2022.07.19

外交安保

【ウクライナシリーズ③】ウクライナ戦争はアメリカが自重すれば回避できた-強すぎる同盟NATOは前世紀の遺物かもしれず-22.07.19

<ワルシャワ条約機構の解散とともにNATOは解散すべきだった>
 米ソ冷戦が終わった1991年、ソ連が解体しウクライナを含む14か国が独立、ポーランド、チェコスロバキア等の東欧諸国も自立し、ワルシャワ条約機構(WTO)は解散した。同時に進行していた東西ドイツの統一交渉の過程で、アメリカはNATOを東方に拡大しないと何度も言っていた。
NATOは1948年ソ連の拡大に対応するため12か国により設立された軍事同盟であり、一国が攻められたら助け合う集団的自衛権が中心となっている。今回の混乱を考えると、この時に米ソ対立でできていたNATOも解散しておけば、今日の混乱は起きなかったのだ。それを存続させただけでなく、次々と拡大してきた。これではヨーロッパの国際平和は保てなくなって当然である。

<NATOはそれほど重要視されていなかった>
 ウクライナのNATOへの接近がプーチンの懸念を増大させ、侵攻の要因となったとこは事実であるが、ロシアも領土拡大の野心の言い訳の一つにNATOを使っている節もある。戦争に絡む外交的発言は所詮そういうものであり、どっちもどっちなのだ。
 ロシアは一時自らもNATOに加盟するとも言っており、NATOをそれほど拒否していたとも言いがたい。更にTPPをはじめとする同盟を嫌ったトランプ大統領は、2018年のNATO首脳会議では、NATOからの撤退を言い出さんとしていたことが、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)から明らかにされている。バイデンもウクライナのNATO加盟を一時延期する意向を示した時もあった。NATOもウクライナとロシアの紛争に関与しないと強調していた。仏も独もウクライナのNATO加盟を真剣に考えていなかったし、EU加盟も反対していた。つまり、それなりの均衡が保たれていたのである。

<多くの有識者は米・NATOの東方拡大に警告を発していた>
 アメリカでもケナン(cf:封じ込め作戦を提唱)、マトロークといった外交官、ミアシャイマー(元空軍軍人、シカゴ大教授)、コーエン、キッシンジャー等が、NATO拡大はロシアとの関係を悪化せると反対していた。モノの分かった人には分かっていたのである。ミアシャイマーは、昔も今もアメリカがウクライナのNATO加盟を認めずにいたら、ロシアのウクライナ侵攻は起こらなかったと力説している。そして、アメリカないしバイデンのこうした態度を、アメリカ法の民主主義を世界に波及させることを目的とする「リベラル覇権主義」と称して糾弾している。中東でも失敗し、またウクライナでも失敗しかかっており、事実かもしれない。

<ミンスク合意>
 2022年2月24日、ロシアがウクライナに突然侵攻したわけではない。ウクライナは2014年夏、ドンバスを奪い返そうと戦いを仕掛けて、それに対してロシアが介入して親ロ勢力を援助している。これによりウクライナは大打撃を受け、仏と独の仲介により2015年2月、2回目の停戦合意協定が結ばれ、親ロ勢力に事実上の自治権を認めることになった(「ミンスク合意」)。
 2019年ドンバスの戦争を終わらせ、ミンスク合意の履行を公約に掲げたゼレンスキーが地滑り的勝利で大統領に選出された。ゼレンスキーはロシアとの和平を掲げていた。しかし、大統領に就任後ウクライナ東部の親ロシア勢力に強い自治権を付与する合意は履行せず、逆に西欧やアメリカから軍事支援を求める方針を示した。これにプーチンは激怒した。その挙句、ゼレンスキーはNATO加盟に突き進んだ。

<アメリカがおびき出したプーチンのウクライナ侵攻>
 2021年4月、ロシアがウクライナとの国境に兵力を増強した後、プーチンとバイデンの初めての会談が行われた。その時に会談決裂が予想されたが、形式的にはロシア軍は国境から撤退した。ただ相当数が残り、ドンバスはほぼロシアに統合された形が残った。こうした中でプーチンはアメリカが手出しはしないとみて、着々とウクライナ統合を進めたのである。つまりバイデンはプーチンの魂胆を承知で見逃していたともいえる。だから、数日前から、プーチンがウクライナに攻め込むことを予告した。エマニュエル・トッドは文春5月号でこの点を厳しく指摘している。
 2021年9月 ラブロフ外相はNATOの境界を1997年以前に戻せという最後通知をしたが、それができるとは思っていなかっただろう。12月には、ロシアはアメリカにウクライナのNATO加盟を認めないと要求し、ウクライナにミンスク合意を履行せよと訴えた。バイデンは電話会談で「ウクライナが戦場になってもアメリカは介入しない」と言明した。プーチンを誘い出したと言われるのはこのためである。

<アメリカも南北アメリカに社会主義政権を認めず介入しており、一方的ロシア非難の資格はない>
 アメリカとて繰り返し西半球を他の大国が立ち入らないようにすると宣言し、現にニカラグアのような小国の革命にも介入し、社会主義のサンディニスタ政権を打倒そうとしていた。これを見てもロシアがウクライナに固執するのを糾弾する資格はない。近隣に敵対国ができるのを嫌うのは共通なのだ。
 世界はかつてブッシュが北朝鮮、イラン、イラクの三国を悪の枢軸と呼んだと同じく、ロシアのウクライナ侵攻を絶対悪として糾弾し、リベラル諸国はこぞって経済制裁をしている。しかし、私はどうしてもロシア・プーチンを一方的に悪と決めつけることには賛成できない。イラクには大量破壊兵器など存在せず、アメリカの言いがかりにすぎなかったのは周知の事実ではないか。
 アメリカが関わる国際戦争案件は、実はそんなことばかりの繰り返しなのだ。奇襲の代名詞となっている。真珠湾攻撃とて、ヨーロッパ戦線への介入に反対するアメリカ国民を戦争に駆り立てるがために、わざと見逃していたとも言われている。戦争を巡る駆け引きであり、一方的善も一方的悪も存在しない。

<ロシアのとんだ誤算 北欧2か国のNATO加盟>
 ロシアの侵攻に恐れをなしたフィンランドは、1,300㎞にわたって国境を接しており、今までの中立を捨ててNATOに近づくことになった。NATOによる集団的自衛権が必要だという世論が急速に高まったからである。加えてスウェーデンもNATO加盟で足並みを揃えた。
 6月28日フィンランド、スウェーデンの北欧2か国のNATO加盟に反対していたトルコが加盟支持に変わり、手続きを開始した。ウクライナのNATO加盟阻止のための侵攻が、逆に北欧2か国のNATO加盟を促す結果となったのは皮肉としか言いようがない。こちらはアメリカが主導したのではなく、駆け込み寺よろしくNATOに保護を求めたのである。
 首脳会議ではロシアを重大で直接的な脅威と位置付ける一方、中国への対応も初めて明記した。日本の岸田首相も初めてNATO首脳会議に参加した。また、ロシアをにらんで現行4万人の即応部隊を30万人強に大幅拡大し、欧州東部での軍部をさらに拡充すること、ウクライナへの包括的支援拡大や軍の近代化への協力等に合意した。
 ロシアはこれに警戒する一方、2か国のNATO加盟は問題ないと認めざるをえなくなった。イギリスは有事の際には両国に軍事支援することで合意している。かくして、欧州の安全保障の基盤が揺らいでいる。

投稿者: 管理者

日時: 2022年7月19日 15:43