2018.12.02

農林水産

【漁業法シリーズ2】海洋法条約は漁業分野では自由を認めず、資源管理を義務付け  -人類共有の財産は日本の総有(入会林野・共同漁業権等)と同じ- 18.12.02

<10年余に及んだ第3次海洋法会議>
 1973年第三次海洋法会議が始まり、11回にも及ぶ長い会議を経て、1982年国連海洋法条約が採択された。海洋法条約はいろいろ項目が入っており、最大の国際条約と言われるが、その一つの大きなテーマは海の資源の扱いだった。1994年11月に発効した。日本はそれを受けて世界有数の水産国、海に深くかかわる国として、当然条約に加盟しなければならないということになった。

<海は人類共有の財産で各国が自由に活用>
 他にも、航行の自由とか、海洋底の鉱物資源の利用の仕方についても、いろいろ議論が行われた。深海底の海洋鉱物資源については発展途上国の発展のために使われるべきだといった議論が行われた。いわゆる海は誰のものかという議論に行き着く。その結論は「Common heritage of mankind。人類共有の財産」という理念で貫かれている。例えば、船の航行ではたとえ領海でも「無害通航」という権利が決められているのは、海はみんなの国のものだからである。
 日本の総有の概念(入会林野・共同漁業権等)と同じである。

<例外的に沿岸主義が貫かれたEEZ>
 そうした中で数少ない例外が、200海里の排他的経済水域内の生物資源管理(Exclusive Economic Zone:EEZ)である。この200海里のEEZは、よく漁業水域とも言われている。このEEZは我が国の遠洋漁業が世界中で魚を獲りまくったことが一つの原因となり、設定に拍車をかけたと言われている。
 大型漁船団が各国の沿岸海域に行き、魚を獲りまくる。沿岸国は恐れをなし、世界が反感を抱いたのは当然である。例えて言えば、自分の家(国)の庭先を他人(他国の漁船)に荒らし回されていたからである。当時は12海里から外は自由だったからだ。念入りな議論の後の結論は、"海洋生物資源の管理は沿岸国に任せる"ことだった。沿岸国主義と呼ばれるものである。つまり一番身近な人たちに資源の管理を任せるということに結論付けられたのだ。

<巧妙な日本の相互主義>
 我が日本は1970年代後半あたりから、日ソ漁業交渉、日米漁業交渉等各国から締め出しを食らいつつあった。一方で、日本は中国、韓国沿岸海域で漁獲していた関係で、1977年に漁業水域は設定したもののソ連船には適用するが中国・韓国漁船には適用しないでいた。一面では荒っぽいが、日本海の東経135度の東側しか適用しないというある意味では巧妙な線引きをしていた。

<中国・韓国が遠洋漁業に進出し、海の秩序は一変>
 ところが、年月を経ると国際漁業環境も大きく変化してきた。経済力をつけ大型漁船建造能力を身につけた中国・韓国漁船がどんどん遠洋漁業に進出し、日本の沿海に押し寄せて来た。上記の相互主義により日本が領海12海里より外は取り締まれないのをいいことに、日本の漁民が日本の漁業法のルールに基づいて適正な管理をしつつ漁業活動をしているのに、中国・韓国漁船が獲りまくる状況となった。立場が逆転したのである。
 そのため日本もEEZを設定し、中国・韓国にもルールを守らせるという大改革が、1995~97年にかけて行われた。

<TAC法による出口規制の導入>
 海洋法条約は加盟の条件として第61条で、EEZ内の生物資源の漁獲可能量を決定し、適当な保存措置及び管理措置を講ずることとされていた。
 そのためTAC法(Total Allowable Catch)と呼ばれる、「漁業資源の保存及び管理する法律」を制定した。今まで漁業法では資源管理のためにいわゆる「入口規制」、すなわち隻数・トン数の制限等があったが、それに加えてTAC法により「出口規制」、すなわちこれ以上獲ると資源が枯渇するということで上限を設定する仕組みを導入した。漁業法は、戦後の1949年に制定されて以来手つかずであったが、1997年に全く新しい理念の下に制定されたTAC法と両輪で日本のEEZ内の漁業資源管理体制が確立した。
(以下、次号に続く)

投稿者: しのはら孝

日時: 2018年12月 2日 20:55