2007.12.14

お知らせ

『花の都パリ「外交赤書」』の書評紹介07.12.14

 今年の6月に新書を発行してから、インターネットで検索してみると私の本の書評が数多く出ていました・・その一部を紹介します。

下記は、パリ国際学校教師 石村清則氏の書評です。

「パリを通してみる官僚の内幕話」

 パリに暮らしていると、日本ではお会いできないような人たちと出会うことがよくある。かつて日本レストランでアルバイトをしていた友人は、その店で大島渚に出会い、知人は故ミッテラン大統領が孫娘を連れて日本料理を食べに来たのに出くわし驚いた。私の生徒が授業に遅刻した時に理由を聞いたら、学校のすぐそばで宮沢りえが撮影をしていたらしい。
 もちろん官僚にも出会う。しかし、なかなか官僚の内幕は聞けない。かなり昔に、ある議員のお世話をした友人から、面白い話を聞いたことがある。その議員はお忍びで来ていて、どうやら愛人を伴っていたらしいのだが、車でPorte de Versaillesを通った時に、彼女が議員に「どうしてヴェルサイユ宮殿がここにないの?」と聞いたそうだ。「ヴェルサイユ門」はパリ15区の南端にあり、ヴェルサイユ方面に向う道があるだけで、宮殿とは何の関係もないのだが、議員の答えは「ああ、引っ越したんだよ。」であった。友人は笑いをこらえるのに苦労したようだ。

 筆者の篠原孝は現在衆議院議員だが、以前は農林水産省の官僚で、1991年にパリのOECD(経済協力開発機構)の日本政府代表部へ出向となった。その時の体験をまとめたのが本書なのだが、実に面白い。そして、ここまで書いていいのかしら、と考えさせるほど赤裸々に色々な出来事を書いてある。故に「赤書」なのだ。

 冒頭から「農林水産省は、先々の重要な事項より、目の前のどうということもない仕事に忙殺されるという体質を持ち合わせている。」などという文が登場する。「英語ができない人の群れ」というタイトルもある。「役所の文章はいつも何を言っているのかよくわからないような文章にせざるを得ず」などとも書いてしまう。自国語を大切にするフランスと比べて「役人を先頭にわけのわからぬカタカナ日本語を乱造している日本」と切って捨てる。庶民にとって、なかなか小気味の良いリズムである。

 だが、大切な会議で質問に答えられなかった出張者の原因が、3つの課で順番にパリ出張となっているので、専門家でなくとも慣行通り派遣したとなると、笑ってすませられない。その出張者は、ただ会議に出席して、用意されたペーパーを読み上げて、後は黙って座っていれば良いと言われてきたのだ。子どもの使いではあるまいし、と言いたくなる。それが日本を代表する官僚ならば、私が教えている高校生の方が、英語ができる分だけ役に立つに違いない。

 商社や銀行等の支店長が、アテンド業務のせいで健康を害する話は、臨場感がある。私は生徒たちに時々「せっかくパリに住んでいるのだから、お父さんにおねだりして、フランス料理のレストランに連れて行ってもらいなさい。それも勉強だよ。」と言う。しかし、生徒によっては「ダメです、先生。お父さんは毎日のように星付きレストランへお客さんを案内していて、それだけは勘弁してくれと言って、家ではお茶漬けしか食べません。」などという答えが返ってくる。美食も仕事となると拷問かもしれない。

 もちろん仕事の苦労話も沢山ある。膨大な量の資料を短時間で読みこなして対処しなくてはいけない場面や、海千山千の各国の官僚を相手に根回しをする複雑さ、面子のみを考える上司への対応等、枚挙に暇がないほどだ。その中で筆者の活躍ぶりは、少々強調されている嫌いはあるものの、説得力がある。何よりも実行力のある官僚が必要だというのが、良く分かる。

 ワインに詳しくないので、ムートン・ロートシルトやロマネ・コンティをレストランで頼まれて、後で大目玉を食らう話は面白い(だがそれも税金から出ているならば、楽しめないが……)が、給料の話には驚く。筆者の基本給が約30万円に、在外勤務手当が約70万円。加えて住宅手当が45万円だが、担当者には50万円程度の家賃のアパートを勧められた。金銭感覚がおかしくならないだろうか。「日本での三倍仕事をしなくちゃ国民の皆様に申し訳が立たない。」という言葉が、真実であって欲しい。まあ、現在はスキャンダル等のせいで、減額されているらしいが。自宅での接待、フランス語の苦労等、面白い話がまだまだあり、筆者のエスプリが利いたエッセイである。

 官僚も間違いなく一つの職業に過ぎない。その意味において、民間と何の違いもない。だが、民間では少しのミスでも自社の損益につながり、首も飛びかねない。役人にはその「損益」が見えにくいのかもしれない。国の「倒産」が身近ではないからだ。それだけにボディーブローのように、後から効いて来て、我らが日本国の足腰が立たなくなるようでは困る。この「赤書」が官僚たちの自浄作用を誘うものであって欲しいし、私たちにとっては彼らを多角的に捉えるヒントとなりそうだ。

詳しくご覧になりたい方は下記をクリック!

http://booklog.kinokuniya.co.jp/ishimura/archives/2007/10/post_8.html

その他の書評は下記をクリック!

http://www.worldtimes.co.jp/syohyou/bk070826-1.html

本の紹介は下記をクリック!

http://www.bk1.jp/product/02799800

※インターネット『ミクシィ書評ブログ』にも載っていました。

投稿者: しのはら孝

日時: 2007年12月14日 16:58