2014.02.18

経済・財政

「TPP:決裂して中断か、ごまかしだらけの大筋合意か」予算委員会報告5(兼TPP交渉の行方シリーズ15) -14.02.18-

 2月15日、舌癌の手術を終えていれば病み上がりの甘利TPP担当大臣が訪米した。2月22~25日にかけて行われるTPP閣僚会議(シンガポール)に備えて最後の詰めを行うためである。私からみると、フロマンUSTR代表から呼びつけられた感がないでもない。押されっぱなしのTPP交渉を象徴するようなことといえる。
 会談後、日本の農産物関税の撤廃について「両国の立場の隔たりを狭めることの重要性について」合意したと発表。アメリカの関心の高い日本側の自動車市場開放については「いまだに立場の隔たりが残されている」と強調。何のことはない。さして進展が見られなかったのだ。

<12月会合は意図的に決裂させたアメリカ>
 前号のブログ・メルマガにも書いたが、アメリカが12月会合で本当にまとめる気があったらまとめられたはずだ。つまり、強硬な主張にこだわり続けるアメリカが譲歩すればまとまったのである。ところが、少しもそうした素振りは見せず、相変わらず原理・原則ばかり述べていたという。例えば、関税ゼロの例外は絶対に認められない。つまり米の関税も即座にゼロ、というとんでもない主張を続けたのである。安倍首相の13年2月22日の大手柄(?)の日米共同声明が全く嘘だったということである。

<高飛車な安倍首相発言>
 こんな状況だから、予算委でも記者会見でも安倍首相がTPPに触れることはほとんどない。安倍首相はどうも調子のいいことは長く喋っても、まずいことについては触れたがらない。決してすみません、見込み違いだった、といったお詫びをしないのだ。もともと背が低い上に、さらに腰を低くして、文字通り平身低頭だった竹下元首相と大違いである。竹下元首相は「国会議員は言語明瞭・意味不明瞭」などと少々不謹慎なことを言っておられたが、答弁は丁寧そのものだった。
 それに対し、安倍首相は言い返すことに快感を覚えておられるのではないかと思いたくなるぐらい、反論に力を入れている。一強多弱という国会の中で大人げないといわざるをえない。野党のいい意見・指摘には敬意を表し、少々おかしな質問にも丁寧に答える余裕があってよいのに逆である。得意分野(憲法改正)については、質問に答えず自論を延々と述べ、そこに自慢話と民主党(政権)へのあげつらい発言が加わる。あまりいただけないやり方である。

<リード民主党院内総務のTPA反対宣言>
 アメリカでは大きな動きがあった。
昨秋、議員が、大手600社に交渉の情報を流して相談する一方、議員に何も知らせないという、あまりのTPPの秘密性に怒り、150人を超える議員が、大統領に抗議の書簡を送りつけた。TPPに反対するにしろ賛成するにしろ、内容もわからないのに決められるかという当然の怒りである。こんなことではTPA(Trade Promotion Authority、貿易促進権限法)は通せないという通告もあった。
 私が、予算委で甘利TPP担当相にこの件を質問すると、「日本でいうと石破幹事長が法案に反対するようなことになっている」と、リード民主党院内総務のTPA反対を嘆いた(いつも私が主張しているとおり、二大政党制が確立したアメリカには、党議拘束が無い)。

<業界は安易な妥協を許さず>
 もう一方では、TPPを強力に推し進めたい業界も不満を言いはじめた。オバマ大統領が今年11月の中間選挙に向けて、TPPを目玉にしていることから安易な妥協をしかねないと不安になり、下手な妥協はしてはならないと釘を指したのである。
 私が行ったブルネイでは、医薬品業界がstakeholder会合に出席していた。それに対し日本は経団連等経済的団体だけで個別の業界は来ていなかった。彼らは必死で医薬品の知的財産権を保護し、高く売りつけようとしている。農業団体も関税ゼロの例外など絶対に認められないとネジを巻いている。
 かくして、オバマ大統領のためには、つまり中間選挙で民主党が勝つためには早期合意が必要だが、業界団体は譲歩を許さない。また、議会はどっちにしてもTPPと批准してくれそうもないという三重苦になり、フロマンUSTR代表は身動きがとれなくなってしまったのだ。

<来日したアメリカの議員の本音>
 1月早々、日米韓議員交渉会議が2日間にわたって開かれた。英語で議論するちょっと変わった会合であり、私は日本で開かれる時は時々出席してきた。今回もいろいろ別の仕事があり、出たり入ったりだったが、意見交換のよい機会なので出席した。
 民主党2人、共和党2人の議員が参加していた。TPPについては、もうアメリカで議論できず、中断の可能性大、再開するにしても中間選挙後の15年1月以降ということで、意見・見通しが一致していた。
 私が、12年4月に桜井充、吉良州司両氏と米加両国に出張し、選挙区のシアトルまで出かけていって意見交換したジム・マクドーモット氏(民主党)は、「農村漁業関係者は賛成、それに対しボーイングの労働者は、外国から部品が調達されるようになり、仕事が失われると大反対、従って議員は選挙を控え動けなくなる」と述べた。このことは全ての議員にもあてはまり、USTRはもう動けなくなっていると付け加えた。

<有権者には売りにならないTPP>
 日本でも安倍政権は、TPPを第3の矢の目玉と位置づけているが、そんなことにはならないと思う。何より即効性はないし、経済にどのような影響を与えるか定かでない。経済界、特に輸出業界は円安が相当有利に働き、TPPなどなくとも業績が上向き、トヨタに至っては史上最高の収益をあげているのである。
 それはアメリカでも同じだ。ただ一つ、TPPにより輸出倍増で200万人の雇用を創出するというのが国民への売りだが、AFL-CIO(アメリカ労働総同盟・産業別組合会議)からは逆だと大反対されている。アメリカでもTPPは、一部の企業のためでしかないとみられており、広く国民の支持はない。

<フロマンUSTR代表の悪だくみ>
 1月31日の予算委では、私は岸田外相に見通しを質したが、あまりパッとした返答がなかったので、以下の2つの見通しを述べた。
 まず、第一の可能性は、交渉馴れしたアメリカは、今や交渉決裂を画策し始めたのではないか、と私は疑っている。しかし、これだけ力を入れ、自ら強引にリードしてきて、今の段階で放り投げてはあまりにも無責任である。そこで、日本を犯人に仕立て上げ、日本が強硬すぎてまとめられなかった、と言い訳するシナリオを作ろうとしているのではないか。となると、TPPもWTOドーハラウンドと同じく漂流していくトンデモナイこじつけである。
 これに日本も乗ることが考えられる。必死で5品目を守ろうとしたからTPP交渉がまとまらなかった、政権60年の経験を活かした外交力により約束は守った、と言い訳できるからである。

<内容がない大筋合意というゴマカシ>
 もう一つ、日米双方とも傷がつかないゴマカシが、「大筋(大枠)合意」である。
 この場合、アメリカは合意をとりつけた、と中間選挙用の売りができる。日本も第3の矢ができたと嘘がつける。しかし、中味はというと、関税については今後協議を続けるとか、知的財産についても米・EUのTTIP(貿易投資協定)の交渉と整合性をとるためしばらく延期とか言訳して、先送りすることである。

<日本だけが譲歩を続け、公約破りになるおそれ>
 昨日(2月17日)、甘利TPP担当相は記者会見で、日米がお互いにカードを切っていくと発言した。それを受けて新聞各紙は一斉に、コメと砂糖類は守るが、牛・豚肉・乳製品について譲っていくと報じている。5項目に係る586品目全てを完全に守れとは自民党公約は言っていないが、新聞報道のとおりのカードなら、段階的な関税撤廃も認めないという衆参農林水産委員会決議違反は明らかである。この他、アメリカは日本の車の安全基準の緩和を求めているという。こんな所で譲るわけにはいかない。
  いずれにしても2月22-25日のシンガポール会合で決まる。日本の国会予算委で大忙しだが、TPPからは目が離せない。

投稿者: しのはら孝

日時: 2014年2月18日 10:34