(論評)BSEでのアメリカへの屈辱的妥協

この秋の臨時国会は、マスコミが総じて「何のための国会」だったかと酷評している。当事者の一人としても的を得ている指摘である。

通常、政府が通常国会で積み残した重要法案を通す為に開会するが、今回それはなく、日歯連の1億円献金問題つまり「政治とカネ」イラク自衛隊派遣延長問題等政府追及のネタがあったが、前者は政倫審ですり抜けられ、後者はろくに審議もせずになし崩し的に派遣延長を決められてしまった。

民主党の一員として、腑甲斐無さに深く反省している。「政治とカネ」は言わずもがなであるが、私が最も苛立ったのは、10月19日に予算委員会で小泉総理に直接ぶつけたBSEでのアメリカへのとんでもない妥協である。

11月2日のアメリカ大統領選を助けるため、ブッシュが小泉からアメリカ産牛肉の輸入再開を勝ち取ったという茶番劇を演じたのである。小泉・武部両者のブッシュの当選願う発言について、前原議員が「失言カルテット」と批判したが、それよりももっとひどいのが、10月23日のアメリカ側の交渉結果の発表である。なんと「数週間以内に輸入再開」と宣伝しているのだ。

なぜかというと、全米最大の肉牛生産者団体『NCBA』が8月下旬、大統領選でブッシュを支持すると表明しており、ブッシュは是が非でもそれに応じなければならなかったからだ。通常NCBAは旗幟を鮮明にしないのに異例の支持表明だった。

牛肉業界は、日本でいえば米業界にあたる最大の団体であり、日本の牛肉輸入再開発表は大統領選に大きな影響を与えた。ケリーが勝ったのは、東部と西部と五大湖周辺のみで、真ん中の農村州はすべてブッシュの勝利だった。

アメリカは日本にBSEが発生するとすぐさま日本からの高級牛肉の輸入を禁止したばかりでなく、これみよがしにアメリカ産牛肉の安全広告を一面全体を使って出している。

しかし、今回は素牛がカナダから輸入されたもので、本来アメリカは清浄国だと言い張っていたのだ。そればかりか、カナダからの牛肉輸入は禁止したので、国内の牛肉価格は値上がりし、牛肉は業界は大喜びである。 日本の食の安全を犠牲にし、日本の制度を歪めてまで、ブッシュに取り入ろうとする屈辱的外交は、前代未聞のことである。

「自衛隊の行っている所が非戦闘地域だ」と平然と答える小泉総理、自国の牛肉は安全だと言い張る大国アメリカは、ルールや法律を無視し、「赤信号でも自分が渡れば青信号だ」といっているに等しい。独善そのものである。

例えば、今問題のイラクへの自衛隊の派遣と比べてみるとよくわかる。日本ばかりでなく、韓国、オランダ、フィリピン、イタリア、ハンガリー、ポルトガル・・・と数多くの国が、国際貢献の名の下、アメリカに気兼ねして派遣している。従って、日本の行動もやむをえない面がある。それに対し、BSE発生国のアメリカから、牛肉の輸入を再開している国など一つもない。国際ルール上は、日本は輸入禁止していても何ら問題ないのだ。

ブレア英首相は欧米のマスコミで、ブッシュのプードルと呼ばれている。小泉首相も同じく、ブッシュのポチと揶揄されているが、仕方のないことである。

私は、大統領選を助ける替わりに自衛隊の撤退には目をつぶっていてくれといった高度な外交的取引が行われているのかとも疑った。それほどにBSEの妥協は全く意味がない妥協なのだ。

ところが、私の疑い(ないし期待)も何のその、国民や国会への説明もろくにせずに、いともあっさりと自衛隊の1年の派遣延長が決められてしまった。

北朝鮮問題やイラク問題の陰に隠れて目立たないが、実は小泉政権はとんでもない屈辱外交を展開し、日本の食の安全を踏みにじっているのだ。私はこの外交一つとっても小泉政権は万死に値する愚策を弄しており、もう政権にとどまるべきでないと強く感じざるをえない。

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