2022.07.21

外交安保

【ウクライナシリーズ➃】ウクライナ戦争で得をしているのはどこか-軍産複合体がアメリカのウクライナ対応を操るー22.07.21

<ウクライナ対応は支持されるも国内政策は不人気のバイデン政権>
今のアメリカは非常に平和な状態にある。アメリカ人の血がどこでも流されていない珍しい時だからである。
 ウクライナの抵抗戦が、国際社会でもアメリカでも正しい戦争と受けとめられ、経済制裁、6兆円にも及ぶ軍事支援は、分極化するアメリカでも党派を超えて70%を超える支持を受けている。バイデン大統領は外交委員会のトップを務め、外交が不得手なオバマ大統領を支えた副大統領の経験を活かしているといえる。しかし、こうしたウクライナ危機の下でもコロナ対応や深刻なインフレへの不満は大きく、政権の支持率は40%前後に低迷している。アフガン撤退で失った信頼をウクライナを支援し続けることで取り返さんとしている気配さえも感じられる。

<立花隆流分析>
 私は今は亡き立花隆から教わった方法で物事を考えることが多い。彼に直接会ったのは島根県の農業団体の冬の講演会で一緒になり、ずっと話し込んだ一回だけである。それをきっかけに彼の膨大な書物の一端を貪るように読んだ。立花は「誰が得しているかということをまず考えろ」、それから「どこで誰が何を言ってどう動いたか時系列に紐解いていくと本質がわかる」というのだ。私は以後立花隆流の分析をしてきている。。
 全く余談になるが、彼の本名は橘隆志と名前は同じタカシで、農本主義者橘孝三郎の一族の出であり、「農協」という本も出していた。そうしたことから私には最後には農業を扱った長編を書きたいと語っていた。立花は科学、中でも生物学が好でその延長なのであろう、エコロジストでもあり、私と根源的価値観ではつながっていた。

<穀物農家も石油・天然ガス業界もそれほど利益は上げていない>
 今回誰が得しているか考えてみると、一つには穀物農家なり、穀物輸出国が思い浮かぶ。ウクライナとロシアを足すと世界の小麦の3分の1の輸出をしている。それが輸出できなくなり、アフリカや中近東の飢餓が増えている。穀物価格はうなぎ登りになっており、小麦やトウモロコシの輸出国であるアメリカの農家が儲かり、アメリカが得することになる。ただ、アメリカの農家には戦争を起こすまでの力はないし、穀物など値が上がったところで儲けはそれほど多くはない。
 次に世界屈指の産油国ロシアの石油を輸入しない経済制裁が行われており、石油価格も上昇し、日本のガソリン価格も大きな影響を受けている。これで潤うのは中近東の産油国とシェールガスや天然ガスの輸出国であるアメリカである。しかし、このくらいの値上がりは1973年の石油ショックのようによくあることであり、何も戦争という手段が必要となるわけではない。

<最も得をしている軍産複合体>
 それではウクライナ戦争で他にどこが一番利益を受けているか。明らかに軍需産業である。アメリカは自国で戦わず、援助と称して次々に武器をウクライナに供与している。軍需産業にとってみればありがたい事である。
 アイゼンハワー大統領は1961年の退任時に、軍産複合体(MIC)といういかがわしいグループが、アメリカを突き動かしたと演説した。それから70年後もその状態が続いている。バイデン政権のブリケン国務長官もオースティン国防長官も生粋のネオコンであり、オースティンは、巨大軍事産業レイセオン・テクノロジーズの取締役をしていた。更にその証拠には携行可能な対戦車ミサイル「ジャベリン」製造元のロッキード・マーチンとレイセオン・テクノロジーの株価は急上昇している。

<バイデンの息子のウクライナ疑惑封じという個人的メリット>
 植草一秀は月刊日本4月号で、ロシアのウクライナ侵攻により①ロシアを悪の権化にできる。②軍事支出拡大の大義名分になる。③米産天然ガスの高値販売が可能。④大統領支持率の回復。⑤息子のウクライナエネルギー企業脱税疑惑捜査を封印する。とバイデンにとっての5つのメリットを挙げている。誰が得しているかという立花の教えからみると、バイデンのアメリカこそ利益を受けているとみてよいことになる。

<米ロ直接対決、第三次世界大戦化は最初から回避>
 もともとアメリカがロシアのお膝元での直接対決を避けるのは目に見えていたが、電話会談での明言は素直な本音だった。そして今いろいろ武器を供与しているが、ロシアのモスクワに届くような攻撃的武器、例えば長距離ミサイルなどは一切供与していない。つまり核保有大国同士の直接対決は避けているのだ。もちろんアメリカ軍は兵士を送り出すつもりなど皆無である。それでは全面対決になり、第三次世界大戦になりかねないからだ。核戦争になったら相手国ならず自国も破壊されることは明らかであり、NATO加盟国でもなく直接介入は絶対にないことから、プーチンは安心してウクライナを攻撃できることになる。

<アメリカの代理戦争をするウクライナ>
 一方、アメリカは自らの手を汚さずというより、自国の血を一滴も流すことなく、自国の武器を大量に使わせて、ウクライナに代理戦争をさせていると見てもよいことになる。アメリカは自国の軍需産業に利益を与えながら、強敵ロシア(の特に軍事力)を弱めることができる。アメリカは、これを機会にロシアを二度と侵攻できない国にたたきのめそうとしているかもしれない。西側にとって好ましいことであり、今後先鋭化する中国との対立に備え、その重要な同盟国・ロシアを弱体化できるのだ。
 ここまでくると、かつてソ連をアフガニスタンにおびき寄せて疲弊させたのと同じことを、ウクライナでしているという、陰謀論的解釈も可能となる。

<停戦・休戦よりも長期戦を目論むアメリカ>
 ウクライナ国民も世界も望むのは、一刻も早い停戦である。ところが、アメリカは、一部のNATO諸国と結託して早期の停戦すら阻んでいる気配もみられる。正義の名の下、せっせと武器を送り込みウクライナを支援しており、ウクライナを少しでも長く戦わせようとしている。消耗戦に持ち込めばロシアが損をすると踏んでいるのである。
 バイデンは、ウクライナが独立国として存続し徹底抗戦することを支持している。つまり、紛争の長期化を図っているのである。バイデンは、対中国との対決に意を注いできたが、いきなりウクライナに軸を移し、ウクライナと過去最大規模の軍事演習を行い、更に180基のジャベリンを配備した。プーチンを誘惑しただけでなく、対抗するための準備も怠らなかった。
 これに対抗して、10月から11月にかけ、プーチンはウクライナの国境周辺に10万人ほどのロシア軍を進めて、軍事訓練(演習)をしている。
 ジョンソン英首相は、2014年のクリミア半島への甘い対応の二の舞は御免だ、とアメリカのこうした強硬姿勢を支持している。また、ソ連に併合されて辛酸をなめているバルト三国もポーランドも早期停戦には反対している。

<仏独伊等は早期停戦の途を探る>
 ところが、天然ガス等のエネルギーでロシアに依存する仏独伊等欧州大陸諸国は早期停戦の途を探っている。特にマクロン仏大統領は、プーチンと電話会談を続けており、6月13日には仏独伊の3首脳は侵攻後初めてウクライナ入りした。ゼレンスキー大統領は、プーチンは誰かの意見を聴くとは思えないと対話に否定的な考えを示したが、マクロンは会談後、ロシアとの協議を続ける方針だと強調した。仏独はアメリカのイラク侵攻にも反対しており、同じ構図になりつつある。しかし、バイデンはウクライナの強硬路線を支持し、和平交渉には組みしようとしない。
 このように、西側諸国間でもウクライナの停戦をめぐって思惑に違いがみられる。

投稿者: 管理者

日時: 2022年7月21日 11:57