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2022年5月24日

コロナに弱い密の都市を結ぶリニア新幹線は中止が時代の趨勢‐過疎地を「適密適疎」にする従来型新幹線に変更すべし- 22.05.24

<自然の猛威に対して謙虚にならない日本>
 私は、2011年の3.11東日本大震災で、日本人の価値観も圧倒的自然の力の前に少しは変化し、イケイケドンドンの悪い習性は多少改まると考えていた。しかし、平気で原発を再開しようとするなど、一向に惰性が止まらない。そこに、2020年以来のコロナ禍である。東日本大震災は天変地異だったが、こちらは森の奥で密かに眠っていた恐ろしいウィルスが、動物を経由して人間に襲い掛かったのである。日本の感染者約864万7662人、死者3万353人(世界は5億2609万人、628万人)(22年5月24日NHK)の命を奪っている。

<速やかに地方に向かうアメリカ、テレワーク・オンライン止まりの日本>
 コロナ禍で密を避けなければならないことを悟ったアメリカは、世界一の交流の中心ニューヨークで感染者が激増し、外出自粛や営業規制に加えてテレワークやオンライン会議が推奨されるようになった。もともと永住意識の少ないアメリカ人は、すぐさま郊外、地方に居を移し始めた。そのため空前の新築ブームとなり木材需要が急増、その煽りで米材が日本に輸出されなくなり、日本にウッド・ショックなる現象が生じた。1973年のオイルショックや大豆ショックと同じく、必要不可欠なものを海外に頼りすぎる日本の弱さが露呈した。
 日本ではいくら東京一極集中の是正、地方創生を標榜しても、流れはそう簡単に変わらなかった。経済効果を考えたら集中のメリットは計り知れないからだ。しかし、そこには感染症の蔓延という意外な落とし穴があった。
 日本人の祖先は集中のデメリットを先刻承知していた。田畑の分散錯圃の理由に諸説があるが、私は病害虫と洪水の両方の危険を避けるため、敢えて分散した説に与している。
 現代では、そのような感染症なり病害虫害は克服したと考えられていたが、ところがどっこいそうはいかなかったのだ。新自由主義者の唱える「国境をなくせ」が世界に浸透し、新型コロナウィルスは村々どころではなくあっいという間に世界中に広まってしまった。アメリカはすぐさま方向転換し始めたが、日本の動きは従前と変わらない。

<国民は「より早く」を追い求めていない>
 2021年4月8日、JR東海が新幹線の利用者はコロナ前の2018年度比32%と発表した。年末年始の帰省客や観光客は少し戻ったとあるが、ビジネス客はそれなりに回復をしても、コロナ禍以前の状態に戻ることはもはやあるまい。JR東海は東海道新幹線に9割依存しているが、リニアが完成したら少ない客を奪い合うことになる。経済的には両方とも採算が合わなくなる可能性がある。つまりリモートがリニアを不要なものに追いやっている。
 だとすれば、東京と名古屋と大阪を時速500km/hで結ぶリニア新幹線は、不要となるのが目に見えている。リニア新幹線がコロナ前から「陸のコンコルド」と称される理由がここにある。かつて一世を風靡した「狭い日本そんなに急いでどこへ行く」の交通安全スローガンは、リニア関係者にこそ必要な警句である。グレタ・トゥーンベリが、空気を汚染し地球環境を汚す飛行機に大きな疑問を投げかけるのと同根である。国民は東海道新幹線以上の高速を求めていない。

<世界一速いという技術覇権主義は時代錯誤>
 リニア関係者は、1962年以来60年かけて開発した「超電導」技術を日本で逸早く実用化しないと、中国に技術を盗まれる、と最近の「経済安全保障」を持ち出している(文芸春秋2022年3月号)。リニアはコストが高いことから、日本の東海道、アメリカの北東回廊(ワシントンDCとNY間)、中国の北京―上海間の超過密都市間ぐらいしか適区間はなく、汎用性のない孤独な技術なのだ。それを技術者が、自分達の技術に酔い暴走せんとしている。
 例えは悪いが、大半の利用者が必要としないスマートフォンの諸々の不必要な機能と同じで、鉄道は人や物を安全に運ぶだけで十分であり過剰なことは不要である。より速くというのは地球環境のことを考え、もっと穏やかに生きようとするSDGsの時代に完全に遅れた時代錯誤の考え方である。

<鳴り物入りで民営化をしておいて、ちゃっかり3兆円を官に援助させる矛盾>
 政府が2035年完成を8年前倒しして27年完成を迫り、3兆円の財政投融資金を行うことになった。他の融資と比べて格段に有利な条件(無担保金利平均0.8%、30年原本返済猶予)で、実質的に補助に等しい国の税金を、採算の合わない無駄な事業に投入している。30年後に返還が始まる頃には、推進した関係者はこの世におらず、利用者がガタ減りで、お荷物になっているかもしれないのだ。
 安倍元首相のタカ派の盟友とやらの葛西敬之JR東海名誉会長は国鉄民営化三人組という。民営化しておいて、政府から金をもらうとは矛盾も甚だしい。加計学園に露骨にみられた友達優遇(ネポティズム)だが、規模が破天荒で不公正も夥しい。民営化により赤字国鉄を救ったと威張る葛西は、リニアの大赤字で、再び国にそのツケを回すことになるかもしれないのは皮肉以外何ものでもない。

<地域住民の声を無視した大プロジェクトは地域間格差を生むだけ>
 信濃毎日新聞は、22年11月から、「土の声を、国策民営リニアの現場から」の連載を始め、周辺住民の現場の生の声を伝えている。過疎地である地元へのきちんとした説明もなく強引に工事を進める様が浮かび上がってくる。経済効果は東京・名古屋間で10.7兆円、大阪延長で16.8兆円といっても、発掘の音と凄まじい数のダンプカーに悩まされ、立ち退きさせられる山の民にはうつろに響くだけである。成田空港や原発の建設と同じく、国のため住民は泣き寝入りさせられている。そして補償は雀の涙でしかない。

<密と密(大都市間)を結ぶ新幹線は時代遅れ>
 世界は気候変動防止が最重要課題の一つとなり、速さにこだわり、地球を傷めつけていられなくなっている。そこにコロナであり、都会の密を避け、過疎地に人を呼ぶため「密」と「疎」を結ぶ必要があっても、密と密を結ぶ必要はなくなっている。車両を強力な超電導電磁石で浮上させるリニア新幹線は従来の新幹線の4~5倍の電力を擁する。そのために原発の新設・稼働が欠かせなくなる。COPでいつも化石賞をもらう日本が、リニア新幹線などを理由に石炭火力の継続が必要だというのは本末転倒である。

<問題山積みのリニア新幹線>
 他にも、川勝平太静岡県知事が62万人の下流住民への影響を心配している。大井川の水量減、残土処理、25kmに及ぶトンネルの難工事、南アルプスの自然環境破壊、電力多消費電、ヘリウム供給、地震、電磁波、過疎地のおいてけぼり等問題が山積みだが、これらは別稿で触れることとして省略する。これだけ大きな問題をほとんど未解決で突き進めることが信じがたい。
 リニアは2007年12月、JR東海が政府の干渉も援助も受けない自己負担による建設方針を発表して始まったプロジェクトである。葛西は文芸春秋で人口の60%、GDPの60%を占める東京大阪間の重視を強調しているが、その後2011年には東日本大震災、そして2020年にコロナと経験しており、日本も変わらざるをえなくなっている。ここらが幕引きする潮時である。
 政府は地方に目をやり、地域間格差をなくすことにこそ力を注ぐべきなのだ。ポストコロナの転換の象徴として、リニア新幹線は中止すべきである。世界は経済問題と同等に環境問題を重要視し始めている。いや今や環境のほうを優先している国がほとんどになりつつある。日本だけがこの流れに逆行することは許されまい。

<密と疎を結び過疎地を「適密適疎」の地域にする新幹線を優先する>
 中止した場合のたった一つの心配は、東京から直行バスでも4時間、JRの乗り継ぎはもっとかかる伊那谷の人々の東京や名古屋へのアクセスの問題である。ただこれには簡単な答えがある。Bルートの松本諏訪間で、長野の美しい山々を見ながら走る従来型新幹線で十分ではないか。つまり品川-名古屋を67分間で結ぶよりも、地方の大都市へのアクセスを優先し、トンネルも地表の山腹程度にとどめることだ。トンネルの生み出す残土も格段に減る。二地域間居住を推進し、過疎地の関係人口を増やし、適度な密と適度な疎を併せ持つ地域を創造するバネにする在来型の新幹線こそ優先されるべきである。

2022年5月17日

【ウクライナシリーズ①】ウクライナ侵攻で混乱する世界の食料情勢- ロシアは「土」を大事にし、食料確保を狙う堅実な国 -22.5.17

 私がウクライナに3度も行っていることは先のブログ(冬のウクライナを凍てつかせるロシアの侵攻は許されない) 等で度々触れた。2回目(2005年)、3回目(2011年)は国会議員になってからなので、ブログで報告しているが、1回目(1984年)は、拙書「原発廃止で世代責任を果たす」(創森社)で僅かに紹介しただけなので、そこから始めることにする。

<瓢箪(ひょうたん)から駒のソ連出張>
 私は1984年頃、持続的生産を重視する日本型農業こそ、世界中が見本とすべき普遍的な農業生産システムと主張していたし、日本人移民がそれを実証している中南米か、今後の日本の農業技術を伝播したら役立つアフリカを出張先にしようと思い立った。そして国際協力課に赴き、技術援助の担当にくっついて行きたい、とお願いした。すると担当が、それならソ連との農業技術協力があり、今回は土壌関係の研究者が行く番だから、それにくっついて行ったらいい、とアドバイスしてくれた。鉄のカーテン時代であり、行政官の交流などなく、相互に同じ条件で往来が行われていた。
 私は早速農産課土壌班長の三輪叡太郎(後に農林水産技術会議事務局長で私がNo.2として仕えることになった)に直談判したところ、「篠原さんは土壌にも関心があるから」と、二つ返事でOKしてくれた。アメリカの自然収奪的農業の土壌流亡の問題を指摘した「アメリカ農業の知られざる弱さ」という小論を読んでいてくれたからだ。こうして、筑波の研究所の土壌博士に紛れ込んで行くことになった。

<基礎研究を重視するソ連は、二つの土壌博物館を持つ>
 その時に知ったことだが、ソ連が土壌の研究では世界一だという。その証拠に、モスクワにウィリアムス土壌博物館、レニングラード(現サンクトペテルブルグ)に近代土壌学のドクチャーエフからとった土壌学博物館と2つの大きな土壌博物館があり、陽捷行団長(後に農業環境研究所長)以下4人の一行は当然そこに案内された。驚いたことにドクチャエフ博物館には、日本とベトナムの大きな土壌地図(どういう土壌かを色分けしたもの)があった。日本は1940年代ソ連が占領するかもしれなかったので作り、ベトナムは社会主義国の一員だったことから作ったのだという。それが、そのまま40年後も展示されていたのだ。何と恐ろしい国かとゾッとした。領土拡大に余念がない大国であることがこんな所にも表れていた。

<ヒトラーも食指を動かした肥沃な大地・チェルノーゼム>
 キエフ(キーウ)には、土壌博物館はなかったが、大学の土壌研究室は、立派な陣容が揃っていた。研究者は欧州のパン篭(bread basket)と言われるウクライナの農業を支えているのは我々だ、という自信に満ち溢れていた。
しかし、その肥沃な大地なるが故に、歴史上の周辺の大国の領土的野心の対象とされてきた。最近でもヒトラーが食料の確保を目的にウクライナを侵攻した。
 今、プーチン・ロシアのウクライナ侵攻は世上で言われているように、ロシアが一方的に悪いのではなく、NATOの東方拡大が引金を引いたとも言われている。もし、ロシアに隠された領土的野心があるとしたら、ヒトラーと同じ魂胆があるのかもしれない。

<ピント外れで極端な反応が目立つ平和国家日本>
 今日本は、ロシアのウクライナ侵攻で、タカ派が大手を振って歩き始めている。憲法9条改正、敵基地反撃力や、核共有、防衛費GDP2%等威勢のいい話ばかりである。どうも地に足がついていない。私は、よく言われる『平和ボケ』した日本人がウクライナ危機を契機に安全保障なり防衛に関心を持つのは好ましいことだと思っているが、どうも方向が極端なものばかりである。

<食料自給率の低下こそ重大問題>
 現実はもっと違ったところで国家の存立や国民の命を危うくする事態が進んでいる。ウクライナの穀物輸出の停滞による、小麦や油の価格高騰であり、中近東やアフリカ等での食料不足である。戦地ウクライナでも食料不足となり、略奪も横行し始めている。
 ロシアの正面切っての隣国侵略も予想されていなかったし、大半の人たちは、21世紀の今、大きな食料不足に陥るとは予想していなかったに違いない。しかし、戦争になるといつも庶民が苦しみ、真っ先に食料難になるのは今も昔も同じである。
 先日の報告で、ゴア副大統領は安全保障の専門家であると同時に環境の専門家だと紹介した。環境劣化が人間の命ばかりか地球の生命も危機に陥れる危険を承知しているからである。私が警鐘を鳴らしたいのは、まさにこの事である。
 我が国は、戦後高度経済成長の下、食料や農業などはほったらかして、経済大国にのし上がってきた。コメを除き、安い食料などを外国から輸入すればよいという安直な方針を完璧なまでに貫いてきた。その結果、カロリーベースの食料自給率は37%(2020年)に下がり、主要品目の自給率は、小麦15%、大豆21%、油脂類2.4%(ナタネ0.1%)と惨憺たる状況ある。

<ウクライナ危機に強まる食料の奪い合い>
 昨今の食料価格の上昇は、北米の干ばつによる不作と石油価格の高騰によるもので、ウクライナ危機以前から始まっている。小麦の貿易量は約6000万トン、ロシアとウクライナでその3割を占め、黒海を経由して中近東、アフリカ諸国に輸出されている。それがままならなくなり、今後更なる世界の食料事情の悪化が見込まれている。日本ではそこに円安が加わり、輸入価格は更に高くなる。
 こうした値上がりが、国民生活にじわりじわりと悪影響を与えつつある。

<世界はG7の外相会合でロシアの『穀物封鎖』を問題視>
 日本は、まだ輸入する経済的余力があるからいいが、アフリカ等の発展途上国は、食料不足が顕在化してきている。
世界有数の穀物輸出国ウクライナの南部の輸出港オデッサは露軍の攻撃に晒され、輸出が停滞している。FAOやWFPによると、2,500万トンが輸出できなくなっていることの一大要因である。
 折しも5月13日、ドイツで開幕したG7外相会合では、議長のベーアボック独外相は、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で世界的な食料危機が迫りつつあるとして、会合で危機回避に向けた方策を話し合うとの考えを示している。同外相は、プーチンの狙いは、この食料危機を利用して世界を分断させることだとまで述べている。それに対して我が日本は、前述のとおり政治の世界ではやたらとタカ派が舞い上がり、国民はガソリンや食料品の値上がりといった身近な問題だけに汲々としている。世界の食料が危機的状況になりつつあることに関心が向いていない。

<日本は食料安保に能天気>
 ここで気づいてほしいことがある。農業問題・食料問題こそ、防衛問題であり安全保障問題なのだ。それを日本の高度技術が中国等に流出するのを防がないとならないと経済安全保障法を作り悦に入っている。ピントがずれているとしか言いようがない。
 かつて日本には食料・農業問題が安全保障問題だとわかった政治家が多くいた。中川一郎(農水相)、渡辺美智雄(農水相)、玉沢徳一郎(農水相、防衛庁長官)、江藤隆美、浜田幸一等皆農林族兼防衛族であった。石原慎太郎も入っていたタカ派の青嵐会は大半が農林族でもあった。
今やその系統は、自民党では農林相と防衛相を歴任している石破茂にその片鱗を見るだけで、野党では不肖ながら私ぐらいである。
 日本人はなかなか先を読むのが苦手である。しかし、一度気が付くと大転換できる底力も備えている。そういう意味では、今回食料問題で日本人が少し痛い目に遭い、それを転機に食料安全保障もきちんと政治の中心に置いてほしいと私は願っている。