2016.11.05

政治

【TPP交渉の行方シリーズ62】 十分な審議が行われていない -山本農相の辞任が先- 16.11.05

<国民に理解不能な国対政治>
 11月3日、締めくくり総括質疑が行われ、1時間30分(90分)の内の66分間が野党民進党に割り当てられ、私が46分間、不承不承ではあるが質問することになっていた。しかしながら、新聞報道されているとおり、山本有二農水大臣の2度目の失言に対し、我々野党4党は山本大臣辞任を要求するとともに、このような大臣の下では採決に応じられないと委員会開会に反対した。与党は委員長職権で11月4日に行うことを決めたため、民進党は欠席することを決定した。
 4日は三笠宮殿下の斂葬の儀の日、パリ協定の発効日に合わせ本会議が予定されていた。反対なく全会一致の予定だった。10月19日の締切日に間に合わず、11月8日からモロッコで開催される締約会合には正式メンバーとして参加できない。それでもせめて発効日には通して面目を保つはずが、なんとそれを吹き飛ばし、TPP特委を開会した。変なルールばかりの「国対政治」は、いくら説明しても分かりにくいので、ここでは解説しない。しかし、国対・議運のベテランの佐藤勉議院運営委員長が知らぬ間に、TPP特委が突如開催されてしまった。前代未聞のことだ。

<相変わらずの審議未了のままの強行採決>
 我々野党は当然激怒し、委員会は欠席した。1時間30分の内、最後の維新の10分以外はいわゆる「から回し」でずっと審議なし。14時41分、野党の抗議中に始まり、16時11分、質疑終了。そこに我々野党議員達が採決阻止をせんがためになだれ込む・・・ という、いつもの見苦しい場面となった。
 その結果、「強行採決」でTPPはTPP特委が可決され、本会議にかけられることになった。ただ国会は不正常となり、来週どのように展開していくか不明である。政府与党は、11月8日火曜日の本会議でTPPとパリ協定の採決を予定しているが、野党は山本農相の辞任等が先を譲らない。
 嫌々ながらの質疑ではあるが、それなりに準備したものを無にするのも勿体ないので、皆様方に私の予定した締めくくり質疑の概要をお届けしつつ、TPPの問題点を明らかにする。

<理由もなく急ぐTPP承認>
 まずTPPとこの関連法案、これだけ巨大な法案を審議するのは前代未聞である。私は役人時代に水産庁企画課長として海洋法条約とその関連法を担当した。海洋法条約の内容も豊富だったが海の問題に限られ、200海里の設定等、日本が得を望んだ内容であり、反対はなかった。パリ協定と同じように意外と早く各国が批准し、発効が間近になったので慌てて国内法も整備し、条約も批准することになった。
 それに対しこのTPP関連法案は全く違っている。そんなせっぱ詰まった話はどこにもない。第一に、マレーシア1国だけが承認しているだけであり、他のどこの国もまだ国内法を整備していない。後は皆アメリカの様子見である。そのアメリカ大統領候補の2人がTPPはとても受け入れられない、と言っているのであり、発効は何年先になるかわからない。それなのに日本だけがやたら急いでいる。
 TPPは、保秘義務とやらで交渉内容が少しも明らかにされていない。政府は国会の論戦を通じて国民にTPPを丁寧に説明しなければならない。つまり、じっくりとメリットを説明し、野党の指摘する問題点に真摯に応える必要がある。それには、ゆっくりと腰を落ち着けて審議するのが一番である。それなのに政府は、おざなりな審議のまま立法府も一緒に承認し、明確な意思を示してアメリカに早期承認を促すというのである。

<日本の早期承認はトランプ候補に好都合>
 それに対し私は10月17日の質問で嫌味な指摘をした。もし日本が早々と承認すれば、やはり日本にメリットがあるということで、トランプ候補にTPPは日本に有利でアメリカには不利な協定だと言わせてしまうのではないか。日本に民進党や私のような反対論者がいて、これはやるべきではない、と今国会も承認を見送れば、日本に不利益があることに気付き、それならばアメリカにもメリットがあると考え直し、トランプ候補も軟化するかもしれない、と皮肉を言った。最も許せないのは、このまま承認しないでいると、日本は再交渉を受け入れるシグナルを示すことになる、などという屁理屈である。バカなことを言うんじゃないと言いたい。では他の国は再交渉する用意があることを示すため、アメリカの様子見をしているのか。これは後付けの詭弁以外の何物でもない。

<戦後史上最大の協定と11本の関連法>
 いかに膨大かという例えで、サイドレター(付属文書)など含め英文で6千ページとか8千ページといわれている。私は前通常国会のTPP特委冒頭で、わざと英文13冊、日本文5冊を質問席に積み上げた。私の顔はかろうじて映る程度で、背の低い議員だったら顔が映らないぐらいの高さであった。これだけ膨大な内容のものは、私の霞ヶ関30年、永田町13年の経験の中でも見当たらない。ありとあらゆる経済関係を含む30章である。ただ、30章といってもわからないので、TPPを審議するのに必要な項目と必要日数を付け、それぞれ何日必要かということを付け加えた。(表「TPPについて審議すべき項目と必要な日数」)
 それに添って必要審議日数を計算してみると、医療・保険で1日、ISDで1日、食の安全で1日、政府調達0.5日、国有企業0.5日といった具合で、条約がらみで7.5日。農業はもうかなり議論したので入れていない。問題は11本のTPP関係整備法案である。安保法制も確かに多かったが、5法案であり安保法制とくくれるものであった。ところがTPP関係整備法案は、関税関係の法律が関税定率法、EPA申告原産法、知的財産法がらみでは著作権法、特許法、商標法。そして医薬品・医療法、公取法。農林水産関係で畜安法、糖安法、農畜産振興機構法、地理的表示法と全く関連のない11本の法律である。これらの法案をTPPと同じく真面目に審議するならば、例えば著作権法1日、特許法1日という形でやっていくと5.1日。両方で合計12.6日必要となる。

<長時間審議した法律>
 更に私は戦後の長時間審議した案件を表にしてみた。(表重要議案の審議時間」)
 今までの法案で一番長く議論したのが、民主党政権時代の社会保障と税の一体改革法であり、9つの法案を24日118時間35分審議している。2番目は小泉内閣の郵政改革法、3番目は2015年の平和安全法(第2次安倍内閣)、4番目が教育基本法(第1次安倍内閣)。5番目が政治改革法で20数年前の宮沢内閣の時である。安倍内閣で2つ、longest5に入っている。
 こうした中で私は、TPP特委のこの協定と11の法案は当然第1位にランクしてしかるべきだと思っている。安倍総理には「longest5に3つも名を連ねる名誉ある総理に何でならないのか。それだけ大事な法案を手がけている証拠だ、と言って褒めながら長い審議を促すつもりだった。10月31日にさわりの質問をしたが、安部総理は一向に聞く耳を持たなかった。
 今国会、11月1日現在までは35時間30分審議している。集中審議、すなわち総理が出席している審議は20時間30分、関係大臣のみの一般質疑が10時間。総理が出席している審議時間のほうが長いという委員会はまずないのではないか。前通常国会との合計58時間30分、そこに先ほどの12.6日分(約70時間)を加えると128時間で、私が言ったとおりに審議すれば一番長くかかる法案になる。
 ともかく、きちんと審議しないまま済まそうとしている点で、私はとても今の時点での採決は承諾することはできない。

投稿者: しのはら孝

日時: 2016年11月 5日 20:30