今回の衆議院議員選挙に当たり、民主党は「政権交代」を全面に押し出し、「２大政党制による政権交代」をスローガンに掲げた。都市部では功を奏したようで、民主党は４０議席増の１７７議席と野党としては戦後最多の議席を占めることになった。私も皆様方のご支援により、その一端を担わせていただいている。 　いわゆる５５年体制すなわち自民党＝与党、社会党＝野党という形が崩れ、はじめて非自民政権ができたのは１０年前の細川政権の時だった。国民は長らく続いた自民党政権に飽きたのか日本新党ブームとなり、いつの間にか政権交代が行われていた。当然自民党も割れることになった。ところが８会派の寄せ集まり世帯ということもあり、消費税の福祉目的税化問題や佐川急便問題で僅か９カ月の短命に終わり、引き続いた羽田政権も２カ月で終わった。 　以後、政治の世界でも「失われた１０年」が続いた。いや順序が逆で、政治が混迷しバブル崩壊後何の手立ても講じなかったために経済でも「失われた１０年」が起こってしまったのかもしれない。

　しかし、ますますひどくなる経済状況と異なり、政治の世界では着々と新しいことが胎動し始めていた。それが、２大政党制であり、政権の受け皿となる野党の成長である。

　その後、与党の旨味を知り尽くし、与党でなければ存在できない自民党は、社会党を抱き込み、村山政権すなわち「自社さ」政権を誕生させた。政治改革も行われ、小選挙区比例代表制が導入され、政党界の根底も大きく動き始めていた。こうして、野党も分裂し始め、いつの間にか再び自民党が与党であり続けるという元の体制に戻ってしまった。２大政党制を目指したはずの自由党は、自自公とやらで自民党と手を組むということまでやり始めていた。政界では見苦しいというしかない離合集散が行われ数多くの政治家もぶれまくった。

　こうした中で、２大政党による政権交代という理想を追い続け、「ぶれ」なかった政治家は数少ない。私が見るに１０年以上の政治歴のある者の中に１０人といない。政治家は何よりも信条なり理念が大切である。これを変えたら私は政治家とはいえないと考えている。

　今は民主党の誰もが何の疑問もなく２大政党制、そして政権交代を口にする。しかし、つい最近まで２大政党制などせせら笑っていた人たちがほとんどなのだ。そうした中でずっと１つの理念を貫徹し続けた数少ない政治家が羽田孜、堀込征雄、北沢俊美といった長野の政治家なのだ。つまり、今日の２大政党制による政権交代という動きは、他ならぬ長野の筋を通す政治家が地道に追い求めてきたことなのである。

　５０日間という慌しい選挙期間に、私は時々このことについて触れたが、ややっこしい話であり、どれだけの有権者に通じたか確信はもてないでいる。

　私はこのことを菅直人代表が私の応援に駆けつけてくれた１１月４日夕方の長野駅前の街宣の時に言おうとしたが、時間調整ミスにより叶わなかった。

　しかし、さすが菅代表はわかっていた。「篠原を民主党が政権をとったあかつきには農林水産大臣にする。それには皆さんが篠原を当選させることだ」といった絶叫調の応援演説の合い間に、恥ずかしそうに小さな声で「ここにおられる北沢俊美先生たちが追い求めてこられた２大政党制による政権交代が目の前になった」と触れていた。実は菅代表も自社さ政権で厚生大臣として閣僚入りしており、手が多少汚れていたからである。

　私はこの話をする時にもう一つ羽田孜の一途さの象徴を例に出す。１０年以上続く「省エネ半袖スーツ」である。似合わないとか、いつまでやっているのかと陰口を叩かれながらもずっと続けている。息子の羽田雄一郎参議院議員まで同調し、口きかない政界では、太り方や似合わない所までそっくりだなあなどと悪い冗談を言っている。しかし、今や霞ケ関では７・８月はノーネクタイで過ごすように命じられるようになった。この方面でも羽田孜の目指す方向に動いている。大したことはないといえばないかもしれないが、一事が万事なのである。

　私は食べ物の世界で地産地消、旬産旬消を主張してきた。おわかりと思うが、衣服の世界も同じなのだ。このむし暑い日本でネクタイを締め、革靴を履き、汗もや水虫で悩む必要はないのた。

　私の政治の世界への転身は、３人の先輩政治家の強い勧めによるものである。私が応じたのは、まさに信条・理念を曲げない尊敬すべき政治家たちの勧めだったからである。政治家として第一歩を歩み始めた今、やはり筋を通す政治信条・理念を持ち続けたいと思っている。