2020.06.02

社保・医療

【新型コロナウイルス感染症シリーズ16】日本に感染者・死亡者が少ない理由を考察する- 原因を突き止めて第2波に備え、死亡者数を更に少なくする - 20.06.02

<死亡者の割合が少ない日本>
 5月25日、1ヶ月半に及んだ緊急事態宣言が解除された。混乱の中にあり、振り返る余裕もなかったが、今回世界の状況を一覧化してみた。
(別表:感染者数・死亡者数、医療体制の各国比較)

 世界で見ると日本の感染者数は人口比ではそれほど多くない。ただ、日本は安倍首相がPCR検査を一日2万件と宣言したものの、いつまで経っても増えず、これが原因で感染者が気づかれずにいるのが大きな原因ともいえ、感染者数比較には客観性がない。諸外国と比較して明らかに少ないのが死亡者数である。人口100万人当たりの死亡者数でみると日本は7人に対してアメリカは315人(2桁違い45倍 6/1現在)、ニューヨーク州に至っては1,236人(177倍 5/29現在)である。
 アメリカの死亡者数は、5月27日とうとう10万人を超え、世界全体の死亡者の3割を占めている。そのうちNY州は約4分の1を占めている。また、ロシアも感染者の半分がモスクワであり、まさに人口密集地帯に感染が拡大していることが如実に表れている。新型コロナウイルスは効率を求めて密集を続ける都市的生活様式に襲いかかってきたのである。

<アジア諸国が欧米諸国と比べて死亡者も感染者も少ない>
 感染により亡くなられた人は、欧州諸国では国によって多少差があるが人口100万人あたりで大体400~600人という中、ドイツだけが99人とまだしも救われている。ところがなぜかアジア諸国が皆少ない。感染元の中国も3人、水際対策が成功した台湾に至っては、死者は総数で7人と人口100万人あたりで1人にもならずに済んでいる。日本の死亡者数が欧米に比べ少ないことから、コロナ対策が成功したかのようにみえるが、アジアで日本より死亡者数が多いのはフィリピン(8人)だけで、日本はアジアのでは平均以下なのだ。
しかしながら、欧州では死亡者の4割以上が高齢者施設の入居者であり、高齢化率の高い日本も同じく死亡者が増えていた恐れもある中、それを回避できたのは成功と言える。
 感染者数は、前述のとおりPCR検査の多寡により必ずしも現状を正確に捉えておらず各国比較するのにふさわしくはないが、日本の場合は100万人あたり131人、中国58人、韓国約19人、とアジアは大体200人未満である。シンガポールだけが5,269人と多いが、出稼ぎ外国人労働者の三密状態の寮で感染が広がった特殊なケースである。
 それに対し、欧州はスペインの5,006人を筆頭に4,000人前後である。1番少ないドイツでも2,143人に達しており日本の8倍である。また、アメリカは4,933人(38倍)、ニューヨーク州は19,093人(146倍)と、日本と比べものにならないほど感染者も多い。

<日本の感染者・死亡者が少ない一般的な理由>
 政府の対応が後手後手に回り、100万人あたりの死亡者数でもアジアの平均を上回るが、それでも欧米と比べて圧倒的に少ない。巷間言われている理由を列挙する。

(1)日本人はマスクを着用し、なにかと手洗いし、外から帰ったらうがいし、靴を脱いで上がるなど元々公衆衛生意識が高く、また公衆衛生インフラ整備も行き届いている。(⇔アジアも低い)

(2)外出自粛や補償のない休業要請に協力する国民性が幸いした。(→他の国は都市部閉鎖等強制力が強くきつい措置でやっと動いている)

(3)国民皆保険制度のもと医療体制が充実し、医療関係者が奮闘した。日本はICUこそ少ないがCTは人口100万人あたり112台と欧米諸国の2~4倍あり、PCR検査不足を補った。(→独のICU病床が人口10万人あたり30床と仏伊西の3倍もあるなど医療体制が充実。逆に伊は緊縮財政による医療費削減により医療崩壊寸前)

(4)日本人の食生活(納豆・キムチ等の発酵食品、お茶等)が免疫力を高めている。(⇔他のアジア諸国もおしなべて死亡率が低い)

(5)糖尿病、高血圧、心臓病等の基礎的疾患や肥満が重病になりやすいというが、日本人はこれらの疾患が少なく、肥満も少ない。(→ジョンソン英首相も肥満体)

<医学的・疫学的に考えられる理由>
(6)元々似たウイルスに罹っていて、新型コロナウイルスに罹りにくい(交差免疫)。(→インフルエンザに罹っていると他のウイルスに強くなる。インフルエンザや風邪にいつも罹っている子供が罹りにくいにくい理由も交差免疫か)

(7)武漢発の最初の新型コロナウイルスは弱毒で、欧州で強毒に変異したのではないか。 (6)の延長で、秋の中国人観光客が既に持ち込み、集団免疫ができていたのではないか。(⇔日本の後半は欧州経由だったが死亡者はそれほど増えず)

(8)ウイルスは一般的に高温多湿に弱い。(→沖縄にも中国人が多く来ていたのに北海道と比べて感染者が少ない。 ⇔年中高温多湿のシンガポールで感染者が多い)

(9)BCGワクチン接種国は死亡者が少ない。(→伊はもともとBCGを していない。400~500人の英仏独西はかつてはしていたがやめてしまっている。荀はしており、死亡者が独と並んで100人台で少ない。それに対して日本をはじめアジア諸国は、日本で製造されたBCGを接種していた。 中近東もしており、いずれも2桁で欧州と比べて少ない⇔1982年にBCGを止めたイスラエルで接種者と非接種者の比較をしたが、優位な差は見られなかった)

(10)アジアの死者が少ないのは遺伝子的要因もありうる。(慶応大学、京都大学等八つの研究機関と医療機関約40施設が参加して、無症状の感染者、軽症者、重症者等それぞれ200人ずつで計600人の血液を集め遺伝子情報を解析して、重症化につながるHLA(ヒト白血球抗原)、サイトカイン(情報伝達物質)関連の遺伝子を探す。重症化する遺伝子がわかれば、治療につながることになる)

 ワクチンや治療薬の開発とともに、一刻も早く誰が重症化しやすいのか等も究明し、第2波にそなえてもらいたいものだ。

<日本は自画自賛に参入する資格なし>
 欧米諸国や台湾などのきつい外出制限ではなく、日本は緩やかな自粛要請で感染症拡大阻止に成功した。台湾ではこれを「仏式」と呼んでいる。言い得て妙な名前だけれども、その穏やかな仏式で成功したことを、安倍首相は"日本モデル"と称し自慢している。海外メディアは単なる幸運だけではないかといぶかしがっているだけで、決して称賛などしていない。
 韓国は文在寅大統領が、アプリで感染者の行動範囲を特定したやり方を"K防疫"として自画自賛している。中国も感染を広めた張本人であるにも関わらず、武漢の都市閉鎖でいち早く感染防止に成功したことを背景として、どぎつい「マスク外交」を展開し、世界から警戒されている。本当に大成功している台湾は各国から称賛され、マスク等を送るなど国際貢献もしている。ところが、日本は経済に偏った国内対策に汲々するばかりで、世界の困っている国に手を差し伸べる余裕など全くない。効果の不解明なアビガン(200万人の備蓄)を提供する用意があると宣言するだけでは、他国と同じように手前味噌なことは言う資格はあるまい。

<医療体制を整備して第2波に備える>
 日本の緊急事態宣言解除を受けて、WHOは「成功している」と評価する一方で、「今後も感染者を発見する等の措置を続けていく必要がある」と結んでいる。要するにろくに検査をしない体制にやんわりと注文をつけているのだ。なぜなら、人口1000人当りのPCR検査数は、1.9であり、アメリカの45.9人、欧州諸国の12.7~47.5人を大きく下回り、別表の国で日本を下回るのは、インド(0.4人)とブラジル(0.6人)という有様だからだ。
 日本は今のところおさまっているけれども、これで油断することなく第2波、第3波に備えなければならない。韓国は既に第2波に見舞われている。スペイン風邪は第2波のほうがひどかったといわれている。日本はその二の舞にならないように、検査を拡充して感染者を割り出し、隔離、ICU病床を充実させるなど医療体制の整備を急がなければならない。

投稿者: 管理者

日時: 2020年6月 2日 11:27