2016.11.08

農林水産

【TPPの行方シリーズ64】 日本の政策に介入を許すTPP(パート2) -TPPの委員会が次々に注文-16.11.08

 次にTPPの条文に促した問題点を挙げる。
<予想されるTPP委員会の内政干渉>
 安倍官邸は今、日本の政策を思いのままに操っている。農政でいえば農政審議会ではなく規制改革会議や産業競争力会議である。そこには農政の専門家などいないのにあれこれ口出しをされて農政が歪められていく。
 それを今度はTPP委員会が日本国政府に対して、あれをしろこれをしろと注文をつけてくることになる。これも別表に示すが、その下に第2章の物品の貿易に関する小委員会、農業貿易に関する小委員会に始まり、SPS、TBT等、21の小委員会ができあがることになっている。この小委員会の構成等が問題である。つまり、いろいろな分野の小委員会が常に加盟国に注文を付けてくるということである。
(表「TPP協定及び再サイドレターの下で設置される委員会」)

<詳細がわからないまま発効し、更に見直される危険>
 その1番がTPP委員会である。第27章の2条に、発効後3年以内にTPPを見直す。その後は少なくとも5年ごとに見直すと書かれている。TPPが継続的に各国の政府の行政を縛る道具にもされることを物語っている。ここで見逃してはならないのは、発効後4年経たなければ交渉過程を明らかにしない、保秘義務である。
 今条文は明らかになっているが、長ったらしくわかりにくい官庁文学をいくら読んでみても、本当の狙いや意味することがよくわからない。その点わかりやすいのが、その条文に至る経緯がわかるペーパーなのだ。ところが、それは全く明らかにされず、尚且つ国会論戦でも黒塗り弁当とやらで少しも明らかにされていない。

<企業ばかりが有利になり、国民はずっと蚊帳の外>
 そうすると4年後に交渉過程が明らかになったとしても、発効後3年以内にTPPが見直されてしまえば、見直されたTPPが新しい条文になっている。つまり、4年後に元の条文や交渉過程など何の価値もなくなってしまうかもしれない。更に、3年以内にTPPを見直すときの交渉もまた秘密交渉になるだろうから、どうしてこうした条文になっているのかについては、永遠に国民の前には明らかにされないままとなる。情報開示の点からみてもTPPは史上最悪の協定である。
 海洋法でもウルグアイラウンドでも、○○国案、○○議長裁定案と、要所要所で交渉内容が明らかにされ、理解が得られるようになっていた。それが、TPPは保秘義務とやらでずっと黒のベールに包まれた協定なのだ。何故ならば、スティングリッツ教授の言うとおり、TPP is written by U.S. Corporations for U.S. Corporations.(TPPはアメリカ企業のためのアメリカ企業が書いたもの)が、バレバレになるからである。

<年々変わり巨大化するTPP>
 更に2番目、各章の中に今後○年後にすべきことが数多く書かれている。1番取りざたされているのは農産物関税について、7年後にオーストラリア、カナダ、ニュージーランド、チリ、アメリカの5カ国の要請に基づいて、日本の農産物の関税の引き下げや関税割り当てセーフガードなどの適用について協議すると決められている(表「TPPの『何年までに・・』義務規定」)

 この類の条文があちこちに散見される。典型的な例が関税撤廃である。関税撤廃についても相手国からの要請があった場合は、関税撤廃の時期の繰上げをするために協議するとされている。海洋条約やWTOは決めたらそれをずっと守るという協定であるのに対して、TPPは常に変化を遂げる協定、つまり「生きている協定」(living agreement)なのである。これにより、のべつまくなしTPPを通じて関税の引き下げを迫られることになる。
 自動車についても5年後に日米の自動車貿易について協議すると定められている。政府調達の章でも、発効後3年以内に地方自治体の適用範囲の拡大のための交渉を再開すると書かれている。知的財産権については、もめた生物製剤について10年後に委員会の協議を行うこととされている。
 つまり、普通の協定の場合は、これで決まった、これを守っていこうということですむのに対して、次から次へと色々な注文を付けられて変わっていくということなのだ。

<食の安全は、貿易、投資の陰に隠れてないがしろにされる>(表「SPS・TBTにみる「食の安全」の主権侵害」)
 日本の政策決定がいかにTPPによって捻じ曲げられるかを、食の安全に関わるSPS(衛生と植物防疫のための措置)とTBT(貿易の技術的障害に関する協定)の条文に則して示してみる。
 まず両方とも小委員会が設置される。他の条約と違うところは、小委員会で、食の安全のためにルールを決めるのではなく、次々に貿易の自由化、投資の自由化になるように食の安全基準の緩和を押し付けられるということである。これが第一の問題。

<予防原則は実行できず>
 次にSPSの9条に「科学および危険の分析(risk analysis)」という項目がある。これは、新しい安全基準を設けようとしても、科学的証拠を求められ導入が難しくなるということである。ヨーロッパは「疑わしくは使用せず」の予防原則が徹底している。それに対して典型的な例でいうとGMO(遺伝子組み換え)の表示義務をつけようとしても、安全性については世界では決着がついておらず、科学的にどこの国でも証明できない。となると、日本がGMOについて表示義務を求めることはできなくなってしまう。これは、現行のルールからすると大きな後退である。

<外国企業が次々と注文をつける>
 また、この他に審議の過程で明らかにされた肥育ホルモン剤、酢酸メレンゲステロール、塩酸ラクトパミン等を使用した牛肉や豚肉を日本が輸入禁止しようとしても、科学的根拠を示せないとできないことになってしまう。EUは厳然と拒否し、成長ホルモン剤等の未使用証明書付しか輸入していないが、日本はこうしたことができるとはとても思えない。こうしている間に日本人はいわば、アメリカ、オーストラリア、カナダ等の「ドーピング肉」をこれでもかと食べさせられている。大量に食肉を輸入する日本は、いろいろな成長ホルモン剤等が人間にどのような影響を与えるかを実験できる「モルモット国家」になりつつある。
 次にSPS13条をみると「透明性を確保するために利害関係者や外国に意見を述べる機会を与えよ」と命じている。こうなると輸出国やあるいは外国の食品関係の企業からあれこれ意見を言われ、日本が独自に安全基準を設けようとしてもほとんどできなくなってしまう。政府はこれに対し、パブリックコメントは「今でも外国企業の意見も受け付けている」と言訳する。13条はパブリックコメントなどで済む話ではないのに完全にごまかしの答弁をしているのだ。

<ついに外国企業がルール作りに参画>
 しかし、こういう言訳もできなくなるのがTBT4条である。透明性確保のために「利害関係者に企画・作成・参加を認める」とあり、意見を言うだけでなく、外国の企業が安全基準の作成に自ら参加して骨抜きにされてしまう可能性が大きくなるということである。これで、日本のモルモット列島化がますます進むことになる。
 更にTBTの10条では「情報を提供し技術的協議を要請できる」とあり、他の国が日本に対してこの基準はどうなっているのかと提示するように注文をつけられ、それでおかしければ協議を要求できるという。こうして常に外国企業の注文に晒されることになる。
 つまり結論は、日本1国では何も決められず、食の安全基準が歪みっぱなしになるということである。

投稿者: しのはら孝

日時: 2016年11月 8日 18:03