2017.04.28

エネルギー

造ったダムはフル活用して発電すべし-太陽光、風力、バイオマスの陰に隠れる水力発電を推進-17.04.28

<小水力発電はずっと前から推進>
 世の中挙げて、再生可能エネルギーの大合唱である。よほど凝り固まった原発推進論者でも、大した発電量にならないとか、高い電気量になると文句は言いつつ、ダメだともやめるとも言っていない。そして、いつも私が食べ物で使い始めた「地産地消」にすべしということもついて回る。
 私は30数年前、『農的小日本主義の勧め』を上梓したのをきっかけに、東大の駒場キャンパスの環境意識の高い学生の勉強会に呼ばれて講演したことがある。その中のリーダー的存在だった中島大氏が「全国小水力利用促進協議会」の事務局長をやっているのに呼応して、国会では超党派の「水力発電の有効活用を促進する議員連盟」の事務局長をしている。ところが、これだけ再生可能エネルギーが宣伝されているというのに、太陽光パネルや風力ばかりが話題になり、水力発電が忘れられていることに、歯がゆい思いをしていた。

<明治のころに来日した外国人がうらやむ水エネルギー>
 4つのプレートが押し合ってできた高い山がある。そこに夏は温帯モンスーン・台風が太平洋側に雨をもたらし、冬はシベリア高気圧が日本暖流の湿気を吸い込んで山にぶつかって大量の雪をもたらす。こうして日本は平均雨量が1800mmと世界平均の倍になる。日本の川は、明治の頃30年にわたって土木を教え「砂防の父」といわれるオランダ人 ヨハニス・デ・レーケ(1873年から30年間滞日)は「日本の川は滝」だと称し、電話を発明したグラハム・ベルも1898年来日した折「川の豊富な水資源を利用して、電気をエネルギー源とした経済発展が可能だろう」と述べるなど、水力発電の好条件に恵まれている。つまり、豊富な水量と急峻な川があり、位置エネルギーでいくらでも発電できるのだ。ただ、ベルも日本が短期的にこれほどまでに発展し、膨大な電力を消費する国になるとは予想できなかった。

<竹村元河川局長の水力発電の勧め>
 こうした折、国土交通省河川局長を務めた竹村公太郎氏が著書『水力発電が日本を救う‐今あるダムで年間2兆円越えの省電力を増やせる-』が、「発電施設のないダムにも発電機をつけるなど既存ダムを徹底活用せよ!」「持続可能な日本のための秘策)」「新規ダム建設は不要」「世界でもまれな「地形」と「気象」でエネルギー大国になれる!」(本の帯)で、プロの眼からみた水力発電の可能性を優しく教えてくれている。当然上記の議員連盟の講師にお招きし、著書も熟読した。
 世界は大きなダムは川の生態系を乱しており、害が多すぎため古いものから撤退すべしというのが多数説である。しかし、この点はプロから言わせると少し違っていた。土砂がたまり耐用年数もせいぜい150年ぐらいと思っていたら、岩盤に直接連結する形になっており、大きな地震にはびくともせず、土砂を流したり取り除いたりするとかなり長く使えるという。
(「そういえば、ダムが地震で決壊した話は聞いたことがない。」と書いておりましたが、東日本大震災時に福島県 藤沼ダムが決壊し、死者・行方不明も出しているとご指摘をいただきました。また、熊本震災の折に大切畑ダムが決壊の危機にあったとのご指摘もいただきました。事実誤認で誠に申し訳ありませんでした。ご指摘いただいた方々にお礼を申し上げるととともにお詫び申し上げ、削除いたします。)

<発電のための4つのダム有効活用提案>
 氏は大きく分けると4つの方法を提案している。
 Ⅰ 現在治水のために満杯にしていないが、こうしたダムの空き容量を発電にフル活用する。
 Ⅱ 既存のダムを嵩上げして容量を増やして発電する。
 Ⅲ 現在使われていない砂防ダムや農業用水ダムで発電する。
 Ⅳ 地方自治体中心に小水力発電で地域の電力を補う。

 Ⅲ、Ⅳはよく知っていたが、ⅠとⅡはまったく初耳だった。このことをネタに4月10日の決算行政監視委員会の分科会で1時間、質問した。

<Ⅰ 1954年からは格段に進歩した気象予測>
 ダムはもとは「治水」すなわち洪水防止が中心だったが、途中から「利水」が加わり、大半の大型ダムは多目的ダムと呼ばれるものになった。ところが、治水が重視されるあまり、洪水に備えて満水にせず、常に大雨を受け入れるようにしている。
 1954年台風15号のため洞爺丸沈没事故が起き、1155人が死亡する日本最大の海難事故となった。台風の予測がままならなかったからである。ところが、今や天気予報ははずれることがほとんどなくなり、上流で雨が大体どのぐらい降るか予測できるようになった。それに合わせてダムの水を減らして準備すればよいのに、相変わらず昔のルールで運用しているというのだ。満水にして発電すればかなり効率が上がる。
 ドイツは再生可能エネルギーを優先して使うことが義務付けられているが、太陽光も風力も天候に左右される電源である。しかし、気象予測の精度が増し、太陽光の強さも風の吹き具合もかなり予測できるため、調整電源をどれくらい使わなければならないか早目に通報できる仕組みになっている。日本はもっと正確な予測が可能なはずである。

<Ⅱ 既存のダムの嵩上げ>
 ダム建設には人口湖の下に埋もれる山村の悲劇がついて回る。環境を破壊し生態系を傷つけることも多い。また、竹村氏は水需要は1990年をピークに減少しており、もうダムを造るべきではないと断じている。一方で、せっかく好適地に造ったダムを発電用にリフォームし、有効活用すべきと主張している。ダム造成に伴う補償交渉の必要もなく、ただコンクリートを多く使うだけですむからだ。大体のダムは擂鉢状になっており、上のほうが大きく広がっているため、10m嵩上げしただけで容量は一気に倍になることもある。これで発電能力も倍増する。

<日本に大型ダムは不要>
 国際的にはダムは批判の対象となっている。水害を思ったほど防げず、住民生活や自然環境を破壊する。土砂を堰止め、自然のバランスを崩す。2000年に世界銀行が『世界ダム委員会報告』で、ダムは今後はあまり投資の対象にしない、撤去すべきと報告した。日本でも前原国交大臣が、八ッ場ダムをやめると言い出して混乱が生じた。2018年賛否が分かれた川辺川ダムが撤回に追い込まれた。洪水防止のために代わりに考案されたのが、スーパー堤防だが、こっちも遅々として進まない。
 かつて外国から原材料を輸入・加工・製品化し輸出して儲ける、いわゆる加工貿易立国のため、東京湾・伊勢湾・大阪湾の海辺を埋め立て工場に明け渡した。また、八郎潟を筆頭に干拓が行われて農地が造成された。しかし、今は辺野古の埋め立てや諫早湾干拓ぐらいしか話題にならない。休耕地が急増するのだから農地造成はとっくの昔からほとんどやっていない。更に空家が13%も生じており、住宅地の造成も大型マンションも少子化時代の下では不要なのだ。つまり、日本の国土をいじくり回す時代ではなくなったのだ。
 ところがいまだ国交省直轄27、補助34ものダム建設が行われている。最近の東京新聞が長崎石木ダム反対の動きを伝えている(4/16「こちら特報部」)。長野県でも上高地に近い「霞沢第2号」砂防ダムが作業道建設に10年もかかり、本当に必要かと疑問が投げかけられている(4/20信濃毎日新聞)。原発といいダムといい守旧国であり、日本は安全や景観はいつも二の次である。

<中山間地はどこでも小水力発電の適地>
 それに対して、将来有望なのが小水力発電である。というも水をせき止めるダムを思い浮かべる人が多いが、急な水路をらせん状に回転するものから、本流からちょっと横に流して発電してすぐ戻るものもある。デ・レーケやベルが驚いたとおり、日本には豊富な水量と急峻な地形がある。これらの総電力でも1400万kwhに相当する。つまり過疎に悩む中山間地ではいとも簡単に電力エネルギーの地産地消が可能なのである。竹村氏は、川という公共財はやはり地方自治体が中心となるべき、退職しても元気な発電技術者に参加してもらえ等具体的なことも提案している。
 北アルプスを望む安曇野は「さとやまエネルギー」という再生可能エネルギー会社が、高さ18mの既存の砂防えん堤に穴を開け、最大出力700kwh(一般家庭1000世帯の電力を賄う)小水力発電を計画している。売電収入の一部は、高齢者の交通手段の確保、農業振興、登山道整備などに役立てる計画である。竹村氏の提案通り、地元出身の大手プラントエンジニアリングの企業の勤務経験のある37歳の若手代表が中心となっている(4/21信濃毎日新聞「地域課題解決へ小水力発電活用」)。やればできるのだ。

<治水・利水・環境+再生可能エネルギー>
 日本は1896年氾濫を防ぐため河川法を制定している。土木の先進国フランスが治水と舟運を目的に河川法を制定する2年前である。1964年に第一条に「河川が適正に利用される」と利水が加えられ、大半のダムはいわゆる「多目的ダム」となっている。更に環境を問題とすべく1997年に「河川環境の整備と保全がされる」と改正された。これだけ再生可能エネルギーの必要性が叫ばれているのである。「水エネルギーの有効活用」も加えておいてしかるべきであるというのが竹村氏の主張である。
 竹村氏の試算によると①満水利用で900億kwh②嵩上げで343億kwh③発電に利用されていないダムや砂防ダム、農業用水路等で1000億kwhで合計2000億kwh余りになる。1kwh20円とすると200兆円の稼ぎとなる。そこにおまけの小水力発電1400万kwhもつながる。太陽光、風に負けずに水も有効活用し、原発のない日本を造らなければならない。

決算行政監視委員会会第4分科会資料

投稿者: しのはら孝

日時: 2017年4月28日 09:26