国会議員の配偶者・親族の公設秘書採用禁止問題について

この問題については、信濃毎日新聞(3月31日付第2面)に私が誤解を受けるような記事が私のコメントとして掲載されましたので、私の考え、民主党内の議論、私の対応等を詳しくご報告したいと思います。

<公設秘書は3人>

国会議員には、公費によって給与が支払われる公設秘書が3人(政策担当秘書、第1秘書、第2秘書)認められています。このうち政策担当秘書(政策秘書)については、資格試験合格者登録簿又は審査認定者登録簿に登録された者のうちから採用しなければならないとされています。

私の政策担当秘書は妻(配偶者)で、国家公務員採用T種(当時は上級職)試験に合格者し農林水産省に勤務していたので、政策担当秘書に審査認定(2月1日付)され、国会の議員会館の事務所で勤務しています。

国会事務所には、もう1人公設第2秘書がいますが、通常の国会議員の業務に加え、民主党の農林漁業再生プラン作成という大きな仕事をかかえていることもあり、新人議員としては最も多忙な事務所のうちの1つだと思います。

<妻の給与で生計、私の歳費をすべて政治活動に回す>

政治活動にはどれくらいのお金がかかるかわかりませんので、我が家の家計は妻の給与で賄うことにし(といっても3人の子どもの教育費がピークを迎えており、貯金を取り崩さなければなりません)、私の歳費はすべて政治活動につぎ込み、歳費と政党助成金だけで、やってみることにしました。5ヶ月経ちましたが、歳費を長野事務所の活動費に充当しやりくりしています。私の選挙をとりしきってくれた高校の同級生の大久保からは、それもなるべく節約して次の選挙資金もきちんと貯めるように厳命されています。

妻は子育てのため4年弱で役所は辞めましたが、退職後は、私の執筆・講演活動での原稿・資料作成を手伝ってくれていました。私が、農林水産省に勤務しつつも、多くの論文を書き、講演をこなしてこれたのは、妻の手助けがあればこそと言えます。20年にわたり、私の原稿や講演資料のほとんどを清書してきたので、私の考えていることを最もよく理解しています。私が考える速さで書く(と言い訳している)超悪筆原稿を解読する能力は世界一です。また、元同僚だけに仕事の内容や進め方はわかっているし、農林水産省在職中やOECD代表部時代のつきあいで官庁関係に知人も多く、人脈もものをいう秘書という特殊な仕事に非常に役立っています。

余談になりますが、海外の友人への年末の挨拶状に「妻は最高の秘書だ」と書いたら、OECD代表部時代のフランス人の秘書が「自分は?」と冗談でききかえしてきました。

<佐藤観樹議員辞職と民主党の自主的対応>

そこに降って湧いたのが、配偶者・親族秘書禁止問題です。

佐藤観樹前衆院議員の公設秘書給与詐取疑惑による議員辞職を受け、民主党は3月5日の代議士会で突然、「今国会明けに民主党の申し合わせにより国会議員の配偶者や同居の親族が公設秘書に就くことを禁止」という方針を打ち出しました。民主党の襟を正す姿勢をいち早く国民に示したいという岡田幹事長の真情がひしひしと伝わってきました。しかし、反論が相次ぎ代議士会は紛糾し、10日に両院議員懇談会を開き議論をすることとなりました。

私がこの件を妻に伝えると、「私はこんなにきちんと仕事をしているのに、どうして悪いことをしているみたいに言われなくてはならないのか」と怒りました。代議士会の最中に記者から取材を受けたこともあり、不愉快そのものでした。私は、妻から民主党の秘書問題への適切な対応について、きちんと発言するように強く求められました。

<大議論の両院議員懇談会>

私は、妻が作った親族秘書の資料(別添)をもとに、10日の両院議員懇談会で発言すべく準備を始めました。同時に親族秘書を持つ同僚議員にも声をかけていきました。前日の夜の会合(「50代の民主党議員の会」)で、該当する議員に示そうと用意していた資料は、他の議員も強い関心があるようで、ひっぱりだこになりました。

両院議員懇談会当日は私が今最も時間を割いている農林漁業再生プランの打ち合わせ会議と重なっていたため、終了後急いで党本部の会場にかけつけました。ちょうど懇談会が始まる直前で、空いていた一番前の席についた私は、真っ先に発言しました。

まず、実態編で当事者として配偶者秘書の勤務実態といかに貢献しているかをユーモアを交えて話しました。

  1. ツーと言えばカー・・・(前述の)原稿解読のように以心伝心で、非常に便利です。
  2. ツーと言えばノー・・・妻は、私を上司と思わず容赦なく批判します。妻でなければとっくにクビにしています。しかし、裏を返せば、厳しいチェック機能も果たしています。例えば、今回、岡田幹事長の苦渋に満ちた顔をみて(もっとも幹事長はいつも苦渋に満ちた感じがしますが・・・(大爆笑))、従おうとしましたが、妻のチェックが働きこうしてそのシナリオに沿って発言させられています。
  3. 農水省の元同僚の好対応・・・妻の同期は今ちょうど本省の課長・室長で、幹部クラスも在職中の妻を知っています。菅代表の命を受け農林漁業再生プランの作業で大忙しですが、私が農林水産省に電話するとまた面倒なことを言われると渋るのが、妻に頼んでおくと鼻の下の長い男どもの対応が非常によく、わざわざ来なくてもいいのに資料を持って説明に来てくれたりします。

その後、理論編で党の対応の矛盾をつき、給与を秘書に直接払うことや、名義貸しをしないよう実態調査を実施すること等の対応策を主張しました。その内容は以下のとおりです。

今回の佐藤観樹議員を始め、山本譲司議員等の一連の秘書給与問題は、

  1. 公設秘書に勤務実態がないこと
  2. 秘書給与が秘書本人に支払われていないこと

が問題となっているのであり、配偶者・親族秘書が問題となっているのではない。国会議員の配偶者や同居の親族が公設秘書に就くことを禁止するという対応案は、問題となっている公設秘書の勤務実態や給与の支払いについては、何ら手を打たないまま、全く関係のない配偶者・親族秘書に問題をすり替えているものであり、民主党内の関係者への理解を得られないばかりか、国民にとっても不透明な対応としか映らない。

従って、まずは、国民の前に民主党所属議員の秘書給与の実態を明らかにし、質すべきを質し、その上で迅速な改善措置を講ずるべきである。

具体的には、

  1. 全議員の公設秘書に対し、勤務実態、給与の受取方法、寄附の有無等を調査・確認する。
  2. その結果を踏まえ直ちに改善する等の措置を講ずる。
  3. この調査は、半年〜1年に一度行い、調査結果は、国民のチェックを受けられるようHP等で公表する。

<流れを決めた私の発言>

他の議員からもいろいろな意見が相次ぎました。(そもそも非公開の会合であり、他の議員の詳細な発言内容の紹介は差し控えなければなりませんが・・・) すると、某3回生議員が、「2回生までは、公設秘書3人とも配偶者・親族だったが、今は改めている。今の民主党の状況を考えたら、やはり党の提案どおりにすべきだ」としたり顔に発言しました。

私は、そこで最後にまた発言しました。

民主党が他党に先がけて、前向きな姿勢を際立たせる必要があるというのなら、『国会議員秘書に関する調査会』の答申どおり、配偶者・3親等内の親族すべてを禁止すべきだ。ただし、親族秘書のうち1・2回生が59%、3回生までで82%を占めている実態を考慮し、1回生で3年に限り猶予を与えるべきだ。1、2回生はどういう秘書がいるかもわからず、とりあえず親族を秘書にしているのが実態なのだから、その点は民主党も「情」を示してほしい。

私の発言が流れを変え、前半の正論は受け入れられましたが、1回生等への猶予は無視されてしまいました。

<1回生の立場を守るための根回し>

この日の夜は、偶然、岡田幹事長と北陸信越ブロックの新人議員の懇談会がセットされていました。そこで、私は、準備していた資料をもとに、岡田幹事長に「1・2回生の若手議員の多くは適当な公設秘書を探せないことや、政治資金を収集するノウハウを知らないため、親族を採用している場合が多いが、期を重ねるごとに新たに公設秘書を親族以外から採用するようになる」という実状を提示し、「1・2回生議員へは経過措置を設けるべきだ」と提案しました。1回生議員のやむをえない事情に配慮してもらいたかったからです。

さらに翌日からは、親しい(といってもちょっと口をきいたことがあるという程度の)常任幹事会のメンバーにも同じ資料で同様の説明をして根回しました。

<2世議員にこだわる自民党>

その間、16日の衆議院議会制度協議会では、「配偶者と直系尊属(実の父母、祖父母ら)の採用禁止」を法改正で行うという武部勤(衆議院議院運営委員長)座長試案が出されました。19日には、自民、民主両党の幹事長・国対委員長会談で、法律で採用を禁止する親族の範囲は配偶者にとどめ、それ以外の親族の採用禁止の扱いは各党の内規で対応することで合意しました。親族の採用禁止の範囲については、民主党が「配偶者と3親等以内」を提案したのに対し、自民党は「配偶者と直系尊属(両親、祖父母、養父母、養祖父母)」を主張しました。そもそも野党民主党議員のほうが、政治資金が集まりにくいこともあり、秘書を親族とし、家族総出で政治活動をしているケースが多いようです。民主党はホームページで親族秘書を情報公開しています。それをもとに作成したのが別添の資料です(民主党のホームページは、2004年1月1日のものなので、2月に発行された国会便覧で修正しています。)。

一方、自民党は2世を後継者として育成するため、子を秘書にしているケースが多く、直系卑属(子、孫)を禁止することは絶対認めようとません。

<民主党の改革姿勢>

ところで、民主党は19日の臨時役員会で、所属議員の公設秘書の勤務実態を調査することを決めました。親族秘書問題ばかりがとりあげられていますが、本質的な対策にも取りかかることになりました。

<根回し功を奏す>

23日に再度開かれた両院議員懇談会では、まず、配偶者の新規採用の禁止等を内容とする法案について了解しました。 ついで、民主党の申し合わせについては、党独自で3親等以内の親族採用を禁止することに決まりました。ただし、これも法案と同じく、適用は、新規採用からとなり、私の根回し事項(1回生への猶予)は、違った形で認められ、通常国会明けの7月1日からの禁止は回避できました。つまり、現在の親族の公設秘書は議員の今任期中に限り認められることになります。某常任幹事会メンバーは、すぐに私に近づいてきて、「篠原さんの思い通りになってよかったね。」と握手を求めてきました。

更に、法制局で「資格も何もなくしてなれる公設第1、第2秘書と違い、資格を持った政策担当秘書が親族の秘書になれないのは憲法違反」という議論がなされていると聞き、多少ほっとしております。

<一躍有名になった配偶者政策秘書>

私が両院議員懇談会で一席ぶって以来、配偶者政策秘書はすっかり有名になりました。誰もが認める勤務実態があるので、取材もまた受けました。「篠原さんのところでダメになったら私の所にぜひ来ていただきたい。」と真顔で言ってくる同僚議員も出てくる始末です。農林漁業再生プランを議論する会合(夜中まで開かれることもあります)でも資料を作っている関係で、妻も参加してメンバー議員と一緒に議論をしています。

また、鳩山由紀夫前代表の経営する新橋の居酒屋で1回生議員の会(一念会)の懇親会が開催された折、妻を同行したところ、「話題の配偶者政策秘書にぜひお会いしたかった」と皆さんに喜ばれました。

こんな調子で、議員の皆さんにも相当認知されつつあります。

<信濃毎日新聞(3月31日付)の心ない記事>

取材は、信濃毎日新聞からもありました。私の地元紙なので、大サービスし、この問題についての考え方や他社には全く渡していない途中の根回し資料等も特別にあげて協力しました。しかし、私のコメントとしては、「配偶者や親族を公設秘書にしている議員の多くは当選1‐3期。秘書適任者を探していたり資金がないなどやむを得ない理由がある」とあるだけで、妻が政策秘書であり、議員会館で毎日勤務していることや私が党の会合等で発言したこと等には全く触れられていませんでした。一方、私のように当事者として動き回っていない他の議員のコメントは、それぞれ正論といえるものであり、私ばかりが開き直っているようなコメントの記事でがっくりしてしまいました。ちなみに、私が記者なら、私のコメントは「公設秘書の勤務実態等を調査し、ホームページ等で公表するとともに改善措置を講ずべきだ」とまとめます。

そこで、ホームページでこの問題について詳細に明らかにすることとした次第です。

ただ、新聞報道や週刊誌の記事は一度出たらおしまいで、誤解を受けたままになってしまうのが残念でくやしい限りです。

<秘書制度改革私案の検討>

秘書は議員活動で重要な位置を占めていますが、現在の秘書制度は、多くの問題をかかえており、長期的な視点で抜本的に秘書制度の改革を行うことが必要だと思われます。私は、この改革にも積極的に取り組んでいくつもりで、今、抜本的改革私案をとりまとめつつあります。

なお、現在、私の3人の公設秘書は、国会の議員会館の事務所で、政策担当秘書の妻嘉美と第2秘書の芳野正英(29歳、横浜国立大学経済学部及び京都大学法学部卒、元民主党京都府連職員)の2人が、また、長野事務所で、第1秘書の有元達知(前長野県農業総合試験場長)が勤務しています。長野事務所には、この他に2人の私設秘書がいます。

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