2008.10.27

農林水産

事故米発生の2つの重要な原因 08.10.21

今、ジクロルボスに汚染された冷凍インゲンの問題が取りざたされています。この問題も重要だとは思いますが、主食である米が汚染されていたというほうが大問題だと思います。「テロ」に対する備えといわれますが、私は、これは「食料テロ」とも言えると思います。日本は本物のテロによる被害はないのに、食料テロの犠牲になりつつあるのです。

<歪んだ国際約束>
事故米発生には2つの要因があると思います。1つはミニマム・アクセス米の輸入です。ウルグアイ・ラウンドの解決の折に、自由化をしない代償として、消費量の3~5%を輸入しなければならないというルールができました。日本では、米がその約束対象となり、最終的には76万6千トンの輸入義務が生じ輸入され続けています。日本に米が余っているにもかかわらず、外国から買わざるを得ないのです。国際約束の1つです。
これはおかしなルールです。食料危機が叫ばれている折、こんな約束は解消していいのではないかと思います。先のブログで報告しましたが、9月中旬、ジュネーブのWTO関係議員会合で、ラミーWTO事務局長、ファルコナー農業交渉グループ議長に質問する機会を得、ファルコナー議長からは、ミニマム・アクセス米は買わなくてもいい、輸入機会を与えるだけでいいんだという言質をとってきました。日本政府も公式見解では同じ答弁をしています。

<厄介者のミニマム・アクセス米>
このミニマム・アクセス米は哀れな米です。日本は、国家貿易品目の米を国が買わざるを得ないのですが、本音では、なるべく主食市場に出回って欲しくないという願いがあります。つまり、質の悪い米でも何でも、輸入量の義務だけを果たしておけばいいという考えです。これがわかりますから、輸出国側もどうせ主食にならない加工用の米だから、質の悪いいいかげんな米でいいという阿吽の呼吸ができあがります。つまり、ミニマム・アクセス米は、日本では厄介者なのです。
ここで困るのは農林水産省の担当者です。歓迎されない米の保管料を節約するためには、事故米でも何でもなるべく早く業者に売りつけ、いくらかでも税金の無駄使いがないようにしようと考えます。この構造が改められない限り、事故米は発生し続けます。
それからもう1つ、カビによるアフラトキシンは、船底で1週間から2週間置かれ蒸れるわけで、輸入米のほうがずっと発生しやすくなります。
食べ物は地産地消・旬産旬消に尽きるわけで、遠くの国から輸入するということが、そもそも問題ということになります。

<規制緩和で過当競争>
2番目が規制緩和です。昔は米屋さんしか米を扱えませんでした。今誰でも米を売れます。この差です。15年前20年前のお米屋さんたちだったら、こんなモラルに欠けたことは絶対にしなかったと思います。そんなことをしなくても、米屋さんはやっていけたからです。
規制緩和の大合唱のもと、大事な主食を扱うビジネスが誰でもできるようになりました。その結果、過当競争が生じ、米屋さんも廃業が相次いでいるはずです。そして、残っている米屋さんも、あくせくし続けないとやっていけなくなり、食の安全も片隅に追いやられるようになってしまったのです。転売転売でいつの間にか主食米に化けたと言われていますが、その転売に携わった企業の中には、新しく米のビジネスに参入した業者も多いはずです。国際テロの前に食料テロに対して備えておく必要があります。

<主食はモラルの高い業者にしか扱わせず>
昔の食糧庁は、モラルが高く使命感にもえた米屋さんだけを監督していればよかったのです。しかし、その後食糧関係は削減対策の目玉とされ、一頃に比べ12分の1以下にされてしまいました。そこに儲けさえすればよいという新規参入者がかわり、必死で抜け穴を見つ、悪巧みを考える業者が増えました、人数の少ない担当者だけでこうした業界を監督するなどというのは、土台無理な話です。こうしたことが二度と起こらないようにするには、大事な主食のことは、モラルの高い限られた業者しか扱えないようにするという昔の制度に戻るのも一案です。毒を食べさせられないためにも、細心の注意が必要であり、モラルの高い業者しか米を扱えないようにすべきなのです。
規制緩和、官から民へという大合唱の下、規制緩和は善であり、それに反対する者は悪であるということで、すべてが律せられてきてしまいきました。主食はもっと丁寧に扱わなければなりません。

<安全は規制しないと守れず>
タクシー業界が悪例です。規制緩和の下、新規参入が自由になりました。うまくいったでしょうか。会社は青息吐息の経営状況になり、タクシーの運転手さんは、過当競争の下、ノルマを達成できず、長時間労働を強いられ、収入が減っています。挙げ句の果てに自ら営業して、ビールを振る舞ったりしなければならなくなり、居酒屋タクシーまで生まれました。それで乗客は便利になったかというと、少しも便利になっていません。
こういった公共的仕事なり、安全にかかわるような仕事については、きちんとした規制が必要です。例えば、米穀取引業者の数を限定して食の安全に配慮できる経営環境が必要です。タクシー業界の場合は安全走行に配慮できる環境を保てるようにすることが大切なのではないかと思います。さもないと、我々の安全が脅かされるのです。一罰百戒なり闇雲の一方の論理で走る悪い癖は改めなければなりません。

投稿者: しのはら孝

日時: 2008年10月27日 10:48