2016.02.15

政治

【選挙制度シリーズ3】格差対応で左と右に分かれるアメリカの大統領選 -日本では格差がなぜ問題にならないのか- 16.02.15

<世襲がはびこり硬直的な日本の政界>
 アメリカ大統領選の火ぶたが切って落とされた。アメリカの銃社会や金融資本主義の跋扈をみるにつけ、狂いつつある変な国ではないかと思うことが度々ある。しかし、大統領選挙の民主主義的プロセスをみると、やはりきちんとした大国だと見直すことが多い。今回はその感を特に強くしている。総裁選に野田聖子を出馬させないように圧力をかけて無投票再選に持ち込む、安倍ジョンウン体制(?)の国とは段違いである。
 日本ほど世襲政治がはびこっている国はないという。国政でいえば4代目が小坂憲次、鳩山邦夫、古屋圭司、林芳正、小泉進次郎と5家あり、3代目となると今をときめく安倍家、岸家をはじめとして数えきれないくらいである。これが地方政界になると親子代々市長を務めるとかもっとひどい例がみられる。これが日本の国政を歪め、停滞させることは明らかである。

<アメリカにも世襲がはびこり始めたのか?>
 それがアメリカにも波及して、ブッシュ家で父子2代にわたって大統領となり、その弟のジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事まで大統領候補に名乗りを上げている。かつてのケネディ王朝ならぬブッシュ王朝の出現である。クリントンも夫の代役でなく、妻も大統領選出馬となった。さすがの新興国アメリカも建国200年も経つと社会も停滞してしまうのだろうと思っていた。
 ところがどっこい、アメリカの健全な精神は健在である。ワシントンの既成政治家への不信が高まり、弟君も奥様も苦戦を強いられている。国民は新しいアウトサイダーの血を求めているのだ。日本では極めて古典的な金銭感覚の小渕優子議員が、あれだけのスキャンダルの中でも悠々と再選されてくるのと大違いである。伝統・権威に弱い日本とそうしたものに背を向け、進取なるものを求めるアメリカとの違いが如実に現れている。

<サンダースの出現は必然>
 ピケティではないが資本主義は必然的に格差を生み出す。資本主義の権化の国アメリカで、格差が急激に増大しつつある。政治はそれを是正する必要があるが、アメリカではむしろ促進する新自由主義が幅を効かしている。
 そこに彗星のごとく現れたのがサンダース上院議員である。74歳と大統領選の候補の中では最高齢だが、政策や主張は最も若々しい。前号のとおり格差是正を全面に打ち出している。日本と同じ国営の国民健康保険制度、自給15ドルの最低賃金、公立大学の授業料の無償化、大手金融機関への増税等を全面に押し出し、若者の共感を得て支持率を伸ばしている。大企業に有利で格差を生み出すだけのTPPには最初から大反対である。アメリカには社会主義や共産主義を極度に嫌う風潮があるにもかかわらず、支持を増やしつつある。
 サンダースは自らを民主社会主義者とうたい、旗幟を鮮明にしている。バーモント州の人口4万人のバーリントン市の市長を2期8年務め、組織運営のノウハウを身につけている。その後下院議員、上院議員を無所属のまま20年以上務めている。サンダースへの共感が隣りのニューハンプシャーだけでなく、全米に広まっている。だから、白人が大半で保守的なアイオワ州でも、クリントンに0.2%の差まで肉迫したのだ。

<日本は格差に鈍感で動きがみられず>
 1%のウォール街の金持ちが99%の富を得る、といわれるアメリカほどでないにしても、日本でも格差は徐々に拡大している。日本経済の停滞を打破するためのマイナス金利の導入が思わぬ波紋を投げかけ、ずっと続いた株高も崩れかけている。それでも他の国と比べ日本は安全とかで日本円買いが進み、円高になりつつある。安倍内閣の株高目くらまし経済政策は破綻の寸前である。
 ところが、日本ではまたアベノミクスに欺され、安倍内閣の高支持率が続いている。日本ではアメリカと異なり経済的困窮が政治に結びつかないままであり、参院選も今は反安保法制一色である。野党はTPP、低賃金等の格差を生む政策こそ問題にすべきと思うが、どうもそうなっていない。

<耳障りのいい保守・国砕主義が頭を持ち上げる>
 安倍首相は、日本を取り戻すといった強気なキャッチフレーズを多用する。しかし、強い国を目指す点ではアメリカのほうが日本より上であり、その筆頭はトランプである。「アメリカは貿易でも軍隊でも勝っていない」と苛立ち、ニューハンプシャー州の予備選勝利の後「貿易で中国と日本をやっつけ、メキシコにも勝つ」と息まいていた。経済不安へのトランプ流の政策アピールである。TPPも他国に譲り過ぎたと反対し「アメリカを再び偉大な国にしていこう」と国民の胸元をくすぐっている。
 安倍首相が民主党政権時代と比べて経済が強くなったとやたら自慢するのは同根である。つまり、日米両国で政治が混乱して極端な右・保守勢力が頭を持ち上げてきているのだ。あまり好ましいことではない。

<政治は玄人に任せるか、新鮮な素人がいいか>
 トランプは政治には全くの素人である。かつてもアイアコッカ・フォード社長のように事業家が大統領選出馬の噂になったし、ロス・ペローのように実際に挑んだ者もいるが、ここまで生き残った例はない。隣国韓国でも李明博は現代建設社長から大統領になったが、アメリカでも不動産王の大統領が誕生する可能性もなきにしもあらずである。

<アメリカ国民の大統領を選ぶ基準>
 ところが、アメリカ国民には全く別の基準で大統領(候補)を選ぼうという動きもみられる。既成政治家をいぶかしい目で見る一方、やはり一国の舵取りは、組織を動かす経験者でなけらばならないという玄人的感覚である。オバマは上院の1期目で大統領になったが、国民は経験不足のトップの危うさを学んだからである。それまでは、大半が知事経験者であり、1州を束ねた経験が重要視されていたのだ。
 トランプは会社を破産させたりしたこともあるが、企業経営で成功しており、国家の経営も任せられるとみられているのだ。共和党の討論会で、劣勢のブッシュが知事経験のない非主流の保守強硬派・クルーズと主流派若手・ルビオを経験不足と攻撃しているのも、こうした国民の視点を意識してのことである。

<安倍内閣高支持率の不思議>
 序盤は人気投票的な要素が多く、クリントンといいブッシュといい党の主流の大物政治家が押しなべて苦戦している。アメリカ国民は明らかに変革を求めているからだ。ただ、最後には妥当な主流派(すなわちエスタブリッシュメント)が巻き返してくるかもしれない。指名レースの山場となる3月1日のスーパーチューズデーまで、アメリカの大統領選から目が離せない。
 一方日本は、安倍内閣の政策の大半(原発再稼動・安保法制等)は支持されていないというのに、内閣支持率だけは50%を超えるという不思議な状態が続いている。これをいうと民主党がだらしないから、という答えが返ってくるが、私には反論のしようがない。
 日本でも参議院選挙に向けて大きなうねりを起こしたいが、永田町では岡田代表が石の地蔵さんよろしく動かず、ますます閉塞状態に陥っている。何とかしないとならないと苦闘の日々が続いている。

投稿者: しのはら孝

日時: 2016年2月15日 15:41