二つのゼントウ検査(全頭検査と全棟検査)の類似性

2005.12.20.

12月12日、国民の8割余が反対している中で、アメリカ産牛肉の輸入が2年振りに解禁されます。数日前に各紙がそこそこの記事を載せましたが、今は全く静かです。世の中は、アスベスト、耐震構造データ捏造、下校途中の少女の殺害と、いやな事件に大忙しで、それほど関心が向けられていません。

巧妙なマスコミ操作

本題に入る前に、一つ指摘しておかなければならないことがあります。

それは、国民の支持率を気にする小泉政権が、本件については非常に気を使って巧妙に国民の眼をそらしたことです。組閣は当初から特別国会明けの11月2日にすると発表されていましたが、小泉首相は急遽前倒ししました。食品安全委員会プリオン専門調査会において米国・カナダ産牛肉の輸入に関する審議が終了したからです。TVや新聞は、もっぱら組閣のニュースで埋め尽くされ、輸入再開の結論のほうは、隅に追いやられて、ほとんど報道されませんでした。

小泉内閣は、マスコミ操作を多用し、自分に不利なことがニュースになりそうな日に、汚い手を使ってわざと別の大きなニュースを作ってぶつけてきます。2003年10月、民主党と旧自由党との合併大会に合わせ、日本道路公団の藤井治芳総裁の解任を決め、発表しました。この日はこのような人事が行なわることはないはずの日曜日であり、民主党の勢いを減速させる効果を狙った更迭劇でした。また、2004年5月には小沢氏が民主党代表就任を決意したときには、再度の北朝鮮訪問を発表しました。狙いどおり、民主党の再出発のニュースはもちろん、小泉首相自身の年金未加入の問題もすっかりかすんでしまいました。こんなことに引っかかるマスメディアにはガックリきます。

ブッシュ大統領か主婦層の支持率か

小泉首相は、主婦層の支持率を非常に気にしています。アメリカとの関係を第一と考える小泉首相としても、主婦層の反感を買うBSE問題に関しては逡巡せざるを得ませんでした。2004年10月、大統領選前に、牛肉輸入再開について、しなくともよいいかがわしい交渉をしてからも、「科学的知見」に基づき判断すると輸入再開を先延ばししてきました。この言葉は、私の10月19日の予算委員会での質問に対して何回も繰り返し使われたものです。私は、都議選後の7月に再開かと予想していましたが、総選挙があり、再び延期され、大勝した後、組閣をプリオン専門調査会の審議終了にぶつけてきました。

理にかなった全頭検査

日本で初めてのBSE感染牛が発見された後、欧米並みに検査の対象は24ヶ月齢以上でよいといわれていたのに、武部農林水産大臣は、消費者の不安を拭い去るため、全頭検査の実施を決めました。これは、勘のいい政治判断といえます。検査にかかる費用は、24ヶ月齢以上だと30億円、全頭でも33億円とそれほど変わりありません。失墜した牛肉への信頼も回復し、生産者も外食産業も立ち直りました。

同じ武部幹事長が、今回の耐震構造データ捏造事件に関して、「悪者探しに終始すると不況に陥る」と建設業界を擁護して、ひんしゅくを買ったかと思うと、今度は、信頼回復のため耐震性の全棟検査を国の責任で実施すると発表しました。

製造過程のごまかしは同根

新たな「全棟検査」は、先輩の「全頭検査」に非常に似ています。

「全頭検査」は、牛の生育過程、すなわち危険な飼料に問題があり、8〜20年後に発症します。「全棟検査」は、建物の建設過程、すなわち鉄筋不足に問題があり、何年か後の大きな地震で壊れます。どちらも人の命に直接かかわる大問題であり、たとえ、何万分の一の確率でも、自分にふりかかるかもしれないという不安が生じます。いずれも製造過程の問題ですが、不安を拭い去るには、出来上がったものすべてを安全かどうか検査し、そうでないものは食べないとか退去するとかの対応をとることでしか安心は戻りません。根本的解決は、製造過程のいかがわしさをなくすこと、すなわち厳正なチェック(牛肉はトレーサビリティの確保、建物は構造計算のチェックや中間検査等)しかない点も共通です。

BSEに汚染された恐れのある牛肉を店先からなくすために、国産牛の全量買入れが行われ、200億円余の血税が使われました。今、危険な建物は、ホテルもマンションも使われなくなり、解体されんとしています。そして、その費用の一部や転居先家賃の3分の2に国費が使われようとしています。変なマンションを一掃しなければ、国民はマンションを購入しないでしょう。

武部幹事長は偉大なるイエスマンと言われますが、正直すぎて時々失言してしまうですすが政治的勘がさえています。自民党の幹事長には、だてでなっているのではありません。しかし、武部幹事長も自分の導入した政策をアメリカの圧力にも屈せず、小泉首相をも諌め、堅持するなら、もっと拍手を送るのですが・・・

無責任な輸入再開

新たな全棟検査が導入されんとしている時に、全頭検査はアメリカの圧力でやめる決定がなされました。しかし、今回の輸入再開も含め、極めて愚かなことです。

検査を受けない牛肉を食べたくないというのは、検査を受けない建物に住みたくないというのと同じです。国産牛肉は、今は全頭検査されているだけでなく、すべての牛と牛肉に個体識別番号を付け、生産、流通の履歴情報を記録、保存することが義務付けられています。しかし、この法律はアメリカ産牛肉には適用されませんし、アメリカに同様の制度はありません。

姉歯物件は拒否すべき

無検査だけでなく、トレーサビリティもないアメリカ産牛肉は、かつてのホテル用高級牛肉から今後は低級牛肉というレッテルを貼られることでしょう。その意味では損するのはむしろアメリカです。

拙速に輸入されるアメリカ産牛肉は、いわば「姉歯物件」といえるのかもしれません。我々は、やはり、「姉歯物件」には住めませんし、口にもできません。

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