2013.03.22

農林水産

押し付けTPPの矛盾と危ういアベロ(舌)ノミクス- 13.03.22

 (今回の質問に対し、もっとじっくりやってほしかった、資料を送ってほしい等いろいろな反響が寄せられたので、かなり長くなるが一気にメルマガ・ブログでお届けすることにした)

 3月18日(月)、6年ぶりにTV中継入りの予算委員会の質問に立った。6年前もたっぷり1時間強、農業者戸別所得補償vs自民党の経営所得安定対策で、主として安倍総理と松岡農相に質問した。
 私のブラック・ユーモアを交えた質問に対し、それなりの反響があり、2人の視聴者から頑張れと献金もいただいた。2人とも同じで、きゃんきゃん言って攻め立てる民主党的質問に嫌気がさしていたが、私のような別の中身で質問する議員が民主党にいるとは知らなかったと同じような趣旨のメモが入っていた。

<野党を忘れる民主党>
 しかし、今回私は、すんでのところで質問するのをやめるところだった。見苦しいので理由をあからさまに言うのは憚るが、質問に当たり、私にとっては、とてもやっていられないと怒り心頭に発する屈辱的な言辞があったからである。しかし、なぜTPPをずっと追いかけてきている篠原が質問しないのだ、と私自身が責められていたし、TPPに反対する人たちから問題点をきちんと指摘してほしいと期待している人たちがいることを思い、じっとこらえて質問に立った。
TPPで安倍政権を責めることが、民主党が参議院選で息を吹き返すことにつながる。というより、それしか起死回生の民主党の復活の手段はないという思いもあった。私は週末もつぶし万全の準備をして臨んだ。
 ただ、前回の半分にあたる30分だけという短い時間であり、あまり意を尽くせなかったので、私がどう安倍総理の矛盾を突き、追求しようとしたか、それなりに工夫した「表現」のサブタイトルごとに説明しておきたい。
 安倍総理は、民主党政権が日米関係をダメにした、TPPを言い出しただけで何も進めなかった、誰かが農業は1.5%のGDPしか占めないと言ったとか、よくあげつらう嫌みの発言をする。そこで私も思い切り「安倍流嫌み反撃」を試みた。

<1.韓国の二番手ランナーなのに韓国の失敗の轍を踏む>
 私は2012年2月、訪韓団長として、韓米FTA阻止闘争委員会の面々とじっくり意見交換してきた。その時私は嫌味な挨拶をした。「韓国は二番手ランナーとして日本のやり方をみて、いいところを真似てまずいところは手を出さない、いいとこ取りで成功してきた。それを今回FTAでは珍しく一番手(フロントランナー)となり、どうもかなり混乱しているらしいと聞いている。日本は今、同じようなTPPに入るか迷っているところなので、教えを請いにきた。」
 これに対して、「そのとおり。今はフロントランナーになるのではなかったと深く反省している。しかし、せっかく我々が迂闊に他の国とは全く違うアメリカとのFTAなど結んでしまい、大混乱に陥り悪い見本を示しているのに、そこにノコノコ入っていこうとする日本の気が知れない。我々が一番手ランナーに慣れていない以上に日本は二番手ランナーの振る舞いを知らない」と見事に切り返されてしまった。
 後で知ったことだが、この鄭東泳(チョン・ドンヨン)委員長は、李明博と大統領を争い大差で敗れた御仁だった。ソウル大卒、英ウェールス大に留学、ロサンゼルス特派員を勤めた花形ニュース記者、金大中に請われて政界入り、岡田克也議員と生年月日が同じだという。2人とも東アジアの国に同じ星の下に生まれ、野党党首になっているところをみると、星占いもそこそこ当たるのかもしれない。ただ、私の「気が合うのか」という質問には、社交辞令もあったのだろう「どうも考え方が違う。あなたとは今日初めてだが、ずっと気が合う」と笑って答えた。昼食会は通訳なしですんだので、正式の会合の3〜4倍じっくり話すことができた。私も初対面ながら相当気脈を通ずることができたが、韓国の苦悩がひしひしと感じられた。

 これを受けて、都合のいいことばかりしかあげない姑息な官僚は、安倍総理には、韓国の混乱を伝えていないのではないかと質した。総理の答えは、韓国は輸出が増えているという、やはり都合のいいことばかりの答弁だった。

<2.押しつけ憲法はダメでも、押し付けTPPには擦り寄る矛盾>
 安倍総理は、誰しも認める保守の政治家である。石原慎太郎前東京都知事ほどではないが、自主憲法論者であり、アメリカの「押しつけ憲法」をどうしても改正すべしと強硬な発言を続けている。
 一方、アメリカはTPPをアメリカのルールを世界のルールにするための道具と考えており、気のいい日本などをISD条項で脅しながら、ルールの変更を迫ってくるのは間違いない。
 日本の伝統文化を守るという政治信条を売りにする安倍総理が、日米両国がタッグを組んで共通のルール作りをするというのだ。この矛盾に、本人も周りも気付いていないのではないか。鄭東泳ではないが、韓国がアメリカのルールを押し付けられて困っているというのに、進んでアメリカのルールを押し付けられに入っていこうとしている。ひょっとすると、8〜9割の合意ができており、日本はただただサインをするだけの余地しか残されていないかもしれない。
 憲法ではあれだけ押し付けられたものはダメだと言いつつ、一方で進んで押し付けられにいくというのだ。真正保守のすることではない。その点では、食の安全のルールなど絶対にアメリカと同じにするわけにはいかないと、TPP反対の石原議員こそ論理が一貫している。閣僚になっているが、保守の論客、稲田朋美議員なども安倍総理の大いなる矛盾を苦々しく思っているに違いない。
 私の最後の嫌みは、1947年のアメリカの善意の押しつけ憲法もTPPのはしりの日米共同作業、あるいはアメリカがほとんど決めたものに日本が乗っかった点で、何ら変わりがないのでは、ということになる。いっそのこと、憲法もアメリカと共通にしたらと言いたくなる。しかし、1947年は敗戦直後で仕方なしの面もあったのに対し、今回は自ら進んでアメリカの軍門に下っていくのだから、ずっと質が悪い。

 これにはまともな返答はなかった。とても答えられないであろう。

<3.4月28日が主権回復の日なら3月15日は主権喪失の始まりの日>
 自らアメリカに押し付けられにいくTPPの中で、最も国辱的なのはISD条項である。私は「さすが自民党、ちゃんと6項目のJファイルの中に入っている」とおだてた。李明博大統領は現代グループの社長からいきなり大統領になり、自らCEO大統領といい、韓国のセールスマンをもって任じていた。池田勇人首相がトランジスターのセールスマンと言われたのと同じだが、李大統領の場合は、政治哲学からして米韓FTAを推進するのは頷ける。
 しかし、安倍総理は日本の真の独立を願い、日本の国家主権を強く主張する政治家である。それを日本国がアメリカの企業に訴えられ、裁判が世銀の下にある国際仲裁センターで行われるという。最近、憲法改正論議で96条(改正には両院の3分の2の発議が必要)ばかりが喧伝されるが、76条(すべての司法権は日本の裁判は最高裁判所...に属する)に違反するのではないか。

 韓国でもISD条項の不平等性は、法律学者からも指摘されており、新しい朴槿恵大統領も再交渉について前政権から引き継がれており、通商担当者は再交渉すると明言している。安倍総理は、サンフランシスコ講和条約で占領から解き放たれた日、4月28日を「主権回復の日」として記念式典をするという。一緒に独立できなかった沖縄は当然猛反発である。鳩山首相を日米関係を壊したと批判するが、沖縄と政府の関係を壊すかもしれない。沖縄への配慮の欠如は明白である。
 その主権にこだわる安倍総理が、韓国が主権を侵されると問題にし、破棄も辞さないとしているISD条項を気にせず、聖域なき関税撤廃だけが格上の公約で、あとの5項目はこれから交渉していけばいいと格下に位置付けている。TPPの本質を全く理解していない証左である。このまま突き進んだら、3月15日は、10年後には主権喪失の日の始まりと称せられるようになるかもしれない。ここに安倍総理の大きな矛盾がある。安倍総理は、自ら進んでISD条項は絶対に受け入れないようにしないと辻褄が合わない。

 この件は、安倍総理は交渉の中でという以外答えられなかった。

<4.李大統領は米韓FTAへの前のめりで没落、安倍総理にも同じ予感>
 「李明博大統領の米韓FTAを巡る栄枯衰退」(前ブログ資料集参照)というA4サイズ1枚の年表を資料にしていた。前述のとおり30分ばかりなのできちんと触れられなかったが、私の意図したのは、下手にアメリカとの交渉に手を出し、不平等な条約を押し付けられると政権も危うくなりますよ、という警告である。
 李大統領は、11年10月訪米し、国賓として迎えられ絶頂期を迎えた。オバマ大統領は米韓FTA実施法も合わせて成立させて歓迎した。李大統領は、FTA大国韓国が日本を凌駕してアメリカを「先占」して「経済領土」にした、と悦に入っていた。ところが、11年11月13日のAPECホノルルでの、野田総理のTPP交渉参加表明にはびっくり仰天、慌てて11月22日に催涙弾の飛び交う中で強行採決し、国民の反感を買い没落していった。与党ハンナラ党には見捨てられ、挙げ句の果てに、竹島上陸という人気取り。それも功を奏さず、あとは完全なレイムダック状態となった。寂しい退任の後、今は逮捕も時間の問題と報じられている。韓国の政権交代時にいつも起るドタバタである。
 安倍総理も72%という高支持率で傲慢になり、野田総理が焦りまくってできなかったTPPに悪ノリした。つまり、今は絶頂期だが、後述するとおりの口先一つで景気が急に悪くなるなど、すぐ転落の落とし穴が待っているかもしれない。
 日本では、TPPに参加することで日米関係が良好になると思われているようだが事実は全く異なる。一般のアメリカ人はTPPなどほとんど知らない。朝日新聞が伝えていたが、記者たちすら無関心である。よくあることだが、日本のいや安倍総理の一人芝居が続いているのである。

<5.日本人の命を守るのは国防軍のみにあらず>
 日本の領空、領土、領海を守るとか国益を守る安全基準の死守こそ大切という気概は、何も安倍総理の特権ではない。私などもっと強く意識しているという自負がある。竹島も尖閣諸島も大切だが、国土の3%を人が住めなくし、16万人に避難を強いている原発事故による国土侵犯は許すわけにはいかない。この類似性がわからないのが、日本のニセ保守である。
 ドイツの脱原発は左翼運動の成果ではない。美しい国土とドイツ人を原発事故による放射能汚染から救うために、保守層が中心になり決断したのである。メルケル首相は、ドイツの典型的保守政治家コールに見出され、第二のサッチャーと比喩されている。つまり、左の社会民主党(シュミット、シュレーダー等)の流れではなく、保守系のキリスト教民主同盟政権が脱原発を決めたのである。日本でも保守派の論客西尾幹二や漫画家こばやしよしのりが脱原発の主張をするのは自然の成り行きなのだ。それを当面の経済成長、つまり一時の経済強国に目がくらみ、原発推進を唱えるのは、ごくごく薄っぺらな保守でしかない。
 日本人の生命を守るのが日本国のトップ安倍総理の最も重要な役割である。憲法9条を改正し自衛隊を国防軍にして日本を守るという考えもあってもよい。しかし、日本人の健康を守る食の安全基準をでたらめなアメリカの基準に下げられては元も子もない。日本人の命が外国の軍隊に攻撃されて失われる前に、いかがわしいポストハーベスト農薬、わけのからない食品添加物、成長ホルモン、遺伝子組み換え食品などで縮められてしまう。このことがわかっているのだろうか。
 事前協議(外務省はそうではないと詭弁を使い続けた)とやらで、日本の自動車の排出ガス規制を守らずに輸入できるアメリカ車の枠を拡大するという妥協が取沙汰されている。事実だとしたら許しがたいことである。中国から偏西風に乗ってくるPM2.5もきちんと中国政府にもの申さないとならないが、アメリカの輸入車に排ガスを撒き散らされてはたまらない。
 食の安全基準や環境基準は、日本が関税引き下げや除外以上に絶対に譲ってはならない分野である。基準の厳しいほうに合わせることを専門用語でハーモナイズ・アップといい、逆をハーモナイズ・ダウンという。もし本当にTPP交渉に参加できるなら、日本の厳しい安全基準に合わせるべきであり、他の国にもっと立派な基準があったら日本もそれに従うべきである。アメリカ国民のためにも世界のためにも、よりきついほうに合わせる方が良いということだ。

<6.アベロノミクスで農業は守れない>
 安倍政権になってからまだ3ヶ月、何一つ政策が具体的に実施されているわけではない。三本の矢、政治は結果だ、日本を取り戻す、自民党には交渉能力がある...美辞麗句が並ぶ。そういえば、TPP交渉に入るに当たって、美しい田園風景を守るといったことを、前任者も盛んに述べていた。口上手で切り返し嫌みが好きな点ではかなり共通点がある。お友達人事で人材活用が苦手という点も似ているし、突然に変な政権投げ出しをするという点もそっくりである。
 アベノミクスではなくアベロ(舌)ノミクスなのだ。ただ、悪いことではない。予算も使わず、ルールを変えるために法律改正に1年かけることもなく、ベロ(舌)だけで景気をよくできるなんて見事である。しかし、注意してほしい。浮かれているのは、株式相場や為替相場であり、いわば虚業の世界のことなのだ。確かに株価は上がった方がよいし、過度な円高は是正されてもよい。ただ、後者は、石油や食料品の高騰で庶民を圧迫する。それに通常は自国の通貨は強い(高い)ほうがよいのだ。
 アベロノミクスも米を何俵出荷したとか、お客が何人きたか、製品を何個作ったかといった実体経済までは動かせない。まして、「はっと息をのむ美しい棚田」(安倍総理の言)は、口先だけでは守れない。
 残念ながらこの差に気付いていない。
 アベロノミクスは、虚飾の上辺の景気をよくしているのは事実かもしれない。しかし、いつまた違う一言、ベロの一出しでガラッと変わってしまうおそれもなきにあらず、例えば、リーマン・ショックならぬ日銀ショックで日本の国債価格が暴落し、とんでもない金融危機に陥り・・といった具合である。
 TPP交渉参加表明は、地方や農民にそこはかとない不安感を与えている。つまり、公約破りのベロが災いを生み出しているのだ。いくら農業は日本の礎だから守ると言っても、コメの収量が増えるわけでもないし、牛も早く太るわけでもない。地方や農民の冷たい視線が浴びせられているだけである。

<7.オバマはTPPで200万人雇用創出なのに日本は何の数字も示せず沈黙>
 オバマ大統領は今年の一般教書演説で、今まで随所で言ってきた「TPPで輸出倍増と200万人の雇用創出」を明言した。それに対し、ブラント米国自動車政策協議会会長は、自動車関係だけで9万人の雇用を失うと、日本のTPP参加には反対している。AFL-CIO(アメリカ労働総同盟、産業別労組会議)は、TPPは雇用喪失につながるとしてずっと反対し続けている。FTAの元祖ともいえる北米自由貿易協定(1994年)で、低賃金のメキシコに近い南部諸州で数十万人の雇用が失われたことを経験しているからである。そして、今はTPPにより、上部・中間層数百万人が職を失うと憂慮している。
 ところが、安倍政権は、国民にそれこそいい加減なメリット・デメリット計算しか示していない。関税のことしか計算していないと言い訳し、参加表明の日に3.2兆円のプラス(GDPの0.66%)だとやっと公表した。国民にその都度情報を開示し、などと言っているが、参加を決断する前の約束さえ反故にしているのだから、今後の交渉内容は秘密の連続になることは目に見えている。そして突然不平等条約を押し付けられるのがオチである。
 ベロだけのアベロノミクスにより、12年度でGDP1%、13年度には2%アップするというのに、こんなに嫌われながら入るTPPが0.66%なのは、働き損のくたびれもうけである。そんなにまでして入るTPPなのかという疑問が生じてくる。
 経済界の大好きな金目で計算してもメリットが知れていることがわかっている。いくら誇大に宣伝しようにもできないのだろう。こんな状況だから雇用増の計算などできるはずがない。そして甘利TPP担当相の答えは、普通はGDPが増えれば雇用も増えるという答えにならないものだった。
 30代以下は反対が多いという世論調査の結果が気になった。若者の漠然とした将来不安に同情せざるをえない。本能的に日本の将来の危機を感じているのだろう。30代以上はもう職を得ているのに対し、これから就職しようとする世代が、ろくに情報もないのに直感でTPPを恐れているのだ。
 このままでは海外投資で製造業は海外に移転していくばかりである。TPPで何でも共通のルールにしていくというなら、いっそのこと労働条件のひとつである賃金も同じにしていったらいい。そうすれば、食べ物同様、輸送コストの比重が大きくなり地産地消(つまり最終消費地の近くで生産する)になっていくだろう。(このところはややこしいので詳細は省略)

<8.アメリカの狙いは金融、投資の自由化、そして労働法制の緩和>
 小国4か国のTPPにアメリカが興味を示したのは2008年、スーザン・シュワブ通商代表の頃であり、金融と投資を入れることが条件だった。つまり最初からアメリカの金融資本が自由に海外投資をして世界の経済を牛耳っていくためのツール(道具)にしようとしたのである。
 21分野とか23とか言われているが、そのなかのひとつに労働がある。表向きは発展途上国の長時間労働・児童労働等は人権上問題があり、アメリカ並みの社会保障なり勤務時間にするなどときれいごとを言っているが、本当の狙いは逆の可能性が強い。
 アメリカ資本(なり企業)が日本の企業を買収したりして傘下に収める。アメリカ並みの従業員など無視した経営をしようにも、日本の手厚い労働者保護規制が邪魔で自由なクビ切りができない。それをTPPでこじあけるのだ。何のことはない。日本の企業経営者が待ちに待っている解雇規制の大幅緩和をTPPという外圧を利用してやろうというのだ。韓国でも既にアメリカ企業ではなく韓国の大企業が米韓FTAを悪用し、中小企業を排除し、労働者をしいたげ始めている。日本の明日の姿なのである。このことは、拙書『TPPはいらない』のP77以下で警告してあったが、こんなに早く顕在化するとは私も思わなかった。
 ダメな産業から成長産業へ労働市場の流動化が必要だという美名の下で、クビ切を自由にできるようにしようと日米の大企業が結託し始めたのである。安倍政権は、いつのまにか日本の国家主権も大企業の特権の保護に向かってしまったようだ。そうした折も折、産業競争力会議の「雇用制度改革」分科会は、TPP交渉参加表明に併せて、経済界の悲願である「金銭解雇」の仕組創設の議論を始めた。そしてようやく連合もTPPのいかがわしさと日本経済界の魂胆に気づいたようである。
 アベノミクスの中で三重丸は、経済界への賃上げの要求である。本来民主党政権こそすべきことを安倍総理がしているのである。物価が2%上がるのに賃金が上がらなかったら、サラリーマンは困ってしまう。賃金労働者のためというよりも、鳴物入りの三本の矢の達成のためだろうが、労働者には朗報である。
 しかし、一方で安倍総理は、その政治哲学とは裏腹に日本をアメリカと同じ体質に変えんとしつつあるようであり、この辺りで歯止めをかけなければ、かつて日本型経営の根幹とされた終身雇用制度は風前の灯となってしまう。AFL-CIOがなぜTPPに大反対するかも知らず、自分たちの企業の尻馬に乗ってTPPに賛成する労組は、自分たちの身の上にとんでもない将来が待ち受けていることに気付かなければならない。

(本件は、時間が足りず質問できなかった)

<9農業の大規模化で地方に大量の日雇い労働者出現>
 安倍総理の3月15日の総理記者会見の半分以上が農業に割かれていた。そして、経済財政諮問会議や産業競争力会議から、いつもの農業の大規模化、農地所有の条件緩和といった提言が飛び出す。よほど腹に据えかねたのだろう。私の前に質問した自民党の小里康弘議員は、農政は我々に任せてほしいと釘を刺した。
 菅政権の10年10月1日の唐突なTPP交渉参加表明は、大半が名前さえ知らず党内手続きなども何もされていなかった。9月17日の組閣を終えたばかりであり、大畠章宏経済産業大臣にすら内容が知らされておらず、TPPには反対した。参院選中の消費増税発言よりもずっとひどい大失態である。つまり端的にいって、思い上がった官邸の暴走である。
 しかし、次の野田内閣と異なり、また反省し、悔い改めることも忘れなかった。すぐさま「食と農林漁業の再生推進本部」を立ち上げた。11月9日のよく出てくる「包括. 的経済連携に関する 基本方針」の原案には「農業構造改革推進本部」となっていたのを、菅総理の農政改革、農業活性化の前向きな思いを込めての命名だった。当時、農林水産副大臣だった私も、当然この動きに加勢した。全中会長、農業経済学者、流通業界代表、ユニークなところでは有機農業の親派の加藤登紀子等を委員にして農政の改革に着手したのである。
 ところが、安倍政権は、口先が先行し、農政改革には何にも着手していない。これこそ怠慢以外の何物でもない。農業関係者や農政に精通した者が誰一人と入っていない官邸直轄の産業競争力会議会合で、同じ口先だけの卓見(?)が新聞紙上を賑わせている。農家戸数を減らし、株式会社に農業をやらせるといこうとだが、そうなると農家をやめる農民はどうなるのだろうか。三井物産ならぬ三井農産株式会社の非正規雇用者、季節労働者とか日雇い労働者になってしまい、農村社会は崩壊してしまうかもしれない。
 残念ながら実物経済の典型の農業は、アベロノミクスでは動かない。いくら棚田は美しいと言っても、機械化もできず、採算も合わず、すぐ耕作放棄地化に拍車がかかる。こんなわかりきったことに何の対策も示されておらず、ますます不安が募るばかりである。それだけ農業を何とかしないとならないと言うなら、農政を改革し、農村に光を当てるべく特別の検討機関を設けるべきではないかと林農水相に応援質問をしたが、新しい会議の答えは返ってこなかった怠慢である。

<結び>
 やはりTVの影響は絶大である。電話、メール、ファックス、そして私のブログのアクセス増と反響が多い。予想した通り、TPP反対の姿勢を明確にしてないというお叱りも数件あった。視聴者の目は確かであり、しっかりと私の内面まで見られている。あとは、農業以外にあんなに問題があるとは知らなかった、説明がわかりやすくやっとTPPの内容がわかった、淡々と問題点を追及している姿勢がよいといった好意的なものが大半だった。
 民主党は野党第一党である。与党の政策の間違いを厳しく追及する野党としての存在感を示すべく、精一杯TPP参加表明の危険性・矛盾を突いた。
 私こそ、TPPを追い続ける者の1人であり、農業や農政のこと、日米共同声明のこと(2月下旬から、3月上旬のブログでいろいろ述べた)、でたらめメリット計算など山ほど質したいことがあったが、他の議員がほとんどやっているので、そうしたことには一切触れず、私独自のものにした。しかし、今回は、十分意を尽くせなかったのでその補完の為、少々長い解説をしてみた。TPPを考える素材の一つにしていただければ幸いである。

投稿者: しのはら孝

日時: 2013年3月22日 17:42