2010.12.15

農林水産

TPPを切っ掛けとした、食と農林漁業再生推進本部の設立 -10.12.16

(突然でてきたTPP)
10月1日の臨時国会冒頭の菅総理の所信表明において、TPP(環太平洋包括連携協定等)への交渉、参加を検討し、アジア太平洋自由貿易圏(FTAPP)を目指すということが突然表明された。
これを切っ掛けに、党内は騒然となり政府の調査会で白熱した議論が行われた。政府内では関係副大臣会合に任され、私はその副大臣会合に10回参加し、事後調整に追われることになった。
 その結果、11月9日にやっと包括的経済連携の基本方針が決まり、交渉には参加せず当面情報収集を中心とした協議を行い、TPPに参加するかどうかは別途判断することとなった。それと同時にその間に自由化にも耐えうる日本の農林漁業の体制を構築する為に、異例のことだが官邸に「食と農林漁業再生推進本部」を設け、6月中旬までに基本方針を定め、10月に行動計画をうたって、それに伴う予算措置を講じることになった。

(小国間のTPP)
 私は、10月1日以降完全にTPPに掛かりきりになった。
 TPPは大畠経済産業大臣が、9月17日組閣し、その後の大臣レクで始めて知ったと正直に述べたが、それほど唐突なことだった、もちろん一般の国会議員は知る由もない。もちろん、関係者の間では、TPPの存在はつとに知られていたが、国際的にもほとんど関心を呼ばなかった。なぜかというと、2006年にシンガポール、ブルネイ、NZ、チリといった小国が、非常に自由度の高い経済協定を結んだだけのことだからだ。いずれの国も人口は数百万、自国で必要な物を作ったりすることは完全には出来ず、必要なものは諸外国から輸入しなければならない。そういった延長線上で、自由貿易が生きていく上に一番都合のいいことであり、4カ国が結託して自由貿易協定を結んでいた。

(アメリカのTPP参加表明)
それが一変して大きく取り上げられるようになるのは、2009年の11月14日、オバマ大統領がサントリーホールでTPPの参加も検討していくと宣言してからである。これには政治的背景もあり、小沢一郎氏(当時民主党幹事長)が中国に国会議議員140数人をつれて行ったりしているところに、鳩山総理が東アジア共同体構想をぶち上げ、日本は中国にいかにも接近しているというムードが漂い始めたのに対し、オバマ大統領がけん制したものと思われる。その後、2010年になってから、アメリカだけではなく、オーストラリア、ベトナム、ペルー、フィリピン、そして最後はマレーシアの5カ国が新たに名乗りをあげ、3月から2ヶ月に1回ずつ会合を開いていた。

(FTAを推進した韓国)
一方、韓国は2007年にアメリカとのFTA自由貿易協定を結び、2010年10月にはEUとのFTAも署名し終わっていた。その結果、2011年7月からはEUへの輸出は関税がゼロになる。それに対して、日本の自動車には10%、液晶ディスプレーの入った家電、テレビなどは14%の関税がかけられる。これにビックリ仰天したのが日本の財界である。そうでなくとも韓国の追い上げは厳しく、現代自動車、サムスン、LGといった家電会社の追い上げが激しく、困っているところに関税で差をつけられてはたまらんということで、何をしているのかと外務省、経産省をつっついたのは明らかである。そういった声におされて、突然所信表明にTPPが出てくることになっていた。
私は、前のブログにあるとおり、鹿野農水大臣から突然韓国出張を命じられて行ってきたが、韓国は全ての関税をゼロにするということをせずに、二国間で応用がきく、例外を認めさせる自由貿易協定を着々と進めていた。

(日本の思いつきのEPA/FTA)
TPPと他のEPA/FTAとの違いは、完全自由化を宣言し、10年以内に全ての関税をとっぱらうのがTPP。EPA/FTAは二国間で例外措置を設けつつ、なるべく自由貿易を推進していくというものである。
日本も、あまり大国ではなく、結びやすい国、最初はメキシコ、そのあとスイス、シンガポール、チリといった国と結び、つい最近でいうとインド、ペルーなど、13カ国と結んでいる。ところが、全貿易額に占める割合はたった16%である。一方、韓国の場合は最大の貿易相手国中国やライバル日本が入ってないが、45カ国とFTAを結び、貿易額の36%に達し、かつ、米・EUといった大国が入っている。計画的に着々と手を打ってきた韓国と格好だけつけてきた日本の違いである。

(「先対策後開放」という周到な準備)
それに加えて韓国は、チリとのFTAを結んだのを切っ掛けに、国内農業のてこ入れを始め、10年間で9.1兆円の農業予算をFTAが発行する前に注ぎ込んでいる。だからこそ私が韓国に出張した時も、農業団体はそれほど騒いでいなかった。これを「先対策後開放」と呼んでいた。
前原外務大臣に言わせると、日本はGDPが韓国の5倍なのだから、5倍の予算を出してもいいのだそうだ。それにあわせると、約48兆円を10年間に投入することになり、年間4.8兆円の予算となる。現在の農林水産省予算が2.5兆円であり、約倍の予算を10年間注ぎ込むことになる。農業生産額で言うと約3倍ぐらいなので、27兆~30兆になるが、それでさえ今の予算ではとても追いつかないことになる。
こういった事から、韓国並みの政策を打とうということで、官邸に食と農林漁業再生推進本部が設立された。私はその下の幹事会の共同座長を務め、10月の行動計画成案に向けて大忙しの仕事をしなければいけなくなっている。

(スピード審議が必要な実現会議)
少人数で濃密に議論が出来るように、有識者の人数を絞って実現会議を設置した。もちろん茂木JA全中会長とどうしても必要な人たちは入っているが、他はユニークな人達がいる。例えば歌手の加藤登紀子さんは、有機農業の信奉者で、ご夫君(故藤本敏夫氏)と作り上げた千葉の鴨川自然王国の理事をしておられる。第一回の会合は11月30日に開催したが、今後3ヶ月に2回、あるいは月に1回のペースで進めていくことになる。
TPPの事前の情報収集であるが、今のところ当然のことながら、参加を表明しなかった日本には冷たく、傍聴だけさせてくれといった虫が良すぎるお願いは聞き入れられてはいないようである。私は、折角の機会なので、官邸に設けられたこの本部を中心に、駆け足ではあるが、6ヶ月で農林水産行政の今まで足らなかった分を補うべく、大きな改革案をまとめたいと思っている。

投稿者: しのはら孝

日時: 2010年12月15日 12:33