2014.07.10

農林水産

アベノミクス農政批判シリーズ6 「規制改革会議提言逐条(項目)反論コメント2」 14.07.10

<国の機関に入り込み好き勝手な提言をする厚顔無恥>
 前号で、経済界は自ら提言することをやめ、国の機関である規制改革会議の衣を繕って注文をつけだしたと書いた。しかし、よく考えてみると産業競争力会議も含め、これらを乗っ取り、そこをひっかきまわして提言しているといってほうが正確かもしれない。これは、利益相反どころの話ではない。政府を思いのままに操っていると言ってよい。(アベノミクス農政批判シリーズ4「安倍政権の〇〇会議は利益相反だらけ -企業に大甘の政策決定プロセス-」14.07.01)
 強引な政治手法のさえたるものである。国民に選ばれた我々国会議員を蔑ろにして、安倍政権が勝手に選んだ者に牛耳られているのである。民主主義の危機である。
 しかし、厚顔無恥は更に極まっている。その政府機関のメンバーが、また別途『経済成長フォーラム』なる組織を作り、更に好き勝手放題の提言をしているのだ。

<政府機関から罷免に値する経済成長フォーラムメンバー>
 新波剛史、八田達夫、本間正義(以上、産業競争力会議及びその分科会)、太田弘子、金丸恭文(規制改革会議)、高橋進(経済財政諮問会議)が、その面々である。
6月13日の提言後、6月20日に『企業の農業参入促進』のための提言-参入規制の緩和と製造業の生産手法導入をー』を出している。何が問題かというと、政府の2つの機関で自らメンバーとなって提言をまとめておきながら、その舌の根も乾かないうちに、その提言に盛り込まれなかった事項を入れ込んで提言しているのである。それでは一体政府の提言は何だったか、どこが違うのか、国民を混乱させる公私混同である。他の民主主義諸国では、こんなデタラメは絶対に許されないだろう。学者・評論家・財界人としての矜持も何もみられない。
 私は、絶対にどちらかは辞めるべきであり、両方で適当なことを言い、異なった提言を出すのは許されないと思う。

<総括論>
① 農地中間管理機構の創設
 ×今まで、いろいろな農地活動化の手段を講じてきたが、うまくいっていない。
この新組織も、行き場のない農地を抱えて、公的負担だけが増すお荷物になるのではないか。例えていうならば、全国で赤字にあえいでいる林業公社と同じ運命を辿ることが予想される。
 ×生産性の向上は大規模ばかりで達成されるわけではない。水田耕作や一部の畑作を除く、野菜・果物生産は規模拡大などできない。例えば長野県の果樹農業は、せいぜい2~3haが限度でそれ以上はやれない。このことが少しも考えられていない。
 ×新規参入ばかりもてはやすのは偏りすぎ。
 ◎農家に生まれ農村に育った後継者こそが希望を持って、農業に取り組める政策こそ重視すべきである。

② 農業委委員会等の見直し
 ×農業委員会の業務は農地利用関係ばかりではなく多岐にわたる
 ×農地利用最適化推進委員は農業委員と屋上屋を重ねるのみ

③農地を所有できる法人(農業生産法人)の見直し
 ×企業化と新規参入ばかりが前面に出すぎている。
   (企業の農地所有を諦めたが、農業生産法人を常設して普通の企業並みにし、農地所有をしようとしている。)

④農業協同組合の見直し
 ×地域の農協(単協)を持ち上げつつ、700の単協と勝手にビジネスをしようとしている経済界(一般企業)は、そのライバル(邪魔な存在)の県レベル(経済連)、全国レベル(全農、全中)の力を削ごうとしているだけ。

<個別編>
③農地を保有できる法人の見直し
  ア.(役員要件・構成要件の見直し)
  ×農業生産法人であるにもかかわらず、農作業に従事する法人には重要な使用人が1人いればいいように改正するというユルユルの条件を求めている。それでは普通の株式会社とほとんど変わらないではないか。
  ×構成要件も出資者も農業関係者を少なくする方向を目指しているが、人数も出資者も農業関係者以外が過半を超えれば上記同様に農業生産法人ではなくなってしまう。
   (農業生産法人の経営権を握り、実質的に企業の農地所有をしようとしている)
  ×もとの提言にあるように、一定期間(5年)農業に従事した法人は農地所有を可能としてゆくのは。一般の企業にも開放するための要件緩和であり、蟻の一穴となってしまう。
  ◎むしろ条件を厳しくして、農外企業の専横を許さないようにすべし。

イ.(農業拡大への対応)
  ×農地は保有しなくともいくらでも借りて規模拡大ができる。
(欧米は所有にこだわる者は少なく、大半が借地で農業をしている)
  ×ここにも是が非でも農地を所有し、転売利益を得たいという魂胆がみえている。
   (当初の案では農地の権利移動を農業委の許可制からほとんど意味のない届出制にしようとしていた)

④農協の見直し
 ア.(中央会制度から新たな制度への移行)
  ×(皮肉めくが)全中も県中も端から見ると影響力は大きくないが、さりとて重要な役割をはたしており、なくてはならない存在になっている。
  ×中央会制度が単協の自立を妨げているとの前提のもとに、他の法人法制に移行するとしているが、そもそもの前提が何か全く不明。自立を妨げているのは、むしろ後述する理事の選挙を認定農業者にする上から目線の規制改革会議の提言ではないか。
  ×中央会制度が単協の自由な経営を制約している事例が思い当たらない。
  ×もしも、中央の統制が単協の活動を制約してきたというなら、それは全中や県中でなく、農水省の農協所管部局ではないか。
  ×また、米の生産調整等の農政課題については、国が中央会に総合調整機能を任せて来たではないか。それを指導力を発揮させていないというのは矛盾も甚だしい。
  ×700の単協だけにしてしまい、あとは一般企業が経済連や全農に代わりその単協を相手にしてビジネスを展開したいという意図が丸見えである。

イ.(全農等の事業組織の見直し)
  ×一部の野菜等については、大手スーパーとの相対取引が増え、農産物は価格形成に大企業が影響力を行使している中、協同組合の理念に基づいた農協組織が共同販売で対抗しなければ、ますます農民や農村の立場が不利になってしまう。(つまり買いたたきが助長されてしまう)
  ×唐突に全農、経済連の株式会社化が提言されているが、農業者の利益増進以外の理由が示されていない。
  ×農業全体を一つの株式会社にでもするつもりなのか。
  ◎全農・経済連の下に既に多くが株式会社化しているが、本体は「1人は万人のために。万人は1人のために」という協同組合精神にのっとった組織でなければならない。
  ×地域の協同組合という組織の理念が全く理解されていない。
  ×経団連(一般企業)が全農・経済連にとって代わって農業ビジネスに参入したいという悪い意図が最も露骨に示されている。農協は組合員のための組織であり、株式会社にははいらない。

ウ.(単協の活性化、健全化の推進)
  ×農協は経済事業のためだけにあるのではない。金融、共済、営農等総合事業が必要。
  ×金融機関としての農協(JAバンク)、保険会社としての農協(共済)の仕事を何とかして経済界がとって代わろうとする提言であり、農業所得の向上や農業の活性化には全く結びつかない。
  ×「農協が経済界とも適切に連動して」の文言に経済界が経済連と全農に取って代わり、単協相手に商売をしようという魂胆が丸見えである。
  ×企業は利益の上がる単協しか相手にせず、他は切り捨てることは目に見えている。そこには協同組合でお互いに助け合うというシステムが存在しないからだ。その結果、利益だけを追い求めざるをえない。単協も、零細農家や手間のかかる中山間地域の農家は相手できなくなり、中山間地域はますます疲弊することになる。
  ×イの前段には、抽象的なことばかり書かれているのに対し、具体的なことは有利販売の数値目標と生産資材の調達先の効率化という2つのみ。後者は要は全農組織から購入せずに企業から直接買えということであり、あまりにも露骨である。
  ×総合事業がなくなれば、単協は成り立たない。
  ◎金融事業、共済等の利益で手薄になりつつある営農事業を活性化しないとならない。

エ.(理事会の見直し)
  ×正組合員が担い手ではない、という全く意味不明の論理が展開されている。(素人の文章でしかない)
  ×要するに農業に無関係の部外者を理事にしろと、おおきなお世話の介入をしている。組合員の自主性、単協の自立性を重んじると言いつつ、構成員にまで縛りをかけているのは大きな矛盾である。
  ×特に農業委員会と並び認定農業者を議席の半分にしろという介入は、規制のさえたるものではないか。それではメンバーの多様性がなくなるのではないか。
  ○理事に若い世代や女性の役目とあるが、理事は組合員が自主的に選ぶものである。規制改革会議が案件をつけるものではない。
  ×メンバーの構成員という組織の根幹に介入することは「規制をなくす」という規制改革会議の本分にもとる。

オ.(組織形態の弾力化)
  ×1人何役も兼ねている郵便局員が分社化により大混乱に陥り、また再び元に戻しているというのに、また「農協の分社化」が重視されている。いい加減同じ間違いをやめるべき。
  ×営農指導員が、ある時は融資担当にA農家が融資法先にふさわしいかアドバイスし、一斉貯金日には、顔馴染みの農家を回って貯金集めをし、時には安い資材の説明もするという1人何役もこなしている実態がわかっていない。
  ×農林中金・信連を単なる金融機関としかみておらず、全共連も保険会社としかみていない。根本は協同組合である。(生命保険会社も、元々は相互扶助的組合だった)

カ.(組合員のあり方)
  ×農業だけでは生計が立てられないため、兼業化し、更に農業から離れていった者が多くあり、それが准組合員が捉えている一番の理由である。しかし、元農民として農民的気質を持っているのであり、準組合員の拡大は何も問題にする必要はないのではないか。
  ◎准組合員や員外利用問題も槍玉に挙げる気配が感じられるが、地域の協同組合の役割を積極的に評価していくべき。
 
キ.(他団体とのイコールフィッティング)
  ○農協が行政の下働きをさせられているという指摘はある程度当たっている。
  ×ただ、農協が手助けしなければ、動いていかない事業も多くあり、ある程度仕方がないのではないか。これが農協がいかに地域全体を支配しているかという証しになっているのではないか。

投稿者: しのはら孝

日時: 2014年7月10日 20:30