2007年3月1日予算委員会「地域間格差問題」集中審議報告(その4)07.03.09
その4:直接支払いの面積要件問題
<市町村に対する直接支払い>
竹下登首相の「ふるさと創生資金」は、市町村に対して直接支払いして使途を決めずに自由に使っていいという「市町村に対する直接支払い」、つまり、地域間格差を是正するものだったと思う。
<社会保障的性格をもつ直接支払い>
地方にお金を行かすために、EUは「農家に対する直接支払い」を政策的に導入し、1975年から「条件不利地域支払い」、1985年から「環境支払い」を始めた。農産物の価格支持をしていると過剰になるし、大農家に補助金が多くいく。そうではなく、本当に必要な人たち―中山間地域で農業を営むことによって、田園風景を守り国土の保全に貢献している人たち―にお金がいくように考えてやり始めたのが「直接支払い」である。つまり、直接支払いは、社会保障的なもので、構造政策(規模拡大)の手段となりにくい政策である。
<民主党案v.s.政府案>
2004年に民主党は、自給率向上と農林漁村の活性化のために直接支払いを中心とする施策を導入する「農林漁業再生プラン」発表した。その後、政府も我々に追随する形で直接支払いを「担い手経営新法」に導入した。しかし、民主党の再生プランと政府の担い手経営安定対策には大きな違いがある。(詳しくはホームページ掲載資料参照)
民主党案 ⇔ 政府案
自給率 :10年で40→50% ⇔ 40→45%
対象農産物:自給率の向上に資する作物 ⇔ 価格政策の対象だった作物のみ
対象農家 :全ての販売農家 ⇔ 4ha以下切捨て、集落営農(20ha以上)でごまかし
予算額 :1兆円(農林水産予算の約3分の1) ⇔ 1700億円のみ
支払基準 :生産面積に基づく支払 ⇔ 過去の生産実績(新たな生産は認めず)
米の生産調整:廃止 ⇔ 継続
<政府案は小農切捨て>
大きく違うのは、まじめにやっているすべての販売農家を対象に所得保障しようというのが民主党案で、4ha(都府県)以下の農家は切り捨てるというのが政府案である。EUは平均耕地面積が18.7ha(英国67.7ha、フランス42.0ha)であるが、0.3ha以上の農家を対象にしている。EUは、実に平均の62分の1以上の農家に支払うというのだが、日本は、都府県の平均耕地面積1.3haに対し、3.3倍の4ha以上の農家しか対象にしない。
<教育バウチャーと農民分権>
直接支払い(戸別所得補償)というのは、社会保障的なもので、本当に必要な農家、困っている農家を対象にするものである。教育バウチャー制度が、大学や高校に補助金を出すのではなく、教育を受ける子供たちに直接お金をやって、自分でどういう教育を受けるか判断させるのと同じように、農家個人個人に補助金を直接支払う。地方分権を飛び越した「農民分権」である。EUでは、大きな農家にはやらないよう、上限を設け、5,000ユーロ以上は減らしている。
ところが、日本政府の直接支払いは、4ha以上の農家が対象で上限もない。松岡農相は、構造改革(規模拡大)を進めるために大きな農家を直接支払いの対象にするという、直接支払いの本来の性格を知らない、全く間違った対応をしている。もし大規模な農家により多くの補助金をやりたいなら、価格支持こそ適しているのである。我が国が高米価政策をやめた時に、最も影響を受けて困ったのが大規模農家だったことをみればよくわかることである。
また、4ha未満の農家は20ha以上集まれば集落営農の対象になるというが、一元経理まで要求する仕組みがこの資本主義国日本で成り立つかどうか。共産主義の国ソ連のコルホーズ(国営農場)、ソホーズ(共同農場)、中国の人民公社も今や崩壊している。
(農業は底上げの例外か?>
安倍首相は、日本経済全体の底上げ戦略を再チャレンジでやるという。しかし、農業において、平均の3.3倍の超エリートだけを対象にしたのでは、全く底上げにならない。2haの耕地でこれから一生懸命やっていこうとする25歳の若者と、7~8ha持って悠々やっている73歳の高齢者とどちらをバックアップすべきだろうか。再チャレンジどころか1回目チャレンジにも門戸を閉ざしてしまっている。「担い手経営新法」といって担い手を育成するなら、面積要件で切るべきではなく、むしろ年齢を要件とすべきである。例えば、フランスの条件不利地域の直接支払いは、65歳未満という条件をつけている。このままでは、自給率向上にも、やる気のある新規農業者や若手の農業者支援・育成にも何ら繋がらず、農村地域社会を崩壊させ、日本社会を混乱に陥れるような方向にいくだけである。
戸別所得補償(直接支払い)比較
米国、イギリス、フランス、ドイツ、日本の1戸当たり直接支払い(政府補助金)比較(2004年、受給農家平均)
○米国
○イギリス、フランス、ドイツ
○日本
EU及びEU加盟国の直接支払いにおける面積要件等
<市町村に対する直接支払い>
竹下登首相の「ふるさと創生資金」は、市町村に対して直接支払いして使途を決めずに自由に使っていいという「市町村に対する直接支払い」、つまり、地域間格差を是正するものだったと思う。
<社会保障的性格をもつ直接支払い>
地方にお金を行かすために、EUは「農家に対する直接支払い」を政策的に導入し、1975年から「条件不利地域支払い」、1985年から「環境支払い」を始めた。農産物の価格支持をしていると過剰になるし、大農家に補助金が多くいく。そうではなく、本当に必要な人たち―中山間地域で農業を営むことによって、田園風景を守り国土の保全に貢献している人たち―にお金がいくように考えてやり始めたのが「直接支払い」である。つまり、直接支払いは、社会保障的なもので、構造政策(規模拡大)の手段となりにくい政策である。
<民主党案v.s.政府案>
2004年に民主党は、自給率向上と農林漁村の活性化のために直接支払いを中心とする施策を導入する「農林漁業再生プラン」発表した。その後、政府も我々に追随する形で直接支払いを「担い手経営新法」に導入した。しかし、民主党の再生プランと政府の担い手経営安定対策には大きな違いがある。(詳しくはホームページ掲載資料参照)
民主党案 ⇔ 政府案
自給率 :10年で40→50% ⇔ 40→45%
対象農産物:自給率の向上に資する作物 ⇔ 価格政策の対象だった作物のみ
対象農家 :全ての販売農家 ⇔ 4ha以下切捨て、集落営農(20ha以上)でごまかし
予算額 :1兆円(農林水産予算の約3分の1) ⇔ 1700億円のみ
支払基準 :生産面積に基づく支払 ⇔ 過去の生産実績(新たな生産は認めず)
米の生産調整:廃止 ⇔ 継続
<政府案は小農切捨て>
大きく違うのは、まじめにやっているすべての販売農家を対象に所得保障しようというのが民主党案で、4ha(都府県)以下の農家は切り捨てるというのが政府案である。EUは平均耕地面積が18.7ha(英国67.7ha、フランス42.0ha)であるが、0.3ha以上の農家を対象にしている。EUは、実に平均の62分の1以上の農家に支払うというのだが、日本は、都府県の平均耕地面積1.3haに対し、3.3倍の4ha以上の農家しか対象にしない。
<教育バウチャーと農民分権>
直接支払い(戸別所得補償)というのは、社会保障的なもので、本当に必要な農家、困っている農家を対象にするものである。教育バウチャー制度が、大学や高校に補助金を出すのではなく、教育を受ける子供たちに直接お金をやって、自分でどういう教育を受けるか判断させるのと同じように、農家個人個人に補助金を直接支払う。地方分権を飛び越した「農民分権」である。EUでは、大きな農家にはやらないよう、上限を設け、5,000ユーロ以上は減らしている。
ところが、日本政府の直接支払いは、4ha以上の農家が対象で上限もない。松岡農相は、構造改革(規模拡大)を進めるために大きな農家を直接支払いの対象にするという、直接支払いの本来の性格を知らない、全く間違った対応をしている。もし大規模な農家により多くの補助金をやりたいなら、価格支持こそ適しているのである。我が国が高米価政策をやめた時に、最も影響を受けて困ったのが大規模農家だったことをみればよくわかることである。
また、4ha未満の農家は20ha以上集まれば集落営農の対象になるというが、一元経理まで要求する仕組みがこの資本主義国日本で成り立つかどうか。共産主義の国ソ連のコルホーズ(国営農場)、ソホーズ(共同農場)、中国の人民公社も今や崩壊している。
(農業は底上げの例外か?>
安倍首相は、日本経済全体の底上げ戦略を再チャレンジでやるという。しかし、農業において、平均の3.3倍の超エリートだけを対象にしたのでは、全く底上げにならない。2haの耕地でこれから一生懸命やっていこうとする25歳の若者と、7~8ha持って悠々やっている73歳の高齢者とどちらをバックアップすべきだろうか。再チャレンジどころか1回目チャレンジにも門戸を閉ざしてしまっている。「担い手経営新法」といって担い手を育成するなら、面積要件で切るべきではなく、むしろ年齢を要件とすべきである。例えば、フランスの条件不利地域の直接支払いは、65歳未満という条件をつけている。このままでは、自給率向上にも、やる気のある新規農業者や若手の農業者支援・育成にも何ら繋がらず、農村地域社会を崩壊させ、日本社会を混乱に陥れるような方向にいくだけである。
戸別所得補償(直接支払い)比較
民主党案 (農業再生プラン) |
項目 | 政府案 |
---|---|---|
10年で40→50%、 | 自給率 | 40→45% (2015年) 一応の目標で上がらず |
自給率の向上に資する作物 (麦、大豆、菜種等) | 対象農産物 | 価格政策の対象だった 作物のみ |
全ての販売農家 (農業・農村全体の底上げ) | 対象農家 | 4ha以下切捨て 集落営農(20ha以上)でごまかし (ソ連時代の共同農場と同じ?) |
1兆円 (農林水産予算の約3分の1) | 予算額 | 価格補助を直接支払いにした 1700億円のみ (増額なし) |
生産面積に基づく支払 | 支払基準 | 過去の生産実績 (新たな生産は認めず) |
廃止 | 米の 生産調整 | 継続 |
米国、イギリス、フランス、ドイツ、日本の1戸当たり直接支払い(政府補助金)比較(2004年、受給農家平均)
○米国
計 | (単位:万円) | |||
---|---|---|---|---|
価格支持融資(ローン不足払い) | 直接固定支払 | 価格変動対応型支払 | その他 | |
130 | 25 | 50 | 21 | 34 |
○イギリス、フランス、ドイツ
計 | (単位:万円) | ||||
---|---|---|---|---|---|
直接支払 | 条件不利地域支払 | 農業環境支払 | その他 | ||
イギリス | 566 | 467 | 31 | 39 | 29 |
フランス | 347 | 294 | 18 | 22 | 13 |
ドイツ | 376 | 282 | 20 | 40 | 34 |
○日本
(単位:万円) |
中山間地域等直接支払制度 |
---|
8 |
EU及びEU加盟国の直接支払いにおける面積要件等
要件 | EU | 英国 | フランス | 日本 |
---|---|---|---|---|
平均耕地面積 | 18.7ha | 67.7ha | 42.0ha | 1.3ha (本州・販売農家) |
直接支払い(一般) | ||||
面積下限 | 0.3haを下限 (平均の1/62) |
0.3ha以上 (平均の1/226) |
0.3ha以上 (平均の1/140) |
4ha以上 (集落営農20ha以上) (平均の3.3倍) |
面積上限 | (5,000ユーロ以上は縮減) | (5,000ユーロ以上は縮減) | (5,000ユーロ以上は縮減) | |
条件不利地域支払 | ||||
面積下限 | 3ha以上 (平均の1/6) |
10ha以上の牧草地所有 (平均の1/7) |
65歳未満 所得の50%以上を営農活動から |
|
面積上限 | 50haを限度とする (平均の1.2倍) |
|||
環境支払い | 環境によい農法 | 全ての作物、全ての農用地 | 全ての作物、全ての農用地 18歳以上 |
(農地・水・環境対策) |