(現アクゾ・ノーベル)、モンサント等が一斉に農業に参入し始めた。丁度良いことに農薬、除草剤、化学肥料等でもともと農業分野に馴染みがあった。種苗への参入は、モンサントの除草剤ラウンドアップに象徴されるように、自社の除草剤に耐性のある遺伝子組み換え種から始まった。そして、今は世界中を席巻しつつあり、このままでは日本の種市場も大手種苗会社に支配されてしまい、農家が高額な種を購入せざるをえなくなっているかもしれないのだ。
 種苗会社はF1(一代雑種)の種は毎年種を購入しないとならないことに味をしめ、F1にする必要のないものまでF1にした。次に除草剤とそれに耐性のある遺伝子組換え(GMO)種子を同じく売りつけることに成功した。これで他社を寄せ付けなくすることができた。更に二度発芽しない「ターミネーター種子」まで造り出し、毎年種を購入せざるを得ない方向にまっしぐらに進んできた。つまり、農家をセールスの手間が省ける「永遠の顧客」にしてしまおうという算段なのだ。自家増殖の禁止も、その延長線上にある。
 インターネットの世界ではアメリカのGAFAM(Google, Amazon, Facebook, Apple, Microsoft)なしに成り立たないが、大手種苗会社ば種の世界のGAFAM化を狙っていると言える。

<インドは薬にも食料にも高額な特許を認めず>
 この点については、インドの最高裁が遺伝子組み換えについて特許を認めない判決(モンサント訴訟)を下し有名になっている。また、シリーズ4で紹介した強制実施権も、後発薬メーカーの申請により、独バイエルのガン治療薬の特許について認め、6%の料率(通常は8~50%)と低い価格で済んでいる。
 このようにインドは、UR(ウルグアイラウンド)時の主張を貫き一歩先行しているが、今後は大手種苗会社から農民を守るというまっとうな傾向は世界全体で強まっていくとみられる。大手企業が種をもとに農民を支配し巨大な利益を得ようとするが、発展途上国なり農民はそれに抵抗していくという図式が定着していくだろう。日本がどちら側に立つべきかは明らかである。

2020年11月21日

【種シリーズ4】 医療・食料の特許の例外にみえる合理性 -主要食料の種は「官」が担うべき- 20.11.21

<自立する有機農家は自家採種にこだわる>
 2015年の農林水産省の実態調査では5割以上の農家が自家増殖している。更に私が深く関わってきている日本有機農業研究会は、有機農家間の種苗交換会が始まりである。つまり自家採取は次期作のために不可欠なものである。現在高収益作物次期作支援事業の条件変更が農業現場で大問題になっている。一方でコロナ禍でも農業が続けられるように支援をしようとしているのに、片方で自家採種を禁止し、次期作を妨げようとしているのである。この矛盾にも気付いていない。

<生物・遺伝資源は「民から官」への移行が必要>
 日本は、種についても民間に任せんとしているが、各国とも農民がおいそれと品種開発できないので、国なり地方自治体の公的機関が中心に品種改良している。
 安倍農政は2013年の施政方針演説で「日本を世界で1番ビジネスしやすい国」にすると述べ、農政もそれに沿うような形で進められてきた。その最悪の法律が「農業競争力強化支援法」である。これは種苗、農機具等の農業資材会社の競争力の支援法にすぎず、農家側から見ると「農家弱体化促進法案」でしかない。一番問題になっているのは第8条4項であり、公的機関で得た知見を民間の会社に開放するということが規定されている。明治時代と同じく官有物を民間に払い下げようというのである。150年の時空を越え、21世紀の令和の時代に種子の分野で官から民への移行をするのは時代錯誤も甚だしい。
 アメリカでは巨費を投じた軍事研究の成果が民間に裨益する例が多くみられるが、種子の分野は全く異なる。世界は種子なりバイオの重要性に気付き、むしろ国を挙げて生物資源なり遺伝子資源の確保・囲い込みに乗り出しているというのに、日本は全く逆の方向に動き出しているのだ。我が国がすべきは、種子の「民から官」への移行なのである。さもなければ、シリーズ5で示すように、日本の種はグローバル企業に牛耳られ、農業や食料の喉元を抑えられることになってしまう。

<民優先のアメリカでも、品種開発は州が担う>
 アメリカは何でも民間と勘違いしているが、全く事情が異なる。各州にはLand-Grant Universityと言われる州立の〇〇 State University(州立大学)があり、そこには必ず農学部があり、その州の農業について研究開発から技術普及まで中心的な役割を果たしている。いくら大平原だらけのアメリカでも地域によって気候が異なり、その州に合った種を開発していかなければならないからである。そして、農家は小麦や大豆などの主要作物の種の大半をこうした公的機関から調達している。
 日本はそれと比べればずっと気候が複雑で、山一つ隔てたら新しい種が必要になったりすることもあることから、アメリカよりもずっとバラエティーに富んだ種が必要となり、それには地方自治体の試験研究機関が対応するしかない。だから、種子法廃止後、2018年3月の兵庫県を皮切りに22の都道府県で種子条例が制定されているのだ。国が責任を放棄する中、地方自治体が危機感を抱き、手を打っているのだ。長野県は種子法の範囲(米、麦、大豆)を超えてそば、あわ、きび、小豆、伝統野菜の種子供給も盛り込んでおり、見事というしかない。
 愚かな政府、冷たい政府の尻拭いをする都道府県のこのような条例はいまだかつてないことであり、今後の地方自治の見本となっていくかもしれない。新型コロナウィルスの対応でもしっかりとした知事のリーダーシップの下、政府よりも都道府県のほうが理に適った対応をしていることが多く見られたが、もしこのようなことが続くとしたら、それこそ地方分権を更にすすめなければなるまい。

<筑波の研究者の気高いモラル>
 次に試験研究、品種登録のモラルについて触れたい。私が農林水産技術会議事務局のNo,2だった頃、農水省の試験研究機関もすべて独立行政法人化し、研究費を自らで稼ぐのが国の大方針だった。種でいえば、農林水産省の筑波の研究所で開発された品種を、種苗法の下で登録して、そしてその登録料で研究開発費を稼げというのだ。そして、職務育成品種といえども、開発した研究者個人にも特許料(この場合は品種登録料)が入る仕組も考えられていた。それに対して筑波の研究者は、自分の好きな研究を給料をもらいながらやらせてもらっただけで十分、まして農民からお金を徴収するのは潔しとしない、自分が研究開発したものを一日も早くみんなに使ってもらいたい、という健気な考えの持ち主だらけだった。研究者のモラルの高さ、公徳心に脱帽し感動を覚えた。
 その点では、日亜化学工業の研究者で青色発光ダイオード(LED)を作り上げた中村修二氏と大きく異なる。彼は研究開発の成果が会社だけに属するはけしからん、と訴訟を起こし、それがきっかけとなり2005年に知的財産高等裁判所ができている。また、2015年の特許法改正では、特許を受ける権利は発生時から使用者に帰属することとされ、従業者は相当の利益を受けるだけとされている。

<特許を放棄して中南米・アフリカの風土病から数億人を救った大村博士>
 もう一つ特許のことで言えば、大村智ノーベル生理学・医学賞の受賞者の美しい話もある。大村博士は、製薬会社のメルク社と産学連携し特許契約を結び、250億円の特許料を得たものの、その多くを北里研究所の研究費に回し、病院も作り、生まれ故郷の地元韮崎に7億円もかけて美術館を造っている。つまり社会還元である。そして大村博士は、「私は微生物の力を借りただけだ」とあくまでも謙虚である。
 大村博士は、微生物から動物に効くイベルメクチンを抽出し、視力が失われてしまうオンコセルカ症(河川盲目症)病に効くことが判明した。そして、その人たちを救うことになる薬メクチザンを作り出し、中南米やアフリカの人たちのために特許を放棄したというのである。そのために多くの人たちが安く薬を手にすることができ、視覚障碍者にならずにすんだことからノーベル平和賞にも値すると言われていた。これを農業の世界、種の世界に当てはめるとすれば、水が半分で育つ優良種子で砂漠周辺の多くの人が飢えから解放されるなら、その品種登録の育成者権を放棄するというものである。
 こういうことを忘れて、やたらと育成者権の保護ばかり喧伝するのはバランスを欠く。特許といった概念は人間が作ったものであり、25年なり30年が経ったら誰でも使えるようになるが、私はその長さはものによって違いがあってよく、例えば米や小麦といった基幹的作物は短く、花や観賞樹は民間に任せて年数が長くなってもかまわないのではないかと思っている。工業製品と農産物は扱いを異にすべきだが、同じ農産物でも違いがあって然るべきである。

<医療、食料は特許の例外にすべきという主張の合理性>
 こういうことに関連して言えば、UR(ウルグアイラウンド)の後半BRICS(ブラジル、インド、中国等の新興国)は、命にかかわる医療と食料の分野については特許の例外をすべきであるという主張をし出した。私は最初にその主張を聞いた頃は、すぐには理解できなかったが、大村博士の例を考えてみると、むべなるかなと思うようになった。視力を失うことを防ぐための薬が高額な特許料を加味した薬では、貧困にあえぐ人々には行き渡らない。今、コロナ禍の中で、ワクチンが特許により高額になるとしたら、世界は受け入れまい。

<コロナウィルス感染症ワクチンや治療薬は特許制限が妥当>
 今、日本でもコロナの第三波が猛威を振るっている。各国とも、ワクチンや治療薬の開発に全力を挙げている。そうした中、ワクチンの完成間近の米医薬品メーカー・モデルナは、パンデミックが続く間は特許権を行使しないと表明している。いずれライバルのファイザー社等も追随してくると思われる。
 これとは別に、特許技術を第三者が許可なく使える「強制実施権」という制度がある。これはWTOでも認められており、世界中が困っている今はこの制度が生かされる絶好機であろう。特許料は高すぎて治療ができないという事態は避けなければならないからだ。あとは、政府なり通常に戻った時の製薬会社への補償の問題である。
 だとすれば、常時食料不足にある世界を救うためには、せめて穀物や油糧種子は恒常的に特許の例外としてもおかしくない。それを農家の自家増殖を認めないなどと、育成権者ファーストばかりを追求していたら世界から相手にされなくなってしまう。

2020年11月20日

【種シリーズ3】農家の自家採種は「自助」の最たるもの-規制改革の大方針に反する農家の自家増殖禁止-20.11.20

<2004年からの自家増殖禁止に着手>
 種を巡る法律改正の動きは2016年10月、規制改革推進会議農業ワーキング・グループと未来投資会議の合同会議で種子法廃止が初めて提起されて始まった。そして1年半後の18年4月に廃止されるスピード決着である。
 一方、自家増殖については、その12年前2004年に「植物新品種の保存に関する研究会」において、自家増殖に原則として育成権者権を及ぼす検討を始めている。更に11年後の2015年自家増殖に関する検討会を何回か重ね、登録品種の自家増殖に育成権者の効力を及ぼす植物の基準を定め、徐々に拡大してきている。つまり、種子法、種苗法はセットで動いていた。海外流出を防止するというのは、後からとって付けた都合のいい口実にすぎない。
 農林水産省は、種子法の廃止と違ってあくまでも農林水産省が官邸の指示ではなく、自ら検討してきたと強調しているが、相当官邸に引っ張られているのだろう。

<396品種の自家増殖禁止を一挙に全8,135品種に拡大>
 その結果を受けて2017年から種苗法の施行規則を大幅に改定して禁止品目を従来の82から4倍弱の289に拡大している。そこに種子繁殖で対象になっていなかった一般的な野菜であるトマト、ナス、大根、人参等も突然禁止されるようになった。19年には種苗法検討会を全6回開催し、禁止品目を更に拡大し2020年の種苗法改定案の国会提出した今は396を禁止品目にしている。つまり、ネガティブリスト方式をとってきたが、今回一挙に8,135全登録品種を禁止する暴挙に出たのである(別紙「種苗法巡る年表」参照)。
 農林水産省は、禁止品目を徐々に拡大しその理由を4つに分けて説明している。基本的には栄養繁殖をする植物の自家増殖を禁止することとしている(別表「登録品種の自家増殖に育成品種の効力を及ぼす植物の基準」参照)。
 その中で増えているのはCで、「新たに栄養繁殖による自家増殖が開始されているか開始される可能性がある植物」である。かつて種子繁殖が大半であった、大根、にんじん、ナス、トマトといった野菜もクローン技術の進歩等があり、栄養繁殖されるおそれが生じたため禁止品目になっている。なお、ゲノム編集による種子は農家が自家増殖できるので、すべてが対象にしないとならなくなる。これが最近大手種苗会社が自家増殖に網をかぶせんとしている理由の一つかもしれない。見苦しいのは、B「現在有効な登録品種がない植物」も禁止品目にしていることだ。つまり保護すべき育成権者がないにもかかわらず先手を打って自家増殖を禁止するとしているのだ。これは今後はすべて禁止にすると宣言していることと変わりはなく、それが今回の法改正に直結している。

<農民の自助による品種改良の道を封ずるのか>
 今回のこの法律は育成権者の保護ばかりが全面に出過ぎており、農家が今まで自由に品種改良したり優良な種を選んできた道を狭めることになっている。実は、農民自身育成権者なのであり、農家育苗者と呼ばれている。
 長野県では信州りんご3兄弟といわれる、秋映、シナノスイート、シナノゴールドを売り出し中である。シナノゴールドは長野県果樹試験場が開発し1999年に品種登録されているが、秋映は私の地元の中野市の農家・小田切健男氏が開発した品種である。農家(個人)は全登録品種のうち個人が26%の7,074件も占め、特に果樹は570件と都道府県の339件を凌ぎ第1位を占めている。これは、果樹では農家が自家増殖の延長で新しい品種を作り上げていることを物語っている。
 農家が育ててきた品種の例でいえば、野沢温泉村の健命寺の住職が1756年に大阪の天王寺蕪を持ち帰り、雪深い北信濃で年を重ねるうちに、肉質がやわらく漬物にぴったりに出来上がってきたのが野沢菜と言われている(ただ近年は遺伝子学では否定されている)。このように多くの地域特産物は気候風土に合わせて農民が品種改良してきたのである。コロナ禍の中でウイルスの変異が取り沙汰されているが、種も環境に適合するため変異し、それが新しい品種に結びついているのだ。そしてそれを探し出すのは農家に他ならない。
 生物多様性を維持することが大切になってきているが、日本は農家が多様な作物、食文化を守り育ててきたのである。それを種の世界で多様性を削ぎ、単一化せんとしている。アイルランドは、1845年~49年の間に単一のじゃがいもの不作により飢饉となり、多くがアメリカに移住せざるを得なくなっている。今後予想される気候変動に対処するためにもよりバラエティに富んだ強靭な種が必要だというのに、日本は逆の大手種苗会社の単一種という道に進もうとしているのである。優良な登録品種に特化していくのは、食料安全保障の観点からみてもあまりに危険すぎる。

<近年の登録件数減少の真の理由>
 1978年の種苗法制定以来、品種登録件数は毎年増え続け、2007年に1,432件と最高を記録したが、その後は減り続け、2018年には652件と半分以下になっている。
 そして今回の改正は、育成権者の保護により、品種改良を支援しようという狙いもあり、農家の自家増殖を禁止して育成権者にその後の品種改良の資金を与えようともしている。それはそれで正しいと思うが、農家の許諾料が育成権者に渡ったところで、それほど足しにはなるまい。
 全体が減る中で、国や都道府県の公的機関の出願がそれぞれ25%減、54%減と最も急激に減っている。その理由は我が国の止まらぬ国と地方の定員削減にあり、農業分野がその標的となり、中でも「不要不急」の試験研究部門が特に減らされているからである。つまり、品種登録数の減少は、よってたかって農業分野の定員や予算を削り続けてきたからに他ならない。
 我が国の総合的育種力を増大させるには、花・観賞樹中心の民間種苗会社よりも、公的機関へのテコ入れが必要である。さもなければ、食料安全保障がおぼつかなくなる。

<今でも登録品種の割合はかなり高い>
 農林水産省はさらに言い訳を続け、登録品種は少なく、例えば稲作ではわずか16%くらいであり農家への影響は少ないという。しかし、今は少なくても今後登録品種が急激に増えていき農家の種代が高くなり、農業経営を圧迫することになる。例えば、コシヒカリは一般品種であり、いくらでも自家増殖できるが、しかし、新潟県産コシヒカリの97%を占めているコシヒカリ新潟BLは登録品種であり、許諾が必要になってしまう。新潟県では85%が登録品種となっている。
 それからそれぞれの地域が力を入れる地域特産物は圧倒的に登録品種が多い。ろくに栽培されていない品種を母数にして、登録品種は僅かだとごまかしているが、北海道の小豆は99%、大豆は86%が登録品種である。沖縄のサトウキビも半数以上が登録品種である。登録品種数と一般種を数で比較すると前者が1割に過ぎないが、栽培面積や生産額でいえば、相当登録品種の割合が高くなっているに違いない。それを数の割合だけで少ないとごまかしているのである。この点は衆議院農水委の参考人質疑でずっと種の問題を追い続けている印鑰智哉氏が厳しく指摘している(以上の数字は「現代農業11月号」から引用)。

<菅政権の看板「自助」「規制改革」と大矛盾する農家の自家増殖禁止>
 農家にいちいち許諾契約を結ばせ、そうでなければ自家増殖できないというのは、典型的な「角を矯めて牛を殺す」類である。これに対し、法律上は育種のためには自由に自家増殖できるという反論が返ってくるが、農民が育種の為に増殖などするというのだろうか。次期作によい種や枝振りのよい枝を選択しているうちに、よい品種に突き当たることが大半である。このような反論は机上の空論も極まれりと言わねばなるまい。
 農家が自家採種なり自家増殖ができないという今回の種苗法改正は、農民の創意工夫を封ずるものである。菅首相は、「自助」を強調しているが、自ら種を採ることを禁止し一気に「民助」(民間の助け)にせんとしているのである。しかし、民は種を高く売らなければならず、なかなか農民を助けてはくれまい。また規制改革も大方針とするといいつつ、大きな規制の網を農民にかぶせているのである。ところが、菅政権は金看板に対するこの二つの大きな自己矛盾に気がついていない。

※ 種シリーズの資料はこちらから

【種シリーズ2】農民の自家増殖禁止は本末転倒 -優良品種の海外流出防止は、海外での品種登録以外になし- 20.11.20

 11月19日、問題だらけで我が国の農業を根底から揺さ振り、将来に大きな禍根を残す種苗法改正案が衆議院を通過した。遅ればせながら、本法案がいかに危ういかを明らかにすべく、4回にわたり報告する。
(本件はかなり専門的なので、関心のある方のみお目通し下さい)

 アベノミクス農政は、農業の現場を無視したものばかりであった。農協法や農業委員会法をいじり、理事に経営のわかる者を選べとか農業委員に認定農業者をとかに介入した。規制改革といいながら、自主運営している農業協同組合の理事の選任にまで口を挟んだのだ。自己矛盾以外の何物でもない。酷い法律だが組織法であり、農民に直接害を及ぼすものではなかった。

<「許諾が必要」は「禁止でない」という詭弁」>
 ところがその暴走が進み、とうとう農民や漁民の農業や漁業の活動にまで直接介入し出した。2018年秋の臨時国会の漁業法改正で、漁業権を有効かつ適切に行使していないという不鮮明な基準で漁業者に漁業権を許可しないという悪法を成立させた。漁民から海を奪ってしま悪の法律である。そして、今回は種苗の海外への流出を抑えるということを口実にして、農家の基本的権利である、種の採種・自家増殖を禁止するというのだ。農水省は「許諾を必要とする」が「禁止ではない」と見苦しい詭弁を弄している。許諾の「許」は許可の許と同じであり、育成権者の許可がなければ、自家増殖ができないのだ。つまり、今まで原則自由に自家増殖ができたのが、全く逆に原則禁止となったのだ。後述するように、農林水産省は、登録品種の自家増殖に育成権者の効力が及ぶ植物の種類を順次拡大してきている。
その一方で、農地の企業所有という経済界の要求も続いている。農民から種と農地を奪う算段なのだ。だから私は種苗法に断固反対している。

<登録品種の海外流出は、農家の自家増殖が原因というあらぬ決めつけ>
 山形の紅秀峰がオーストラリアへ流出したことがいつも悪例として出される。他に農研機構果樹研究所の13人の研究者が育種に18年もかかった「シャインマスカット」やさつま芋の「べにはるか」等が中国・韓国で無断で作られているということもよく例に出される。問題であるが、それが農家の自家増殖から流出したとでもいうのだろうか。少なくとも韓国はUPOV(植物新品種の保護に関する国際条約)加盟国であり、韓国で品種登録していれば、差し止めの裁判も出来たはずである。徴用工問題の前にきちんと対処すべきことなのだ。それを怠っていたのは政府であり育成者である。責任逃れもいいところである。
 私は海外への流出を防ぐために育成権者が登録品種が国内利用に限定できるようにする法改正に反対などしていない。1978年アメリカ留学から帰国して配属された農蚕園芸局総務課で、松延洋平種苗課長が本法の制定に剛腕を振るわれているのを多少手伝っており、私にとっても思い入れのある法律である。国内・外を問わずただ乗り(free ride)を許してはならないことは十二分に承知している。だから育成者が輸出先や栽培地域を指定できるようにしたり、違反者への罰則強化には大賛成である。しかし、突然農家の自家増殖を全面禁止することに結びつけるのは飛躍しすぎである。一罰百戒よろしく原因ともなっていないことを禁止して、種苗の海外流出を防げるというのだろうか。
 和牛遺伝資源保護法が先にあるが、これは冷凍保存しないかぎり輸出できないので空港等でも判別しやすい。これに対し、種も枝もちょっとポケットに入れられる。また正規に輸出されたものから種を取り出すことも可能である。更に、日本から流出したといわれる品種から、新品種を開発されても、仕方のないことなのだ。つまり、日本から出ていくのはほぼ防ぎようがない。

<今頃2年後に100品種登録という怠慢>
 唯一最大の防御策は海外での品種登録であり、それをもとに育成権者が無断栽培に目を光らせて訴えたりして権利を行使することであり、それ以外に有効な手段はない。ところが、日本は野菜や果物で優良品種を抱えていると誇りながら、海外での登録をしてきておらず、今頃になってやっと出願経費を半額補助を始め、2022年までに100品種の登録を目指すといった体たらくなのだ。ようやく2017年に開始された海外出願支援予算により登録された品種は18年9件、19年56件にすぎない。つまり育成権者も政府も種に関してきちんとした戦略もなく、いままでほとんど何も手を打ってこなかったのだ。

<すべてを育成権者と農家の許諾契約に丸投げするのは無責任>
そしてそのツケを、なんと農家に回して自家増殖全面禁止というとんでもないことを言い出した。農林水産省は、あとは育成権者との許諾契約で自家増殖をするかどうか決めると現場に丸投げする無責任な対応である。公述する369品種は自家増殖が全面禁止されるが、他の品種は今のところ原則禁止で許諾されるかどうかは育成権者に任され、農家は宙ぶらりんの状態におかれているのだ。
 更に、育成権者は国や都道府県の公的機関であることが多く、自家増殖を認めないことは少ない、許諾料も農家経営を圧迫するほど高くはならない、と言いくるめているが、規制改革推進会議等官邸が大好きな民間がどんどん増えていく。民間企業は許諾しなかったり、許諾しても高い許諾料をとることが目に見えている。それに農家がいちいち許諾料を払うというが、事務量は膨大になるし、一体誰が自家増殖しているか否かをチェックするのだろうか。そして許諾制による網掛けがどうして海外流出に結びついていくのだろうか。特許制度は難しく、その履行はもっと手間がかかり、なかなかうまくいかないことがわかっていない。本法改正は、練られた形跡がみられない雑なものとなっている。

<外国由来登録件数が急増する理由>
 この怠慢振りは、我が国の登録件数に占める外国人の登録件数の増大振りと比較するとよくわかる。
 2001年は登録件数が初めて1,000件を超えたが、その頃から外国由来が急増し始め、2017年には全登録数のうち外国育成が348件(48%)、外国の居所での登録が287件(36%)と4~5割を外国育成権者が占めている。2018年まで2万7,396件の登録のうち、8,677件(32%)が外国育成で、6,042件(22%)が外国人の登録がされている。その前年諸外国が日本を種の有力市場して虎視眈々と狙っているからである。海外からの登録は、現在8,135件のうち2,231と27%を占めるが、その大半2,111件が花・観賞類である。食用作物は185件(2%)にすぎない。つまり、外国人登録はてっとり早い金儲けが中心であり、基幹的作物はまだ国内が大半という状況にある。(別表「登録件数の推移」参照)
 品種登録の作物分野別の内訳をみると、花き・観賞樹が20,923件と78%も占め、特に種苗会社がそのうち12,936件と6割を占めている。一方種苗会社は、儲けの少ない食用作物は都道府県720件、国416件に対して52件と、1割以下でしかない。
つまり種苗会社はてっとり早く稼げるぜいたくな花・観賞樹に特化しているのだ。だから、食料安全保障を考えたら、外国も民間の種苗会社もあてにならず公的機関に頼る以外にないということである。(別表「登録品種作物分野別・業種別の内訳」参照)

<国際条約は農家の自家増殖を認めている>
 育成者権の保護のためにできたUPOV(植物新品種保護条約)さえも、一応許諾を原則としているが同時に農民の権利として自家増殖を認めている。だから、上記のように各国とも実質的には大半の基幹作物(食料安全保障にかかる穀物や油類作物等)を許諾の例外として自家増殖を認めているのだ。
 また、ITPGR(食料・農業植物遺伝資源条約)では、農業者の権利を保護促進すべきとし、更に「種子、繁殖性素材を国内法に従って適切な場合、保存、利用、交換、販売する権利を制限しない」と規定している。つまり、有機農家の種苗交換も農家の自家増殖も認めるべきというのだ。そして、この2つの国際条約には、日本は当然加盟している。
しかし、2018年国連の「小農の権利宣言」に日本は棄権している。そこには「小農と農村で働く人々は種子への権利を有する」「種子政策、植物品種保護、知的財産法に小農と農村で働く人々の権利、ニーズ、現実を尊重し、それらをふまえたものとする」とされている。
今回の種苗法改正はこれらの国際的な流れとは明らかに離反している。それに対しEUは登録品種しか種子販売ができない中、こうした流れに沿って92t以下の穀物農家には許諾料を求めないとしている。また、有機農家は自由に種子販売が出来るように例外にしている。(以下は別紙「国際条約、国内法等における農業者の権利(自家増殖)と育成権者の権利の規定比較」参照)

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2020年11月13日

11月12日 農林水産委員会 質疑資料

11月12日の農林水産委員会にて、篠原孝が種苗法に関連して40分の質疑に立たせていただきました。
後日ブログに詳細をまとめる予定でおりますが、先に資料を公開いたします。

質疑資料はこちらからご覧いただけます。
[11.12農林水産委員会質疑資料]