2016.08.26

農林水産

【TPP交渉の行方シリーズ58】秋の臨時国会にTPP特別委員会はいらず-アメリカが受け入れないTPPの承認はできず- 16.08.26

 8月も半ばを過ぎ、政治の世界では、秋の臨時国会に向けて何をどうしていくか取り沙汰されている。

<皇室典範改正のほうが憲法改正より優先>
 安倍政権は、参院選期間中はアベノミクスの成果を強調し、野党共闘を妨害するばかりだったのに、選挙後に突然憲法改正を言い出した。選挙期間中はいわゆる「争点隠し」で、勝利した途端「趣味の政治」をやり出すという、いつものずるい手である。
 そこに降って沸いたのが天皇のお言葉であり、生前退位を巡って皇室典範問題が最重要課題となってきた。天皇陛下は各地の戦没者慰霊祭に参列されることからわかるとおり、に平和を望まれる態度には神々しいものがあり、安倍政権の暴走を心配されていることが伺える。もちろん天皇陛下はそうした政治的行動はとってはならないことになっているが、見るに見かねてのことではないかともいわれている。それだけ今の安倍政権は危険であるということである。

<TPP特委の設置は認めない>
 皇室典範の次に大きな政策課題となっているのがTPPの承認である。前国会でも非常に強引な手法をもって通そうとしたが、民進党等野党の抵抗にあって継続審議となっている。私は、スキャンダルばかりを追求し、TPPの内容を審議しない民進党のやり方には賛成できない。このような「国対政治」ばかりしているので、国民から見放され、支持率は下がることはあっても、さっぱり上がる気配がない。議論をするなら正々堂々と内容を審議して、TPPの問題点を国民の前に明らかにするのが野党第一党の役割だからである。
 国会のルールで、どのような特別委員会をするのか国会の初日に採決に付される。前臨時国会の8月の3日間のときには何も実質審議していないが、TPP特別委を含め全ての特別委が設置されている。しかし、秋の臨時国会にはTPP特別委員会の設置自体に反対していかなければならない。

<安倍総理の執念深い仕返し>
 農政は相変わらず混迷を続けている。安倍政権がなぜこれだけ農協イジメをするのかわからないが、変な執念があるように思えてならない。
 2007年の安倍政権の敗北は、農民が反旗を翻したことが大きな要因の一つである。農民や農協サイドは民主党の農業者個別所得補償につき、29の1人区で6県しか勝てなかった。それが第1次安倍政権の崩壊に繋がったことから、その仕返しをしようとしている気がしてならない。それだけ安倍政権の農協イジメは常軌を逸している。

<危うい農政の先行き>
 今回の内閣農林水産大臣は、山本有二(元金融担当大臣、当選9回、石破派で且つ安倍総理とも親しい)というなかなかの政治家ではあるが、自民党政権では初めて農林族でないど素人が農林水産大臣になった。私の霞ヶ関・永田町の長い経験では、自民党政権時代では2人、山村新治郎、山本富雄の2人が農林族ではなかった。しかし、前者は千葉県の米穀商の名家、後者は農業県である群馬県の旅館の次男で、いずれも農政に関わりが深かったし、農林部会にもそこそこ出ていた。その点では、民主党の鳩山内閣の赤松広隆と同じである。極めて危うい感じがする。

<二人の大統領候補はTPP反対>
 しかし、農政の問題からいうとやはり一にも二にもTPPである。このときに最も考えなければいけないのはアメリカの動向である。アメリカでは2人の大統領候補が足並みを揃えたわけではないが、TPPは認めないと言っている。トランプは最初からダメ協定と言って、絶対にアメリカに不利になるようなことはしないと喚いている。クリントンは自ら国務長官のときに始めたTPPではあったが、「私の目指したTPPではない、アメリカの雇用が減り、労働者の賃金も上がらない、一部の大企業の利益にばかりなっている、安全保障にもメリットがない」ということで、今のままでは当然承認できないし、再交渉が必要と言っている。クリントンの場合は、大統領候補にならんがためのリップサービスともいわれていたが、8月11日「現在も、選挙後も、大統領になってからも、TPPには反対する」と明言している。アメリカの公約は日本で考えられているよりもずっと重い。
 それよりももっと強烈なのが、TPP推進派の有力者で将来の大統領候補の1人といわれている共和党の下院議長ライアンが、賛成票が集まらない状況で審議することはあり得ない、と断言していることである。

<オバマ政権のバクチ>
 それに対してオバマ政権は悪あがきを続けている。8月12日にUSTRがTPPの実施法(行政措置案)を議会に提出し、1ヶ月後には法案の審議もできることになっている。いわゆるアメリカ国会の独特のシステムで、レームダックセッション(lame duck session)の悪用である。つまり、11月に大統領選挙が終わって新しい大統領が決まっても、任期がまだ1月下旬まであるので、その2ヶ月の間に世論をあまり気にしなくてすむ議員を相手に、色々と問題のある法案を一気に通すことが今までもよく行われている。選挙中も任期切れ後も承認は難しい。このチャンスを使わないと、当分TPPの承認は見込めないという恐れから、オバマ政権はしつこくTPP実施法を提出した。
 つまり、オバマはクリントンに責任を押し付けずに、自ら泥をかぶって承認してしまおうとする道を残している。ただ民主主義国アメリカの国民はそんなズルは許さないだろう。

<安倍総理のTPP悪用の魂胆>
 なぜかしらオバマ大統領と安倍総理の2人のトップがTPPに固執している。オバマは自分のレガシー(遺産)にしたいと固執している。それに対し、安倍総理がTPPに固執する理由は明らかである。ろくな経済成長政策を打ち出せず、3本目の矢の目玉が見当たらないので、TPPに目を付けただけのことである。国民にTPPを締結すれば、2年、3年後にもっと景気がよくなる、という期待感をもたせて、その間に自分の好きな危うい政策をやろうという魂胆が見え透いている。考え方ややり方があまりにも姑息である。

<次期大統領との関係のほうが大切では>
 外交は長期的視点で臨まなければならない。8月21日のNHKの日曜討論で、菅義偉官房長官は、オバマ政権と足並みを揃えるためTPPは承認する、と言っていた。安倍政権がオバマ退陣に合わせて総辞職するということならば、それはそれでよしとしよう。ところが自民党の党規約で2期6年まで、と定められた総裁任期を延長して、2020年の東京オリンピックまで総理でいたいというような魂胆があるのであれば、次の大統領と一緒に付き合っていかなければならない。その次の大統領候補の2人が揃ってTPP反対というのに、日本だけが先走って承認していては、日米外交が混乱するばかりである。

<日本の早期承認は混乱を招くだけ>
 日本だけが承認したところでTPPは発効しない。12カ国のうち6カ国とGDPの85%を占める国が承認しない限りは発効しないことになっている。つまり日米が承認しなければ発効しないのである。
 日本が先に承認してアメリカ議会にプレッシャーをかける、と絵空事を述べている。また、再交渉などしないという前提で動いている。アメリカは日本が承認したから、仕方なしに続いて承認するような素直な国ではない。日本に高飛車な再交渉を迫り、また妥協の連続で屈服させられるのが目に見えている。日本が先に承認しておいて、アメリカが再交渉を要求してきたとき、本当に突っぱねてTPPを葬り去る覚悟ができているなら、天晴れである。アメリカは勝手な国であり、日本が承認しようがしまいが、自分の国の国益に合うかどうかで判断し、日本が承認してもアメリカにとってプレッシャーになることはあり得ない。
 つまり今、承認しても再交渉の手足を縛り、二重手間になるだけである。安倍政権にTPPを任せるわけにはいかない。国民と農民を騙し続けることが目に見えているからだ。

投稿者: しのはら孝

日時: 2016年8月26日 17:05