予算委員会、米国産輸入牛肉の集中審議で質問

2006.2.15

 2月15日、衆議院予算委員会の「米国産輸入牛肉について集中審議」で、民主党のトップバッターとして質問しました。

私は、2004年10月19日の予算委員会で、小泉総理にBSE 問題を質問しています(予算委員会で初質問BSE問題について参照)。この問題には総理が深くかかわっており、1月末に民主党BSE対策本部の視察団としてアメリカの現地視察を行ったことを踏まえ、再度、総理に質問すべく準備していましたが、残念ながら私の質問時間には総理が不在だったため、関係大臣の認識を質すとともに、食品安全行政の一元化について提言を行いました。

米国の食肉処理施設の問題

アメリカの牛は、約1億頭、日本は300万頭ぐらいです。屠畜頭数も30倍近くになります。工場の規模も、日本の芝浦の屠畜場は、一日3百〜4百頭であり、アメリカと日本では規模が全然違います。

 アメリカでは、2か所の食肉加工処理工場を視察しました。日本向け輸出用の牛肉の条件は20ヶ月齢未満ですが、生育履歴システムのないアメリカの牛は、肉質を目視して月齢を判別することとされています。視察した大手の工場は1日4千頭を処理しており、吊るされて2つのラインになって次々に動いてくる肉の判別には1頭につき6秒しかかけられません。小さな工場のほうでは、1日1千頭を処理しており、12秒/頭です。

また、牛肉は日米間において特定危険部位(SRM)の範囲が異なります。日本向けでは特定危険部位をすべて除去しなくてはなりませんが、アメリカ国内向けでは、扁桃、回腸遠位部は全月齢除去の必要がありますが、30ヶ月以下の牛肉については頭部、脊髄、脊柱を除去する必要がありません。

 同じ工場の同じレーンで作業をしていて、仕分けミスは起きないのでしょうか。日本の屠畜場とは桁違いの頭数が高速で処理されており、作業が適切に行われるとは思えませんでした。

2月8日、アメリカ農務省監察官事務所によるBSE対策監査報告が公表されました。案の定、12施設のうち9施設ぐらいがSRMの除去の記録もないとか、へたり牛がそのまま屠畜されていたとか、いろいろな問題が出てきました。アメリカ農務省自身が問題があるのを認めています。

輸出再開はアメリカの食肉業界の要求

 2003年にBSEが発生したため、アメリカは、現在、牛肉を14万トンしか輸出していませんが、数年前は50万トンも輸出し、このうちの半分以上は日本に来ていました。そのため、アメリカの食肉業界は、日本に輸出したいと相当焦っています。

2004年の大統領選挙の際、NCBA(全米食肉生産者協会)がブッシュ支持を表明したのを受け、ブッシュ大統領は遊説先で日本の輸入再開を公約し、その後、日米首脳会談等で小泉総理に早く輸入再開するように要求してきました。

日本から査察や安全対策を要求すべき

日本産牛肉もわずかばかりアメリカに輸出されていますが、厚生労働省が対米輸出食肉を検査する検査員として指名した屠畜検査員を置いています。牛肉の輸出量は、日本は141トン、アメリカの千分の1です。アメリカに輸出されているのは、その141トンのうちごくわずかですが、そのためだけにでも、アメリカに輸出する食肉専用の検査員を置くという非常に手の込んだことをしていています。

アメリカは、日本向け牛肉の処理工場として40施設を認可していましたが、間違いを起こした2つの施設を取り消しました。日本は、12月の輸出再開前後に、とりあえず11施設視察しただけです。問題のある牛肉を出荷した2社については日本の責任において真っ先に査察すべきですが、日本政府は、やろうとしません。

私は、米国政府からの原因究明や再発防止策を待たず、期限を切って、日本向けの検査、特に研修をきちんとするよう要求を行うなど、「こちらからアクションを起こさなければだめだ」と主張しましたが、川崎厚生労働大臣・中川農林水産大臣は、報告を受けて対応を考えたいとの姿勢を変えませんでした。

輸入再開は慎重なプロセスを経て

かつて、日本は水産物の輸出国でした。今や水産物の自給率も5割になってしまいましたが、輸出しているものもあり、重要なものがホタテです。ホタテガイは、1995年、EUにより輸入禁止措置がとられた後、EU指令に規定された輸出要件を踏まえた体制整備を進め、2001年に認定施設のリストをEUへ通報しました。EUによる現地視察、欧州委員会の決定を受け、2002年にようやく輸出が再開されました。

私は、日本が今度牛肉の輸入を再開する場合も、前回のような事後査察ではなく、全施設をくまなく見てからじゃないと輸入を再開させるべきではないと思います。ホタテガイは輸出再開に七年かかっています。一たん不始末をしでかしたら、信用を取り戻すにはそれだけ時間がかかるということです。輸入再開には、じっくり取り組むべきだと思います。

アメリカ食肉業界の構造的な問題

 日本側の求める輸入再開条件が守られなかった背景には、効率一点張りの食肉加工システム、ヒスパニック系移民中心の労働環境等アメリカ食肉産業の構造的欠陥があります。

小泉総理は、日本の構造の改革を叫んでいますが、アメリカこそ構造改革が必要なのです。これは、是非、総理に直接問い質したい問題です。

 また、違反したアトランティック社は、一度も日本に輸出経験のない会社です。日本の常識からすると、そんな会社がそんなに早く認可を受けられることはありません。規制緩和の行き着く先です。資格もないような企業を認定し、後からしまったといって取り消すことになっています。

月齢識別は生産記録で

前述のように、アメリカは日本向けの20ヶ月の月齢識別は肉質の目視で行っています。国内向けの30ヶ月齢は、吊り下げられた牛の口を開けて歯で識別しています。高速で動くラインで、短時間で正確な識別を行うのは無理であり、このような雑な扱い方は、日本向け輸出には向かないと思います。

解決方法は、簡単です。最初から生産記録がわかっていれば、屠殺の前の段階で分けられ、コストもかかりません。日本側は、20ヶ月の生産記録を備えたものでなければ輸入しないとアメリカにきちんと要求していくべきなのです。アメリカの議員も「パッカーはそれを望んでおり、今でも90%可能だが、生産者が面倒臭がっているだけ、日本はアメリカのマスコミにも、生産記録の合理性を伝えていって欲しい」と頼んできました。

日本の基準が米国民の食の安全に繋がる

アメリカの消費者グループとも会談した際、「日本に頑張ってほしい。日本がきちんとした態度をとることがアメリカの食の安全にも繋がる。残念ながら、アメリカの消費者は食の安全についてちょっと鈍感なところがある、だから日本に頑張ってほしい」と言われました。日本は大のお客様ですから、月齢識別について、耳標などによる生産記録の徹底を求めれば、米国の業者が基準に合わせようと務め、米国民の食の安全にも繋がるはずです。

受身の日本政府

 私の提案に対し、中川農林水産大臣は「今やらないから問題だというのとは別の次元だ」と述べ、早急な導入を検討する姿勢は見せませんでした。

また、日本向けの処理加工施設を特別に整備するか、レーンを分けるなどすれば、日本の消費者も安心して米国産牛肉を食べられるようになると主張すべきだと提案しましたが、川崎厚生労働大臣は、12月に合意した内容を再度議論に加えるかは米国の対応によるという、受身の答弁しか行いませんでした。

食品安全行政の一元化

前述のように、輸入再開には政治的なプロセスが働いていますが、時系列に見ると、それに食品安全委員会が大きく関わっているように感じられます。

2004年の9月9日に、諮問されていないのに中間取りまとめを自主的にやり、20カ月齢以下を検査しなくてよいという判断をしました。これは、10月23日の日米局長会合、さらには、11月2日の大統領選に備えてフライングぎみにやっているような気がします。

それを受けて農林水産省と厚生労働省が諮問し、2005の10月31日にプリオン専門調査会が、輸入を条件つきで認めていいという答申原案を出しました。これは、11月16日の京都での日米首脳会談に合わせて早くしただけというような感じです。

私は、食品安全委員会の答申の輸入再開にあたっての前提条件が満たされなかったわけであり、改めて、輸入再開に当たって積極的に報告を出すべきではないかと追及しましたが、松田食品安全担当大臣は、今の段階では必要はないと答弁するのみでした。

このような問題は、食品安全に関わる日本の行政組織が実態に合わなくなっているからだと思います。食品安全委員会というリスク評価機関をつくったものの、じいっと見守っているだけというような組織で、現実にはワークしていません。農林水産省と厚生労働省との3つを統合し、食品安全庁のようなかたちで一元的な機関をつくり、縦割りでない、全責任を持った食品安全行政を行うべきだと思います。

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