2017.03.14

外交安保

海外メディアが恐れる安倍日本の右傾化・国家主義化- 塚本幼稚園児の「安倍首相ガンバレ」の衝撃 - 17.03.14

 参議院に移った国会論議は、森友学園一色である。安倍首相は野党の追及に対して、声を荒げて応戦しているが、どうみても不可解なことだらけである。私も農水省の役人時代に、国有地の払い下げに出くわした。その経験からいっても、真面目な役人が何もなく、自らの判断で9億円を1億円に引き下げることなどするはずもない。外部からの圧力があったことは確実である。
 そうこうするうちに大阪府が小学校の認可を先送り、籠池森友学園理事長が申請を取り下げ、理事長辞任を表明。大団円を迎えつつあるが、これで終わらせてはならない。
 更に国家戦略特区を悪用した加計学園疑惑が控えている。こちらは安倍首相の親友がからんでおり、如何わしさは森友学園の比ではない。こちらこそ、疑惑を解明させなければならない。

<塚本幼稚園の右傾化教育を危険視する海外メディア>
 安倍首相への批判をすっかり忘れていた日本のメディアも一斉に報じ始めたが、途中から外国のメディアも俄然興味を持ち出した。しかし、その着目点はかなり違っている。塚本幼稚園の「安倍首相ガンバレ」の連呼に、日本の国家主義復活の兆候を感じとったのである。
 もちろん安定した安倍政権の最大の危機と報じ、如何わしい土地取引のモミ消し工作にも触れているが、一番の力点は塚本幼稚園の異様な行状に置いている。つまり上記の安倍首相礼賛、韓国・中国を対象にしたヘイトスピーチ(この場合は個人の家庭への手紙)、教育勅語、国家主義を煽る日本会議、神道小学校等が詳細に紹介されている。一様に人権、国籍、宗教による差別に注目し、日本の軍国主義の復活を懸念している。日本のメディアがこぞって籠池理事長のTVウケする強烈なキャラクターに振り回されるだけなのに対し、海外メディアはしっかりと日本の危険な動きを見据えている。
 小学校から各国の子供たちを集める、いわゆるインターナショナル・スクールがあちこちにあるが、森友学園のことを嫌味を込めてナショナリスト・スクール(Nationalist School)と冷やかしている。

<森友学園より塚本幼稚園>
 日本のメディアは専ら森友学園がらみのスキャンダルに焦点をあてているが、欧米なりアジアの近隣諸国の関心は全く異なる。私は、米、英、仏、独、中、韓国、香港、NZ、シンガポールの主要各紙に目を通したが、予想以上の彼我の扱いの違いに驚かされる。
 典型例は、森友学園よりも塚本幼稚園が先に出てくることである。日本の国会では、安倍夫人の塚本幼稚園での講演が公人か私人かといった、些細などうでもいいことをつっつかれているが、そんなことはどこの海外メディアにも一言も書かれていない。8億円も一気に引き下げられた国有地の売却を巡るモミ消しでもなく、圧倒的に塚本幼稚園の驚愕の教育方針である。逆に、日本のメディアでこのことに警告を発したのは毎日新聞の「与良政談」(3/1)しか知らない。

<米・英は超国家主義的安倍政権を危険視>
 本来はアメリカこそこうした動きに敏感なはずだが、自国のユニークな政治家(トランプ大統領)が人種人権がらみで放言を続けているので、遠慮したのか見出しには明確な人種差別や右傾化教育への言及はない。しかし、記事になると超国家主義的(ultra-nationalistic)考えの男から始まり、2015年昭恵夫人が「夫も教育方針について素晴らしいと思っている」というスピーチを紹介している(3/2 ワシントンポスト)。また、一応土地取引に伴う問題も報じているが、関心は韓国と中国に向けたヘイトスピーチと愛国主義を育成する教育の危うさを酷評している。

<英仏両国も国内の右傾化に重ね合わせて異様さを詳細に紹介>
 イギリスが、ガーディアン(2/24)、エコノミスト(3/4)ともに超国家主義的をタイトルに使い、その危険を指摘している。3歳から5歳の幼児が、毎朝天皇の肖像にお辞儀し、国を守るために自らを捧げると誓う、という異様な光景を写真とともに報じている。戦前の教育勅語の暗唱ですら我々日本人にも異様に映るのだから、外国人が驚くのも無理はない。ガーディアンはもちろん韓国・中国への差別を助長する文言も糾弾している。毎朝国歌を歌い、軍事基地にも遠足に行き、1890年にできた教育勅語を暗唱させることを詳細に紹介している。右傾的な日本会議のメンバーが内閣に多数おり、憲法改正も目指している。
 仏の代表2紙〔ルモンド(2/27)、フィガロ(2/24)〕も同様に、保守的政治家安倍晋三と国家主義的経営者籠池の結び付きによる「日本で初の神道小学校」として瑞穂の國記念小學院(安倍晋三記念小学校)を紹介するとともに、ビデオで放映された幼稚園児の「安倍首相ガンバレ」が愛国心を植え付けていると報じている。ドイツも極右(far-right)学校に力点を置き、教育勅語の暗唱に驚きを隠さない。ここでも土地取引がらみはさっと触れるだけで、森友学園よりも塚本幼稚園に力点を置いて報じている。
 
<ヘイトスピーチを嫌がる韓・中>
 当然のことだが、近隣の韓・中は怒りを込めて塚本幼稚園の問題を集中的に報じている。中国の新華社は2月22日以来連日にわたり、ヘイトスピーチと国家主義的教育の詳細を報じている。
 韓国の中央日韓は2/17、塚本幼稚園が「よこしまな考えを持った在日韓国人や支那人」という嫌韓内容が含まれた文書を配布したと不快感を露にした。朝鮮日報も同じく「ヘイトスピーチ防止法」に抵触するかもしれない宣誓や文書配布を取り上げている。運動会で園児が「尖閣、竹島、北方領土を守れ」「日本を悪者として扱っている韓国・中国が心を改め、歴史教科書でウソを教えないようにお願いします」と叫んだことも紹介している。日本のメディアが取り上げない、嫌韓の悪口は韓国メディアが見逃さないのは当然である。
 我々日本人でも、こんな幼稚園があったのかと驚かされるくらいだから、第二次世界大戦の記憶がずっと鮮明な韓・中両国は日本の再軍国主義化を懸念して、塚本幼稚園の教育とそれを礼賛する安倍首相と夫人に目を光らせるのは当然である。この両国もまた、土地取引とスキャンダルにはほとんど関心を持たず、塚本幼稚園にみられる日本の韓国人・中国人に対する差別的言辞と危険な教育に危険を感じたのだろう。

<日本が誤解される恐れ>
 金正恩体制の北朝鮮が、国民にいつからあの一糸乱れぬ礼賛スタイルを教え込んでいるか知らないが、まさか3歳や5歳児にはしていないのではないか。秋の運動会で「安倍首相ガンバレ」「安保法制通過おめでとうございます」という宣誓は、金正恩体制以上の思想教育、ゴマすりである。
 私が憂うるのは、こうした右傾化はごく一部の特殊例なのに、この騒動で塚本幼稚園類似の教育が日本の全国各地で行われているという誤解を諸外国に与えることである。外国の主要各紙をよく読むとそこまではいっていないが、昔の軍国主義的国家日本を知る人たちが日本の国会主義化や右傾化を心配するのは無理もない。

<右傾化に鈍感になった危険な日本>
 鈴木善幸政権の時、伊東正義外相は日米同盟を軍事同盟と称して外相を辞めている。ところが、今は日米軍事同盟が当然視されている。森喜朗首相は日本を神の国と称し、支持率が10%を割り短命に終わった。かつて日本は抑制の効いた健全な国だったのだ。前者は1982年、後者は2000年とそれほど昔のことではない。
 ところが今は昭恵夫人が名誉校長をし、安倍晋三記念小学校名で寄付を募ったというのに、拒否したが勝手にやった、という言い訳で何も糾弾されていない。問題の森友学園や塚本幼稚園の教育方針にも当初は敬意を表していたというのに、こちらも問題だと言葉を翻し、平然としている。挙句の果てに稲田朋美防衛相は、「教育勅語の核の部分は取り戻すべきだ」と悪乗りしている。月日の経つのは早く、価値観の急速な変化も驚くばかりである。私は、土地取引や補助金申請のデタラメよりもこちらのミスや言動のほうが問題だと思う。岡目八目か海外メディアは気付き、日本は気付かない。
 交通安全標語をモジった「赤信号皆で渡れば怖くない」ではないが、日本は一歩ずつおかしな方向に歩み始めている。ここらで性根を入れ替えて阻止しないと、いつか来た道に迷い込む恐れがある。政治が頑張らないとならない。

投稿者: しのはら孝

日時: 2017年3月14日 18:38