2011.01.08

農林水産

TPPは国の形を歪める -11.1.8- 長野経済新聞2011年1月5日寄稿

【昨年末の流行語TPP】
 昨年の後半1ヶ月余、TPP(環太平洋包括的経済連携協定)が新聞紙上を何度も賑わした。菅総理が10月1日の臨時国会の所信表明において、「TPP等の交渉への参加を検討し、FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)の構築を目指す」ことを明らかにしてからである。FTA(自由貿易協定)、EPA(経済連携協定)は人口に膾炙していたが、TPPは国会議員にとっても初耳の用語であった。

【関税ゼロのTPP】
 TPPは大問題である。シンガポール、ブルネイ、チリ、NZの小国4ヶ国が2006年から関税をゼロにした協定であり、あまり関心も向けられなかったが、09年11月オバマ大統領がTPPに参加して輸出を倍増すると宣言して以来、豪州、ベトナム、フィリピン、マレーシアの4ヶ国が参加表明し、交渉が進められている。日本が参加するとなると、10年以内にすべての物品の関税をゼロにしないとならない。FTAは韓国と米国の例にみられるとおり、米関連の16品目は例外としているなど柔軟性があるのに対し、TPPは超自由化した協定なので、当然農業関係団体から大反対が起きた。
 私は農林水産省の副大臣として、農林水産省の立場を堅持して関係副大臣会合に臨んだ。総理の指示はあくまで「TPP交渉への参加の検討」であり、検討するほど危ういというものであった。

【大打撃を受ける農林水産業】
 農林水産省は早速、国内農林水産業への影響を試算して公表した。農業4.1兆円、林業500億円、水産業4,200億円の生産減少である。農林水産業全体のGDPが8兆円強のなかで、例えば米の生産は10%だけしか残らず、90%(1.9兆円)が減少するとしたものである。
 これに対し、内閣府は3.2兆円のGDP増につながるとし、経産省は2020年には約10兆円増となると公表し、農林水産省の試算は過大ではないかと論争を招いた。

【中山間地域の疲弊は丸太関税ゼロが原因】
 私はそれに対し、林業(木材)を例に関税ゼロの恐さを説明した。なんだ、林業は500億円しか影響を受けないのかという声がすぐ届いたが、生産減が少ない理由は、既に壊滅的影響を受けているからなのだ。
 丸太は1951年、まだ日本が連合軍の占領下にあり、関税自主権がない間、サンフランシスコ講和条約で一人前の国に戻る直前に、多分米国の意向により関税ゼロとなった。その後製材・合板も5%前後に下げられた。その結果、木材自給率は94%から最低時18%に急降下した。この間に丸太価格は4分の1に下がり、生産量も3分の1に減った。
 つまり、日本の中山間地域の疲弊の根本原因は、山の木が売れなくなってしまったからであり、関税ゼロの驚くべき影響は、山村の限界集落化ないし消失(7500余に及ぶ)が如実に示している。

【輸出振興は全盛期の遺物】
 11月中旬、横浜APECの前に開催されたG20では、オバマ大統領が首脳に書簡を送り、輸出振興ばかりでなく内需拡大していくべきだと訴えた。ドル安が続く中でもアメリカの製造業は活力を失い、さっぱり輸出が伸びず、逆に金持ち国アメリカの輸入が増えて困ってくるからである。しかし、一面の真理であり、私は輸出振興などは前世紀の遺物であり、環境の世紀といわれる21世紀には、全く違った形の国造りをしなくてはならないと思っている。

【輸送距離はなるべく少なく】
 その解決策の一つとして、私は2003年からフードマイレージ、ウッドマイレージ、グッヅマイレージといった言葉を使い、環境に優しい生き方の一つの証として、食物も木も物もなるべく輸送距離を少なくすることにあると思っている。この考えを、官邸内に設置された「強い農林水産業推進本部(仮称)」での政策立案に反映していくこととしている。

投稿者: しのはら孝

日時: 2011年1月 8日 11:39