2022.07.23

外交安保

【ウクライナシリーズ⑥】 新東西冷戦に対してバランスのとれた外交が必要  -東(中・ロ)と西(米・欧)の狭間で国益を追求する- 22.07.24

<ウクライナはやはり非NATOの中立で行くしかない>
 国のトップはいつの世でも国民の生命を守ることを最優先しなければならない。しかし、ゼレンスキー大統領の発言からはロシアに対する敵対心や国民を鼓舞する声は聞かれても、国民を守る姿勢が伝わらない。
 ウクライナは地政学的に可哀想な位置にある。西と東の境界線上にあり、両方から援助を受けるといったコウモリもできず、どちらかに属することもできないのだ。だから初めからNATOになど触手を動かさず、中立国として生きる以外に途はないと思われる。アメリカの国際政治の有識者が唱える通りなのだ。だから今の段階でもウクライナはロシアからの圧力によってではなく、自ら中立を宣言し、国土再生を目指した方がよい。日露戦争は双方が消耗しきった時にルーズベルト大統領が仲介し、戦争が終結した。今回もどこかの首相なり国が仲介に乗り出す外に停戦の見通しは立たない。

<今の時点での妥協はむずかしいが、命を守る視点が必要>
 ただ、今回の侵攻でウクライナ国民の反ロ感情は高まり妥協するのは容易なことではない。ゼレンスキーも世界のTVで格好をつけるのはやめて、屈辱を受けて不人気になってもウクライナ国民の命と暮らしを守ることを優先すべきである。しかし、俳優として大衆の「ウケ」を重視してきた芸能人大統領にはあまり期待できそうもない。
 ロシアは意地でもドンバス地方を手放さないであろうし、ウクライナがNATOに入らず中立を保つと約束しない限り、攻めることはやめそうもない。ロシアは一度獲得した領土は二度と手放さない国という定評がある。プーチンはピヨトール大帝(1682~1725)の領土拡大にならったロシア帝国を目指しているともいわれている。ウクライナをネオナチとこき下ろした今は、敗北は受け入れられない。しかし、長引くと国民が困るだけである。アメリカの軍産複合体をすでに十分喜ばせたのだから、仏・独の仲介ででもこの辺で一挙に和平に向かってほしいものだ。この戦争は、ロシアが全土を制圧する軍事力もなく、ウクライナも完全に押し返す力もなく、どちらかが完全に負けるという解決はありそうにもないからである。

<アメリカはイラクを裏切り、今度はウクライナを犠牲にしている>
 また一方で、ウクライナ国民は米英を中心とする西側諸国が、ウクライナを真底からは守ってくれないことに気づき、反米感情が一気に高まる可能性もある。ミアシャイマーが指摘するとおり、米英は高性能の兵器をウクライナに援助し軍事顧問団を派遣し、公然とウクライナを武装化していたのである。だからウクライナは米英は味方で、自分達を守ってくれると信じていた。それなのにロシアが侵攻すると、軍事顧問団は一斉にポーランドへ逃げ出してしまった。
 イラン・イラク戦争の時も、アメリカがイラク(サダム・フセイン)の味方をして、せっせと武器を供与してきた。ところが、1990年のイラクのクゥエート侵攻、2011年9月11アメリカ同時多発テロ事件を経て、ブッシュ大統領がイラクを悪の枢軸と名指しして批判し、イラクを攻撃した。つまり、イラクを切って捨てたのだ。フセイン大統領は、まさかアメリカが敵になるとは考えていなかったともいわれている。

<冷え切った日ロ関係>
 世界と足並みを揃えるためにしかたがなかったとはいえ、日本は対ロ経済制裁にはことごとく協調した。まさにアメリカ追随である。安倍首相は結果的にはプーチンに適当にあしらわれていたとはいえ、日ロは友好的な関係が続いていたが、今回一挙に崩れ去った。そのため、北方四島への墓参やビザなし交流は、できなくなるだろう。辛うじて続くのは、ロシア産魚介類の大輸入国日本と、その見返りに北方四島周辺での操業が認められる漁業関係だけかもしれない。日本との漁業交渉では、「互恵的な協力の分野であれば、協力しないわけではない。実利的に対応していきたい」として、4月のサケ・マス交渉にみられる通り、協議をしていく姿勢をのぞかせている。
 ロシアのガルージン駐日大使は、5月28日の共同通信とのインタビューで、日本の制裁は非友好的であり、日本との平和条約交渉は不可能だと言明している。ロシア政府は既に3月21日、北方領土問題を含む条約交渉を中断、北方四島の共同経済活動の非継続を発表しているが、それを追いかけることになる。

<漁夫の利を得る中国>
 2022年6月5日、バイデンはニューヨークタイムズに、改めてウクライナへの派兵を否定する寄稿をした。同盟国ではないウクライナの紛争には直接介入しないというのだ。しかし、これだとプーチンはますます安心してウクライナだけ相手に侵攻を続けてしまう。
 アメリカにとっては、ロシアよりも中国が最大のライバルである。ロシアにかまけている余裕はないはずなのに、なぜプーチンを刺激し、ウクライナの紛争を引き起こし長引かせているのか理解しがたい。このドタバタで得をしほくそえんでいるのは中国である。
今や中国の経済力はロシアの10倍に達しており、アメリカを抜くのも時間の問題である。日本にとっても貿易比率は23.9%、対米14.7%と中国の比重が大幅に上回っているのだ。

<今後は先鋭化しかねない新東(中・ロ)西(米・欧・日)冷戦>
 日米欧と中ロの東西両陣営の対立が先鋭化してきている。
 この紛争後は世界の政治では、アメリカとロシアの対立が後退し、中国が台頭して東西対決は、米中が中心になる。ロシアと中国は、アメリカと対立する国々との関係強化に乗り出し、NATOに対抗する形で上海協力機構(SCO)を活用し出すに違いない。SCOには、旧ソ連諸国ばかりではなく、インド・パキスタンも加盟しており、イランも加入手続きを進めている。こうして中・ロ側につく反米枢軸ができあがりつつあり、米欧日の同盟とくっきり対立の構図が浮き上がってきている。中国は、太平洋島嶼国の取り込みに余念がないことから、アメリカのハリス副大統領がフィージーで開催された太平洋諸島フォーラム首脳会議(7月12日)に参加している。
 5月24日首相官邸で開かれたQuad(日米豪印戦略対話)の首脳会談は、共同声明ではロシアの名指しの批判は盛り込めなかったものの、4カ国で中ロをけん制できたものと思われる。中国はAUKUS(米英豪安全保障協力)を含む、西側に警戒心を強めてくるのは確実である。

<日本は米中に狭間でバランスのとれた外交が必要>
 そうした中、岸田首相は、NATOの会合(6/28~30)に出席した。日本はまさにアメリカと中ロの狭間に取り込まれてしまっている。日本のアメリカべったりの動きはいくら予想されたとはいえ、ロシアからすると度が過ぎたことから、サハリンでも痛い目にあっている。だからといってロシアに妥協すると、中国が香港・台湾で高飛車に出てきかねない。そのため米英に足並みをそろえて対ロ強硬路線を堅持している。これでは日本の対ロ関係はおいそれと回復できまい。遠いヨーロッパの紛争に無関心なのはよくないが、太平洋に面した日本がNATOに出掛けるのは行き過ぎであり、一歩引いて冷静に対応すべきである。
 また、これからは米中対立の中で、あまりにアメリカに肩入れし過ぎることなく、軍事はアメリカでも経済は中国とアメリカの双方を意識していかなければならない。ロシアと中国とでは日本にとって経済の比重が大きく異なり、米中が対決したら日本はやっていけまい。そういう意味では、資源もなく経済的にも自立できない日本は米中ロに限らずバランスの取れた外交で生き残っていくしかない。

投稿者: しのはら孝

日時: 2022年7月23日 11:17