2015.10.15

外交安保

【TPP交渉の行方シリーズ47】TPPの大筋合意は本当の合意なのか-15.10.15

<前代未聞のAgreement(合意) in Principle(原則)>
 2人のノーベル賞学者が生まれるという嬉しいニュースの中、TPPの大筋合意は私の落胆する知らせであった。ネクタイ嫌いなのに真夏も意地を張って"STOP!!TPP"ネクタイをし続け、"NO!TPP"バッジも外さずにきた。つい先日は、「さすが篠原さんの呪縛が効いたのか、TPPは漂流しそうですね」と同僚議員から声をかけられていたというのに、9月30日から2日間の予定を4日も延長された上での、いかがわしい合意ができあがってしまった。日米両超大国の政治的思惑が一致で捏造された前代未聞の国際協定である。

<TPPは未だ決着せず>
 端的な予測を述べれば、いくら安倍首相が悦に入り、甘利担当相が得意がっても、アメリカ議会と国民の反対により議会承認されないおそれがある。そして仮に発効しても日本にとって経済的メリットはほとんどなく、地方なかんずく農山漁村がますます疲弊してしまうのではないかと危惧している。
 政府間ベースで署名したとしても、それで条約協定が成立するわけではない。日本でもアメリカでも承認されないことには批准されず、発効しない。私はこれからも"NO!TPP"バッジと"STOP!!TPP"ネクタイを身につけてTPP阻止に向けて戦い続けることを宣言しなければならない。

<合意に突き進み、国益を追求しなかった甘利担当相>
 実は、私は今回はアトランタに行くつもりだったが、JAみなみ信州の一泊しての講演会の予定がずっと先に決っていたため(優しい組合長は数日前に会館に来られた折りにキャンセルしてもかまわないと言ってくれたが)断念し、日本でハラハラしながら交渉経緯を見守っていた。
 甘利担当相は、まじめに国益確保のための交渉をやっていない。他の国が最後の最後までしつこい(?)交渉(last minute efforts)を続ける中、3日に早々と大筋合意できる見通し、と記者会見し、以降日本へ交渉団はほとんど動かなかったという。それもそのはずである。前回のマウイ島会合が最後だと公言し、日本は切り札を全て切ってしまったのである。いや日米2国間協議にいたっては、ひょっとすると14年4月のオバマ訪日の折りに大半が結着していたのかもしれない。日本は国益確保などそっちのけで、ひたすら合意成立のみを追い求め、ひたすら妥協を重ねただけなのだ。
 それを甘利担当相はアトランタでは「行司役に徹した」などと報道されている。噴飯物である。
 こういうタラレバは言ってもせんなきことかもしれないが、民主党が政権与党で、私が担当大臣なら、最後まで手の内は見せず、最後の最後まで譲らずこんなドジは絶対になかったのにとほぞを噛んだ。

<したたかなアメリカ>
 19回を数えた閣僚会合もアメリカで開催されたのは最後の2回だけ。最後はまとめとしてアトランタに呼び込み、フロマンが2国間交渉を次々にこなし、交渉内容は他の国にも知らせない。だから、どこでどのような妥協が行われているかわからず、ほとんどアメリカベースで交渉が行われたのだ。
 かつて世界中が参加する交渉は、アメリカとEUの2大国が手を握れば決着がついた。典型がウルグアイラウンドである。ところが、次のドーハ―ラウンドは様相が一変した。ニューデリーで妥結寸前まで行ったのに、中国・インド・ブラジル等 BRICS諸国が反対し、決裂してしまった。それ以来、ドーハ―ラウンドは漂流中であり、その後は2国間あるいは3国間の自由貿易協定(FTA)ないし経済連携協定(EPA)がとって代わっている。
 ところが、アメリカは日米経済連携協定を嫌がった。そうした中でアメリカが目をつけたのが、TPPの前身のP4協定である。地域協定の衣をはおって日本をおびき出し、アメリカが牛耳って意のままになる地域協定を造ることであった。

<罠にはまった菅・野田内閣と嘘ばかりの安倍内閣>
 この罠に格好いいことをしたくてしょうがなかった菅・野田政権がまんまとはまりかけた。私は菅内閣の農水副大臣として菅首相に相当強い意見をし、官邸に「食と農林水産業再生本部」を立ち上げ、災い転じて福となすべく農政の梃入れをせんとしたが、11年3月11日の東日本大震災で頓挫してしまった。その後は、「TPPを慎重に考える会」を組織し、与党内で大反対を続け、交渉には参加させなかった。しかし、12年末総選挙を「TPP断固反対」のポスターを全国各地に貼りだした自民党が、政権の座に着くや豹変し、13年4月には交渉に参加、今日に至っている。繰り返したくないが、今日まで自公政権は、後述する国会議決違反をはじめ嘘を突き通している。泣かされるのは、地方の人々そして農民である。

<重要5品目以外はもっと妥協という現実>
 安倍首相は関税ゼロの例外を認めさせたから、国会決議は守ったと言い訳している。安保法制により日本の抑止力が高まり、自衛隊の海外活動も安全になった、というのと同じ強弁でしかない。どの農民が信じるだろうか。一つならまだしも、これだけ続いたらとても信じてもらえまい。
 数日後に、重要5品目以外の農産物の関税も次々と撤廃されることが明らかになった。私の地元にかかわるものからいうと、ブドウの7.8~17%を即時に撤廃、りんご17%を11年目に撤廃することになっている。こんなところでも知らぬ間に大きな妥協が行われているのである。
 正直なところ、私にはどれだけの影響があるのかわからない。しかし、結局日本国政府は農業を守ってくれないと農民が落胆し、不信が増大していることは間違いない。これではとても地方創生どころではない。

投稿者: しのはら孝

日時: 2015年10月15日 18:53