2013.09.19

農林水産

TPP交渉の行方シリーズ2「守秘義務と国民への説明のどちらが優先されるか -情報開示の進むマレーシアと全く不透明な日本-」 13.09.19

<日本は守秘義務を盾にほとんど公表せず>
 政府は、交渉に参加する前は、協定文書も読ませてもらっていないので何もわからないと言い訳し、参加した後は秘密交渉だからといってTPPの内容をほとんど開示していない。WTO交渉の場合は、議長提案とか○○国提案が出され、常に要所要所で交渉の状況が明らかにされた。さもなくとも中身がわからず、国民、特に地方の人々や農民に不安を与えている。かくして国民に情報を与えないまま、政府だけが暴走を続けている。

<積極的に説明をするマレーシア>
 それに対し、立派なのはマレーシアである。遅れて3回目から参加したが、7月の18回の全体会合の主催国となり、自国の考えをいろいろな時に明らかにしている。交渉の中身(例えばA国がこういう提案をしたのに対し、B国はこう逆提案したとか、この問題についてはC、D、Fの3か国が賛成し、G、H、I、Jの4か国が反対している)を明らかにすることはルールに反するが、自国の提案や見解を国民に明らかにするのは何も問題にされることはないとの判断に立っているからだ。何よりも国民との情報共有を優先している。
 今回も、日本でも報道されているが、タバコ規制についてはISDS(投資家国家間訴訟)の対象としないという提案を行い、それを堂々と明らかにしている。8月27日に開かれたステークホルダー会合(関係者会合)でも、マレーシアのNPOとワシントンDCに本部のある「子どもをタバコの害から守る会」の2つがその考えを明らかにしている。マレーシアのNPOの発表者とは2回会合を持ち、TPPが国の政策を歪めるのを阻止するために力を合わせていこう、ということで意見が一致した。
 アメリカもタバコ規制に関する新たな提案を行ったが、その内容をホームページで公表している。また、何人かの有力議員や関係団体には、部外秘を条件に協定案文を見せて詳細に説明しているという。民主主義国家では当然のことである。

<国民との情報共有ないままで批准はできず>
 日本は、懸案の関税オファー(提案)を80~90%で数か国としたこと、甘利大臣が漁業補助金の廃止について反対を表明したこと以外は、ほとんど具体的開示がない。どこの国と関税オファーをし合ったかも口をつぐんだままである。
 このまま突き進んで、いきなり協定文をドサッと国会に提出されても手遅れなのだ。国民は何も知らされず、国会は批准するかしないかを決めるだけとなる。9月5日に開かれた自民党の「TPP交渉における国益を守り抜く会」(森山裕会長)でもあまりの情報不足と安倍首相のアメリカ追従に怒りの発言が続いたのも仕方あるまい。我々民主党の「TPPを慎重に考える会」は与党の責任として、野田内閣の暴走を喰い止めてきた。与党自民党・公明党には、政権与党の良識ある議員の奮起を促したい。国益に反するTPPへの加盟は絶対阻止してもらわねば、衆院選の公約違反である。

<署名するだけの14章という事実も国民は知らず>
 ブルネイ会合でますますはっきりしたことは、日本が既に固まった協定の条文には何も言えないということである。マレーシアは6月に既に29章のうち14章はほとんど議論を終了したと発表しており、今回開催されなかった「税関手続きの簡素化」等の分野がそれに当たる。争点のない分野といえばそれまでだが、日本がルール作りに参加すると言っていたが、実はただ署名するだけに終わるのだ。しかし、こんなことは遅れて参加したからと、カナダ・メキシコに突きつけられた条件(合意済み事項は覆さず、交渉を不当に遅らせた場合は交渉を終える等)でわかっていたはずである。ところが、こうして重要なことも本当のところは少しも国民に開示されていない。

<国民不在の恐ろしい結末は許されず>
 政府はブルネイでも一応26,28,29日と関係団体への説明会を開き、毎回記者会見を開いてはいたが、形式だけで対応全容は明らかにされない。そして、今後は、このようにオープンな全体会合は開催されず、官僚だけの分野別会合とワシントンの主席交渉官会合(9月18~20日)だけで、APEC(10月7,8日)の大枠合意になだれ込むつもりである。
 この数ヶ月、大学教授と弁護士がやっとTPPの危険性に気づき動き出してくれた。しかし、残念ながら国民不在のまま、そして国会軽視も極まれりである。国民の間で議論が深まっていない。私はこのまま国のかたちを歪めるTPPが進められるのを看過するわけにはいかない。

投稿者: しのはら孝

日時: 2013年9月19日 09:51