2010.01.04

農林水産

保護主義がなぜ悪いか -10.1.4- 長野経済新聞2010年1月5日寄稿

<地方疲弊の3大原因>
日本の地方が疲弊し切っている。これは誰の目から見ても明らかである。地方へのバックアップにはいろいろな手法があると思うが、鳴り物入りでスタートした「ふるさと納税」も善意に頼る仕組みであり、ほとんど効果を挙げていない。それでは一体どのような政策手法があるのだろうか。

私は、日本の地方の疲弊の原因として、

 ①自明のことであるけれども第一次産業の疲弊

 ②やたら頼った落下傘工場が外国に出て行ってしまったこと

 ③大型郊外スーパー、レストランが出来てしまったこと

があげられると思っている。つまり、自由化、規制緩和の行き過ぎが日本の地方を疲弊させたということだ。

<自由貿易は絶対的善にあらず>
 これについて、前から注目していたが、フランス人の人類学者エマニュエル・トッドという人が本を書いている。人口統計に表れた乳児死亡率の高さから1976年の昔にソ連の崩壊を予言し、最近では金融崩壊にも警鐘を発していた。世の中には先の見える人がいるのである。
 結論は、自由貿易は必ずしも善ではなく、むしろ保護主義のほうが貿易であっても拡大し、経済の活性化に繋がっている。規制緩和なり自由貿易がすべて善だというのは間違いだということだ。私は実感としてこのことを常々考えており、20数年前の産経新聞の「正論」という雑誌に「自由貿易は絶対的善にあらず」という小論を寄せたことがある。私の主張は農産物の自由化を阻止せんがための遠吠えのように聞こえて、あまり皆さんには聞き入れてもらえなかった。

<過度の自由化がリーマンショックの原因>
 しかし、金融の過度の自由化、規制緩和がリーマンブラザーズの破綻を招き、金融システムの崩壊が世界経済を直撃した。そして貿易にも打撃を与え、世界を不景気に落とし入れてしまった。今や政府が介入したり、バックアップしなければ持たない企業や産業界が増えているのだ。典型的な例が自動車会社である。
 ビッグ3がよもや政府の援助なしでは潰れてしまう事態がくるとは予想できなかったのではなかろうか。

<日本の農村風景を変えた農産物自由化> 
 日本の今の現状を見るにつけても、日本の農村を疲弊させたのは、1にも2にも外国からの農産物の輸入だったと思う。現にかつて作っていた菜種は消え、田んぼの畔に作っていた大豆も消え、小麦も作らなくなっている。長野は降雨量は700mmと少なく、水はけもいいので小麦に向いており、お焼きやうどんやそばといった麺類の消費が今でも日本一であり、その原因は小麦が良く取れたからだった。
 詳述はしないが、EUはかつて捨てたヒマワリ・菜種・大豆を保護して見事に復活させている。民主党は、私が中心となりこれを見習って日本でも戸別所得補償により、これらのいわゆる土地利用型作物を復活させようとしている。

<保護主義による貿易拡大>
 自由化や規制緩和は経済を活性化させるための手段であったが、いつの間にか目的化してしまって、何でも自由化し規制緩和しなければいけないという風になってしまったのではないかと思う。
 トッド曰く(私の解説も入るが)、農業を保護し、日本でそれなりのものを作れるようにしておき、農家がちゃんとやっていけるようになっていれば、農家もいろいろなものを買う購買力がある。したがってその買うものの中に外国からの輸入品も含まれるのでかえって貿易は拡大するというものである。これが本当であるかどうかは実証してみる必要があるが、これだけ地方が疲弊してしまっては、トッドの考え方に惹かれるのは無理はないのではないか。

<大店法改正がシャッター通りの原因>
 大型店舗とシャッター通りとの関係も図星である。
私が1990年頃、日米構造協議というものを農水省の対外調整室長としてどっぷりと担当した。その時に日本人が妻だという、リン・ウイリアム通商代表が盛んに、大規模店舗法によるスーパー進出の規制を緩和するように主張した。それを受け入れて、日本中の郊外に田畑をつぶしてスーパー・コンビ二がはびこり出した。これによりまたたくまに地方の商店街が疲弊していった。
 これに対しフランスは頑として地域の商店を守る政策を堅持し、小さな店がパリでもどこでも残っている。フランスの規制があまりにも厳しいので、フランスのスーパー、カールフールは自由な日本にも進出したが、あまり芳しい成績は残していない。

<農産物自由化をやめ、大規模店舗を規制すべし>
 過度の自由化をし規制緩和をして、社会全体がガタガタになってしまっては元も子もない。私は日本の地方を活性化するには、思い切って過度な農産物を自由化をやめ、国内で作れるものはなるべく国内で作るようなシステムに変え、かつ、かつてのように商店街が生き残れるように、郊外の大規模店舗を規制するのが一番近道ではないかと思う。しかし、残念ながら、相変わらず工場誘致とか、大規模店舗の進出等に血眼になっている地方自治体が多いのにはがっくりさせられる。
 大胆な政策転換が必要なのは、国だけではなく地方も同じなのだ。(2010.1.4、長野経済新聞2010年1月5日)

投稿者: しのはら孝

日時: 2010年1月 4日 14:14