2016.12.26

社保・医療

【年金シリーズ1】 年金抑制法(マスコミ)は問題だらけ -将来年金確保は"出る"を押さえ"入り"を増やす以外なし- 16.12.26 【12/29追加】ご意見メールをいただき、<団塊世代を・・・

<少子高齢化のあおりをもろに受ける年金>
 今臨時国会3つの強行採決とよくいわれるが、悪質さからいくとカジノ法が図抜けており、次が審議時間が全く足らない点でTPP、そして一番まともなのが年金法である。
 政府与党はいつも美辞麗句を使い、国民を騙くらかす。「将来年金水準確保法」と名付けたが、いつものとおり詐称の疑いが濃い。何よりの証拠に度重なる野党の要求にもかかわらず、ついに明確な将来の年金水準は示さなかった。ただ、だからといって野党が「年金カット法」と決めつけるには少々後ろめたさが残る。そうした中、多くの新聞は「年金抑制法」と呼んでいた。これが穏当かもしれない。
 なぜならば、賦課方式(現役世代が年金を支える)でいくと、高齢化で今後高齢者は増え、少子化で働く世代が減り、このまま放っておいたら将来の年金は危うくなるのが目に見えているからだ。だから何とか制度を変えるなりして、年金給付をある程度抑制していかないと将来世代の年金が危うくなる。

<受給開始年齢を遅らせる改定もそれほど効果なし>
 そのため、わかりやすいことだが、各国とも一様に年金受給開始年齢を引き上げてきており、今は日本では国民年金(基礎年金)は65歳とされている。また会社員、公務員などの厚生年金は定年後の特別措置として男性は62歳、女性は60歳から前倒しして受給できるが、今後は段階的に引き上げられ、男性は2025年度までに、女性は2030年度までに65歳以上になる。
 諸外国でもアメリカが66歳から67歳に、ドイツは65歳から67歳に引き上げられることになっている。

<マクロ経済スライドも機能せず>
 この他に少々ややこしいが「マクロ経済スライド」がある。少子高齢化の影響で年金の被保険者(加入者)が減少し、平均寿命が延びることから、年金給付額にマクロ経済全体の変化を反映させ自動的に調整させる機能を持った制度である。日本では04年の改正により導入された。
 年金給付額が大体年1%ぐらい下がり、減少することが予想されたが、物価水準が低迷するなどデフレが続いたため、2014年度まで一度も実施されなかった。

<政府説明と安倍総理の驕り>
 そこでもっと柔軟に下げ、将来世代の給付水準を確保するために考えられたのが次の2点の改正である。
① 賃金が物価より大きく下回る場合に、賃金が下がるのに合わせて年金を下げる。(「賃金・物価スライド」と呼ぶ)
② マクロ経済スライドでは年金は下がらない場合でも、前年の未調整分も含めて下げられるようにする。

 この2つが「カット」だといって我々野党は「年金カット法」と決めつけた。これに対して安倍総理はいつも以上に「私の述べたことをご理解いただけないようであれば、何時間やっても同じである」と放言した。いくら考え方が異なるとはいえ、国会審議の冒瀆である。

<まっとうな改正>
① 低年金や無年金で生活困窮のおそれがあることが問題となった。後者については、25年間の保険料の納入期間を10年に短縮して受給者を増やす措置が、今国会の別の法改正で実現している。当然のことだが野党は賛成している(よく民進党は反対ばかりしているといわれるが、8~9割は賛成している)。これで、40~50万人が救われることになる。
② 国民年金第一号被保険者(自営業者や農家の主婦)の産前産後の4か月の保険料が免除されることになった。法律上この改正により20万人ほどが新たな対象となる。この財源として国民年金保険料を月々100円引き上げることになった。
③ 500人以下の企業も、労使の合意で企業年金で短時間労働への適用拡大を可能にする。

 このように、誰しも納得のいく改正もなされている。

<世界への長寿国のお寒い年金制度>
 過去20年間で高齢者の生活保護が倍増し、ついに高齢の割合が5割を超えた。日本の高齢化率は2014年で26.7%と、アメリカ14.5%、イギリス17.5%、ドイツ21.2%等を大きく上回るが、年金制度は他の国よりも制度的に見劣りする。
 老後の年金を現役時の給料と比べて、どれくらい貰えるかを示す「所得代替率」(年金の平均受給額を所得で割ったのもの)は、35.1%とOECD加盟34ヶ国中、下から5位と低く、退職して年金生活になると収入は働いていた時の3分の1に下がる。ちなみにOECD平均は52.9%と5割を超えている。オランダが90.5%と最高で、イギリスは21.6%と最低である。

<減る年金>
 政府は当初、影響額を計算すらしていなかった。野党の試算要求に対して、2週間遅れて慌てて出してきた。
 今の年金額は3%(月平均6万5000円が、2000円)下がるが、2043年には基礎年金が7%(5000円)増えると説明した。それに対して野党側は、月7万2000円ほどの高齢者の基礎的な支出も賄いきれないのにカットするのは問題、今後100年は年金カット法案が一度も発動しない場合という前提の計算は無意味だ、将来の7%増も賃金上昇年1.3%が続くという現実離れした算定をしている、として攻撃した。これに対して塩崎厚労相も将来世代の年金は増えない、と苦しい答弁をせざるをえなかった。
 民進党の計算で過去10年間の物価と賃金に年金抑制法を当てはめると、率にして5.2%減、国民年金は年4万円、厚生年金は年14万円減ってしまう。一度減らした年金は元に戻らず、年金が物価に比べて減り続ける。ここが問題なのだ。
 
<70歳受給開始年齢等の大胆な改革が必要>
 私は正直なところ、年金財政のひっ迫を回避する妙案がなかなか見つからない中で、政府が努力していることは認めなければならない。いかんせん野党にも明確な対案がない以上、あげつらうばかりでは先に進まない。ただ、政府はもっとデータをきちんと示して国民に丁寧に説明する必要がある。
 国は、2004年の法改正時に「100年安心」の年金制度だと吹聴したが、どう考えてもそんな安心をしていられない。かといって、よくいわれる「積み立て方式」(自分で納めた分が戻ってくる)への変換はおいそれとできる話ではない。私のような一度も厚生労働委員会に所属したことのない素人目から見ると、出るほうを押さえ、入るほうを増やすという当たり前のことを考えるしかあるまい。
 すなわち、世界有数の長寿国であり、70歳前後は元気な人が多い。だから、年金支給開始年齢を思い切って70歳に引き上げ、それまできっちり働いてもらい、その間に保険料も払ってもらったらよいのではないか。また、今回の税改正でもまた配偶者控除は廃止されなかったが、女性も働いて保険料を払ってもらい、保険料収入を増やすことも一案のような気がする。

【追加】<団塊世代をお荷物扱いするな>
 前述のとおり、政府(厚労省)は2043年に「マクロ経済スライド」をしなくてすむようになると説明する。何のことはない。我々団塊世代が95歳近くになり、皆いなくなっているというだけの話だ。こんな予測なら私にもすぐできる。年金問題なり社会保障を論ずると、いつも団塊世代が邪魔者・厄介者として登場する。馬鹿にした話である。
 団塊世代は、まさに高度経済成長の先兵として働き、今高齢者入りしている。それを役に立たなくなったからといって蔑ろにする風潮に腹が立ってくる。アメリカの薬品企業は団塊世代に高い薬をたくさん使わせて一儲けしようとしているが、長生きさせて絞り取ろうとしている。それを日本国政府はお荷物扱いしだしたのだ。
 年老いたら家族にも迷惑かけず国家にも負担をかけず、さっさとこの世を去りたいと、大半の人が願っている。長野のピンコロ地蔵(死ぬまでピンピンしてコロリと死ねる)がその象徴である。団塊世代の皆さん、せいぜい健康に気をつけ、長生きして、政府の鼻をあかしてやりましょう!

投稿者: しのはら孝

日時: 2016年12月26日 17:27