2011.12.20

環境

車を減らし、低炭素社会の見本を世界に示す - 自動車関連二税の議論で考えた長期ビジョン -11.12.20

 2012年度税制改正大綱が12月9日深夜にようやく決着した。担当副大臣がメンバーの政府税調と党税調との兼ね合い等が定まっていない中で、政策決定プロセスは徐々に固まりつつある。残るは消費税で、社会保障と税の一体改革について、年末に向けて議論が行われる。

<垣間見える自動車業界の尊大な態度>
 今回は、車体課税について、いろいろな議論が行われた。従来、消費税の増税前に二重課税になっている感のある自動車関連二課税をもっとスリムにという声があり、党税調は車体課税の廃止・削減一辺倒であった。昨今の歴史的な円高や、東日本の大震災以降の需要の低迷を考えると、むべなるかなと思う。しかし、自動車業界が今まで日本の産業界や経済を支えてきたのだから、大変な時期になった今は、エコカー減税の延長でもTPPの議論でも言うことを聞け、という尊大な態度が見え隠れするのに辟易する。

<自動車関連二税は痛み分け>
 自動車重量税(国税)は、乗用車の場合1.5トンぐらいが普通で大体4万5千円ぐらいかかるものだが、上乗せ部分が半減されれば1万円程度減税されることになった。道路に関する費用に充当する自動車取得税(都道府県税)は、市町村にも振り向けられ、自動車重量税も3分の1は市町村道の道路整備財源として譲与されていることから、自動車関連二税は地方自治体全体が恩恵に浴している。そのためこの改廃は、自動車業界対地方自治体という対立構造を生んだ。結局自動車取得税の廃止は見送られ、自動車重量税の上乗せ部分が削減されることになり、消費税のアップの時には、自動車取得税が見直されるということで、双方の痛み分けのような形になった。
 今の段階では仕方のない決着である。

<温対税を森林面積に応じて地方に配分>
 私は、その際、車関係者と地方自治体の2つの立場を考慮して2つの大局的な(?)意見を述べた。1つは、地球温暖化対策税(温対税)(環境税と呼ばれる)を、経産省と環境省でCO2の排出源対策にだけ使うのではなく、Good 減税、Bad 課税の原則に則って吸収源である森林対策に対しても使われるようにすべきだということである。自動車関連二税が、市町村道の延長及び面積に案分して市町村にも配分されるのと同様に、温対税についても、今度は森林面積に応じて各都道府県、市町村に案分するのがいいのではないか。それならば、森林率が90%近くで財源不足に悩む過疎村ほど多く配分され喜ばれることになる。

<自動車への課税TPPの対米交渉で決まる>
 自動車工業会によると、日本での自動車購入時に掛かる税負担は、アメリカの49倍だそうである。日本の対米輸出は152万台、逆の輸入が1万台という貿易不均衡を考慮すると、重量税は重いアメリカ車への差別だとして廃止しろと言ってくるのは目に見えている。そこで2つ目には、TPPに参加すれば、党税調ではなく、TPPの日米交渉により税率が決められる。つまり関税自主権だけでなく、こういった徴税権まで奪われる可能性があると警告した。

<1000人当り858台は多すぎないか?>
 しかし、私が本当に言いたいことは、もっと長期的な日本のビジョンである。
 日本にいったいどれくらい車があるか考えてみる必要がある。長野県の人口215万人に対して、自動車保有台数は185万台であり、人口千人に対して858台となり、1位の群馬県についで2位である。乗用車だけでも、130万台となる。50年前の人たちから見れば、信じられない車社会となっている。
 この結果どうなったか。地域公共交通機関は廃れ、特に鉄道の利用率ががた減りし、長野電鉄にみられるとおり、次々と廃線になっている。更に悪いことに、拠点ばかりは繋がる新幹線ができるときに、必ず併行在来線の手当てが問題になっている。

<農機具のムダと乗用車のムダ>
 農機具については一軒一軒で持つ必要はない、ムダなことをしている、とよく言われる。しかし田植えの時期も稲刈りの時期も一気にやってくる。だから協同で持ててもせいぜい3~4軒であり、10軒で田植え機やコンバインなどを共有することはできない。それを乗用車に当てはめてみると、1人で1台持っていたほうが便利には違いないが、通勤やレジャー以外にはほとんど使われておらず、1軒に4~5台は巨大なムダである。協同で使ったり、必要な時だけ使ったりする方法を考えればよいのだ。

<長期的には乗用車を減らす>
 もし日本の将来を考えるならば、今は自動車産業が大事だから減税するという後追い的なことではなくて、こんなに狭い日本で自動車が1人1台も必要かどうか、しかと考えてみることも必要である。より具体的には、自動車・乗用車は一家に1台までを無税にし、公共交通機関などはなからない中山間地域等は例外とし、2台目以上には重課税してもよいのではないか。子供手当てで3人目から上乗せするのとは逆である。
都市部であるならば、営業用でない私有の車の走行はなるべく押さえ、Light Rail Transit(LRT)で代替する。EUの都市では、都市部になるべく車を入れないようにするねらいで、LRTが徐々に導入されつつある。私は、京都に路面電車がまだある頃に、学生時代を送ったので、神社仏閣の塀も排気ガスで黒くするような都市にしたくないという別の思いもある。
 また、少なくともレジャーには必要という人には、その時にしか使わないのだから、レンタカーを安く使いやすくすればよい。フランスでは高速料金を高くし、TGVとレンタカーを安くして環境に優しい交通体系を築いている。それから、飲み会の帰り道に運転代行を利用するというのも、公共交通機関を全くなくしてしまった末の、ガソリンと深夜労働のムダ遣いである。時間外労働の問題等が多い代行システムを、見て見ぬ振りにしている交通行政は世界中にあるまい。

<乗り合いハイヤー(又はタクシー)も公共交通機関>
 それでは、長野県のような地方はどうするのか。できるだけ既存の地域公共交通機関を残すばかりでなく、まずは復活・拡充し、かつ安い料金とし、通勤とか病院通いや買い物にはそれを使ってもらうようにすべきである。世に鉄ちゃんや鉄子は多いが、私(農林水産政策研究所長時代)の部下に"駅舎オタク"がいて、長野電鉄の寂れた駅舎のファンなのだそうだ。私自身が通学で3年間お世話になった長野電鉄も、やはり危機に瀕している。一つの風物として定着している長野電鉄も支援したい気持ちでいっぱいなのだ。
 次に注目すべきは、ハイヤーである。過当競争がたたって採算が合わなくなり、全国の総台数は20万台に減ってしまった。逆にこれをフルに使って1軒で数台の車を持つムダを省ける。バスとハイヤーの間という意味で、乗り合いハイヤーを公共交通並みに使うことである。通勤・通学もどういう方向にどういう人たちが向かうのか解っているわけだから、ITを活用し、何人かをひとくくりにして通勤ハイヤーを走らせればよいのではないか。今、宅配便で効率的配車をしているのを真似ればいいだけなのだ。

<車に頼らない社会資本整備に方向転換>
 いずれ超高齢化社会を迎える。車があっても運転できない人が増えるのは時間の問題である、町の病院に通うのに乗り合いハイヤーで4~5人が一緒に行けば割安になり、車中のコミュニケーションもはずむことになる。そうすれば、長野県の乗用車保有台数は130万台から3分の1ぐらいに減らせるはずである。小さな日本、そんなに急がなくともよいし、日本を車や道路で埋めなくともよい。道路整備事業も大幅に減額できる。
 店も病院も何もかもが車を前提とし、競って広大な駐車場を造ったり、駐車場のできる郊外へと出ていき、それが中心市街地のシャッター通り化の原因の一つとなった。これからは逆に中心市街地に日常生活に必要な病院、役所、保育園等を集め、駐車場を抑制して公共交通利用で来なくてはならないようにすればすむことである。つまり脱原発ならぬ脱車社会が必要なのだ。

<財政再建も大切だが、地球環境を残すことのほうがもっと大切>
 今更、そんな不便な社会には戻れないと思うかもしれないが、やはり車の社会的費用は、宇沢弘文の指摘するとおり膨大なのだ。
 13億の中国人が日本人と同じように車を持ち始めたら、もう地球環境は破滅してしまう。かつて中国の朱鎔基元首相は、中国人が車をみな持つような国にしてはならないと心配していた。さすがは超大国のリーダーである、先を見ていたのである。日本のトップが数年先しか見ていないのと大違いである。財政再建で子供に借金のツケを回さないことも大切だが、それ以上に大切なのは地球環境を壊すことなく、子孫に残してやることなのだ。ところが、日本は当面の経済的やりくりのために、次世代を犠牲にしていることを忘れてはならない。
 日本は、大胆な政策転換をしていかなければならない。世界全体でCO2を抑え、環境に優しい生き方をしなければいけないというのなら、それなりに資金力もあり、技術力もある日本が率先垂範してやらなければなるまい。

<世界に低炭素社会の見本を示す>
 その意味では、自分の国の名前(京都)がついて議定書からの脱却は、私からすると目前の利益としか考えられない愚かな環境外交としか映らない。自分の国で怯えている原発を、平気で外国に輸出する無神経さと同等である。
 GDPの約80%を貿易に頼る韓国などに比べ、幸いにして日本の貿易依存率は15%にすぎず、内需でもっている国である。要は日本の中で回っていく仕組みに変えていけばいいだけのことだ。それでは、自動車業界が立ち行かないのではないかといわれるけれども、いつまでたっても自動車にしがみついているのではなく、新しい再生可能エネルギー分野の進出してもらえばいいのである。トヨタにしても、かつては織物機械で大会社となり、それが自動車に転換して世界的企業に成長した。同じことを今度は、環境に優しい技術と例えば再生可能エネルギーの分野で世界をリードしてほしいと願っている。
 世界中に車を輸出し、国内でも車だらけにした超車依存国日本が、車を減らし、環境に優しい低炭素社会を作り、世界に見本を示せば、さすが日本と尊敬されよう。

投稿者: しのはら孝

日時: 2011年12月20日 15:57