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『農的循環社会への道』(創森社、2000年8月)

(1) 「建築ジャーナル」(2000年12月 )

日本には本当の革命が必要だ     書評

著者は農林水産省のお役人であり、現在は農業総合研究所長の職にある人だが、めちゃくちゃラジカルな発言である。といっても政治的左翼の言辞ではなく、日本の農業・漁業を含めた生産のあり方について、極めて普通のこと、本当のこと、根本的なことを言っているだけである。しかし、狂った日本の現代状況のなかでは著者の発言はめちゃくちゃラジカルなものとなるのである。

……「持続的開発」、「環境にやさしい生き方」は今日ではだれでも知っている言葉であり、フレーズである。しかし、圧倒的多数の国民が、政治に経済立て直しだけを求めて、政治と企業がすすめてきた破壊型開発と環境破壊の工業振興の持続を支持している。

「よけいなものをつくらず、かつ使わないこと」、「物の移動はできるだけ少なくすること」。この2つを守ることが「環境にやさしい生き方」であり、「持続的開発」であると著者は説く。農水省のお役人でありながらアメリカの圧力に屈してアメリカ米を輸入し、日本の農地を荒れ地と化した政府自民党の農政を批判する。「地産地消」という表現をしているが、これは土地で生産されたものを食べ、使うという意味と、食糧の自給自足の農政をはかれということである。

…….著者は「米づくり」から農山漁村のまちづくりまで語り、論旨は明快でわかりやすい。第5章「農的循環社会への道」は、今日の文明社会の変革のバイブルでもある。実にすばらしい考え方をしている。

著者はお役人の立場から詳しくは触れてないが、「農的循環社会への道」は、中央集権主義国家をどう崩壊させ、地方自治・市民自治をどう築くかにかかっている。そのためには「経済」と金儲け主義の日本人が、いかに高い市民意識を獲得するかにかかっている。


(2) 「日本の原風景・棚田」(2001年 第2号)

文献紹介  (野村一正)

…..本書の著者、篠原孝氏は、すでに1985年にその著『農的小日本主義の勧め』(柏書房)で、戦後日本が歩んできた経済成長の「常識」に真っ向から疑問を呈し、」反論し、新たな社会のあり方の提言までしている。だが著者はその結果、日本経済紙上で「錯乱ないし自閉症対応」と酷評され、「俄かには支持されない」と断じられてしまった。官僚である著者にとって、こうした批判はかなりのプレッシャーであったはずだ。

だが、著者は逆境にめげずしぶとく、その後も農政に取り組むかたわら、1995年には『農的小日本主義の勧め』の復刊(創森社)を果たし、『第1次産業の復活』(ダイアモンド社)を出版、より具体的な問題提議と提言を続けた。著者がこうした逆境をものともしなかったのは、やはり農(林漁)業に対する深い思い入れがあったからに違いない。

……『農的循環社会への道』は、『浪費なき成長』の著者、内橋克人氏の主張と相通ずる面があり、農(林漁)業を基盤に据えて、さらに具体的にこれまでの日本の「常識」を覆し、新たな経済、社会のあり方を示している。貿易立国として常識的とされた世界中からの原料輸入と、世界中への製品輸出の結果がどういう状況を生んでいるか。「日本は年間8億トンもの量のものを輸入し、輸出する物の量は7,000トンに過ぎない」、これに対し米国は「輸出入とも3億トンで、しかも隣国カナダが最大の貿易相手国」。日本は石油を使って大量のものを遠距離に動かし、しかも輸出入の差は産業廃棄物として大量に国内に残される構造だ。貿易立国は善、経済成長は国民の幸せにつながるという、「常識」を覆す指摘だ。

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