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【歪んだ畜産シリーズ1】アキタフーズ事件、吉川農相辞任の原因は歪んだ日本の畜産業にあり‐OIEの勧告は世界の潮流‐21.09.17

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日本の農業は、急激な変貌を遂げている。この中でも、畜産業の変貌は顕著である。

<世界の農業の中心は畜産で、日本もそれに近付きつつある>
これを農業総生産額に占める割合でみてもよくわかる。まず、米の割合が1960年の47.4%から2019年の19.6%と30ポイント減、半分以下になっている。その一方で18.2%から36.1%とほぼ2倍に増えているのが畜産業であり、今は野菜、果実の合計を凌ぎ第一位である。(表1「年次別農業総産出額 参照」)
 欧米先進国では、とっくの昔から畜産業が圧倒的1位を占めている。つまり、面積的には穀物だが、金額的には高い肉と牛乳を生産する畜産業が農業の中心なのだ。

<急激に規模拡大した日本の養豚・養鶏は世界1、2の規模>
 ただ、畜産業の変遷の中味をみると、その異様さがよくわかってくる。狭い国土面積の制約を受けないことから、規模拡大が急激に進んだ。それでも牛は放牧できるある程度の面積も必要とされることから、1970年比で、肉用牛は29.3倍(2頭/戸→58頭/戸)、乳用牛は16.0倍(6頭/戸→94頭/戸)に過ぎないが、いわゆる中小家畜の規模拡大は半端ではない。豚は14頭/戸から148.7倍の2,119頭/戸となり、アメリカの1,089頭/戸の2倍近くである。日韓米英仏独の6カ国の中でも1位となっている。(表2「日本の畜産業の平均飼養頭数拡大の推移」・表3「六ヶ国の畜産業の平均飼養規模比較」参照)
 採卵鶏にいたっては、70羽/戸から66,883羽/戸と1000倍近くになっている。それに対し、欧米諸国は1000~3000羽/戸と日本の50分の1以下の規模である。規模が小さい日本農業だが、中小家畜では欧米諸国よりずっと規模が大きいのだ。

<大企業経営の採卵鶏、養鶏>
 ひたすら規模拡大を続けるばかりだった中小家畜飼育は、後述するようにOIE(国際獣疫事務局)から指摘されるまでもなく、歪みきっている。ごく一部の小規模酪農家を除き、豚も鶏も肥育牛ももうおよそ農家とは言えない大経営体である。採卵鶏・養鶏ブロイラーの経営体は日本全国で2000経営体強にすぎない(表2)。いずれも規模では世界一を誇り、採卵鶏6万7千羽(2,120経営体)、ブロイラー6万2千羽(2,250経営体)である。これはとても農家という範疇に入らず、まさに大企業そのものである。その一つが、採卵鶏業界第2位のアキタフーズである。だから農林族議員に数千万円を贈与、クルーザーまで所有している。養豚に至ってもアメリカを凌ぎ世界一大規模なのである。

<日本の非鶏道、非豚道的飼育は異様>
 この差は動物や家畜に対する考え方、態度においてかなりのギャップがあることから生じている。そして、ここにアキタフーズ事件が発生する要因が隠されている。
 欧米先進国とて効率だけを考えたら、1000頭飼育する豚舎も1万羽飼育する鶏舎もいとも簡単に作れる。しかし、そうした飼い方を規制して大規模化させないでいる。家畜も普通に生きる権利があるとみなされ(動物の権利 Animal Right)、ぎゅうぎゅう詰めの飼育をためらうとともに、そうした非鶏道的、非豚道的飼育が禁止されているからである。やみくもに規制緩和に走り、効率だけを追い求める日本は世界の潮流から離れるばかりなのだ。

<OIEの勧告は当然のこと>
 近年の日本は、飼育者(農民)に家畜に対する愛情もなくただただ卵を産み、肉を生産する機械のごとく扱ってきたのである。だから国際獣疫事務局(OIE) が、もっと優しい飼い方に改善せよと勧告を発しようとしたのだ。
 OIEは飼育の仕方に加え、家畜の屠殺場やそこに輸送期間の虐待等を問題視し、動物福祉(Animal Welfare)の管理体制を確立することも求めている。2018年9月、単箱、止り木の設置を義務化する提案をしたが、日本は卵のひび割れが生じ汚れが増加する、また死亡率が増加するとして反対意見を提出した。その結果19年9月には見送られていた。
 アキタフーズの社長はOIEの勧告通りになったら日本の養鶏は潰れると恐れ、政界、官界に働きかけを行い、吉川貴盛農水相の贈収賄事件に発展した。

<2004年の本会議の趣旨説明で問題を指摘>
 私は、遅かれ早かれこのような事態が来ることをとっくの昔から想定していた。2004年鳥インフルエンザが猛威を振るっていた時に、私は新人議員として本会議の壇上に立ち、非鶏道的飼い方はいかがなものかという問題を提起している(「2004年の本会議、議員立法の篠原提案理由趣旨説明)。ところが、心外なことに、今回のこの収賄事件に絡み、有権者から農林議員の1人として私も同じようにアキタフーズから2千万円とはいかなくても、何百万かもらっているのではないかという嫌疑を有権者からかけられびっくり仰天した。

<観光の観点からケージ飼いをいち早く禁止したスイス>
 1982年、スイスはいち早くケージ飼いを禁止している。動物福祉、動物の権利という観点もあることは確かだが、鶏糞の悪臭を嫌ったこともある。スイス観光に来た人たちがあの悪臭がしてきたら興醒めする。牧歌的景観を造り出す山岳酪農に多額の補助金を出しているスイスは、ケージ飼いによる悪臭をなくすことは当たり前のことなのだ。

<世界の潮流はケージ飼い禁止>
 EUは2012年「採卵鶏を保護するための最低基準を定める指令」により、ケージ飼いを禁止し、止り木に止まる、砂浴びをする、単に卵を生むといった鳥の習性を重視する飼育方法への転換を求めた。他に給餌、給水、照明、身体切断処理等についても詳細に規則を設けている。他に、ブータン、インド、アメリカの6州も禁止している。
 養豚でも母豚が気づかずに子豚を踏み殺してしまうことを避けるため、狭いところに押し込む「妊娠ストール」が導入されているが、これでは方向転換もできないため、EU、スイス、NZ、豪、加 等が禁止している。
 こうしたことを受け、スターバックス、ネスレ、ユニリーバ等外国の食品企業や大手ホテルチェーンは平飼いの鶏肉や卵しか扱わなくなっている。アメリカは2025年までに70%をcage free(ケージ飼いをなくす)にする目標を掲げている。

<効率一辺倒の結果、卵は物価の優等生>
 ところが日本はこのような規制は一切ない。動物愛護管理法と畜産技術協会の「動物福祉の考え方に対応した飼養管理指針」があるだけである。
 前述のように日本はあくなき効率主義で、動物の福祉や動物の権利といった観点は全く取り入れられていない。こうしたことから卵は70~80年前から1個10~20円(1パック150~200円)と物価の優等生と崇め奉られている。この結果、日本は年間一人あたり338個と世界第2の卵消費国となっている。
 日本でケージ飼育が禁止されると、狭隘な土地で何千羽の鶏を放し飼いすることは不可能である。仮に平飼いをしたところで、手間がかかり卵価は大幅に上昇することになる。安さのみ追及する消費者には受け入れられない。

<フォアグラを巡る論争が動物の権利・福祉問題の象徴>
 フランスは動物愛護に熱心な国である。森をぶち抜く高速道路が野生動物に悪い影響を与えるというで、トンネルを作って往来できるようにしたり、森と畑の間に柵を設けたりして共存を図っている。だから、養鶏の規模も3000羽程度に抑えており平飼いが中心である。
 だから、アヒルやガチョウに強制給餌して肝臓を肥大化させたフォアグラは、当然批判の槍玉にあげられた。フランスはこうした動きの中で、2005年フォアグラをフランスの美食的文化の一部だとする法案を可決している。それに対し、他のヨーロッパ諸国は強制給餌を禁止する傾向にある。世界のフォアグラ生産の8割を占めるフランスからの輸入は認めるという矛盾も存在する。2019年ニューヨーク市議会は強制給餌を禁止する条例を採択している。
 こうした中、どう考えてもウィンドレスファームで太陽の光を一度も見ずに一生を終える日本の養鶏は文化遺産とは言えまい。日本はもっと本格的にこの問題を考えていく必要がある。