2015.04.24

外交安保

【TPP交渉の行方シリーズ31】TPPに入った為替(通貨)条項‐国家主権を踏みにじるアメリカの主張‐15.04.24(4月-5)

<かつては中国等が標的>
 為替操作条項については、TPP交渉の行方シリーズその20(14年12月6日)にもうすでに書いているが、これが再びTPAの中に書き込まれている。そもそもこの為替操作というのは中国が「不当に安く評価し、アメリカに輸出洪水をしている。中国はけしからぬ」ということで言われるようになった。1990年代のことで、クルーグマンが後押しした。他に台湾・韓国が為替操作国に認定されたことがある。しかし、日本は対象にされたことはなかった。

<TPPとともに日本が標的>
 ところが最近TPPにからみ、俄然日本が対象にされだしたのである。2013年4月アメリカの自動車業界は日本が意図的に円安にし、日本の自動車メーカーの競争力を高めていると難癖をつけだした。それに応じる形で、レビン下院議員(民主党ミシガン州)が日本が為替操作をしていると公然と批判し、16人のミシガン州選出議員団がTPP交渉でも為替操作についても問題にすべきだと主張し始めた。さらに5月には、アメリカの企業・労働者・農業経営者に公平な場を確保すべきだと言ってディンケル(民主党ミシガン州)・クロフォード(民主党アーカンソー州)等超党派議員団の200人が大統領に書簡を送っている。
 14年になってもマット・ブラウンAAPC会長が、「為替操作によって、最も有用な貿易黒字も台無しになりかねない。TPP最終合意には政治介入でなく、市場が為替レートを決めるという規定が必要だ。外貨保有や外国資産家介入を透明化するよう、日本にだけでなくTPP加盟国に要求し、違反には関税上の優遇措置を最低1年間停止すべきだ」という主張を繰り返した。1ドル78円から120円への円安は関税が40%近く下がったと同じ効果があり、アメリカの嘆きもよくわかる。

<アメリカの通貨当局は反対>
 しかし、流石政府内でも拒否され、オバマ大統領は歯牙にもかけず、イエレンFRB議長も金融政策に支障を来しかねないと拒否している。TPAを通さんがために、全く同じ条文で非常にフワッとした書き方で、TPAには入っているが、政府間ベースで要求されたことはない。当然である。今どきTPPに入れるとなるとこれからまたそのことについて交渉しなければならなくなる。TPAに詳しい規定を入れることも考えられたようだが、抽象的なものにとどまっている。従って、三番目の道、やるなら別途法律をきちんと作らなければならないということになる。

<アベノミクスの否定につながる>
 但しそこが問題で、レビンの案はピーターソン国際研究所の論文に基づいており、序文では経常黒字が存在し、6カ月部分の輸入代金に相当する外貨準備を持つ国がその対象国とされている。そして罰則は、関税をWTO合意水準に戻すこと、それから為替介入をして、この為替を輸出競争力を失う水準になる姿にまでもっていくことになっている。このルールを当てはめると、日本は2005年から2010年の毎年この対象国であり、マレーシアは3年間、ペルーは3年間、シンガポールは1年間対象候補になる。それよりも何よりも、円安誘導で輸出増大しているアベノミクスそのものを否定されることになる。

<ISDに次ぐ国家主権の侵害は受け入れられず>
 4月21日にはルー財務長官が議会幹部に、TPPに為替操作を禁じる強制力のある条項を盛り込もうとすれば、交渉が困難になる、と書簡を送っている。また、ファーガソン ハーバード大教授は、「過去20年間GDPが増えていない日本はある程度仕方がない」と円安を認めている。従ってこのような荒っぽい為替操作条項は、TPPにはとても入る見込みはないとは思われる。4/24の内閣・農水連合審査会で甘利大臣に質したところ、TPPの交渉には持ちこまれていないと明言した。アメリカの学者のほとんどは、自分の首を絞めることになると反対している。
 ただ、将来これが本当に実現するとなると大変なことである。加盟国の国家主権を侵すことになってしまう。こういったことまで妥協してTPAを進めるべきかというと私は甚だ疑問である。

投稿者: しのはら孝

日時: 2015年4月24日 20:41