2009.12.31

社保・医療

フランスの少子化対策の解決の手法 -深刻な日本の少子化問題- 09.12.31

<フランスの真似した子供手当て>
 2007年の参議院選挙の折、突然、子供手当てというアイデアが出され、選挙戦をそれで戦った。2009年の衆議院選挙も、子供手当てが前面にクローズアップされてきた。これは私がずっと携わってきた、農業者戸別所得補償と同根の直接給付という手法である。
 フランスで大成功したということで、金額の中途半端な額2万6千円もフランスと日本の比較をしながら定めた額だという。15歳まで義務教育の間、月2万6千円、一年間で31万2千円、生涯で約500万円というのはかなり巨額の手当てである。私は、てっきり子供手当てでフランスがヨーロッパ先進国の中では珍しく、合計特殊出生率を2に回復したと聞いていた。

<仏の社会人類学者エマニュエル・トッドの指摘>
ところが、最近読んだ人口人類学者のエマニュエル・トッドの本を見て、違うのではないかということをはじめて知らされた。
エマニュエル・トッドは1976年、ソ連の乳児死亡率の異様な高さから、はじめてソ連崩壊のにおいを感じ取り、それを本にしたためている。ソ連崩壊を15年ほど前に予告した人である。今回は、金融界の過度の自由化、規制緩和に問題を投げかけ、金融危機の発生を見事に警告していた。アメリカの暴走や資本主義の行き過ぎを一貫して批判してきた碩学である。
そして今は、保護主義の復活を唱えており、1年ほど前にNHKの番組で紹介された後、時々、日本の新聞・雑誌に紹介されるようになっている。
今、読んでいる本は、『デモクラシー以後』という最新の本である。そこに意外な事実が隠されていた。明確に子供手当ての功績ではないと書いてはいないけれども、どうも違うようなのだ、そういえばトッドはプロの人口学・社会人類学者である。

<出産率は晩婚化で10年下がっただけ>
 トッドの『デモクラシー以後』から引用すると、フランスの出生率の変遷は以下のとおりとなっている。
1964年 合計特殊出生率は2.92。避妊を認めるヌーベルト法が1967年12月に採択され、「非嫡出」子が増加した。合計特殊出生率は1993年に1.66と最低になり、胎外出生児は半数近くの47%を占めていた。西欧先進諸国の中で唯一今、合計特殊出生率が2を上回ることになった。
 ただトッドは、人口統計学的に分析すると、潜在的生殖期間の終わり(45歳ぐらい)までに生む子供の数は、一貫して2前後で、以下になったことはなく、晩婚により、子供を作るのが遅くなっただけで、2に再び上昇したのではないというのだ。ここでは詳述しないが、権威主義的相続(長子相続)か平等相続か否かで出生率を論じていて興味深い。

<フランスの見事な女性政策・子育て支援システム>
それからもう一つ、フランスが2に回復した理由は、何よりも保育園、幼稚園の充実によるところが大きいというのだ。フランスは、いわばアメリカの対極にある国である。社会福祉が充実し、労働組合が強く日本と違った意味で社会主義的といわれる、私の3年間のパリ暮らしの経験でいえば、20年近く前なのに幼稚園、保育園の充実振りには驚かされた。3人の子供のうち2人は学齢に達していなかったが2人とも夕方5時まで面倒を見てもらっていた。お陰で妻はフランスやパリを堪能する時間を多く持てている。日本は専業主婦が大半で、子供に社会性をもたせるべく午前中だけにおけばよいといった中途半端な幼・保育だが、フランスは女性の就業と子育ての両立が出来るシステムを作り上げていたのである。日本のように保育所の待機児童が何万人といった悲惨な状況はみられない。そうだとすると、子ども手当をいきなりやるよりも、フランス同様、保育園の拡充、夜6時 7時までの保育といったことを拡充させたほうがいいということになる。
子ども手当は鳴り物入りで出発しているが、その効果が現れるのは何年後かということだ。折角巨額をつぎ込むので、きちんと実を結んでほしいと思うが、どうなることか先行心配である。

<所得制限なしがベスト>
12月17日今日現在で言うと、小沢幹事長が国民の声だとして、子供手当てに所得制限を設けるべきだという要望を伝え、そのことが大きく新聞に取り上げられているが、そんなことはむしろ些細なことのような気がする。私は、この点については所得税を累進課税でもってお金持ちからいっぱいとることで解決し、所得制限をこんなところに導入したら、納税者番号制も導入されていない日本では市町村の事務担当者が困るので、これは導入すべきではないと考える。

<フランスの過剰福祉の因果?>
 フランスは子供に手厚い延長線上で、婚外子にも温かい手を差し伸べている。結婚しないでもカップルで結婚と同じ社会保障や税制の権利が与えられており、2008年には婚外子が52%と半数を上回ってしまった。トッドのいうフランスの平等主義(ドイツ、日本は長男なり直系重視で正反対という)が行き過ぎて、家族が潰れつつある。母子加算をやめたりする日本と大違いなのだ。

<結婚をした人は子供を生んでいる事実>
 団塊の世代は年間270万人の出生数だったが、2008年は109万人、2050年には49万人に落ち込むという。合計特殊出生率は1971年の2.16から低下をはじめ、2008年には1.37である。
 ただ、日本もよくみるとフランスと同じで結婚した女性は子供を生んでいる。つまり有配偶者出生率は高いままなのだ。それに対し、結婚が減少していること(有配偶者率の低下)が合計特殊出生率の低下の大きな要因となっている。50歳まで未婚者である生涯未婚率は、1960年ごろまで男女とも2%未満だったが、2005年には、女性7.2%、男性15.6%と上昇した。

<結婚しない若者、結婚できない若者の結婚促進>
 現在の若手層の未婚率はさらに高く、非婚化は構造的な問題である。となると、日本の少子化の根本的解決は、結婚の促進ということになり、まずは仕事を安定させ、給料を高くして経済的に自立できるようにすること、つまり景気をよくすることが必須である。次に結婚して出産してもフランスと同じく仕事を続けられる環境整備が必要となる。

<驚愕の「子ども必要ない」42%>
 ところが、12月6日明らかになった内閣府世論調査は、もっと深刻な事態を曝け出している。結婚しても必ずしも子どもを持つ必要が無いと考えるひとが、42.8%を最高に達したというのだ
特に20代、30台は6割が子どもにこだわらない社会意識が定着しつつあることがわかってきた。男女比では女性のほうが46.5%も子どもを持つ必要がないと答えている。また、結婚しなくてもよいという人が70%に達している。
いずれにしても日本の少子化の根は深いということであり、子ども手当で終わるのではなく、真剣に取り組むべき課題である。

投稿者: しのはら孝

日時: 2009年12月31日 10:14