2016.05.26

経済・財政

【TPP交渉の行方シリーズ57】多国籍企業を律する国際協定こそ必要- 租税回避を野放図にして消費増税はバランスを欠く - 16.05.26

<日本は多国籍企業のほしいままにされている>
 安倍総理はかねがね「日本を世界一ビジネスをしやすい国にする、そのためにもTPPが必要だ」と言っている。そして、国際会議において「自分は日本の岩盤規制を打ち砕くドリルの刃になる」と大見得を切っている。
 これは以前のブログでも矛盾を指摘したことがあるが、菅直人総理がダボス会議で第三の開国と発言したことに対して、外国で自国が閉鎖的だと宣言する愚かな総理と批判したのと全く同じ間違いをしている。日本の国には規制があって企業がビジネスがしにくいので、自分がそれをこじ開けてやるといい格好をしているにすぎない。「閉鎖的日本」「規制だらけの日本」と自国を悪し様に言う点で同根であり、安倍総理が嫌う自虐的歴史観以上に問題ある自虐規制史観(?)発言である。実際は金持ち国日本は既に多国籍企業にいいように鴨にされ、餌にされているのである。それを更に推し進めるのがTPPなのだ。

<アメリカを牛耳る医産複合体>
 今、多国籍企業がその利益を追い求め、国家が片隅に追いやられている。ありていに言えば、国益がどこか吹っ飛んでしまっている。例えば、TPPもそうした多国籍企業がアメリカ政府をつっついて動かしている。つくづくその恐ろしさを知ったのはTPPの関係会議に同行した時である。2013年秋のブルネイの閣僚会合に民主党代表として出かけて以来、最後の2回を除き私が同行した。日本からは農業団体が大半なのに対して、アメリカからは関係業界のロビイストが押し寄せていた。主として医薬品・医療機器業界そして保険業界、これらがアメリカのUSTRを動かしているのである。アメリカはおかしな国で、たった一つの企業が騒いでも、それを国益と考え、その企業の望みどおりに交渉してくる。日本では各省が省益で動き、各省はその所管の業界の後押しで動くが、アメリカは一企業益が即国益になってしまう。アイゼンハワーは軍産複合体の危険に警告を発したが、今やウォール街の金融資本と結託した医産複合体がアメリカを動かしている感がある。

<ウォール街に反旗を翻したアメリカ国民>
 その点では我々の理解を超えている。よくウォール街の金融資本と政治家の関係が取りざたされる。トランプもサンダースもウォール街からはお金をもらっていないからという理由でアメリカ国民の支持を受けている。クリントンはサンダースからウォール街から資金援助を受けていると散々攻撃された。オバマは違う政治をすると期待されたが、最後にはずぶずぶに金融界にはまっていき、国民の期待を裏切ってしまい、結局ウォール街に牛耳られる大統領というイメージが定着した。それに対して反旗を翻したのが前記2人の快進撃の理由である。アメリカ国民はアメリカの一部の富裕層とそれに乗っかる既存の政治家に嫌気がさしており、大方の玄人の予想を裏切って今やトランプが大統領になる可能性がますます大きくなっている。

<スタバの単純な手口>
 多国籍企業(大企業)のちょろまかしの最たるものは、節税→租税回避→脱税である。大半の人はもう忘れているかもしれないが、2012年、スターバックス(以下「スタバ」)がイギリスで全く納税していないことが大きく取り上げられデモまで起きている。企業が利益を最大にしようとするのは止めようがない。しかし、スタバのしたことは、極めて単純なインチキで、多国籍企業ならではのものである。赤字だから税を納めなかったと言い訳したが、税金の高いイギリスの利益を税率が低いスイスやオランダに移転するという操作(コーヒー豆をスイスの子会社を経由して割高の価格で買う。コーヒー製法の知的財産権や商標権の使用料をオランダの欧州本社に納める。)をしたのである。イギリスで不買運動が起こったのは当然のことである。


<便宜置籍船からパナマ文書へ>
 こんなことはギリシャの船主が税金の安いリベリア船籍にしたことに始まる。便宜置籍船(flag of convenience ship)で、船舶業界ではとうの昔から公然と行われている。そして今や世界の船の大半は、パナマ、バハマ、マルタ、キプロス等の国の船となっている。そしてこれがあらゆる企業活動に応用されたのが、タックス・ヘイブンでバージン諸島、ケイマン諸島等がその対象地となった。
 そこに4月のパナマ文書のタックス・ヘイブンの暴露である。かのスノーデンは、データ・ジャーナリズムの史上最大の漏洩事件だと評している。
ところが不思議なことにアメリカの多国籍企業はボロを出していない。あちこちでさんざんに悪行の限りを尽くし、法の網の目のすり抜け方をよく知っているのであろう。
私が問題にしているファイザー社(アメリカの世界一の医薬品メーカー)はアイルランドの同業のアラガンに買収され、本社を移そうとした。今までに滞納した税金を不払いのままに逃亡し、かつ今後も税率の低いアイルランドで節税するというインチキ企業買収である。小さな企業が世界的大企業を買収するという変な構図であった。さすがこうした悪だくみに気づいたアメリカ内国歳入庁はストップをかけ、ファイザー社は諦めた。こうした実態をある程度暴いたのがパナマ文書である。

<いずこも同じ強欲資本主義>
 アイスランドの首相は辞任し、プーチン、習近平、キャメロン、ナシブ等、各国主脳関係者の名前があがっている。それに対し、加藤勝信官房副長官の姉、加藤康子内閣参与の名前があったぐらいで、日本の政治家はそれほど絡んでいないようである。あとは楽天の三木谷浩史、セコムの飯田亮、戸田寿一、上島コーヒーの上島豪太、ソフトバンクの孫正義等の企業人は名を連ねていた。4年前にアマゾン、グーグル、スタバの租税回避が問題にされた時には、ネット上で「アマゾンではなく楽天を使え」という主張がなされたが、所詮強欲資本主義、同じ穴の狢だった。
 やはり、大企業は利益重視の宿命で、節税がいつしか脱税につながり、いかがわしいことをしている。世界を股にかけ儲けまくる多国籍企業や全国展開する日本の大手企業が、違法行為に手を染め法人税を払わない中で、消費者にだけ負担を強いる消費増税など受け入れられるはずがない。脱税額なり節税額は消費税総額や所得税総額に匹敵するかもしれないからだ。

<群馬通りがアメリカ通りになっていく>
 『TPPはいらない』という本にも書いたが、飯山市の飯山豊田インターから市街地に行く途中にベイシア等の全国チェーン店が目白押しである。ほとんどが県外資本ではあるが、働いている人も買い物をする人も北信州の人々である。ところが上がる利益は本社のある県外に流れていってしまう。だから地元の人たちは皮肉をこめて『群馬通り』と呼んでいる(ベイシアの本社も群馬)。かろうじて雇用と固定資産税では一応地域経済に貢献しているかもしれないが、寄付もあまりせず、地域社会貢献についてはほとんど考えていない。
 これが今度は西友がウォルマートの支配下になり、外食産業はマクドナルド、デニーズ、ケンタッキーフライドチキンと外資系ばかりが跋扈し、利益は海外へ出ていくことになる。その一方で飯山の中心街はシャッター通りが極まり、車のない高齢者は買い物難民になっていく。市制60周年を迎えたのに、4万2000人の人口が2万人を割る寸前になりつつある。


 私は、TPPはこれらの悪い傾向に拍車をかけるので、政治生命をかけて反対している。日本全国各地にある飯山のような街を救わなければならないからだ。TPPを推進しようとしたクリントンでさえも、仕事は増えない、労働者の賃金は上がらない、安全保障にも役立たない、巨大多国籍企業の利益にだけしかなっていないと言いだし、とうとう今のTPPには反対だと言わざるを得ない立場に追い込まれた。
 30章もあるTPPの中に、多国籍企業のいかがわしい租税回避を禁止する規定などなにもない。関税をなくす前に、法人税こそ統一し、租税回避を防ぐほうが先ではないか。TPPが世界の共通ルールを作るのだと粋がるのなら、世界に先駆けてTPP12ヶ国で租税回避をしないような協定こそが必要なはずである。

<身近で納税は地産地消の延長>
 グローバル化が急速に進展し、世界のルールがそれに追いついていない。鵜の目鷹の目の多国籍企業がそこに眼を向け暴利をむさぼっているのが現状である。ピケティをはじめとする経済学者が「一部の富裕層や多国籍企業を利するだけで不平等を拡大させる」としてタックス・ヘイブンの根絶を求める公開書簡を発した。
 また、サミット財務大臣会合でもパナマ文書が議論され、世界が一緒になり監視体制を強化していくとお題目を唱えている。更に、OECDも租税回避のためのルールの対象国を44の先進国から、対象国をマレーシア等の発展途上国を含め拡大するという。当然のことである。
 私は基本的には、食べ物や農業の「地産地消、旬産旬消」は何にでも当てはまると思っている。何でも身近なものですますのが一番自然だし、環境にも優しいし、災害にも強いと思っている。仮に貿易や投資を拡大しても、その国なりその地域で利益を得たものは、まずそこに還元すべきと考えている。
だから税金もごく身近で納めるべきであり、世界はそうした共通ルールを作るべきである。

投稿者: しのはら孝

日時: 2016年5月26日 09:57