2019.11.20

外交安保

【日米貿易協定シリーズ4】自動車一強、トヨタ一強は政界の一強とかわりなし -多様性のない就業構造では将来が危ういばかり- 19.11.20

<日本の外への徒らな噴出的輸出が生んだ数々の通商摩擦> 〔別表「アメリカの貿易赤字上位5カ国・地域の推移」参照〕
 この日米貿易交渉の根底に日本の洪水的自動車輸出があることは誰でもが承知している。
 日本からの洪水的輸出は何も今に始まったことではなく、繊維摩擦の頃からずっと続いている。
相手国の産業を叩きのめしてもお構いなしの噴出的輸出である。このためアメリカとは鉄鋼、半導体と品目を特定した貿易交渉が行われてきている。今USTR代表を務めるライトハイザーは、1983~85年レーガン政権下でUSTR次席として日本に鉄鋼輸出規制をさせた相手である。
 1980年代の後半から1990年代にかけて冷戦構造が崩れ、敵対国がソ連ではなくなった。アメリカの世論調査では、国民は日本をソ連に代わるアメリカのライバル国認識し、政府もそのように対応してきた。その延長線上に日米構造協議があり、さらにTPPにつながっている。

<トランプがメキシコ(NAFTA)に怒り立つ理由> 〔別表「日本のアメリカへの自動車・自動車部品輸出額と黒字額の推移」参照〕
 それでも今は中国をはじめ他の国もアメリカに対して輸出攻勢をかけ、アメリカの貿易赤字相手国が分散しているので、日本の悪玉ぶりはその当時に比べれば減った。例えば今1980年代の日本と同じく貿易面でも嫌われているのが中国である。
日本は対米貿易黒字額6兆4,553億円(2018)となっている。対米貿易で見ると日本からの輸出が15兆4,702億円、アメリカからの輸入が9兆149億円と、倍半分の差がある。
 赤字額のドルベースでいくと1980年代から1990年代にかけては日本が1位、その後中国とメキシコに追い抜かれて、今は、1位が中国で4,195億ドル、ドイツ、メキシコに続き日本が4位で672億ドルある。日本の貿易黒字はその間ほとんど変わっていない。
 このように、貿易赤字相手国はかなり分散したが、どの国もアメリカに何でも売りつけてくるとトランプ大統領が怒り狂っている。そしてその最初の標的は、北米自由貿易協定(NAFTA)の恩恵に浴しているメキシコだった。メキシコは806億ドルもアメリカに輸出をしており、自動車分野においても世界第4位の輸出国である。といってもメキシコの自動車会社の車ではなく、日本、ドイツ、韓国等が北米自由協定(NAFTA)を悪用し、メキシコで自動車を生産してアメリカに輸出しているからだ。そこになんとフォードまでアメリカ輸出用の車をメキシコで生産すると言い出したので、トランプは止めたのだ。極めて当然のことである。

<トランプ大統領の車の地産地消にも一理あり>
 平均的なメキシコ人の賃金はアメリカ人のそれと比較して約4分の1、そしてNAFTAで国境に関税がないということであれば、労賃の安いメキシコで生産してアメリカに輸出したほうが利益が大きいのは明らかである。このからくりに激怒したトランプ大統領はすぐにNAFTAの再交渉を言い出した。2年前に日本のトヨタもメキシコで年間20万台の生産工場を建てようとしたところ、メキシコ人が使う車をメキシコで造るのはいいが、アメリカ人の乗る車はアメリカで造れ、Hire American, Buy Americanが筋だと主張した。つまり、工業製品(車)も地産地消ということであり、実は理に適っていることなのだ。
 だから私はトランプ大統領の一連の主張、例えばTPPに入らず、NAFTAをおかしいという考えは十分に理解できる。日本で言えば、工場を労賃の安いアジア諸国に移転し、製品を日本に逆輸出している矛盾は直さなければならないのに放置したままである。だから、自動車以外の製造業はことごとく日本から消えつつある。まさに危機なのにこれを止める気配がない。イケイケドンドンの価値観しか持たず、ひたすら自由競争なり自由貿易だけを声高に叫ぶ大半の人たちは、残念ながら理解できないだろう。

<日米貿易における自動車一強> 〔別表「自動車貿易をめぐる日本の不均衡(2018)」参照〕
 こうしてみるとトランプがNAFTA、中国に続いて日本の自動車を目の敵にしても仕方ない。なぜなら、対日貿易赤字の大半は自動車によるものだからだ。日本の自動車関連貿易輸出額が5兆4,536億円は、全アメリカへの輸出額の35.3%である。それに対してアメリカから日本への自動車関連の輸入額は1,705億円だけである。その産業ごとに製品が行って貿易の均衡を保たなくてはならないという水平貿易論がある。ところが、車は日本がアメリカに対して圧倒的な輸出超過になり、逆に農業で見るとアメリカが圧倒的に輸出超過になり、全く逆の形となっている。つまり、二国間で得意な製品を輸出し合ったほうが、両国にメリットが大きいという古典な国際分業論そのものが日本両国で実現している。ところが、それが両国をゆたかにs売ることがなくむしろ両国を傷つけているから、貿易交渉が必要となっているのだ。更に、いかんせん自動車と農産物の価格が違いすぎ、とても均衡が取れないからである。つまり、自由貿易を絶対視する論理は破綻してしまっているのだ。
 自動車関連貿易赤字で見ると5兆2,831億円。だから対日貿易赤字に占める自動車関連赤字の割合は、なんと81.8%に及ぶ。日本の対米貿易では自動車1強である。そして、日本の製造業の中でも自動車産業1強になりつつあるのではないか。

<自動車でもトヨタ一強>
 かつては日本が得意とした輸出品は繊維関連、そしてカメラ、テレビ・ラジオといった家電製品だったし、鉄鋼、半導体を得意とした時もあった。しかし、今や繊維や家電は見る影もない。このようにたった一つの産業に頼る日本の産業構造がいいとはとても言えまい。日本こそ安全保障上の理由で農林水産業も含め他の色々な産業をきちんと守らなくてはならない。
 そうした中、11月8日トヨタ自動車の9月連結決算が発表された。売上高が史上最高の15兆2,855億円で対前年比4.2%増、純利益は1兆2,149億円で対前年比2.6%増、新車の新型カローラとRAV4の売上が順調だったからだという。15兆円という金額は、日本の農業生産額が8兆円だから1社で農業全体の2倍の売上高を記録したのである。
 それから1週間後に発表されたトヨタを除く同業他6社の業績はそういうわけにいかなかった。スバルを除く他5社は減収減益であり、特にゴーン問題で揺れている日産は売上高が5兆31億円と対前年比9.6%減、純利益も654億円で対前年比73%減と大きな差をつけられている。

<バランスの取れた産業構造にしないと日本は衰亡してしまう>
 政治の世界では自民党1強と言われ、その中でも官邸一強ないし安倍1強と言われる図式によく似ていて、自動車一強、なかでもトヨタ一強なのだ。そしてあちこちに歪みが生じているのは政界と同じである。
 このようないびつな国が健全であるはずがない。産業間格差、地域間格差が極まってきており、日本の産業構造も社会構造ももう危険水域に入っていると言ってよい。いろいろな産業がそれなりに活況を呈していかなければ国の発展も安定もままならず、衰亡していくだろう。
このアンバランスな状況は絶対に打破していかなくてはいけないと思っている。

投稿者: しのはら孝

日時: 2019年11月20日 11:32