2021.05.13

政治

【政僚シリーズ11】政僚が成れの果てに政治家並みに入院、更迭 -総務省に見る官僚の劣化は内閣人事局が根源- 21.05.13

 菅内閣発足後初の国政選挙が自民党の全敗に終わった今、どのマスコミも総務省疑惑を取り上げることはない。菅内閣への強烈なNOのサインの主な原因はコロナ対策の不備だが、根底に古くからある「政官財」の「三密」の癒着に対する不信も大いに貢献しているはずなのだ。連休中に推敲した政僚シリーズを連載してお届けすることにした。

<飲み会を断らず、飲み会で潰れていった皮肉>
 3月1日、山田真貴子・内閣広報官が菅義偉首相の長男が勤める放送関連会社「東北新社」から7万4千円超の接待を受けた問題で辞表を提出した。
 高級なフランス料理店で、たくさんのステーキを食べても、いくら高級な海産物料理を食べても1人当たりの食事代はなかなか73,400円にまで至らない。7万円は普通の家庭の1ヵ月の食費代に相当する。高額な原因は、おそらく「飲み会を絶対断らない」山田にふさわしい「飲」に原因があったのだろう。山田には、"女性として初の総理秘書官"とか"女性として初の内閣広報官"とか、"女性として初"が付きまとった。そして女性の後輩官僚達に「飲み会に誘われたら断らない」ことを出世の秘訣として伝えている。うまく出世し、官邸の華やかな記者会見に花を添えていた。なかなか見事な成功事例である。ところが、その断らなかった飲み会で墓穴を掘ったのは皮肉である。

<政僚の成れの果てを、総務官僚の乱れにみる>
 山田はこの接待を追及されると入院し、報道陣の追及を避け挙句の果てに辞職していった。スキャンダルに追われる政治家の逃げる手口と全く同じである。官僚ではなく、政治的官僚に成り下がった「政僚」の哀れな姿である。後述する韓国だと追及の手は緩むことはないが、我が日本は辞職するともう後追いしない優しい国である。

<官邸主導の内閣人事局人事が官僚のやる気を奪う>
 私はこの政僚シリーズで、かねてから霞ヶ関の危機、劣化を指摘してきた。山田や谷脇康彦総務省審議官は政治家に近づき、それに媚びへつらい、その見返りとして栄達を極めていった政僚たちの到達点である。総務官僚の官邸すなわち菅義偉官房長官そして総理への過度な忖度により、霞ヶ関が10年前20年前と比べ、かつての国家のために働く官僚の機能を失いつつある現実が白日の下に曝された。
 しかし、これによって霞ヶ関の全ての役人が彼等と同じだと誤解されては困る。なぜならばもともと少しでも何かの役に立ちたいと、国家公務員になっている人達が大半である。紙切れ一枚であちこちの部署へ行かされ、パワハラ上司にも仕え、家庭を犠牲にしながらブラック企業(役所)で長時間の残業に耐え、黙々と仕事をしてきている。そうした中でごく一部が権力を握った政治家、なかんずく官邸だけを見て、その寵愛(?)を受けて出世していき、大半のまじめな官僚のやる気を失わせているのだ。

<安倍・菅長期政権の最大の失敗は官僚人事への過度な介入>
 1997年の橋本行革から始まった官邸の機能強化は、2014年の内閣人事局の設置を経て、7年8ヶ月の強すぎる安倍・菅官邸を生み出し、今その膿が一挙に出て崩壊しかかっているのである。私は、安倍・菅政権の最大の失敗は、政僚の跋扈を許し、なおかつ森友学園では佐川宣寿理財局長に嘘をつかせて政権を守った代償に出世までさせるようにしてしまったことにあると思っている。一方、加計学園の獣医学部新設に異を唱えた前川喜平事務次官は半年で追われている。かくして国家の機能がマヒしかかっており、それがコロナ対策でも全く体をなさず、日本を大混乱に陥れているのである。

<昔からある電波利権>
 放送法に基づく電波の許可に放送業界が群がり、枠を巡って許可が欲しいので接待攻勢をかける。田中角栄も実はこの電波利権をモノにしてのし上がったと言われている。
そこに総理の息子、菅正剛が登場した。国会審議で総理の息子は接待要員ではないというが、日本人の奥ゆかしい風土からしてヒラメ官僚や政僚がなびくのは当然である。かくして総務省の通信・放送行政関係者は、皆ズブズブの接待漬けになり、次期事務次官間違いなしと言われた谷脇は定年を延長して事務次官になる予定が3月に退職することになり、退職金の支払いも延期されている。因果応報である。
 総理の息子の話は断れない、などともっともらしいこと言い責任逃れをしていたが、むしろ政僚が積極的に近寄ったと言えよう。また、仕事の話はしていない、などと嘘をつきながら、文春にバラされるとあっさり認めている。嘘つきは財務省の佐川理財局長と同じく、ヒラメ官僚・政僚の共通の悪い性癖である。

<霞ヶ関に蔓延する「政僚病」>
 最近、森友問題を巡り、赤木文書がようやく俎上に上がり始めた。自死した真面目な官僚の最後の言葉であり、真実を明らかにし、責任者を追及しなければならない。
 武田良太総務相も参院予算委で「記憶がないと言え」と指図している。鯛と同じように頭から腐り始め、閣僚にそして政僚に感染している。最初はそんな発言はしなかったと嘘をつき、最後には「無意識で口に出た」と認めている。恐ろしいことに無意識のうちにいかがわしい指示が出てしまうほど菅政権は堕落してしまっているのである。

<官僚の中に勝ち組と負け組を作ってしまった内閣人事局>
 しかし、官僚の世界では2~3年で人事異動があり、また人事をする秘書課長や事務次官も同様に代わるので、公正さが保たれていた。それが内閣人事局の出現で、同じような官僚だけが出世する仕組みが定着してしまったのだ。ずっと同じ権力者がいて、そのグループだけが人事をし、権力を握っているとなると歪んでくる。これは多選市長や知事の下の地方自治体でよく見られることだが、とうとう霞ヶ関も同じに成り下がってしまった。それと同時に活力を失いつつある。
 菅義偉首相のように総務大臣を一度やって、その後官房長官になり、8年間以上ずっと権力の中枢にいるために総務省に「菅帝国」が出来上がった。総務省は菅官邸の方ばかりを向き、その輩だけが出世するという典型的な悪い図式が出来上がったのである。まさに政権の私物化である。しかし、天網恢恢疎にして漏らさず、今回の過剰接待が明るみになり、一気に崩壊しつつある。少しでも早く元に戻さないとならない。

<韓国なら国民・マスコミが総攻撃する政治家の身内の優遇>
 韓国の政界は、日本とは比較にならないほど政争が激しい。また、政治家のスキャンダルにも厳しい追及が続く。なかでも日本以上に激しい受験競争を反映し、チョ・グク法務相の更迭にみられるように、国民は情実入学などを許しておかない。そうした中、菅総理の長男正剛の東北新社入社、そして過剰接待、放送法が規定する『外国資本の比率を20%未満』に抵触する不祥事である。韓国なら確実に総辞職ものである。ところが、国会も空転せず、マスコミも大して騒がないでいる。この国は、どうもタガが緩んでしまっている。官僚に厳しく、息子に甘い菅総理こそ叩きまくっていいと思うが、野党もマスコミもどうも腰がひけている。チェック機能はどこかに消えてしまったのかと、野党の一員として忸怩たる思いである。

<内閣人事局の廃止>
 内閣人事局は廃止しないと日本は破滅に向かってしまう。なぜならば、改革人事局に人事を握らせることにより、官僚は政治にモノが言えなくなってしまっている。そしてこれが時の政権の権力維持、そしていびつな政権運営に繋がり、更に政策のミスに繋がっている。これが見事体現されたのが、一連のコロナ対策のミスの連続であり、由々しき事態と言わねばなるまい。13府省庁23法案の度重なるミスもここに原因がある。

※5/14訂正:「放送法に抵触する外資の25%超えという」→「放送法が規定する『外国資本の比率を20%未満』に抵触する」

投稿者: しのはら孝

日時: 2021年5月13日 10:20