2022.04.23

環境

水の流出も残土の処理もお構いなしのリニア新幹線 - SDGsの時代に環境保全の無視は許されず- 22.04.23

<静岡県民60万人の水を奪うリニアトンネル工事>
 リニア中央新幹線の工事が、暗礁に乗り上げている。僅か10㎞しか通過しない静岡県で、大井川から毎秒62tの水が流出し、下流の数市町村に住む60万人に大きな影響を与えることがわかり、川勝平太静岡県知事は水問題が解決しなければ工事は認められないと主張している。しかし、このようなことはかねてから予想されていた。ところが、JR東海はまじめに対応してこなかったのである。

<見事な環境大臣意見書>
 後から読んでみると見事と言うしかないが、2014年国土交通省が工事を認可するに際し、環境大臣が12頁にわたる意見を述べている。
 項目を見ると、水環境、廃棄物等(国土交通省やJR東海は残土を「発生土」と称している)について、工事実施前から地下水位及び河川流量の把握を継続的に行うことを求め、断層や破砕帯の透水性が高いところから大量の湧水が出る可能性があり、地下水位の低下並びに河川流量の減少及びこれに伴い生ずる河川の生態系や水生生物への影響は重大なものとなる等と問題点を指摘している。
 ところが、ほとんどそうした問題を無視して工事が進められてきたというのが実態である。

<まじめに対応しないJR東海>
 12頁の環境省の意見に対して、国交大臣も意見を述べているが、監督省庁として環境大臣の倍以上の頁があっても罰は当たらないのにたった3頁である。国交大臣意見も、大井川をはじめとする沿線の各河川では様々な分野で水資源が利用されていることから、河川流量の減少が河川水の利用に重大な影響を及ぼす恐れがあると指摘している。ところが、それを受けたJR東海の環境影響評価のあらましでは、地下水水資源への影響は「環境保全措置を実施することにより小さいと予測する」と平然と書いている。また、トンネルの工事による破砕帯周辺等の地下水位への影響についても「環境保全措置を実施することにより全体として影響が小さいと予想する」といった具合で、最初からほとんどまじめに聞いていないのである。これではトンネル工事が暗礁に乗り上げても仕方がない。

<残土の処理計画なしで進められる工事>
 そしてなによりも重大問題なのは、残土すなわち発生土と呼ばれる工事に伴う大量の土の発生である。全量は5,680万㎦、東京ドーム46杯分といわれている。とてつもない量である。なぜならば、全長の286㎞のうち、トンネルが246㎞と80%も占めており、そのトンネルを掘った後に土が出てくるのは当たりまえのことである。その処理計画が、ほとんど作られずに工事だけが進んでいるのが実態である。

<あるのはこれからの抽象的計画のみ>
 3月25日の環境委員会の私の質問に対して、加藤鮎子国土交通政務官は、7割の計画ができあがっていると答えているが、とても信用することができない。なぜならば国土交通省の資料によれば、5,680万㎦のうち364万㎦が活用され、関東車両基地や早川芦安連絡事業、豊丘村村内発生土置き場等具体的な名前が書いてある。ところが、残りの5,316万㎦については、リニア中央新幹線地区外工区の造成に活用、公共事業の造成に活用といった抽象的な事柄しか書いておらず、どこにも具体的な地名が入ってない。残土の処理は工事を始め、土がいっぱい出てきたときに、周辺市町村に相談して処理するのにふさわしい所を決めてもらうということになっているからである。

<信濃毎日新聞の危機的連載>
 ところが信濃毎日新聞がリニア新幹線について相当長期間にわたって連載を続けていた。残土については「土の声を、国策民営リニアあの現場から」と「残土漂流」というタイトルの下、なかなか読み応えのある現場からのレポートを連載していた。そこには、住民の理解もなんのその、何の前触れもなく来て国の意向だと土砂を置いていくという悲惨な実態が書かれている。
 昨年の熱海の土石流の事故はほとんどの国民の記憶に残っていると思うが、このままだと何年後か何十年後にはリニア残土により同じ悲劇が繰り返されることになる。

<自然環境への配慮もほとんどなくエコパークも台無し>
 南アルプストンネルは24㎞あるが、その近辺はユネスコのエコパークに指定されている。つまり自然遺産の要件、「手付かずの自然が残される」、「持続可能な発展を国内外の見本となるような取り組みが行なわれる」といった条件を明らかに犯すことになる。リニア工事の現場は、高度経済成長時代と同じ乱開発そのものである。これでは、原発使用済み燃料(Spent Fuel)の行き先がなく、「トイレなきマンション」と呼ばれる状況と瓜二つなのだ。

<きちんとした残土処理計画がない限り工事は認めるべきではない>
 JR東海は土の置き場所は「災害が起きる可能性がないところを選ぶ」、「場所によって防災設備を作る」、「確定後は周辺環境への影響予測調査を実施する」とは言っているが、具体的に何をしてきたのかさっぱりわからない。このようななまくらな状態で工事を続けさせてはならない。
 アメリカの原発の新設の条件が好例を提供してくれる。アメリカの原発は100基ほどだが、この30数年間新規建設は一切なされていない。高レベル放射性廃棄物の処理計画をきちんと作れなければ新設が認められないからだ。一時ロッキー山脈のユッカマウンテンの横腹に穴を開けてそこに新設することがほぼ決まりかけたが、地元ネバタ州民の大反対にあって計画が頓挫した。それ以来新設は認められていない。
 同じように考えるとしたら、残土処理計画をきちんと作らない限りは一切工事を認めないということにすべきである。

<土石流発生を防ぐことに全力を挙げるべし>
 なぜならば、一旦壊した環境は戻らないからである。そこらじゅう谷だらけの伊那谷を平らにすると言うと響きはいいが、いつか下流には必ず土石流が発生する。そうでなくても御嶽山の火山灰土壌で1965年に大きな土石流が発生している。また1984年の長野県西部地震では王滝村で3,400万㎥の御嶽崩れが発生し、29人が犠牲となっている。伊那谷ではそんな盛り土でなくても、「蛇抜け」と呼ばれているほど土石流がよく起こるのだ。そうしたところに見境もなく土を盛りあげたらどうなるか結果は明らかである。

<環境大臣がリニア中止を勧告すべし>
 5人の元総理はEUが原発投資を脱炭素投資の1つとして認めるのはよくないと意見書を送った。山口環境大臣はその中の「多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ」という表現にクレームをつけた。他にも身の回りの省エネを呼び掛けたり、埼玉県のメガソーラーから生じる環境問題にも注文をつけたりしている。私は環境委員会の場でこのような点については、私と意見が大きく異なるが、環境大臣が大所高所から、環境について意見を言うのはいいことだと持ち上げた。
 そのついでに、環境上の問題が多すぎるリニア新幹線中止こそ提案すべきではないかと注文をつけて質問を終えた。

投稿者: しのはら孝

日時: 2022年4月23日 11:26