草原の国キルギスの難題

2005.11.10

<3名の国会議員が射殺される物騒な国>

30何番目かの訪問国に来ています。

面積は日本の半分、人口は20分の1の500万人強、更に中国と国境を接し、南にトルキスタンを挟んで、アフガニスタン、パキスタンがあります。そのため、アメリカ軍が1000人近く駐留し、ロシアも歴史的経緯から空軍(500人)が駐留しています。

ソ連邦から独立し、いち早くWTOに加盟し、大国の狭間で苦難の外交を強いられています。地政学的にスイスと似ていますが、国力、歴史が全く異なり、大変なスピードで社会が動いていることがわかります。何とも混沌とした国です。例えば、03年3月10年以上続いたアカーエフ大統領体制が崩壊し、野党のバキーエフ体制に変わりました。我々一行が訪問する直前、刑務所暴動がおき、それを視察に行った国会議員が射殺されるという信じ難い事件が起きています。既に75名のうち3名が殺されています。日本だと730名のうち30名が殺されるというひどさです。

<汚職と貧困が二大課題>

この問題を首脳レベルでの会談で持ち出すと、「政治問題ではなく、前の職業に由来する問題」と慎重な答弁が返ってきました。何とマフィアが国会議員となり、内紛で殺されたというのです。汚職が横行し、お金をくすねるのにマフィアの組織が絡み、その勢力争いに国会議員も巻き込まれているとのこと、国造りの先が思いやられます。そういえば、日本人の拉致事件が起きたのも最近のことです。ですから、我々には常に警護が付きっぱなしで、どこへ行くのもサイレンを鳴らし、交通信号も無視しての際どい視察でした。

<お金と乾杯ばかりにこだわる会談>

相手方が外交委員会なり、経済協力委員会だったせいもありますが、でてくる言葉は、援助への感謝の言葉と将来への期待ばかり。私はお世辞の言い合いになりやすい会談の中で、自立的・自発的発展を考えないとダメだときつい質問・発言をしてしまいました。

<私のモットー 内発的・自律的発展論>

「できたばかりの外交の経験も少ない国が、露中の大国ばかりか、アメリカ軍にまで駐留を許し、ご苦労されているのには、頭が下がる。

同じような小国スイスがどこの国とも同盟を結ばず、中立を保ってきたのと正反対で、国としての歴史も浅く、外交の経験も薄いキルギス人が巧みな外交で、猛スピードで国づくりを急いでいるのは理解できる。しかし、援助によりできた空港や道路で国づくりはできず、内発的・自律的発展が必要ではないか。つまり、農業とか中小企業とか自国の資源・人材で生きていく分野の基盤整備が必要ではないか。もっと具体的に言えば、例えば60歳過ぎて元気な技術を持った者が、シルバーボランティアとして、技術協力をする用意がある。私と同じ世代がどっと退職する。キルギスもそうした人と技術による協力を受け入れる用意があるか。」

バキーエフ大統領は農業生産はできても、加工技術がなく無駄となっているので、食品加工の分野等で協力願いたいと答えた。

<祖先は日本人と同じ?>

今までいろいろな国に行きましたが、こんな中央アジアの片隅に日本人とそっくりな民族がいるとは知りませんでした。言葉も同じ、ウラル・アルタイ語族に属し、2000語近く同じ言葉があるとか。「魚の好きな人が東に行って日本人となり、肉の好きな人が残ってキルギス人となった」と言われているそうで、歓待ぶりも一筋縄ではなかった。娘が日本語を勉強しているという副議長は、娘が日本人と結婚してくれるのが願いとかで、何杯も杯を空け、しゅっちゅう喋り続けた。Vice speaker (副議長)と隣の役人が紹介したので、私はalways speaker(いつもお喋り)と答えたところ、2人の間で大笑いとなった。

アメリカ大使は、「この国は誰がコントロールしているかさっぱりわからない」と嘆きましたが、「アメリカ人なので楽観的に将来に期待している」と優しい見方をしていました。ただ、やはり正直言って将来大丈夫かと感じざるを得ませんでした。今まで、ソ連の中で適当にやってこれたのが、いきなり1人立ちしたものの、人材もシステムも整っておらず、先は長ぁ〜く感じられます。

<天山の真珠はお預け>

20数年前、NHKの「シルクロード」を見て、その本も事前に読み「天山の真珠」と呼ばれているイシククリ湖(琵琶湖の約9倍)にも興味がありましたが、ビシュケクから500Kmも離れたところに行っている余裕はありませんでした。作家井上靖がどうしても行きたいと願ったものの、ソ連の魚雷の実験場だったため、ついに許可が下りなかったそうです。それを今は日本から観光に来てくれと盛んにPRしていましたが、宿泊施設、交通の便、料理、言葉の壁とどれをとってもとても普通のツアーで行くには難しそうな感でした。そうした中、小さな大使館が頑張っており、また青年海外協力隊の皆さんが汗をかいておられた姿に接し、頭が下がるばかりでした。

人懐っこいキルギス人のためにも、汚職と貧困のなくならんことを祈らずにはいられません。

戻 る